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塞の守り人  作者: 里桜
第五章
106/140

五 集う

 亮と火織の表情には、緊張が走っていた。

 二人の周囲は、いつの間にか大勢の宿主が取り囲んでいる。

「なんだよ…こんな大勢の宿主、どこから来たってんだよ」

 火織のつぶやきに、亮は舌打ちをした。

「連中は、あちこちの塞を壊して()を捕まえていたらしいからな。おおかたその()を、一気に開放でもしたんじゃないか?」

「まじかよ…」

 火織は口元を引きつらせる。

 亮は、ポケットから霊符を取り出した。

「生憎と僕は忙しい。雑魚にかまっている暇はないんだ。強行突破するぞ」

 言って霊符を宙に放り投げた。

「急急如律令」

 刀印を結んで呪文を唱えると、霊符が梟に変じる。

 刀印を鋭く振り下ろすと、梟は大空を滑降し、宿主へと突っ込んでいった。

 梟はどんどんと宿主の体を貫き、()を祓っていく。

 火織も真言を唱えた。

「オン サゲイ サメイ ウン ハッタ」

 火織は、手のひらを宿主の腹部にあてていく。はじき出された()が、大量に地を這いはじめた。

 亮が刀印を結ぶ。

「バン ウン タラク キリク アク」

 五芒星が放たれ、()にぶつかって爆発を起こした。

 亮と火織は、次々と()を祓い浄化してゆく。

 しかし、何度浄化してもきりがない。

 祓った先から、どこからともなく宿主が現れては増え続け、火織も亮も身動きが取れなかった。

「ちくしょう、どこから来てんだよこいつら!」

 火織は、苛立った様子で襲い掛かってくる宿主を蹴り飛ばす。

 やがて、宿主たちが将門塚へと向かいはじめ、亮は舌打ちをした。

「こいつらに封印が破れるとは思わないけど、将門塚には近づけない方が賢明だね…。火織君」

「了解」

 火織は将門塚に取って返し、破壊された塚の側に立つと、宿主たちを追い払う。

 亮もそれを援護した。

 だが、亮の息はかなり上がってきている。両肩が激しく上下し、喘ぐような呼吸を繰り返していた。

 火織も亮の状態に気付いてはいるが、目の前の宿主たちを祓うので手いっぱいで、亮の方まで手が回らない。

 そのうち、宿主の一人が、亮の体を羽交い絞めにした。

 気付いた火織は、慌てて亮の元へと走り寄ろうとする。

 しかし、群がる宿主や()たちに行く手を阻まれ、思うように前へは進めなかった。

「どけっ!」

 火織は叫んで宿主の一人を殴りつける。もがくようにして進むが、それを遮るように宿主たちが押し寄せてきた。

「くそっ! どけっつってんだろ!」

 火織はやみくもに宿主たちを蹴り飛ばす。

 普段ならば、宿主たちに怪我をさせないよう、細心の注意を払って()を取り除いているところだが、今はそんな状況ではなかった。

「おい! 大丈夫か!?」

 火織が声をかけるが、亮は無言だ。必死で宿主の腕を振りほどこうとする。

「しつこいな…」

 亮は苛立ちもあらわにつぶやき、羽交い絞めにしてきた宿主をようやく投げ飛ばした。だが、その動作で痛みが走ったようで、すぐに胸を押さえて膝を折る。

 ゴホリと咳をすると、口の端に血がにじみ出た。

 それを見た火織は、一瞬息をのんで動きを止める。

「どけっ!」

 すぐさま鬼の形相で動き出しはじめると、火織は今まで以上に荒々しい動作で宿主たちを蹴り飛ばした。倒れる宿主を踏み越え、亮へと走り寄る。

 しかし宿主たちは、蹲る亮に襲い掛かった。

「やめろっ!」

 火織の目の前で、蹲った亮の体に、宿主たちが飛び掛かろうとしたその時の事だ。

 突如として、辺りに澄んだ石笛の音が響き渡った。

 宿主の動きが一斉に止まる。

 火織は、ハッと息をのんで周囲を見回した。そして水箏の姿を見つける。

「みーたん!」

 火織が呼ぶと、水箏は石笛を吹いたままかすかにうなずいた。

 水箏の側に居た良蔵が、動きを止めた宿主たちの隙間を縫うようにして、亮へと走り寄る。

「亮! 大丈夫か!?」

 良蔵は、亮の周りにいる宿主を引きはがして、蹲る亮の顔をのぞき込んだ。

 亮は強がるように、かすかに笑みを浮かべて見せる。

「大丈夫、全然問題ないよ」

「馬鹿野郎! そんな面して強がり言ってんじゃねえよ!」

 良蔵は、軽く亮の頭を小突いてから立ち上がり、刀印を結んだ。

「火織」

「わかってる」

 答えるなり、火織は再び()の浄化に取り掛かる。

 周囲には、水箏の石笛によって祓われた()の大群が出現していた。

 火織はプルパを構えて印を結ぶ。

「オン シュッチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ」

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 火織と良蔵は、素早い動作で次々と()を浄化していった。



 ようやく()の浄化がひと区切りつくと、水箏は亮に走り寄った。亮は地面に座り込み、壁に背をもたせ掛けている。

「亮さん! ヒナは!? ヒナはどこに居るの!?」

 周囲を必死で見回す水箏に、亮は無情な事実を告げた。

「日向は敵の手に落ちた」

 水箏は、表情を凍り付かせて絶句する。

 良蔵も目を見開いた。

「おい亮、日向が連中に連れ去られたのか?」

「そうだ。四方田が奴らに寝返ったんだ」

 亮は怒りのこもった言葉を吐き出す。

 良蔵は目を見開いたまま息をのんだ。

「そんな…本当に眞さんが…?」

 良蔵はいまだに信じきれない様子で、首を振りながら呆然とつぶやく。

 火織も合流して、額にかかった髪をうるさげに掻き上げた。

「りょーちゃん、嘘なんかじゃねえよ。あの男は石神を裏切った」

 亮も同意するようにうなずく。そのまま顎をつまみ、考え込むように視線を伏せて口を開いた。

「あいつらの口ぶりからすると、たぶん日向は、冴月君を利用するために捕えられたんだと思う」

 火織も思い出したとばかりに口を挟む。

「そういえば、冴月の事を半陰陽さえ押さえればどうとでもなる男だとか言ってたな」

 亮は頷いた。

「おそらくだけど、冴月君の持っていたあの神器が目当てなんじゃないかな…」

「まさか、ヒナと神器を交換しようとして人質に取ったっていうの!?」

 我に返った水箏が、亮に鋭く問いただす。

 亮は頷き、壁から背を離した。立ち上がろうとするが、胸に走った痛みに表情を歪める。

「亮、無理するな。お前、怪我してるだろう?」

「大丈夫だよ」

「大丈夫に見えねーから言ってんだよ。それにしてもお前が怪我するなんて珍しいこともあるな」

 良蔵の言葉に、亮が皮肉っぽい微笑みを浮かべて見せた。

「沙織オジョウサマが闇堕ちしてね。あいつにやられた」

 良蔵がぎょっと目を見開く。

「マジかよ!?」

 対して水箏は、軽蔑するような表情を浮かべた。

「あー、なんとなく想像がつくわ。バッカみたい。自業自得。あんなやつ鬼の面汚しよ」

「そこは俺も同感だ。同情はしねえ。けど、闇堕ちってことは、また別な問題も出てくるからなあ…」

 良蔵は一度言葉を切って亮を見る。

「もちろん祓えたんだろうな」

 確認をしてきた良蔵に、亮と火織は一度視線を合わせてから首を横に振った。

 その答えに、良蔵と水箏は目を見開く。

「えっ!? 祓えてないの!?」

「冗談だろ!?」

 二人は同時に驚きの声をあげた。

「冗談ならよかったんだけどねえ。本当に祓えなかったんだよ」

 亮は片方だけ口の端を持ち上げる。

 火織も半眼になって腕を組んだ。

「言い訳するわけじゃねえけど、闇堕ちの速度が半端じゃなかったんだよ。あいつの性格悪すぎなんだよ」

 良蔵はため息とともに頭を抱える。

「なんでこう次から次へと問題ばかり起きるんだ? 片付けなきゃならねえ問題は山ほどあるってのに…。くそっ! まずはお嬢様の()を祓わねえとまずいじゃねえか。で、当のお嬢様はどこに居んだよ!?」

 火織は首を横に振った。

「あいつ闇堕ちしても自我が残ってて、日向について行っちまったんだ」

「え!? ヒナについて行ったの!? じゃあヒナが危ないじゃない! ヒナはどこに居るの!?」

 水箏は火織に詰め寄る。

「奴ら富士がどうとかって言ってた。どうも富士のどこかに居るらしいんだけど…はっきりとした場所はわからない」

 水箏は目を見開いた。

「そんな…。じゃあ、どうやってヒナを助けたらいいのよ!?」

 水箏は今にも泣きそうな表情になる。

「大丈夫だよ水箏ちゃん。日向の居場所なら、たぶん甕君がわかるはずだから」

 安心させるように告げてくる亮を、水箏は縋るような表情で見上げた。

「ほんとうに?」

 亮が頷いて返したその時の事――――。

 突如として、第三者の声が聞こえてきた。

「それなら私にも心当たりがあります」

 亮たちは、声のした方向を振り返る。

 すると、そこには怜治の姿があった。

「怜治先生!」

 水箏は目を見張る。

 亮は、きらりと目を光らせた。

「怜治くん、君には心当たりがあるの?」

 怜治は、側に居た()を浄化してから、亮たちへと歩み寄る。

「はい、奴らに直接取引場所を指定されたので。ところで、私の方も今到着したばかりで、先程の話の内容を全部は把握できていません。まずはお互いの情報を交換しましょう」

 視線を向けられ、亮と良蔵は頷いた。

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