題四十話 卒業式の戦い
今日は王都大学の入学式、そして卒業式を行う日である。
王都には王国中から貴族や大商人が集まっている。ブリア様の婚礼の時と同じ程の集まり方だ。
午前中の入学式を終え、新入生達は各学科の試験問題集を受け取っている。
去年のアレックのように、その場で答案している生徒はいない。それが当たり前だよね。
卒業式は夕方になるから、僕とダレナはメルビン教授の生物学科の教室へ行く事にした。
教室では、久しぶりにジュリアとブリア様とマリー様が来ていた。メルビン教授の授業の常連で今日卒業する三人だ。
三人の周りには、ジュリアの取り巻き連中と、ブリア様の取り巻き連中が囲んでいる。高位の貴族の子弟子女ばかりなので、メルビン教授の授業には自然と他の生徒は来ない。
実はジュリアの一党と、ブリア様の一党は、マリー様がブリア様と付き合っていた事で反目が続いていたのだが、ジュリアが一足先に生物学の単位を全て取って授業に出なくなったので、僕とダレナが仲立ちして、現在では皆仲良くなっているのだ。
元を正せば皆高位の貴族の子弟なのだから、価値観は似ていて結婚相手にも成りやすい者同士なのだ。ブリア様、マリー様も単位を全てとって授業に来なくなってから、数組のカップルが出来ている。
王族三人が授業に来なくなって恋の鞘当てが見れなくなったと残念がっていたダレナだが、また新たな恋模様に、メルビン教授の授業を楽しみにしだしたのだった。
メルビン教授も今日は授業をせずに、教室の皆と歓談して過ごした。
−−−−
王都大学の一日も終わり、いよいよ卒業式である。
新しい講堂には沢山の貴族や大商人、そして入学する生徒の家族が観覧に来ている。
壇上には卒業生が十数人。ジュリアやブリア様、マリー様の姿もある。
大学学長の言葉に続いて、卒業者の中で最も成績の良かったジュリアの挨拶が終わった。
いつもの卒業式ならここで終わるのだが、今回は王族三人が卒業するとあって、魔王様の言葉があるのだ。
さあ本番だ。
「儂から王都大学を卒業するものに言葉を送る。卒業おめでとう。卒業するのが難しい王都大学をよくぞ卒業できた。この魔王が褒めてとらす。とくにジュリア、成績優秀者になったとは素晴らしい事である。さすがは我が娘よ。そこでだ……儂は考えたのだが、魔王の世継ぎをジュリアに変更しようと思う。ここにおる王国中の者よ、ジュリアが三千の竜を撃退した噂話を知っておろう……それは本当の事じゃ」
講堂にいる王国の者達はざわつきだした。魔王様の話がおかしな方向に進んでいるからだ。
「叔父上! どう言う事でしょうか。魔王を次ぐのは私と決まっていたのでは無いのでしょうか!」
壇上のブリア様が声を張り上げる。なかなかの演技だな。真に迫っているぞ。魔王様も上手くなったな。
「ほっほ、ブリアよ。この王国は武の国である。強い者が魔王となる。何の不思議があろうか」
「そっ、それは……そうかもしれませんが……。時代は変化しているのですよ。王国と言えども武だけでは治まりません。他の国と交易を重ねて発展してきているのが今の世界ですよ」
「はっは、ブリアよ。そして皆の者もよう聞け! 世界を変えてしまえば良いのじゃ! この王国が世界を征服してしまえば交易の事も発展の事も気にせずとも良い。王国の思う通りに世界を動かすのじゃ!」
世界を征服するという魔王様の言葉に、王国の者達の動揺は広がっていく。
「何と世界征服に乗り出されようと言うのか……」
「そうだ、あの憎き帝国から血祭りに上げてやるのだ……」
「帝国を討つのだ……」
ブースト兄弟が色々な声音で小さく呟いている。何と巧妙に場の空気を盛り上げて行く事か!
僕は王国の者達の心を見る。やはり九割方が帝国を討つべきという気持ちのようだ。それでも一割の平和を望む者もいて、それも大貴族に多い事に手ごたえを感じた。
「よいか! まず帝国に攻め入る! 帝国を平らげたら、北へ北へと攻め入って、そのまま世界を平らげるのじゃ!」
王国の者達は騒然としている。
魔王様のいきなりの世界制服宣言に度肝を抜かれている。しかし帝国を攻め滅ぼしてやるという気持ちが強くなっていく。
「魔王様! お待ち下さい! そのような大事、いくら魔王様でも、お一人で決めて良い事柄では有りませぬぞ!」
パパンが壇上に上る。
……「「「「「そうでございますぞ~!!」」」」」……
ゲラアリウス領の者がパパンの言葉に合いの手を入れる。素晴らしいタイミングと抑揚。稽古の成果だ。
「ほほう、ジョージよ。其方、儂の言う事が聞けんと申すか。それなら帝国の前にゲラアリウスから滅ぼしてくれようぞ!」
僕と兄ちゃは壇上に上る。
「お待ち下さい魔王様。我がゲラアリウス家は勇者の家系。王国は魔王と勇者で打ち立てた国でございますぞ。なにとぞ、まず重臣達も交えて話し合いを致しましょう」
兄ちゃが魔王様を説得する。
「おうそうじゃ! そこに勇者がおるではないか! 勇者チートよ、一緒に帝国を攻めようではないか!」
「魔王様! そのように他国を攻める事に拘る必要は御座いませんよ。王国の農地は益々広がっていますし、どんどん豊かになっています。他国を征服する意味などありません」
……「「「「「そうだ~!! 勇者様の言う通りだ~!!」」」」」……
ちらと王国の者達の心を見る。帝国へ攻め込むと傾いていた気持ちが揺らいでいる者が多い。ゲラアリウス家は王族に次ぐ大貴族なのだ。そのゲラアリウス家が魔王様と対立しそうなのだ。
僕と魔王様は壇上で二人で向かい合っている。
「おい、ゼットブ。其方はどう思う」
魔王様はゼットブ様に声を掛ける。
「はい。俺は帝国を攻めるのも世界を征服するのも、しないのも、どちらでも構いません」
「おうそうか。ほれ、チート、ゼットブもこう言っておるぞ!」
「……ただ、魔王様の言う通り、王国は武の国……俺は勝った方につくぜ!」
静まり返る王国の者達。
「……そうだ。ゼットブ様の言う通りだ……勇者様と魔王様で戦うのがいい……」
「……そうだな……決着は勇者と魔王の決闘あるのみ……」
ブースト兄弟が場の空気を盛り上げていく。
講堂にいる王国の者達は、僕と魔王様で決着を着ければいいとの空気になってきた。
魔王様は剣を抜く。
僕も双剣を抜く。
魔王様はともかく卒業式に剣を持って来ている者などいないのだが、事の成り行きに誰も不思議に思っていないようだ。
「ジョージ……いやゲラアリウス辺境伯よ! 勇者であるチートに勝てば、儂に従うか?」
「はい従い申し上げます!」
二人で剣を構えあって立つと、壇上の者達はいなくなった。演台もいつの間にか無くなっている。
何も無い壇上に僕と魔王様が二人。
しばらく動きも無く互いに剣を構える。
ダッ!!!
僕は魔王様に斬り掛る。
キンッ!! キンッ!!
双剣のふた振りを魔王様が止める。
「最後にもう一度問う!」
「何ですか、魔王様! いやさ魔王!」
「勇者よ! お前に世界の半分をやろう! 儂と共に世界を征服するのだ!」
「だが断る! 世界の半分などいらない! 他の国と平和に生きるのみ!」




