ガダルカナル沖海戦
1941年10月15日午前9時
南太平洋ガダルカナル島沖北東950キロ地点
アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊第15任務部隊旗艦戦艦アイオワ艦橋
「司令官、攻撃を開始しますか?」
「もちろん。攻撃開始。」
「了解しました。」
サリーナ司令官の命令を受け、イニス参謀長以下艦橋スタッフは慌ただしく攻撃命令を空母部隊に伝えた。既に空母部隊は出撃体制を整えていたので、さっそくレキシントンからF4Fが飛び立った。サラトガも出撃しようとしていた。サリーナ司令官の第15任務部隊に与えられた任務はガダルカナル島の壊滅であり。ガダルカナル島を壊滅させると、第16任務部隊が輸送船団を率いて、ガダルカナル島占領を行う手筈となっていた。その為、16任務部隊は第15任務部隊の直ぐ後ろに位置していた。第ガダルカナル島占領こそがアメリカ合衆国の立案した『日豪連絡線分断作戦』の一環であった。大日本帝國の国力は確かに偉大であったが、その戦略資源で自給出来たのは琉球油田により石油だけであった。それ以外は完全に輸入に頼っていた。周囲を同盟国に囲まれた大日本帝國は戦略資源の輸入大国であった。特に南方地帯からの輸入が圧倒的で、大日本帝國は南方地帯により支えられていた。その中でもオーストラリアは大日本帝國の『資源倉庫』と呼ばれており、アメリカ合衆国が日豪連絡線の分断を計画するのは当然と言えた。
「司令官、作戦は成功すると思いますか?」
イニス参謀長が一段落し、サリーナ司令官に声を掛けた。その言葉にサリーナ司令官は首を傾げながら答えた。
「どう言う事?」
「太平洋艦隊司令部はこの作戦が成功すると考えていますが、私は難しいと思います。」
「続けて。」
サリーナ司令官は続きを促した。
「現状、大平洋の支配圏では連合国が圧倒的に優位です。グアムは既に陥落し、フィリピンもコレヒドール要塞が陥落しました。フィリピン全土の陥落も時間の問題です。残されたのはハワイを中心にミッドウェー・ジョンストン・パルミラ・ダッチハーバー・アッツ・タラワだけです。大日本帝國領のクェゼリン・ウェーキ・トラック諸島・マリアナ諸島・硫黄島・南鳥島等は要塞化されとおり、ちょっとやそっとでは陥落しません。更に今向かっているガダルカナル島を含めた、大英帝国連邦領のサモア・フィジー・エスピリッサント・サンタクルーズ・ブーゲンビル・ラバウル、そしてニューギニア等の各基地も要塞化されています。これらの基地には大日本帝國空軍が派遣されたと考えるのが、正常な思考判断だと思います。しかもわざわざ中間地点のガダルカナル島を攻めるのです。冷静に考えてサモアから順番に占領するのが正しいと思います。」
「確かにその通りよ。太平洋艦隊司令部もそれは考えたわ。けどガダルカナル島からの占領に決定したの。その判断は何故か?答えは簡単。ガダルカナル島の航空基地が地理的にも重要で、大きさがラバウルやポートモレスビーに次いでまずまずの規模があるからよ。」
サリーナ司令官はイニス参謀長の言葉に答えた。
「しかしブーゲンビルとガダルカナルは近いです。ブーゲンビルに大日本帝國空軍の八式がいれば、ガダルカナルの飛行場も安心出来ません。」
「確かに。ガダルカナル島の飛行場を確保すれば、タラワ基地から戦闘機部隊が進出してくるわ。それで大丈夫よ。」
「そうだと良いですが………」
イニス参謀長は不安げに答えた。イニス参謀長の言った八式
とは大日本帝國空軍の『八式重爆撃機』である。空飛ぶ要塞の愛称を持つこの爆撃機は、高い防弾性と安定性で大日本帝國空軍の主力爆撃機となっている。5トンの爆弾を搭載し5900キロを飛行する為、イニス参謀長の言うように確実にガダルカナル島はブーゲンビル島から爆撃圏内に入ってしまう。
「それでもやるのよ。」
「了解しました。」
イニス参謀長はサリーナ司令官の言葉に頷きながら答えた。
同時刻
上空5000メートル
「百合江、見える?」
「今のところ、見えません。」
塚本香里1等曹長の言葉に、石倉百合江伍長が答えた。塚本1等曹長と石倉伍長の乗る機体は、七式艦上偵察機である。所属は第2艦隊第2航空戦隊空母皇鳳になり、大森司令官の命令により偵察に出撃した。七式偵察機は550キロの速度を出し、航続距離2900キロ・実用上昇限度10000メートルを誇り、世界最高性能の能力を有する偵察機である。九六式艦上戦闘機の535キロよりも早い速度を有するのだ。この速度はアメリカ海軍のF4Fより早く、七式艦上偵察機に追い付けるのは陸上戦闘機の一部である。現状この空域では七式艦上偵察機は最速となる。
「そろそろ見つかっても良いと思うけどね。」
塚本1等曹長が呟いた。後ろに座る石倉伍長は必死になって海面を見つめている。
「!?あれは!!」
「見つけた?」
「はい!!航跡が見えます!!左翼前方です!!」
塚本1等曹長が石倉伍長の言う方向に目を向けた。確かに雲の切れ目から航跡が確認出来た。
「降下するわよ!!」
「了解!!」
石倉伍長はそう答えると、身構えた。その途端、七式艦上偵察機は急降下を開始。雲を勢いよく突っ切った。
「当たりです!!アメリカ海軍です!!」
石倉伍長が興奮しながら叫んだ。塚本1等曹長は笑顔を見せた。ようやく敵艦隊を発見したのである。
アイオワ級は1隻だがサウスダコタ級が2隻いる。そして問題の空母が2隻、艦隊の中央に位置した。その周囲には重軽巡洋艦と駆逐艦がいた。そこそこの数である。しかも後方にはもう1つ艦隊があった。
「伍長、艦隊に通信を。」
「了解しました。」
石倉伍長はさっそく艦隊に無電を飛ばした。
その時、敵の戦闘機が突っ込んできた。
「っ!!」
塚本1等曹長はすんでの所で、F4Fの攻撃を避けた。
「送れた!?」
「送れました!!」
「了解!!帰るわよ!!」
「お願いします!!」
「勿論!!」
塚本1等曹長はそう答えると、帰路に着いた。
同時刻
第2艦隊旗艦超弩級戦艦山城戦闘指揮室
「七式艦上偵察機より入電です。[艦隊位置より南東115度方向に敵艦隊を発見。空母3隻が主力なり。]以上です。」
「やりましたね、司令官。」
通信員の言葉に参謀長の中野優里少将が司令官の大森知香恵中将に言った。大森司令官は笑顔を浮かべながら頷いた。
戦闘指揮室は『一五五艦隊計画』による主力艦(戦艦・空母)に新設された施設である。計画完成後、臨時予算が計上され長門級と天鶴級にも戦闘指揮室は新設された。大日本帝國は世界最先端の電探技術を有していた。その技術力の礎は八木秀子博士と宇田新美博士が中心であった。1926年に八木博士の出願で特許を得ると、1928年には八木博士と宇田博士の連名で論文が発表された。しかし特許が八木博士単独名で出された為に国内外では『八木電探』と一般的に呼ばれるようになった。科学技術省がその八木電探に着目し、電気送声機の受信感度向上や業務無線の基地局用に利用され、更に電映機放送にも利用された。そしてこの八木電探を軍用として着目したのは1934年に設立されたばかりの国防総省空軍庁であった。空軍庁は第二次世界大戦に於けるドイツ帝国の航空艦隊による大英帝国空襲を研究し、敵航空機の早期発見による対空警戒網の構築を計画していた。当初の計画では大型飛行船を飛ばし、24時間体制で警戒する事が立案された。しかし24時間飛行船を飛ばし続ける経済効率の悪さに、新たな計画を空軍庁の上層部は求めていた。そこで八木電探に着目したのである。直ぐ様空軍庁は八木博士と宇田博士を招き、国防高等技術研究本部と共同開発を進め、翌年1935年に対空電探を実用化。世界で初めて航空機を電探で探知した。そしてその電探に海軍庁も注目し、国防高等技術研究本部と共同開発で水上電探を実用化。更に水中電探と射撃電探も実用化。1941年の開戦時水上・対空・水中・射撃電探の4種類を装備していたのは大日本帝國海軍だけであった。空軍は対空電探網を大日本帝國中に張り巡らせ、陸軍も基地への通常配備として電探を配備した。そのような訳で電探技術は大日本帝國で洗練され、連合国各国にも提供された。その電探を効率良く運用する為に、戦闘指揮室が新しく設置されたのである。
「通信員、第2航空戦隊に出撃命令を。」
「了解しました。」
大森司令官の言葉に、通信員が通信を始めた。
「いよいよ、アメリカ海軍と戦いですね。」
「そうね。まさか私がアメリカ海軍と戦う一番槍になるとはね。紗耶姉が最初かと思ってたけど。」
「上戸司令官は真正面から殴り合う戦いが得意ですからね。今回の綾瀬司令長官の作戦は、失礼ですが上戸司令官には向いていないと思います。」
「確かに。紗耶姉にこんな作戦は向いてないわ。参謀長、人を見る目があるわね。」
「ありがとうございます。」
中野参謀長は大森司令官の言葉に、照れながら答えた。
次回続きます。




