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喫茶厨房本能寺 ―織田信長、感情のままに喫茶店を運営中―  作者: 本能寺
第四章 黄金の輝きと復興

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第25話「黄金の輝きと新たなる道」


第25話「黄金の輝きと新たなる道」



営業再開を迎えた『喫茶本能寺』。


広くなった店舗には、久々の本能寺の味を求める常連がまばらに訪れていた。しかし、道路の向かいに聳え立つ『本願寺カフェ』の巨大システム『ヒートモット』の前には、今日も何百人もの長蛇の列ができている。


秀吉は、以前とは少し違う、吹っ切れた晴れやかな顔で客を迎えていた。


寧々との関係が戻ったわけではない。


それでも、自分が何のためにこの店で駆け回っているのか――その答えだけは、もう迷っていなかった。


「……光秀、秀吉」


営業終了後。


信長が珍しく静かな声で二人を呼び寄せ、己の大きな両手を見つめた。


「……認めざるを得ん。『平蜘蛛』や『オーブン』といった感情エネルギー技術を喪失し、素の手作業だけで調理するとなると……俺の調理速度は以前の数分の一まで落ちている。どれだけ技を磨こうと、手と目の数には物理的な限界がある。今の俺では、この広い店内の客を捌ききれん」


天才料理人である信長自らの口から出た現実的な告白に、光秀と秀吉は息を呑んだ。


光秀は静かに頷くと、待っていたかのように手元の融資書類と黄金茶室の図面を広げた。


「……信長様。でしたら、私たちはもう『回転率と日常使いの喫茶店』という形態から脱却すべきです。この広くなった店舗と、あの『黄金茶室』を最大限に活かすのです。お食い初め、結納を迎えた若い二人、還暦祝い、定年退職……人生の特別なイベントにのみ対応する、『完全予約制・祝い事特化の食堂』へと舵を切りましょう。一日に迎えるのは、せいぜい一組。余裕があっても数組。それならば、信長様が一人一人のために魂を込めた至高の料理を提供できます!」


「光秀殿……!」


秀吉の目が輝いた。


「俺も光秀殿に大賛成ですわ! 大勢に速く出す戦いじゃ本願寺には勝てない。だけど、一組のお客さんの『一生の思い出』になる特別な日を、俺たちの接客と社長の料理、そしてあの黄金茶室で最高に祝うことなら……どこにも負けませんッ!」


信長は二人をじっと見つめ、やがてニヤリと不敵に口角を吊り上げた。


「……フン、言うようになったじゃねえか。日常の珈琲一杯ではなく、人生の晴れ舞台に俺の料理を叩き込むか……面白え!」


信長は拳を握り締め、目を燃え上がらせた。


「だがな……俺の料理狂の魂が、この程度で落ち着くと思うなよ! この『特別な日戦略』で、一組の客に使える料理の手間と金を増やす! そして、その利益で失った厨房設備を一つずつ取り戻すッ!」


「ま、まさか……」


光秀の顔が引きつる。


「そうだ。いつか必ず、あの感情エネルギー技術を取り戻す! だが、今すぐじゃねえ。今の俺たちには金がねえからな! ならば稼ぐ! この店で、一皿一皿に魂を込めて稼ぐ! そしていつか――誰も見たことのねえ、極上の厨房設備を作り上げてやるッ!」


信長の熾火の瞳が、狂気的な熱量を帯びて輝く。


「久秀に聞いたんだがな……その昔、感情エネルギー技術は兵器としても研究されていたらしい。だが、使う人間の感情に左右される不安定な技術だったため、やがて歴史から姿を消したそうだ。……だが俺は知っている! あの技術が、料理に使えばどれほど恐ろしい威力を発揮するかをな!」


信長は天を指差した。


「武力で天下を取る必要なんざねえ! 俺は料理で天下を取る! 美味い料理で客の心を掴み、香りで客を惹きつける! 味で人を惹きつけ、俺の料理を食わなきゃ生きていけねえと思わせるほどの食文化を作り上げる! それこそが――俺の目指す『天下不武(てんかふぶ)』だッ!!」


「て、天下不武ゥゥゥッ!?」


光秀が頭を抱える。


「天下布武の『布』を『不』に変えて武力を否定しながら、結局やってることは食による天下統一じゃないですかァァァッ!」


「ガハハハハ!」


信長は大爆笑した。


「天下不武への第一歩となる、新たな厨房設備――名付けて『楽市楽座』だッ!」


「楽市楽座……どんな設備になるんでしょうな?」


秀吉が身を乗り出す。


「決まっている! 今まで誰も見たことのねえ、最高の料理を生み出す厨房だッ!」


「……そのためには、まず明日からの営業で一歩ずつ金を稼がねばなりませんね」


光秀が疲れ切った顔で呟く。


「その通りだ! だから明日も全力で働くぞッ!」


「結局そこですかァァァッ!?」


秀吉の爽やかな笑い声が店内に響き、光秀は胃を押さえながら天を仰いだ。



挿絵(By みてみん)



道路の向かい側。


本願寺カフェのテラス席で売上伝票を確認していた顕如が、ふっと向かいの店舗を見上げる。


「……ふっ、さすがは織田信長。量と速度の競争を捨て、特別な日の一皿へ特化させたか。日常を制する我が『ヒートモット』と、人生の節目を制する『本能寺』……完全に異なる価値を提示してきましたね」


顕如は静かにカップを傾け、ほんの少しだけ闘志を込めて呟いた。


「ですが、客が求める『美味い』に終わりはない。日常も、特別な日も――最後まで選ばれ続けるのは、どちらなのか。楽しみにしていますよ、織田社長」


本願寺カフェが制するのは、日常の食事。


本能寺が制するのは、人生の特別な日。


今はまだ、二つの店の間に明確な勝敗はない。


だが――一皿の利益を積み重ねるたびに、本能寺は少しずつ力を取り戻していく。


失われた厨房設備を取り戻すために。


そしていつの日か――料理による天下統一、『天下不武』を成し遂げるために。


その翌週。


本能寺は『人生の節目を祝う特別食堂』として、記念すべき「最初の予約客」を迎えることとなる。


『喫茶厨房本能寺』第四部の戦いは、ここから本格的に動き始める。



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