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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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十七 可能性

 雨の中、二台のバイクが疾走していた。

 一台は火織の運転で、後部シートには日向が乗っている。もう一台は四方田の運転で、後部シートには水箏が乗っていた。

 二台のバイクは、悪路をものともせず進む。

 その行先は、石神東京支部であった。これは四方田の判断だ。

 本心を言えば、日向は真っ先に新宿を目指したい様子だったが、口には出さなかった。先ほどの水箏の言葉が、日向の行動を慎重にさせていたのだ。

 もし四方田が内通者であるとしたら、うかつに冴月に近づけるわけにはいかない。日向はそんな考えにとらわれていた。

 水箏や火織も四方田の出方を注意深く窺っているところで、結果、四方田の考えに異を唱える者はおらず、二台のバイクは走り出し、再び都内を南下しはじめていた。

 東京支部のある港区へは、豊島区、新宿区を経由して向かう予定だ。

 しかし、その予定は、図らずも変更されることになる。

 バイクに乗り換えてすぐのこと。

 再び東京で地震が起こったのだ。

 二台のバイクは、タイヤを軋ませて止まる。

 小刻みに揺れはじめた地面が、突如突き上げるようにして揺れだした。

 側に立っていた電柱が、しなるように揺れる。たわんでいた電線が、音をたてて揺れだした。

「大きいな…」

 四方田が眉根を寄せて呟く。

 日向は息をのんで周囲を見渡した。

 遠くに見えるビルの外壁がぼろぼろと剥がれ落ち、最初の地震で取れかけていた看板も落ちてくる。

 幸い四人の周囲には落下物の危険がなかったためその場にとどまり、息を殺して地震をやり過ごした。

 地震がおさまると、水箏はヘルメットのシールドをあげ、不安げに日向を見る。

「ねえこの地震…もしかしたら普通の地震じゃないかもしれない」

 日向や火織、四方田もヘルメットノシールドを上げる。

「普通の地震じゃない? どう意味ですか?」

「たぶん『龍』が影響している地震だと思う。塞の封印が弱まっていることによって引き起こされているんだと思うの」

 水箏は視線を火織に向けた。

「ねえ、大手町に寄りたいんだけど」

「大手町? なんで?」

 火織が怪訝な表情で聞き返す。

「地震の震源は千代田区だったってラジオでは言ってたわよね。もしかしたらなんだけど、将門塚の塞が地震に関係してるんじゃないかと思うの。だから塞の様子を見に行きたいのよ」

 日向が怪訝そうに目をまたたかせた。

「この前、将門塚の隧道(みち)は一応閉じておいたので、すぐに封印が破れることはないはずですよ? それに、叔父様も大手町に呼ばれていましたし…。たぶん叔父様は、僕の行った応急処置を、さらに強固にするために将門塚に呼ばれたんだと思うんです。叔父様は凄腕の術者ですから、失敗することなんてないと思います」

 日向は、はっきりと言い切ったが、しかしすぐに迷うように視線をさまよわせはじめる。

「とはいっても、実際のところ塞は破壊されている状態ですし…万が一ということはあるかもしれません。それに、十の塞の神宝を二つ欠いているとなると、そのことが将門塚の塞にどんな影響を及ぼすのか僕にはわかりません。もしかしたら水箏さんの言うような可能性もあるかもしれません。完全に否定はできません」

 水箏は日向の言葉にうなずいた。

「私も今の段階じゃはっきりと言い切ることはできない。だから確認しに行きたいのよ。だってあいつらが、あんな無茶をしてまで将門塚を破壊したのには、何か理由があったはずだわ。私には、どうしても今回の地震と無関係だとは思えないのよ」

 日向は視線をあげて水箏を見た。

「つまり、敵は将門塚の塞を壊すことで、人為的に東京に地震を起こしたって水箏さんは言いたいんですか?」

 水箏は頷く。

「たぶんそうだと思うの」

 すると、そこで四方田がちらりと水箏を見た。

「ありえん話じゃないな。将門塚の塞は東京の要だ。もし東京に地震を起こすことが敵の目的だとしたら、将門塚が狙われても不思議はない」

 日向は一度口を引き結ぶ。

「だとしたら、東京に地震を起こして、いったいどうするつもりなんでしょう」

 不安げに水箏を見た。

 水箏は考え込む。

 しかし、その質問に答えたのは四方田だった。

「たとえば、敵の目的が日本の転覆であると仮定したらどうだ? そう考えると全てつじつまが合う。日本経済の中心は東京だ。東京を破壊すれば、日本は転覆するだろう」

「日本を転覆ねえ…。まあ敵は外国人みたいだから、そういう可能性もねえわけじゃねえけどな」

 火織の言葉に四方田は頷いて続ける。

「それに、十の塞を狙う理由にもなる。十の塞の封印が破れれば、日本の国土の大半が失われることになるだろうからな」

 日向は息をのんだ。

 水箏は注意深く四方田を観察している。

 日向は、呆然とした表情で首を小さく横に振った。

「そんな…。もし『龍』が地上に現れたりしたら、転覆するのは日本だけじゃ済みません」

 日向の言葉に、一同は厳しい表情で黙り込んだ。

 その沈黙を破ったのは四方田だった。

 四方田は、ヘルメットのシールドをおろして再びハンドルを握る。

「大手町に行こう。ここで無駄に時間を浪費するわけにはいかない」

 そう言って四方田は、水飛沫をあげて再びバイクを走らせた。

 火織もその後に従ってバイクを走らせはじめた。


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