眠る蛇を起こすなかれ
サンサーラの街、宿屋、真理の探究、二階にて
『この街って、どこか可笑しくないですか?』
「ああ、なんだよ、あの真っ黒くろすけズ。毎日街中葬式かよ。」
すっかりラスはサンサーラの街を苦手になったようだ。
「そういう意味で言ったのではない、そうだろう? レイ。」
目を閉じて座っていたガリオスが、ラスの言葉を否定すると目を開いてレイをまっすぐに、まるでレイが何を言わんとしているのか悟っているように見つめた。
レイもガリオスの言葉にしっかりと頷いてみせた。
『はい。
ラス、住民の服装とか、そんなすぐ分かるようなものじゃないんだ。
例えて言うなら街全体、ううん、街の空気かな。
この街の中には魔力の残滓が沢山残っていて、それが住民に何らかの影響しているんじゃないかな。
それにこの街の下の中心あたりに魔力の塊、いや、湧き出ているから泉のようなものを感じる?
いったい、どういうこと・・・」
最後は独り言のように言い終わるとレイは、目を閉じて集中した、確かにこの地面の下を胎動する何かを感じ取ることができるのだ。
「すごいな。
レイは、もう感じ取ったんか。ワイらは道具を使わなよう分からへんのに。
そうや、この街は太古の昔、ハイエルフが探し出した魔力の湧き出る泉、魔泉の上にある、それも人間がギリギリ住める限界の場所や。
デカい魔泉やったらある程度魔力持っとったらすぐに見つかるんやけど、こんなギリギリなんは流石のハイエルフでも骨折ったやろな。
そんなわけで、この街では比較的魔力を感じ取りやすいから自然と魔術師が集まったんやな。なんでも、ここで修業すると魔術師としての質が上がりやすいらしいで。
魔法使うのが専門やない奴や初めてこの街に来た奴とかは長くおったらこの街独特の魔力に酔ってくるのもいるんやって。ま、一日もすれば慣れるやろから気にせんでええよ。」
と、説明されたとはいえ、大地の脈動を直に感じ取っているレイにしてみれば気が気ではない。
少なくともこの地は本来こんな少ない量の魔力の放出地ではない。
何か、得体のしれないものが泉の底から魔力を絶えず吸い取っていて、結果的に少ない魔力が放出されている、ように見えるのではないだろうか、と。
そのことを打ち明けると一同、押し止まった。
『蛇、のようなものがこの街の下でわずかですが蠢いているように感じます。』
「ふむ、蛇か───ではあるまいな。」
「まさか、あれはもっとデカいはずや。」
『そうですよ。───なら私たちが視認することすら不可能なはずです。』
「んじゃあ、まさか───の眷属だったりして、なんてな。」
「「『・・・・・・・・・・』」」
ヒューーー。
部屋の中に寒気が滑り込んだ。
図らずしも沈黙を作り出してしまったラスは幼馴染に助けを求めて視線を送った。
───不味いこと言ったか?
───おもいっきり。
ソレは、星を取り巻くほどの蛇であり、大地が崩れないように支えている。
故に地震は───が身じろぎしたときの振動であるという。
天災や事象の化身、または神そのものとして畏れられている。
「分かった。シュラフや。───の眷属のシュラフやったらこの大きさにも納得がいくし、魔力を吸い取るっちゅうのも頷けるわ。」
『たしかに、シュラフならありえますね。
主食も魔力でしたし。
シュラフは別名が眠蛇というくらい寝る蛇ですから。一度眠ると千年は起きないと言われていて、眠りながらも絶えず一定の魔力を周囲から吸い取るらしいですし、千年経って起きそう、なのかも?』
なんたってシュラフは身じろぐだけで地震を起こす───の眷属なのだ。
目覚めればどれほどの被害を被ることになるのだろうか。
アンサー 想像もつかないことになるでしょう。
「・・・・ヤバくないか?」
「ヤバいやろなあ。」
『ヤバいですよねぇ。』