決戦の時〈15〉
開け放たれたカジノの入り口から、ホテルに通じる道へ。
ヤシの木の生える、南国リゾートじみた風光明媚な道並みだ。
木の配置によってうまく城壁は隠され、圧迫感を与えないような作りになっている。
茂みの影から、ホテルの入り口を覗く。
ざっと見て五十人以上の戦力が、前中後の三列に分かれて陣形を組んでいた。
ロビー内の味方は、瓦礫で作った障害物に隠れて何とか耐えている状況だ。
「……正面突破は、出来るか……?」
戦力は増えた。特にスノウの存在は大きい。
だが、それでもわずかに五人とおまけが一人。
数は十倍以上。ロビー籠城組を入れても五倍以上だろう。
「無理ね。時間稼ぎにしかならないわ」
「だが、時間を稼げば十分なのではないか?」
ピルスキーが言った。その通りだ。
五海商会の通信途絶理由は教えてもらった。
おそらく北東の主力は別に動いているし、いずれ〈ランドシップ〉も戻る。
彼が持ってきた情報のおかげで、盤面の霧はいくらか晴れた。
絶望的だと思っていた状況は、実際のところ悪くない。
『ああっ!?』
ピルスキーの持つ水晶から、フェイナの声が届く。
『ろ、ロビーの壁が! 壁がいきなり開いて、中からカエイが!』
「……カジノからホテルに通じる隠し通路か。状況は?」
『た、戦わずに階段へ飛び込んでった!? まずい、こっちに来るかも!』
「たぶん放っておいても大丈夫だ。心配しなくてもいい」
階段は持ち込んだ資材で完全に塞いである。
「よし。交戦しよう」
「陣形はどうするわけ?」
「今考える」
非戦闘員のピルスキーは後ろに隠すとして……。
「リルを中心に、僕が左、ソブランが右に展開して前衛のラインを作る。スノウは中衛として支援に回ってくれ。ザーラはまっすぐ戦わず、大きく回って敵後衛を狙ってほしい」
今の僕なら、ポーションを軸にした支援役より前衛に回るほうがいい。
もう、僕は後ろからポーションを投げてるだけの男じゃない。
「この陣形で、ホテル内の味方と敵を挟むように動く。もし可能なら、敵を突き破って味方と合流を狙う。いいかい?」
ホテルへ向かって陣形を組んでいる敵から見て、右側面から襲いかかる。
敵の中衛を押し込んで、敵前衛をホテル内の味方と挟み込む形だ。
そこで混乱が起きれば、十分に合流できる可能性はある。
「任されたのです!」
「俺は前衛の右翼側か。分かった」
「私は普段どおりね。杖で行くわよ」
「後衛に飛び込む役割ですわね? ……わたくしが”アサシン”なんて。皮肉ですわ」
「言ってる場合なのですか、姉さん?」
全員が素早く装備を確認し、準備を整えた。
「……行くよ! 交戦開始!」
全員で、ゲインズ商会部隊の横っ腹めがけて走り出す。
〈アイテムボックス〉を開き、まずリルに敏捷性と防御力の強化ポーションを投げた。
一気に加速した彼女が盾を構える。
「〈大盾撃/ワイドガード・バッシュ〉!」
横合いからの奇襲が、弓を握った部隊へ直撃した。
敵陣形を切り裂き、前衛と後衛を分断するようにリルが進んでいく。
「や、やつらを迎え撃て!」
向かう先には、大鎌を携えた指揮官らしき男がいる。良い狙いだ。
その左後ろにつき、剣を持ち替えながら反動加速居合を連発する。
僕と当たっているのは敵後衛だ。切り合いで負けるはずがない。
更に数名を斬り倒し、先行するリルの横に並ぶ。
そこで首を振り、全体の状況を一瞬で確認する。
敵前衛とぶつかるソブランは苦戦している。だが、そこを押し込む必要はない。
左に見える敵後衛は、狙いが定まらない様子だ。
同士討ちの危険がありすぎて、ぱらぱらと誘導の効く魔法を撃ってくるだけ。
〈バイター〉で切り落としながら、魔力低下のポーションを投げつける。
敵後衛からの射撃が弱まり、ホテル内の味方が活気を増した。
さっきまで一方的に撃たれていたのが、”撃ち合い”に変わっている。
悪くない。敵が落ち着く前に、もうひと押しすれば!
「させねえよ、死ねぇっ!」
大鎌を振るう指揮官が、リルを逆に押し返している。
事前情報で見た覚えがある。Cランク相当の戦力。マーク対象だ。
彼の瞳が僕を向く。リルの盾を蹴り飛ばし、こちらへ一歩。
一瞬、リルと目線を合わせる。
伝わるはずだ。練習はした。
味方の前に陣取って攻撃を弾いているときよりも、むしろ敵を攻めて圧力を掛けているときのほうがリルは活きる。
僕は左へ。リルは右へ。わずかに動く。
挟み込むように。横へ並び、僕たちは同時に攻撃を繰り出した。
大鎌が回る。その二つを同時に弾く。
反撃は僕を狙っている。
僕が一歩下がり、リルが一歩前に出る。
狙いが変わる。大鎌が軌道を変え、リルへ。
次は逆に、リルが下がり僕が前へと。
「チッ!」
細やかな連携を嫌い、大鎌の男が飛び退こうとする。
瞬間、彼の頭上から氷のつららが降り注ぐ。
足が止まった。スノウが撤退を防いだ。
攻撃に出ようとした僕の左から、敵後衛の一人が魔法を放つ。
空間を走る電撃の弾丸。
が、消失する。
倒れる魔法使いの背後から、壁を蹴ってザーラが飛び上がった。
好機。リルと同時に攻撃に出る。わずかに左右へ開く。
「クソがっ、鬱陶しい!」
個別に防ぐのは無理と見たか、大ぶりの一撃が僕たちをまとめて狙う。
それは甘い。リルが大鎌の内側へ入り、盾で顔面を殴り飛ばした。
態勢の揺らいだ彼を、僕が仕留める。
「完璧だ!」
「上手くいったのです!」
今まででも最高レベルの連携だ。
支援の質も、急造パーティとは思えないぐらい高い。
おかげで指揮官をやれた。これで多少は……。
「……クオウさん! 後ろ!」
油断した。振り返らず、前に踏み出す。
風を切る剣が背中をかすめた。そこで振り返る。
振り返った時には、もう二撃目が来ている。
誰からの援護も間に合わない。
足を地面に引っ掛ける。
わざと転んだ僕の上を、水平の横薙ぎが通り過ぎる。
三撃目。転んだ僕の背が地面につくよりも早い。
倒れながら〈アイテムボックス〉を開く。
掴んだ魔剣〈マギ・インバーター〉を、反動加速で無理やりに押し出す。
魔剣が弾き飛ばされる。かろうじて軌道が変わった。
……次はない。救援に寄ろうとするリルを、別の敵が止めている。
「戦果もーらい!」
敵が剣を振りかぶる。その剣を狙って、頭上からつららが降った。
……しかし、それも横から飛んできた敵後衛の魔法が迎撃する。
的確な支援だが、足りなかった。駄目か。
倒れ込んで上を向いた視界のなかで、何かが光った。
ホテル上層、割れた窓から。マイザの狙撃? いや、違う。
銃じゃない。魔法。身を乗り出しているのはブレーザーだ。
魔力の尾を引いて飛ぶその魔法弾は、狙いが外れている。案の定。
「あれ」
魔法の軌道がへろへろと曲がる。
威力のない誘導弾が、剣を振り下ろす敵の肩に命中した。
「……!」
狙いの外れた剣が地面に突き刺さる。
起き上がりざま、〈無銘剣〉を掴んで薙ぎ払う。
入った。間違いなく無力化した。
ブレーザーが魔法を教わってたのはそういうことか。
狙いが外れても、誘導の効く魔法なら修正が効く……!
「悪くないでしょ?」
細剣を握ったスノウが飛び込んできた。
彼女は地面に弾き飛ばされた〈マギ・インバーター〉を足で跳ね上げる。
「最高だよ」
剣を受け取る。
スノウは起き上がったばかりの僕をカバーし、状況を安定させてすぐに後退した。
流石だ。
状況を確認する。相変わらずソブランの状況は厳しい。
スノウの支援もそこに集中している。
敵前衛を狙って攻撃しているのは、スノウ一人だけではない。
ホテルから飛ぶ味方の魔法と矢弾は、更に勢いを増している。
両陣営の魔法攻撃が空中でぶつかりあい、中空に花火を咲かせている。
その爆風を妨害に強い矢弾が抜けていくが、両陣営とも効果はない。
ゲインズ商会は最前列に並ぶ盾が、五海商会は瓦礫や机の障害物が受け止めている。
再びリルと目を交わす。そろそろ敵前衛に圧を掛けて合流を狙う時期だ。
僕たちは立ち位置を入れ替えた。
僕がソブランを支援する間、リルが後ろを守る。
「くっ!」
片手半剣を握るソブランが、押し合いに負けてうめいた。
……彼が片手をフリーにするのは、〈風撃の指輪〉を使うためだろう。
今はそれがない。不利なのは仕方がない。援護に入ろうとする。
だが間に合わない。敵の数が多すぎる。ソブランへ致命的な一撃が迫る。
「まだっ!」
彼の左手にある指輪が輝く。
ソブランの胴体に剣の一撃が入り、革鎧すら切り裂けずに止まった。
強力な防御力のバフだ。僕のポーションに近い、瞬間的な。
「そこっ!」
返す刀でソブランが一撃を入れる。
彼は僕へ向かって小さく笑ってみせた。
……瞬間的なバフか。なるほど。
彼の横へ入り、敵前衛と切り合う。
僕一人を何人もの男たちが狙ってくる。
四方から来る攻撃をなんとか防ぎながら、チャンスを伺う。
混戦の中で敵の連携がわずかに乱れた。
瞬間的な一対一。
剣と剣がぶつかりあい、僕の剣だけが〈アイテムボックス〉に消える。
そこから反動加速居合。二撃目の速度で勝った。
……はずが、防がれる。敏捷性に優れる敵だ。いや、僕が遅い。
どこまで行っても、ステータスの差はつきまとう。
「なら」
僕は〈アイテムボックス〉から敏捷性向上ポーションを取り出す。
これはスプラッシュ・ポーションだ。
衝撃が加わると破裂し、周囲にバフ効果をもたらす。
「これで!」
僕は瓶を敵の顔面にぶつけた。
バフと共に飛散するガラスの破片が、僕と敵に降り注ぐ。
敵は怯んだ。僕は備えていたから、血を流しながら動けた。
アイテムボックスを開き、〈無銘剣〉を掴む。
一閃。血を払う。次。
バキイッ、と何かの割れる音。
リルが展開する〈大盾〉にヒビが入っている。
彼女へ降り注ぐ魔法の数は尋常ではない。
魔法盾を展開していることで、かえって敵後衛が魔法を撃ちやすくなった。
僕は〈バイター〉を抜き、リルの前に出て飛来する炎を払う。
剣が炎を飲み込み、その剣身が炎を宿す。
……ケーブルを刺さないままで良かった。
吸収した炎のせいで僕が燃えていた可能性がある。
更にザーラが後衛を狙う。スノウも支援攻撃を集中させる。
だが、どちらも効果が薄い。ザーラは常に狙われて近づけていない。
スノウの攻撃は打ち消され、その数倍の反撃が飛んでいる。
指揮官を殺されて浮足立っていた人々が、落ち着きを取り戻している。
……奇襲と質の優位で保っていた優位が、数の優位に飲まれつつある。
当然の結果だ。撤退か、突破か。
想定より戦況はいい。
「突破だ!」
「はい!」
リルが魔法盾を消し、体を翻して敵前衛へ突撃する。
その背を狙う魔法を、僕とスノウが全て叩き落とした。
壁を蹴ったザーラが上空を行き、頭上から斬りかかる。
ホテルロビーからの支援攻撃が一段と勢いを増した。
敵前衛の陣形が圧され、ねじ曲がり、やがて破断する。
隙間が出来た。要塞化したホテルのロビーにいる五海商会の戦力が見える。
あとは、わずかな距離を走り抜けるだけで……。
……ロビーの奥にある、エレベーターの歪んだ扉に、斬撃が走る。
ばらばらに砕けた扉の奥、倒れて呻く人々の上。
そこには流血するラクートが立っていた。
細剣が赤熱し、ラクートの姿が消える。
僕の瞳が捉えたものは、ひとつながりに残る赤い残光だけだった。
ロビー内に籠城していた五海商会の護衛がばたばたと倒れる。
戦いにもならない。
……人間は、あんな速度で動けるものなのか?
血を払うラクートの瞳が、僕を射抜く。
足が止まった。
格が違う。
化け物だ。
あれが……あれがきっと、”英雄”と呼ばれるような人間なんだ。
僕もああなりたかったんだ。それが夢だったんだ。
けれど、そうはなれない。
そんなことは知っている。ずっと昔から知っていて、それでも足掻いているんだ。
まだ止まるな。動け、僕の足……!
「撤退!」
既に敵陣は突破済み。方向を変えて元来た方向へ逃げるだけ。
煙幕玉を敵前衛とホテルロビーへ投げる。瞬く間に充満した煙が視界を切る。
そのタイミングで、ロビーへ〈音響弾〉を投擲した。
耳は塞がない。屋外だ。鼓膜が破れるほどの威力は出ない。
「ぐっ!?」
爆発音。ロビーの霧から飛び出してきたラクートがよろめく。
ゲインズ商会の軍勢も、足元の爆発に慌てたか反応が遅い。
その隙に僕らは十分な距離を取り、手入れされた茂みの陰に飛び込む。
……頭を抑えて隠れているピルスキーにぶつかりかけた。
「リル、スノウ、ザーラ! 時間稼ぎを!」
「その必要はないみたいよ」
「……追ってこないのです?」
振り返る。
確かに追ってこない。
ゲインズ商会の戦力が二手に分かれた。
片方は城壁へ。もう片方はホテルのロビーへ。
ラクートも城壁へ向かった。
「……五海商会の主力が来たのか!?」
もっと大きな脅威が現れて、僕たちに構っている暇がなくなったんだ。
運が向いてきた。
「よし……とりあえず一息ついて、次の手を考えよう」
「だがクオウくん。五海商会の主力はラクートに勝てると思うか?」
恐怖で顔のひきつったピルスキーが言う。
「……〈ランドシップ〉の支援がないと、負けるかもしれないな……」
五海商会がラクートを相手するための戦術は、もちろんたくさん考えた。僕が。
けれど、〈ランドシップ〉の圧倒的火力が前提の戦術だ。
五海商会に英雄はいない。
資金力と組織力と技術力が、つまり〈ランドシップ〉が武器だ。
あれがないと厳しい。
フージェンの秘書らしき眼鏡の女魔法使いはものすごく強そうだったが、彼女は〈ランドシップ〉に乗っている。
迷宮化現象で消えたままだろう。
「……五海商会の主力がラクートに負けると、勝ちの目が消えるかもしれない」
周辺からの援護がなければ、〈ランドシップ〉も容易く落ちる。
各個撃破される形で、五海商会の戦力が全滅してもおかしくない。
僕たちも死ぬ。駄目だ。やっぱりまだ状況は悪い。
「わたしたちが主力を支援するべきなのです」
「無駄ね。焼け石に水よ」
「俺たちがゲインズを倒せればいいんだけど」
「いや。ホテルのロビーを固められてる。あれを突破するのは無理だよ」
ロビーの中だけでなく、周囲にも警戒要員が並んでいる。かなり硬い。
『もしもーし』
通信機からフェイナの声が聞こえてきた。
『えっとね、上階の状況が分かったよ。水晶に映像出すね』
ピルスキーの水晶に、監視水晶からの映像が映った。
ゲインズと幹部らしき二人が、指揮所の転写石版に映った映像を睨んでいる。
あとは数名のコンソール操作要員がいるだけだ。
『見ての通り、防御は薄いよ。幹部陣が二人。”ギア”と”ペンチ”だっけ』
いかにもチンピラ風の乱暴な男と、太った魔術師の二人組。
迷宮内で見た覚えがある。
「どちらも前身団体の〈部品商〉メンバーだ。おそらく、スパイを嫌って信頼できる人間だけを残しているのだろう」
「あの二人はそこまで強くないけど……」
さすがに今ホテル内にいる三人で戦うのは無理だ。
それに肝心のゲインズ本人の戦闘力が分からない。
一時期は冒険者をやっていたというが、情報は残っていないらしい。
おそらく、そこまで強くはないはずだけれど……。
あいつはカネを持っている。装備をマジックアイテムで固めてるだろう。
指を鳴らして頭を爆発させるアレも、たぶんアイテムの力だ。
せめて僕がゲインズのところに行ければ。勝てる可能性はあるんだけれど。
「あ、そうだ。階段からカエイが来てたりしない?」
『マイザが階段の封鎖を強化してるし、まだまだ時間は稼げると思うよ』
「〈バイター〉の一撃で、カエイを縛る術式が外れた可能性はないかな?」
『……えっと。残念だけど……不可逆だよ』
不可逆。
息を吐く。そうか。カエイは助からないか。
……可能ならば、僕の手で。あいつも決着を望んでるはずだ。
「でも、攻撃を当てたとき支配が薄れてたように見えたけど」
『精神の支配が揺らいでも、魂の支配は……そこが揺らぐと死にかねないから。〈魂縛術式〉っていう、死霊術の応用みたいな支配の魔術で……』
「分かった。精神の支配は揺らぐんだね」
それだけ分かれば十分だ。
「カエイが来たら、まず話しかけてみて。通じるかも」
『ええ? でも、カエイってダーリンのこと大っ嫌いなんじゃないの? どっちにしても戦いになるだけなんじゃない?』
「いいから」
僕は考える。
とにかく、ゲインズのところへ急がなければいけない。時間がない。
「……僕がホテル最上階に行くための手段は、何かないのか……?」
ホテルのロビーは突破できそうにない。
他の侵入路があるとすれば?
カジノからの隠し通路は駄目だ。裏口も固めてるだろう。
壁を破るための爆弾はもう使い切ってしまった。
「壁を破れないなら、ガラス窓を破れば……それは駄目か。正面に行くと下から見られて妨害を受ける……うーん、ロープ?」
鉤爪つきのロープはあるが、引っ掛けるところがない。
正面はガラス張りだし、即背面はどこも平らだ。
ロープを引っ掛けてじわじわ登るのは不可能。
「……ザーラ。君の壁蹴りって、何回ぐらいまで連続でやれる?」
「わたくしの? 気張っても六回が限界ですわね。あまり続けると、技能のコントロールが不安定になりますの」
「そうか。壁蹴りで上がってくのは無理か」
「無茶にも程がありますわ!?」
「無茶とも言い切れないわね。手はあるわ」
スノウが空を見上げる。
「でも、一人が限界よ。それでいいのね、クオウ?」
「構わない」
「一人……」
リルが歯噛みした。
「せっかく、クオウさんと並んで戦えるようになったばかりなのに」
「心配しなくていい。これからいくらでも機会がある」
「……そうですね」
リルは頷いた。
「クオウさんが無茶をするのは、今に始まったことでもないのです。わたしは信じますよ。……裏切らないで、くれますよね?」
「ああ。僕たちの英雄譚は、まだ始まったばかりなんだ。こんなところで終われない」
……それに、カエイとの物語へ終止符を打たなければいけない。
ここで過去にケリを着けて、僕は人生の新章を生きるんだ。
「さあ、準備を始めよう。策を教えてくれ、スノウ」




