新連合艦隊司令長官
午後3時
第二神聖ローマ帝國帝都ローマ首相官邸地下2階戦時執務室
「首相、もはや北部は絶望的です。急ぎ政府と王室の皆様、ローマ教皇庁の移転をしませんと。」
「…………」
陸軍参謀総長ユリーナ大将の言葉に、アレス首相は目を瞑った。ユリーナ参謀総長の言うように第二神聖ローマ帝國陸軍は劣勢であった。枢軸国側(主力はドイツ第三帝國)の侵攻に、逐次撃破されていたのである。ドイツ第三帝國は陸軍と空軍を機動的に使い、俗に言う電撃作戦を行った。ドイツ第三帝國陸軍の戦車・空軍の航空機は、第二神聖ローマ帝國のそれを遥かに上回る性能を有しており、戦いは一方的な物となっていた。第二神聖ローマ帝國側も陸軍や陸軍航空隊が果敢に攻撃を仕掛けたが、ドイツ第三帝國軍に押されていった。3日前にはベルギー、2日前にはオランダが枢軸国側に占領される事態となり、第二神聖ローマ帝國への攻撃は更に強まった。今やヨーロッパ大陸には第二神聖ローマ帝國とポルトガル帝國しか残っておらず、大英帝国も僅かに空軍を使い空襲を行う事しか出来なかった。ポルトガル帝國や第二神聖ローマ帝國への物資支援を輸送船団で行っていたが、それもドイツ第三帝國海軍のUボート部隊により被害が続出していた。大日本帝國地中海軍も第二神聖ローマ帝國とポルトガル帝國への支援を行っており、そのお陰で現在は保っているのである。しかしそれも何時まで戦えるか分からない。そこでユリーナ参謀総長は国家中枢の後退を進言したのである。
「首相、エマヌエル3世女王陛下は必ず御理解頂けます。ローマ教皇庁のポウス11世閣下もお分かり頂ける筈です。」
「歴史あるローマが破壊されるのは忍びない。コロッセオが崩壊するのは見たくない。」
「勿論です。」
「けど戦わないといけない時があるの。」
「首相!!」
「女王陛下とローマ教皇には避難して頂くわ。」
「了解しました。」
ユリーナ参謀総長はそう言うとアレス首相に敬礼をし、執務室を出ていった。残されたアレス首相は深い溜め息を吐いた。
午後6時
大日本帝國広島県呉市連合艦隊総司令部2階長官室
新連合艦隊司令長官に着任した綾瀬真理亜大将は椅子に腰掛けた。綾瀬司令長官は前国防総省海軍庁航海局局長で少将だったが、前任の司令長官が台湾奇襲により更迭され序列28番目から一気に中将を飛ばし、大将として連合艦隊司令長官に着任した。その時綾瀬司令長官は連合艦隊司令長官着任の条件として林香苗連合艦隊司令長官代理を参謀長にする事を提示した。その条件も2階級特進も全て東久邇宮総理と中澤国防大臣・榊原海軍長官・片山元老院議長そして大日本帝國全ての行動に決定権を有する紗耶香女帝陛下の承認で綾瀬司令長官の着任は決まったのである。条件に提示された林香苗中将も決定を浮かべると苦笑いを浮かべただけであった。
コンコン
「どうぞ。」
「失礼します。」
綾瀬司令長官が声を掛けると参謀長の林香苗中将が長官室に入ってきた。
「これは参謀長、お疲れ様です。」
綾瀬司令長官は椅子から立ち上がり、敬礼をした。それを見て林参謀長は笑いながら敬礼をした。
「長官、貴女が上官です。先に下ろして下さい。」
「ですが…………」
「それに上官ですので敬語も無しです。年齢は私が上でも階級は別です。」
「了解…………しました。」
「まあいきなりの2階級特進ですから、言葉遣いは仕方無いですね。」
林参謀長はそう言うと再び笑った。綾瀬司令長官も笑みを浮かべながら手を下ろし、席に着いた。それにより林参謀長も手を下ろし、綾瀬司令長官に向かうように座った。
「長官、帝國艦隊司令長官職が正式に復活するようです。」
「決定したのですか!?」
やはり敬語を直すには時間が掛かる、と林参謀長は心の中で呟いた。
「はい。正式な辞令は10月15日に下るとの事です。」
「誰が司令長官になるのですか?」
「当初は新任で任命する予定でしたが、無用な派閥抗争やかつての指揮系統の混乱を防ぐ事が優先され、軍令部総長の仲谷敦子大将を兼任させる事になったようです。」
「なるほど。」
綾瀬司令長官はそう言うとお茶を一口飲んだ。帝國艦隊司令長官は1918年にクレタ島が大日本帝國領になり、地中海艦隊が設置された後1920年に創設された。帝國艦隊司令長官は連合艦隊司令長官と地中海艦隊司令長官・護衛艦隊司令長官の上位に位置する役職となり、軍令部総長と国防総省海軍庁長官の指揮下に入るが、内閣総理大臣の直属となった。しかし組織としての指揮系統が混乱するとの指摘を受け、1931年に帝國艦隊司令長官職は廃止された。だが今回の第三次世界大戦勃発を受け榊原海軍長官が東久邇宮総理に帝國艦隊司令長官職の復活を進言し、正式に復活する事になったのである。その時に指揮系統の混乱を防ぐ為に軍令部総長に兼任させる事になったのである。これにより海軍のあらゆる頂点として仲谷敦子大将は立つことになった。
「けどこれで仲谷さんはますます敵を増やしますね。」
「そうなると思います。」
林参謀長は沈痛な面持ちで答えた。仲谷大将はその性格の気難しさから、上官や部下から余り好かれていなかった。しかし海軍軍人としての能力は優秀であり、仲谷大将を嫌う相手でさえ仲谷大将を認めざるを得ない状況であった。仲谷大将は身長が2メートル13センチもあり、存在感自体が相手を威圧していた。その上酒好きであり喧嘩も強く、相手がビビるのは当たり前でもあった。そんな中で綾瀬司令長官と林参謀長は海軍では仲谷大将とは特に仲が悪い訳でなく、かといって仲が良い訳でも無かった。だから先程の話が出来たのである。
「まあとにかく、これからが正念場になりますね。」
「そうなります。現状枢軸国側は圧倒的な侵攻を行っています。各戦線は敗走を続けています。この現状をどうにか打開するしかありません。」
「そうですね。次の一手を早く打たないといけません。」
綾瀬司令長官はそう言うと椅子から立ち上がり、窓際に歩み寄った。
長官室の窓から見下ろす先には、柱島泊地があった。連合艦隊の艦艇はそこには無い。第2艦隊は南太平洋に、第1艦隊と第8艦隊はフィリピンに出撃しており、第6艦隊は台湾奇襲で壊滅。第5艦隊は横須賀に展開している。第4艦隊と第7艦隊は潜水艦隊であり、第7艦隊がクェゼリンに派遣されていた。第3艦隊と第4艦隊は地中海艦隊であり、連合艦隊の指揮範囲外であった。
連合艦隊、いや帝國艦隊の総力をあげてこれから戦わなければならなかった。




