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第六章 下準備(6)

 

「ふむ、どうしたものか・・・・・・」


 あの後、診察室で眠っている少女たちのために何か作ろうと思って、診療所一階に併設されている台所兼休憩所へとやって来たはいいものの・・・・・・、少々予定外の事態に陥ってしまい、俺は腕を組んで困惑の感情を含んだ呟きを発した。


 メニューもさることながら、一番の問題は台所に設置されている器具らにあった。現代のシステムキッチンに慣れている俺は、この200年以上前の炊事道具を前に為す術もなく立ち尽くしていたのだ。


 いや、流石にまぁ竈の使い方は分かるけども・・・・・・、冷蔵庫は? いや、中世時代にそんなのを期待してはいけないのだが、それにしたって食材も調味料も、終いには包丁などの調理器具一つも見当たらない。


 あるのは精々お湯を沸かすためのポットらしき物にカップが数点ほど。


 そう言えば、と俺は数時間ほど前にアンリたちが教えてくれたことを思い出す。


「確か飯食う所は別にあるんだっけ? いくら火事を防ぐ為とはいえ、よくよく考えたらすごくめんどくさいよな。毎日の事だし、金は大丈夫なのか? 日本だと毎食を外食にしたらすぐに破産だぞ」


 まぁ、ここの通貨価値がどんなものか知らないけど。日本人の感覚で言えば信じられないの一言であった。外食するくらいなら俺は自炊する方を選ぶ。やっぱり高くつくし、美味しくないこともあるし。やはり自分で作った方が安く作れるし、それに何だか温かい気持ちになるからだ。誰だって人に作ってもらった方が嬉しいに決まっている。


 妹にはその気持ちを忘れないでいてほしいと、俺は時間がある限りは極力手作りのお菓子とかを持っていくことにしている。出来合いの味にも慣れることは大事ではあるが、やはり手作りの味というのも知っていてほしい。


 いつか体が完治して、好きな男が出来て結婚して子供が生まれた際に、その子供に手作りの料理を食べさせてやって欲しい。昔母さんが俺たちに作ってくれたように。


 もうあの味は二度と食べれないけど、それでも俺は十年経った今でも鮮明に覚えている。愛情と安らぎを感じれる味だ。俺はあの味を忘れないために料理を作っているといっても過言ではない。


 まぁ、何が言いたいかというと、手作りは偉大だという話だ。


 かくなる上はその食堂とやらに乗り込んで料理をさせてもらうように頼むしかない。恐らくそこには食材や調味料らもたんまりあるはずだ。それにここよりは調理器具らも揃っているはず。


 俺は先ほどまで感じていた疲れなどすっかり忘れて、この妙案を実行に移すべく台所もどきから飛び出す。痒みも何もかも忘れて診療所から出た俺の目に映ったのは―――――――、今朝見た時にはスカスカだった村に数十人の少女たちが各々に群れて「キャッキャウフフ」と喋っている光景であった。


 うら若い女子が群れる光景を見て、途端に自分の装い(半裸+汗まみれ+泥まみれ)を思い出し、すっかり忘れていた羞恥心が再び呼び起される。


 傍から見たら俺変態じゃん。どうしよう、今更中に入り直すのも白々しいし、と冷や汗を垂らしつつ診療所の玄関先で立ち尽くした状態で停止していると、


「ねぇ、ちょっと・・・・・・」


「あぁ、あれが噂の?」


「そうそう、ナタリアとアンリが連れてきた・・・・・・」


「男」


「男ね」


「アタシ、久しぶりに見たわ」


「私も」


「というか、男なんて村に置いていいのかしら?」


「知らない。けれどルーシア様が許可してるのだから、害はないんじゃないかしら?」


 と、こちらの方を見て女子特有のひそひそ話を開始し始める。というかひそひそと話している割には、会話の内容が全部丸聞こえなんですけど。何、わざと? ねぇ、わざとなの?


 あまりのプレッシャーと居心地の悪さにキリキリと痛む心臓を抑えつつ、衆人観衆の視線を集めつつ体を丸めながら、大袈裟なほどに道の真ん中を開けられた村の大通りを足早に進む。


 そんなに端に寄んなくても・・・・・・・、ただでさえ狭い道がこんなに広く感じるとは。どんだけ嫌われてんだ俺。


 すごすごと両肩を下げつつ食堂までの道を歩く。何だろう。段々と居た堪れなくなってきた。こんなにもあからさまに避けられたのは生れて始めてだ。


 その理由が男だからっていうのも、何だか情けない話だ。つうか現代にはない避けられ方だ。


 本当に俺はこの村にいていいのだろうか、と懐疑的になる。こんなにも溝があるのならいない方がいいんじゃないかと消極的にもなる。


 俺と真面に会話してくれるのはルーシアとヴァレンシア、それとミリアとアンリとナタリアくらいのもので。そのほかの少女たちはこうやって接してくることもなく、離れた場所で俺の事を盗み見ながらひそひそ話を展開するだけ。


 正直な話、あまりフレンドリーでないやつを助けるほど俺はお人よしではない。


 やっぱり、人間派に協力するのを止めて、自分一人だけで・・・・・・、という考えが頭をよぎるが、助けを求めてくれたあの子たちを放っていくほどのクズでもなかった。とりあえずあの子たちの面倒を見てから考えようと、引き返しかけた足を止めて、再び食堂への道を急ぐのであった。



 食堂と思しき建物は村から少し離れた小高い丘に建てられていた。村に建てられている小屋よりは幾ばくか大きかったが、それでも現代日本の家屋を知っている俺としては小さく感じた。


 それでも普通の小さな平屋くらいの大きさはあったので、人口数が少ない村にしてみたらこれでも十二分な大きさであろう。火事に備えてだろうか、すぐ傍には井戸が掘られていた。どうやらこれが村での生活用水のようだ。


 井戸の水を飲んでもいいのだろうか。下手したら寄生虫とかの危険性があるが、まぁここの人たちは毎日この水を飲んでいても平気そうなので、その心配はなさそうだけど・・・・・・・。現代人の俺や怪我人には危険かもしれない。


 念のためにこの井戸水を飲ます際にはよく沸かすことにするか。白湯にしたら腹を下す率もグッと下がるしな。


 けれど本当にこの水が飲料水かどうか不明なので、きちんとこの食堂の人間に確認を取らないと、と俺は逸る気持ちを抑えて食堂へ続く扉を軽くノックするが、中からの反応はない。


 もしかして聞こえてないのかと思い、再度ノックする。今度は叩く力を少し強めて。

 

 反応があるまで叩くぞと意気こんでノックを続けていると、


「あ~~~~~~~~、もう!!!!! 五月蝿いわね!!!!! ドアに立てかけてある札が読めないの!?」


 バ――――――――――――ン!!!!!!!!!!!!! と勢いよくドアが開けられたと同時に、女の苛立った金切り声が響く。


 しかも、思い切り開けられたドアの角が俺の顔面にクリーンヒットし、あまりの激痛にその場にもんどり返る。もしかしたら鼻が折れたかもしれない。それほどまでの痛みに目の奥がチカチカと火花を散らしていた。


 そんな俺を忌々しそうに見下ろす白い髪の少女。フンスと鼻息も荒く細腰に両の手を当て、


「ったく、アンタ字読めないわけ? 今は休憩中って書いてあんでしょ? ・・・・・・ん? アンタ誰?」


 と、一通り文句を言った少女は今更ながら誰などとほざきやがった。


 俺は痛む鼻を抑えながらフラフラと立ち上がると、


「・・・・・・おい、負傷させておいてなんだその態度は!? 普通はドア開ける前に確認すんだろ!?」


「んなッ!? 逆ギレするわけ!! そもそもアンタがきちんと確認しないから悪いんでしょ!!」


「それなら言わせてもらうけどな。そんな札なんてどこにもなかったぞ!!!!」


「はぁ!? 嘘言わないでよ!! あたしは確かに・・・・・・・」


 と、少女はドアの方へと視線を向けると、しばしの無言の後。全てを悟ったようで、フッと真顔に戻り俺の足元に跪き頭を垂れる。


「――――――――どうもすみませんでしたお客様」


 見事なまでの変わりよう。時代劇で見る悪代官のようだ。


 しかし、これでこいつの弱みを握ったようなものだ。なら話は早いはず。


「・・・・・・いや、謝ってくれればいいんだよ。なに、ちょっとだけ俺の頼みを聞いてくれれば」


「・・・・・・頼みって、はっ!? まさか!!!!!」


 何を勘違いしたのか、俺の申し出を聞いた少女はしばしその意味を考え込むと、急に全身を真っ赤に染め上げてじりじりと後ずさる。心なしか衣服の襟を強く握っているではないか。


 もしかして、と思い、俺は慌てて彼女の誤解を解こうと近づくも、


「いや、来ないで!!!! 変態、エッチ!!!!! 男っていつもそう!!!! 女を見るとすぐにそうやって迫るんだから!!!!!」


 涙目であられもない事を大声で叫びながら俺から距離を取る少女。


 おい、撤回しろ。男がみな下のことばかりを考えているんじゃないぞ、と憤慨しながら、どうにかして混乱している少女を落ち着かせようと一気に距離を詰めて、彼女の肩に手を置いた瞬間、


「まぁ、落ち着けって―――――――」


「――――――――ッ!? いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 バチ――――――――――――ン!!!!!!


「いってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」


 混乱の極みに達した少女からの強烈な平手が俺の頬に炸裂し、頬が裂かれるような痛みに情けない悲鳴を上げるのであった。





「いや~、ごめんごめん。ついうっかり・・・・・・」


「―――――――うっかりで済むレベルじゃないぞ」


 と、頬に見事な紅葉マークを付けた俺に平謝りをする少女。どうにか誤解と分かってくれて良かったけど、その代償はとても痛いものであった。


 まぁ、あんな言い方した俺も悪かったし、どうにか厨房を貸してくれることになったから、これでこの件は水に流すけども、それでもなんか損した気持ちになったのは何故であろうか。


 そんな俺たちがいるのは少女が経営する食堂”スノウ・ベリー”の厨房内であった。まだ始業前だけど、さっきのお詫びに特別に貸してくれる運びになり、彼女が言うにはこれからも好きな時に貸してくれるとのことで、その提案は正直断る理由がないので有難く吞むことにした。


 ざっと調理場を見渡してみると、はっきり言って診療所の炊事場と大差なかったが、それでも必要最低限の物は揃っているので良しとすることにした。


 問題なのは食材面の方であった。開店前に押し掛けたのがまずかったのか、ロクな食材が揃ってなかった。何でも食材を保存する方法がないので当日に食べる分だけを収穫しているそうで、基本肉や魚は買ってきたその日に塩漬けにして保存するらしい。


 流石にそんなしょっぱいものを怪我人に食わせるわけにはいかず、どうしたものかと頭を抱えていると、不意に調理台の隅に置かれた袋に目が行き、


「なぁ、あの袋にはなんて書かれているんだ?」


「? あぁ、あの袋は確か”コメ”だったかな? この前ブロウビート商会が持ってきたんだけど、調理の仕方が分からなくてそのままなんだけど・・・・・・」


 コメ・・・・・・、米だって!! これならお湯と塩があれば”お粥”が作れるじゃないか!!


 お粥ほど弱った体に最適な料理はない。これなら空腹時でも食べられるであろう。本当ならばスープがいいのだろうが、今回は材料の都合上これで我慢してもらうしかない。


 俺は早速米が入った袋を手に取ると、十人前はゆうに作れるであろうサイズの寸胴鍋を手に取り、


「なぁ、飲料水は井戸の水でいいのか?」


「えっ? あぁ、うんそうだけど・・・・・・、ねぇ、これから一体何を作るの?」


「お粥だよ」


「オカユ?」


「そう、消化に良い食い物だ。病人や老人に食わすには最適なんだ。俺の故郷の料理だよ」


 俺は戸惑う少女に背を向けてお粥を作る準備を着々とこなしていく。細い木で編まれたザルに米を入れるとまだわずかに残っていた井戸水で米をとぐ。洗米ではないのでしっかりと濁りが無くなるまで洗うと、しっかり水を切った米を鍋の中へと入れる。


 それから井戸から水を汲んでくれたであろう少女へと礼を述べ、俺は水を鍋の縁よりちょい下くらいまで注ぎ入れる。水気を少なくしてふっくら炊き上げる場合もあるが、胃の弱った人間には緩すぎるほどのお粥がちょうどいいはずだ。


 この場合はお粥というより重湯といった方がいいかもしれない。


 さて、次なる難関は竈に火をつける事か。コンロならつまみを捻るだけで火が付くのになぁ。マッチもないしどうしたらいいのだろうか、と眉根を寄せて考え込んでいると、何も頼んでいないのに少女が竈に火をつけてくれた。


 手慣れたものであっという間に火打石で点火させ、フゥーフゥーと火を大きくするため何度も何度も息を吹き込んでいた。するとみるみるうちに小さかった火が酸素を取り込み勢いよく燃えだした。


 しかし、強くなり過ぎた火を見て、慌てて火を小さくするように伝える。


 彼女は疑問に思いつつも素直にその指示に従ってくれた。


「ねぇ、何で火を小さくするの? 強火で炊かないと早く煮えないよ?」


「いいんだよ。お粥は火加減が命なんだ。強火で炊いちゃうとすぐに焦げちゃうからな」


「そうなんだ。めんどくさいね」


 とだけ言うと、少女は俺の代りに火加減を調節する役をかって出てくれたようだ。やはり料理人の血が騒ぐのであろうか。何にせよ竈調理は不慣れだったので有難かった。


 竈の中でオレンジ色に揺らぐ火をぼんやりと見つめながらしゃがみ込んでいる俺に、


「ねぇ、そう言えば名前を聞いていなかったね。アタシはクリス・フォーディア。いちおー、ここの料理長を任されているの。アンタは、巷で噂の男でしょ?」


「・・・・・・アラタって言うんだ。名乗らなくて悪かったよ」


「いいわよ。アタシもアンタの事殴っちゃったしね。けれど、なんで半裸なの? アンタってそういう趣味があるわけ?」


 と、冷静にツッコミを入れられる。


「・・・・・・言うな、これしか服がなかったんだ」


 気にしないでおこうと思ったのに、恥ずかしいのを思い出しちゃったじゃないか。やはり中世の人間から見ても半裸にズボンって変に見えるのだな。


 というか、半裸スタイルってのは奴隷とかの装いなんじゃ・・・・・・。あれか、だから女の子たちは俺の方をじろじろ見てたのかと漸く合点する。


 それでもやはり恥ずかしい事は恥ずかしいので、やはり上着をどうにかして見繕ってもらおうと密かに心に決め、俺はグツグツと沸騰し始めた鍋に視線を戻し、最後の仕上げをするべく立ち上がるのであった。


 あと二回ほどでこの章は終わります。

 料理回って難しいですね。あまり自炊しないからかもしれません(流石にお粥くらいは作れますが)。

 次回は女の子に料理を食べさす回ですかね? まぁ、私が思う限りのイチャイチャを書けたらと思いますのでよろしくお願いします。

 では次回に。

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