第四十一話 勇者VS魔王
「勇者よ! お前に世界の半分をやろう! 儂と共に世界を征服するのだ!」
「だが断る! 世界の半分などいらない! 他の国と平和に生きるのみ!」
「なら戦うしかないの」
「望むところだ!」
僕は後ろに飛び退る。その勢いで講堂の壁を蹴って魔王様に全力でぶつかっていく。
ボフッ!!
魔王様の剣と双剣の間でマナの相殺が起こる。
そのまま魔王様と、剣と双剣で押し合う。
力がこもっていく。
ここの方角が重要だぞ……。
魔王様が上手く良い方向に僕を飛ばす。
ドド~ン!!!
壇上の奥の壁を僕が突き破る。
外に飛び出した僕は講堂の壇上にいる魔王様に向かって行き、また壁を突き破る。
ドッカ~ン!!!
壁は綺麗に崩れた。
講堂に集まっている王国の者達からは、壇上奥の壁が全て崩れて校庭の景色が広がっている。講堂の壇上奥の壁だけが崩れるようにアレックが設計したのだ。
よし、うまく怪我人を出さずに段取り通りに事が運んだ。
「はっはっは! 勇者よ! 壁が吹き飛んだな! 外で戦おうぞ!」
「いいとも!」
僕は体当たりして、魔王様を校庭に吹っ飛ばす。
すぐに追いついて魔王様に双剣で斬り掛る。
キンッ!! キンッ!!
双剣を剣で受けられ、魔王様と顔を突き合わす。
これだけ講堂から離れれば僕らの声は聞こえない。声は聞こえ無くとも戦っている姿は見えるだろう。
「うまくいったの~」
「はい、魔王様。ここからは本気での戦いですね」
ジュリアから、ここから本気で戦って良いと言われている。どちらが勝っても魔王様が隠居する展開の物語になっているのだ。
はっきり言って僕が負けた時の台詞はしっかり覚えていない。だって、僕はゼットブ様ともアレックとも剣の腕は互角になっている。それも三人共に相当強くなっての互角だ。魔王様に負けるとは思えないのだ。
魔王様はニヤリと笑う。
「チートよ、この三ヶ月毎日のようにゼットブと稽古しておった事を言っておくぞ」
えっ! ゼットブ様はこの所忙しいと言って、僕らと稽古してなかったけど……。
キンキンキンキンキンキンキンキンッ!
魔王様の素早い攻撃に剣を躱しきれずに双剣で受け続ける。
「それから、ゼットブに勝った事も言っておこうか」
魔王様はまたニヤリと笑う。
ゼットブ様に勝ったって! ゼットブ様は『王国帝国戦争』で四肢を斬られて以来、負けた事は無かったはずだぞ!
僕は講堂の崩れた壁の先のゼットブ様を見る。笑っている。僕と魔王様の戦いを楽しんでいる。
う~む。
キンッ!
「おいチート、油断するな! 其方の油断で勝っても嬉しくないぞ」
エイッ!
僕は思い切り双剣で斬りつける。
キキンッ!!
魔王様は双剣を躱せず剣で受け止める。
その反動を利用して僕は後ろに全力で下がる。
ガッ!!! ダッ!!!
反転して魔王様に突撃する。
ボフッ!!
僕の双剣を魔王様は剣で受け止める。マナの相殺が起こった。
また反動を利用して後ろに下がり、反転して突撃だ!
ボフッ!!
駄目だ、またマナの相殺で止められた。
う~ん。アレックやゼットブ様になら通用する全力での突撃が魔王様に受け止められる。
僕が全力でぶつかっても、魔王様には隙が生じない。
ガッ!!! ダッ!!! ボフッ!!
ガッ!!! ダッ!!! ボフッ!!
ガッ!!! ダッ!!! ボフッ!!
だめだ。魔王様に隙がない。逆に僕の双剣が払われてしまいそうだ。
ガッ!!! ダッ!!!
魔王様にぶつかるとみせて足を払いに行く。
ボフッ!!!
僕の足と魔王様の足の間で相殺が起きる。魔王様はその勢いで上に飛び上がった。
「ふふふっ、チートよ。この戦い、引き分けでは済まんのだぞ。剣を交えねば決着は着かんぞ」
そうだ。どちらが勝つにしても決着を着けなければ、ジュリアの台本が先に進まない。
……でも剣を交えると僕の方が負けそうだ。
魔王様は着地する。
んっ。……そうだ。
ダッ!!! ダッ!!!
僕は態勢を低くして魔王様にぶつかる。
ボフッ!!!
魔王様の足元で相殺が起きる。魔王様はそのまま上空へ飛び上がる。
ダッ!!! ダッ!!!
僕は上空の魔王様へ飛び掛る。
ボフッ!!!
魔王様はさらに上空へ。
「むっ!!」
ダッ!!! ダッ!!!
僕は全速力に達するまで助走を付けて飛び上がる。
ボフッ!!!
魔王様にぶつかると、さらに魔王様は上空へ。
僕は叩きつけられるように地面へ落ちる。
その反動を使って両足、両手を使って思い切り地面を蹴る。
ダッ!!!!
上空へ上がっている魔王様よりも、さらに上空へ僕は飛び上がる。
「うりぁぁぁ~!!!」
上空から下に落ち始めた僕は、同じく落ち始めた魔王様に目掛けて双剣を振り上げて迫る。
ズッド~ン!!!!!
ギンッ!!!! ボフッ!!!!
ドド~ンッ!!!!!
地面に落ちた魔王様が逃げれない内に、僕は上空から双剣で斬り掛った。魔王様の受けた剣と双剣の間で相殺が起きる。
「あぁぁぁ~~~!!!!!」
ボフボフボフボフボフボフボフ……
魔王様の剣と僕の双剣はマナに包まれながら相殺し続ける。
上空から落ちた勢いで魔王様は僕の剣を受けきれない。
地面は大きくクレーターが出来ている。
その中で僕の双剣は魔王様の首に達した。
「儂の負けか……自信があったのじゃがの……」
魔王様の剣は胸元まで下がっていた。
「チート、ここでは其方が勝ったのが皆に解からんぞ。走って講堂の壇上まで戻るのだ」
僕は左の双剣を魔王様の首にピタリと付けたまま、右の双剣を治めた。そのまま魔王様を右手で掴んで走る。
ダッ!!!
講堂の壇上に戻った僕は大声で叫ぶ。
「いやさ魔王!! 勝敗を聞こう!!」
「勇者!! 其方の勝ちじゃ!!」
……「「「「「うおぉぉぉぉ~~~~!!!!」」」」」……
王国の者達の地響きにも似た歓声が上がる。
魔王様に首に左の双剣をピタリと当てている僕と、剣を壇上に捨てた魔王様。
勇者が魔王に勝った光景。
「勇者チートよ! 俺はお前に付くぞ! さあ存念を申せ!!」
壇上に上がっていたゼットブ様の大声が講堂に響き渡る。
「新しい魔王はブリア様だ!!」
僕は宣言した。
そして魔王様の首に当てていた双剣で、魔王様の二本の角を斬った。
……「「「「「うおぉ~~~~!!!!」」」」」……
歓声が上がる。
「うぅ!! うっ!! あぁ~~!!」
いつの間にか壇上に上がっていたブリア様が激しく苦しみだす。
それに気づいて騒がしかった王国の者達が静まり返る。
「まあ! どうしたのブリア! しっかりして! いったいどうしたというの!」
マリー様がブリア様の肩を抱く。
「王家に伝わる継承が起こっているのです!」
これまた、いつの間にかジュリアと共に角を失った魔王様を抱きしめていたソフィア様が語った。
「まあ継承ですの! 魔王と成った者に、そのシンボルが移譲されるという! 王家だけに伝わる、あの継承ですの!」
ジュリアが大声を張り上げる。しらじらしい台詞なのにジュリアは本当に上手いな。
「あぁ~!!」
ブリア様が王子の帽子を剥ぎ取った。
ブリア様の頭には立派な二本の角が生えている。
……「「「「「うおぉ~~~~!!!!」」」」」……
「まあ、何てことでしょう!! 魔王様の継承が行われましたわ!! ブリア様が魔王様なのですね!!」
ママンの唯一の台詞だ。壇上にパパンと腕を組んで上がっていたのだ。立派な良く通る声で堂々とした演技だ。
「継承だ……継承が行われたぞ……」
「なんとあの継承か……」
「すごい事が起こったぞ……継承だぞ……」
ブースト兄弟が王国の者達を盛り上げに掛っている。あちこちで「継承が行われた」と声が上がっている。
皆、継承などと言うのは始めて知ったはずなのに……。だってジュリアの創作なのだから……。
僕はこのタイミングで壇上から降りる。
ふ~。一仕事終わった。
「王国の民よ良く聞け!!」
立ち上がって剣を振り上げたブリア様が言う。
「これより私が魔王である。王国を統べるのは、この魔王である!!」
拍手と歓声が上がる。
「魔王としての最初の命令を出す!! 前魔王……叔父上! あなたには王都所払いを命じる! 隠居せよ!」
ブリア様は魔王様に剣を向けた。
「隠居を受け入れる!」
魔王様はジュリアとソフィア様に抱きかかえられて答えた
「帝国には攻め入らん! 世界の征服など目指さない! これは魔王としての命令だ! 王国の民よ心しておけ!!」
王国の者達は皆、頭を下げて新魔王であるブリア様の言葉を聞いている。
壇上には立派な二本の角を生やし剣を上げる若き新魔王ブリア様。
そして、二本の角を斬られ肩を落としジュリアとソフィア様に抱きかかえられる前魔王バロア様。
ここに王国での魔王の移譲はなされたのだった。




