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塞の守り人  作者: 里桜
第五章
105/140

四 包囲

 亮と火織は、将門塚で未だ()と戦っていた。

 四方田とエッカルトが残していった二匹の()は変異種で、二人は浄化に手古摺っている。

 その上、どうやら亮が沙織との戦いの中で負傷たようで、時折苦しげに胸部を押さえては、痛みに耐えるしぐさをしていた。顔色も、時間が経つにつれどんどんと青白く変わってきている。

 しかし亮は精神力で持ちこたえ、気力を振り絞って()と対峙していた。

 ()が高々と尾を振り上げ、亮めがけて振り下ろしてきた。

 亮は、攻撃を避けて横に飛ぶ。

 その際の振動が怪我に響いたのか、胸を押さえて前にのめり、亮は片膝を大地につけた。

 喘ぐように呼吸を繰り返し、肩で息を繰り返す。

「おい!? 大丈夫かよ!?」

 火織が切羽詰まった表情で声をかけるが、亮は答えなかった。その目に、ただ激しい怒りを宿して()を睨みつける。

「バン ウン タラク キリク アク」

 亮は鬼気迫る気配を纏い、片膝を大地に付けたまま刀印を結んで五芒星を描いた。亮が描いた文様は、勢いよく()へと放たれ爆発が起こる。

 すると()が、苦しげに首を振りはじめた。

 亮は深呼吸を繰り返してから立ち上がる。

 そして、火織を見ずに、()だけを見つめたまま口を開いた。

「人の心配より自分の心配をしろ。僕は、お前ごときに心配されるほど落ちぶれちゃいない」

 冷淡な声で返され、火織は舌打ちをする。

「ったく、可愛げのねえオッサンだな。こっちは心配してやってんのに…」

 ぶつぶつと小さく呟いた言葉を耳に拾い、亮は剣呑な光を宿して火織を見た。

「へーえ。この僕相手にそんなこと言うなんて、火織君て思ってたより度胸があるんだね」

「げぇっ!」

 聞こえていないと思っていた火織は、顔面蒼白になる。

 亮は、にっこりと背筋の凍るような笑顔を火織に向けた。

「ありがとう、礼を言うよ。火織君のおかげで少し冷静になれたよ。それに、俄然やる気も出ちゃった」

 いつもの調子に戻った亮は、満面の作り笑顔を浮かべて火織に向ける。

「この僕をつかまえてオッサン呼ばわりとか…」

 そこでがらりと声質を変えて、野太く続けた。眼差しが鋭く光る。

「覚えてろよこのクソガキ」

 瞬時にして、火織の背中を悪寒が駆け抜けた。

 硬直した火織を見て、亮はクスリと邪悪に笑う。

「あ、そうだ。もし火織君が、年寄扱いしてくれてるこの僕よりも浄化が遅かったりしたら…。君、どうなるかわかってるよね?」

 剣呑な光を宿した眼差しが、一瞬だけ煌めく。すぐに無邪気な微笑みを浮かべてその光を隠すと、亮は火織を見た。

「その身の程知らず、僕が嫌と言うほど思い知らせてあげるからね」

 聖母のような微笑みを浮かべたまま、火織にとっては死刑宣告に等しい言葉を吐く。

 火織はごくりと喉を鳴らし、すぐさま必死の形相で大地を蹴った。

「オン シュッチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ」

 火織は素早く印を結び、光り輝くプルパを構える。

 先ほどまでよりも、鬼気迫る勢いで()へと向かっていった。



 火織はがむしゃらに攻撃を繰り返す。

「オン シュッチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ」

 火織は大地を蹴って高々と飛び上がり、両手で日限しめた光り輝くプルパを、()めがけて振り下ろした。

 すると、ようやく()が雲散霧消した。

 火織は脱力して、安堵の息を吐き出す。

 その側で、亮が舌打ちを鳴らした。

 亮は、もう一匹の()と対峙している。

「バン ウン タラク キリク アク」

 亮の攻撃を受けた()は、苦しげに体を揺らした。

 気付いた火織もすぐに立ち上がると、再び印を結んで真言を唱える。

「オン シュッチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ」

 亮も続け様に五芒星を描いた。

「バン ウン タラク キリク アク」

 二人の攻撃が()へとぶつかり、爆発が起こる。

 そして()は、雲散霧消した。

 気が抜けたのか、亮はガクリと片膝を大地につく。

 ゼイゼイと肩で息をしながら、痛みをこらえるように胸を押さえた。

「やっぱり痛むんだな。肋骨でも折れてるのか?」

 気遣うような火織の問いかけに、しかし亮はニヤリと笑って見せる。

「別に? たいしたことはないよ」

 そう言って立ち上がった。しかし、額には脂汗が浮かんでいる。

「待てよ。たいしたことないようには全く見えねえよ。無茶すんなって」

 火織は、亮を止めようと肩に手を置いたが、亮はその手を振り払った。

「無茶くらいするさ。僕は日向を取り戻さなけりゃならないんだ」

 茶化すことのできない本気の光を宿した亮に、火織は返すべき言葉がすぐには見つからない。

 すると亮は、火織の言葉を待たずにそのまま歩き出した。

 火織は、亮に追いすがるように一歩踏み出す。

「待てよ! 今のあんたの気持ちはわかる。俺だってみーたんのことが心配でたまらねえし…。けど、そんな怪我でどうするつもりだよ? 第一、日向が何処に連れて行かれたのかわかってんのかよ!?」

 亮は、顔だけで火織を振り返った。

「あいつらは、富士を目指すと言っていた。たぶん甕君がその辺りの情報を持っていると思う。だから彼を捕まえに行く」

「捕まえに行くって…。あいつ今、どこに居るんだよ?」

 火織は戸惑うように返した。

「おそらく東京支部に居ると思う」

「東京支部に? そういえば、あんた東京支部が機能してないとか何とか言ってたよな…。そうか、だから甕が、東京支部の様子を確かめに行ってるのか…」

 火織は納得した様子でつぶやき、視線を地面に落とす。

 亮は頷いて続けた。

「推測だけど、東京支部でも何かトラブルが起きているんだと思う。だから僕たちに、なんの指示もこないんだ。きっと甕君は、そのトラブルを解決するために東京支部に向かっているはずだ」

 火織は息をのんだ。

「みーたん…東京支部に着けてるかな…。いや、着いてても危ないのか…?」

 不安な表情でつぶやかれた火織の質問に、亮は答えない。無言のまま再び歩き出そうとした。

「待てよ! やっぱり俺も行――――」

 火織は、そう続けて亮の後を追おうとする。

 しかし、その言葉は不自然に途切れた。

 亮と火織の表情に再び緊張が走り、二人は瞬時にして構えを取る。



 いつの間にか、二人は大量の宿主たちによって囲まれていたのだった。




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