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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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二十三 大手町 その六

 水箏がピイと高く澄んだ音色を奏でると、宿主たちが苦しげに胸元を抑えて蹲る。

 次々と体から()が抜けだし、宿主たちの体は濡れた地面にくずおれた。

 祓われた()を、日向たちが一斉に浄化にかかる。

 日向は印を結んで真言を唱えた。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 亮は刀印を結んで五芒星を描く。

「バン ウン タラク キリク アク」

 火織はプルパを構えて印を結んだ。

「オン シュッチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ」

 四方田は刀印を結んで九字を切る。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 ()はみるみるうちに浄化されていった。

 すぐに浄化を終えると、一同は厳しい表情で顔を見合わせる。

「まだ育っていない()とはいっても、数が尋常じゃない。はっきり言って、きりがないんだよね」

 亮が、鬱陶しそうに濡れた髪を掻き上げた。

 雨は、知らぬ間に上がっていた。湿気をはらんだ空気が、重苦しくまとわりつく。

 四方田が腕を組んで亮を見た。

「確かにこの状況は解せないな。地震で首都圏の通信機能がいかれてはいるようだが、東日本大震災の時でもメールの送受信はできていた。指示や応援が全くこないこの状況は異常事態だ。あんたの言う通り、本部や支部で何か起こっているのかもしれん…」

 黙って聞いていた水箏が、不意に顔をあげる。

「亮さん、私やっぱり東京支部に行ってみる。こうやって想像しているだけじゃ埒が明かないもの」

「じゃあ俺も行く」

「僕も行きます」

 しかし水箏は首を横に振った。

「水箏さん!」

「みーたん!」

 非難するような二人の声を黙殺し、水箏は四方田に向き直る。

「だから四方田さん、私と一緒に東京支部に行ってくれない?」

「みーたん!? 何言っ――――」

「いいから火織は黙ってて!」

 水箏が鋭く言葉を遮った。

「私はバイク運転できないし、ここも手薄にしたくないし…だからヒナと火織にはここに残ってもらって、私と四方田さんで東京支部の様子を見てきたいの」

 水箏の言葉に、日向は息をのんだ。

 口を開きかけるが、水箏が目で制する。

「ね、いいでしょ? 四方田さん」

 水箏の表情は、全く友好的ではないものだ。

 亮が訝しむようにその様子を見ていたが、やがて四方田が口を開いた。

「ああ、わかった。じゃあ急いでバイクまで戻ろう」

 水箏にそういうと、四方田は自然な様子で亮を見る。

「東京支部の様子を見たら、応援を連れてすぐに戻ってくる。それまでここの守護を任せるが、それでいいな」

 亮は、水箏の態度に何か引っ掛かりを覚えたのか逡巡し、すぐには答えなかった。

 火織と日向はといえば、信じられないとばかりの表情で水箏を見ている。

 水箏は、二人に大丈夫だと微笑み頷き返した。

「でも水箏さ――――」

「火織」

 水箏は日向の言葉を遮って火織の名を呼ぶ。

「ヒナの事頼んだわよ」

 火織は不満げな表情で水箏を見つめ返した。

 しばらく黙って見つめ返していたが、やがて大きなため息とともに首の後ろを掻きむしる。

「あーくそっ! わかったよ。言う通りにすればいいんだろ!」

「商長さん!? 何言ってるんですか!?」

「うっせえよ日向、てめーは黙ってろ」

 水箏は日向に視線を移した。

「あのねヒナ、私ヒナには将門塚のことをお願いしたいのよ。ヒナと亮さんほど、この仕事の適任者はいないわ。わかってるでしょ?」

 水箏の言葉に、日向は口を引き結ぶ。

「何だか嫌な予感がしてならないの。この一件、たぶんこれだけじゃ終わらないわ。ヒナは隧道(みち)を閉じる能力に秀でている。だからこそここに残ってもらいたいのよ」

「水箏さん…でも…」

 日向はなおも逡巡した。

「今回の件、敵は綿密に計画を練ってある。はっきりいって今のこの状況、私たちが完全に分が悪いの。それはヒナだってわかるでしょ?」

 水箏の言葉に亮が頷く。

「そうだね、僕たちはやることなすこと全部後手後手に回ってる…。ホント不思議だヨねェ。なんでなんだろうねェ」

 後半部分の言葉は、実に白々しい口ぶりだ。

 その口調に、水箏は何かピンと来たようで亮を見やった。

「そうなの、私も不思議でしょうがないの。だから自分の目で確かめてこようと思って」

 意味深な視線を亮に向ける。

 亮は、軽く驚いた表情をしてから、すぐにため息を吐いた。

「自分の目で確かめるって…あのさ水箏ちゃん、君、女の子なんだし、そういう危険なことは火織にでも任せたら?」

 火織が勢いよく顔を上げる。

 水箏はそんな火織を一瞥した。

「でも火織は馬鹿だから」

「ま、それは否定しないけどね」

 しかし火織は、真面目な顔で食い下がる。

「みーたん、確かに俺馬鹿だけど、でも…もし任せてくれたら、ちゃんとやれる自信があんだけど」

「ふーん、じゃあ聞くけど、何をやり遂げる自信があるの?」

「それは内――――」

「ほらね! やっぱり無理でしょ」

 水箏がみなまで言わせず火織の言葉を遮った。火織は、おそらく『内通者』と言葉を続けようとしていた。

 水箏は、怪訝な表情の亮を見やる。

「亮さんと日向はここに残るべきだと思うの。だから東京支部には私が行ってくるわ。火織は亮さんのサポートに残ってよ」

 火織は、再び後頭部を掻きむしった。

「くそ…わかったよ」

 火織は渋々といった様子でうなずく。

 だが、日向は思いつめたような視線を水箏に向けていた。

 水箏は、その視線に気づき、日向に向けて安心させるようにほほ笑む。

「大丈夫だからそんなに心配しないで?」

 やり取りを見守っていた亮は、諦めたように小さく息を吐き出した。

「水箏ちゃん、本当に大丈夫なんだね?」

「まかせて。私、そこら辺の男鬼には、絶対に負けない自信があるの。ここで点数稼いで、ヒナのお嫁さんになってみせるから見てて」

「みーたん!? それは違うだろ! みーたんは、俺の嫁さんに――――」

「死んでもイヤ」

 水箏は最後まで言わせず、かぶせ気味に言い切る。

「みーたん!」

 火織がうちひしがれた表情で水箏を見ていたが、水箏は綺麗にスルーした。そのまま四方田へと歩み寄る。

 四方田は両腕を組んで立っていた。

「話しはついたのか?」

「ええ、ついたわ」

 水箏は、挑戦的な視線を四方田に向ける。

 四方田は、それ以上口を開かず踵を返した。

 水箏はその後を追う。

「水箏さん!」

 日向が背中に声をかけると、水箏は振り返った。

 心配しないでとも言いたげに微笑んで返すと、再び水箏は歩き出した。


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