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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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十六 直感

 四方田の運転する車は、ちょうど荒川を超えたところ、埼玉と東京の県境付近を移動しているところだった。

 車内は終始無言だ。

 水箏も火織も黙り込み、日向は、じっと窓の外を見つめている。

 窓ガラスには雨が激しく叩きつけていた。

 そんな折、不意に日向の耳へ四方田の声が飛び込んできた。

「まずいな…」

 じっとラジオに聞き入っていた四方田は、そう呟いて眉根を寄せる。

「どうかしたんですか?」

 どこかぼんやりしていた日向は、ラジオを聞き逃していた。

 改めて聞き返すと、四方田はミラー越しに視線を投げかけてよこす。

「交通規制だが、どうやら都心方向への車両進入禁止をはじめたらしい」

「え? それって…」

「都心への車の乗り入れは無理ってことだな」

「そんな! じゃあ、僕たちはどうやって冴月様たちのところへ行けばいいんですか?」

 四方田は一度考え込んだ。

「進入禁止とはいっても、おそらくちゃんと規制されているのは主要道だけだろう。規制されていない道を使って、行けるところまでは行ってみる。ただ、被害状況によっては車で進むのが難しくなるだろうな」

「だったらバイクにしようぜ。バイクならたぶん都内でもいける」

 火織が口を挟んだ。

 四方田は片手で顎を撫でる。

「バイクか…そうだな、少し回り道になるが、この先に調達できる場所がある。一旦そこに向かおう」

 水箏は、そこで一度何か口を開きかけた。しかし、すぐに黙り込む。

 手をのばして日向の手を取った。

「水箏さん?」

 日向は隣の水箏をのぞき込むようにしてみるが、水箏の視線は四方田に向けられたままだった。

「ヒナはバイク運転できないわよね」

 囁くように問いかけられた質問に、日向は目をまたたく。

「はい、できませんけど…。それがどうかしたんですか水箏さん」

 首を傾げて水箏を見るが、水箏はその問いかけには答えず、視線を火織に移した。

「火織、あんたが日向を乗せなさいよね」

 火織は驚いた表情で水箏を振り返る。

「俺が? 何で」

「いいから、あんたは安全運転でヒナを乗せるの!」

 ぴしゃりと言い放つ水箏に、火織は釈然としない表情を浮かべた。

 しかし不承不承頷く。

「まあ別にいいけど…でも、どうしたんだよみーたん、なんか変だぞ?」

 日向も不思議そうに水箏を見るが、水箏はそれきり黙り込んだ。

 日向とつないだ手をぎゅっと握りしめてきたため、日向は首を傾げて水箏を見る。

 しかし、水箏の視線は四方田に注がれたままだった。

 気付いた四方田は、苦笑を浮かべながらため息を吐き出す。

「それで納得がいくなら好きにしろ。全く嫌われたもんだなあ」

 ぼやくように言いながら、車を走らせた。

「どこ向かってるんスか?」

 火織がたずねると、四方田はちらりと火織を見る。

「板橋区だ。ちょうど鬼の一族が経営するバイクショップがある」

「ふーん、そうなんスか」

 火織は、あまり興味なさそうに言って窓の外を見た。

 雨がやむ気配は見えない。

「雨ん中バイクで走るの嫌いなんだよな」

 その呟きに答えるものはいなかった。



 四方田の運転する車は、板橋区にあるバイクショップに到着した。

 車を止めると、四方田は三人を振り返る。

「バイクを調達してくる。降りるか?」

 日向と火織が答えようと口を開き開けたが、それより先に水箏が口を開いた。

「私たちはここで待ってるわ」

 まるで突っぱねるかのようにきっぱりと言い切ったため、日向と火織が弾かれたように水箏を振り返る。

 水箏の視線は、鋭く四方田へと注がれていた。

 四方田はやれやれとばかりに肩をすくめる。そのままドアを開け、雨の中小走りにバイクショップへと入っていった。

「みーたん、どうしたんだよ。今のはさすがに感じ悪いぜ?」

「そうですよ水箏さん。なんだかさっきから変ですよ?」

 日向に問いかけられ、水箏は小さく息を吐き出す。視線を上げ、日向をとらえた。

「あのねヒナ、しゅーちゃん先生が言ってた内通者についてなんだけど…はっきり言って、私は今あの人を疑ってる」

 言って水箏は、四方田の消えたドアをチラリと見やる。

 日向と火織は目を見開き、驚きの声をあげた。

「え!?」

「そんな!? どうして四方田さんを疑うんですか?」

 水箏は小さく息を吐き出す。

「確証はないから単なる勘になるわ。でも、正直言って何もかもが怪しく思えるの」

「何もかもが怪しい? 例えば?」

 火織が腕を組んで問いかけた。

「そうね、まずは盗まれた神宝のことだけど、あの人武蔵の神宝が盗まれていたこと知ってたのに、しゅーちゃん先生が話を切り出すまで黙ってたわよね。そこが変だわ。なんで先に言わないのよ。隠しておく意味がないじゃない。それに、あの人武蔵に所属しているくせに、常陸の神宝が盗まれた時に、都合よく常陸に居たのも変。それからしゅーちゃん先生が私たちに武蔵の拠点に残るように言ったのに、勝手に東京へ連れて行こうとするのも変だわ」

 水箏の言葉に、日向と火織は黙り込む。

「ま、そうだな…変っつったら変だけど…でも、ただの偶然かもしれねえし、今の段階では、俺にはまだ何とも言えねえな」

「そうですよ水箏さん。それだけで四方田さんを内通者と決めつけるのは早いと思います」

 日向は戸惑うように水箏を見た。

「確かに今の段階では私の単なる勘でしかなくて、証拠がないから決めつけることができないのは十分わかってる。でも、なんだか嫌な予感がしてならないの。本音を言ったら、今すぐこの車を運転して常陸の拠点に戻りたいくらいよ」

 水箏は焦れたように爪を噛む。

「ねえ火織、あんた車運転できないの?」

「二輪の免許しかねえけど、運転ならできる」

「じゃあ運転してよ」

 水箏の必死な表情を見て火織は考え込んだ。

「みーたんの勘てよく当たるんだよな…」

 言って日向をちらりと見る。

「お前はどう思う」

 日向は考え込むように視線を伏せた。

「確かに、水箏さんのそういう勘がよく当たることは、僕も知っています。でも…」

 迷うように視線をさまよわせる。

「ねえヒナ、私の勘を信じてよ」

 真剣なまなざしで見つめられ、日向はもう一度考え込む。

 しばし考えた後、やがてその視線を水箏に向けた。

「わかりました。まだ四方田さんを内通者と決めつけることはできないけど…でも、水箏さんの勘は信じます。僕、水箏さんの意見に従います」

「ヒナ!」

 水箏は感激したような声をあげて日向に抱きつく。

「じゃあ、善は急げよ。火織、早く車を――――」

 しかし、水箏が続けようとした言葉を、火織が人差し指を立てて遮った。

「みーたん黙って。来た」

 火織の視線を辿れば、ちょうど四方田が店の中から出てくるところだった。

 水箏が舌打ちをする。

「みーたん、今は様子を見よう。隙ができたら逃げればいい」

 その言葉に水箏は頷いた。

「火織、ヒナの事頼むわよ」

 火織が答える前に、車のドアが開く。

「用意ができた。移動するぞ」

 三人は、無言のまま車を降りた。


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