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第三十九話 演出の悪役令嬢



「「俺……は、勝った方に……つくぜぃ」


「何よ! その棒読みは! つっかえているし! あなた英雄でしょっ! しっかり演技しなさい!」


 ゼットブ様が怒られている。ジュリアは厳しい。

 

「お、おうっ。すまんな。どうも慣れなくてな……」


 稽古が始まって三日目。中々上手くいかない。

 演技が上手いのはママンとソフィア様、マリー様もかな。

 ゲラアリウス領の者では、僕が一番台詞が多い。まあ主役かな……。後はパパンとママンが少し、他の者も少しかほとんど台詞がなくて合いの手や悲鳴のような、盛り上げる為の演技をするだけである。

 

「なあ、ジュリアや。ここの所の《半分》って、これは間違いでは無いのか。やっぱりおかしいぞ。多すぎるだろう……」

 

 魔王様が台本を開いてジュリアに質問している。

 僕もそう思っていた。よし僕も言っておこう。

 

「そうそうジュリア。僕のここも《だが……》って、言葉としておかしくない?」


 ジュリアにギロリと睨まれる。だから怖いってば。

 

「だまって、私の言う通りやんなさい!! 二人共、下手糞な演技の癖に、監督の私に意見なんか百年早いわっ!!」


 う~ん。ソフィア様やママンが言った事は受け入れてマリー様の台詞を増やしたくせに……。

 

 ジュリアにマナが集まっている。あまり怒らせると暴発してしまいそうだ。

 

「まあ、魔王様、チート。ジュリアに計画の監督を任せたのだから、ジュリアの好きな物語のように、やらせて上げよう」


 アレックが言う。いいよなアレックは台詞が無いから。まあ、台詞があっても完璧にこなすのだろうけど。

 だいたい僕は前世でも学芸会の劇が嫌いだった。前世の小学生の時に何故が劇の主役になってしまって指導の先生に随分と叱られた事がある。ジュリアに叱られると、それを思いだして体がすくんでしまう。

 でも、やるしかないよな。僕しか勇者は居ないんだし。

 

 稽古は続く。

 

 

−−−−



「う~ん、だめね。私も悪役令嬢なら上手く演じられるんだけど……。他の人の演技を指導できないわ。上手いか下手かは解かるんだけど……」


 ジュリアが泣き言を言っている。あれだけ厳しく指導していたのに、それはないよ。

 

「仕方が無い。芝居の専門家を入れよう。指導の出来る役者を見つけて、事が終わった後は始末……」


「いやいやアレック様、それはいけませんぞ。我々は正しき事をするのです。王道を行かねば」


 アレックが恐ろしい事を言いそうだったのを、タルタリムト導師が止めた。

 

「……そうですのう……あの者達はどうですかの。テーヘーン砦での戦いので我らが到着する前に活躍した……」


「おう! ブースト兄弟か! あの者達なら打ってつけだ。なにより平和を尊ぶ心も強い。なにしろ武力はからきしだからな」


 ブレッド連隊長とゼットブ様は心当たりがあるようだ。

 

「おう、あの兄弟か!」


「そうですな。あの者達なら」


 魔王様もパパンも知っているようだな。

 

「ブースト兄弟と言うと、『王国帝国戦争』の最終戦であるテーヘーン砦での戦いで武功を立てた男爵家の兄弟でしょうか」


 アレックも名前だけは知ってるのかな。

 

「あの、そのブースト兄弟って、どんな武功を立てたのですか?」


 僕はゼットブ様に聞いてみる。

 

「ああ、テーヘーン砦にはブースト兄弟が所属していたブクマー領軍が駐屯していたのだが、そこに帝国軍が攻め入って来たのだ。ブクマー領軍は奮闘したのだが、櫛の歯が欠けるように一人また一人と剥がれ落ちていった。ブースト兄弟は大きな声と朗々とした説諭でブクマー領軍を奮い立たせたのみばかりか、近隣の村々の者達にも勇気を与えブクマー領軍に参加させ、ブクマー領軍の数を増やした。そして俺が所属する王国騎士団やブレッドが率いるゲラアリウス領軍の到着までテーヘーン砦を死守したのだ。『王国帝国戦争』で、言葉だけで武功を立てたのはブースト兄弟だけだろうな」



−−−−



 ゼットブ様が、現在王宮に勤めるブースト兄弟を呼んで来た。

 

 王の間に居るのは王族とゲラアリウス領の重鎮だけ。

 異常な事だと思っているブースト兄弟は緊張した面持ちだ。

 

「其方達はブースト兄弟だな。どちらがどちらであったかな」


 魔王様が尋ねる。


「はっ。私が兄のカーンケーツ・ブーストです」


「私が弟のジューマンジー・ブーストです」


「其方達を呼びたてたのは他でもない。我らの計画に協力してもらいたいのだ。アレック、説明を」


「はい。カーンケーツ殿、ジューマンジー殿、聞けば口外は許されませぬので心してお聞き下さい……」



−−−−



「俺は勝った方に付くぜ! はい、今の通りに!」


「俺は勝った方に付くぜ!」


「よろしいです。ゼットブ様。その声量、抑揚で声が通るでしょう」


 カーンケーツ殿がゼットブ様を指導している。なかなか教えるのが上手いな。


 僕と魔王様も一語一語、ブースト兄弟に指導を受ける。

 

 台詞が上手くなった気がする。

 

 他の皆も指導を受けていく。

 

……「「「「「おお~!!」」」」」……


「はい、いいですか、驚くというのは他に見ている人々にも、その驚きを伝えなければなりません。驚きを共有して驚いた感情を大きくするのです。人々の感情に訴えかけるような『おお~!!』なのです」


「いきますよ! おお~!!」


……「「「「「おお~!!」」」」」……


「いいですね~」


 ジューマンジー殿の指導も上手いな。本当に驚きが伝わってくるぞ。

 

 ジュリアはブースト兄弟が自分より上手く演技を教えられる事に面白くないんじゃないかと思ったが、結構、器が大きいようだ。ジュリアは大変喜んでいる。自分の物語を上手く演じてくれる方が嬉しいんだな。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 明日はいよいよ王都大学の入学式、そして卒業式だ。

 計画の決行は卒業式の最後だ。

 

 僕らは誰もいない王都大学の新講堂で最後の確認を行っている。

 主に、魔王様と僕との立ち位置や、動く方向の確認など非常に重要な部分だ。間違うと多数の怪我人が出てしまう。

 

 確認が終わる。

 

 最後に一回、通しで稽古する。



−−−−


 

 最後の稽古も終わった。

 

「皆さん。この二週間、大変でした。よく私について稽古を乗り越えました。明日いよいよ幕が上がります。二週間の稽古の成果を出すのです。よい演技……いや全身全霊での演技で、必ずやお客様の喝采を浴びるのです。それが舞台役者の使命なのですから!」


 皆が拍手する。

 誰も舞台役者では無いのだが、ジュリアの剣幕に押されて拍手する。

 

「おーほっほっほっほっほ!! さあ明日は一世一代の舞台よ!!」




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