第1部 御前会議
1941年10月5日午後3時
大日本帝國帝都大阪帝居東一の間
枢軸国側各国の一斉侵攻に連合国側各国はその被害の全容解明と、戦力の立て直しに手一杯であった。そして台湾に航空奇襲を受けた大日本帝國もその例外では無く、漸く被害の全容が判明し本日2回目の御前会議が開かれた。
「空襲による被害を述べます。空軍の高雄基地は全滅、高雄鎮守府は空襲を受けましたが船渠は無傷でした。しかし第6艦隊はその主力艦である、超弩級戦艦長門・陸奥、重巡洋艦羽黒・摩耶、軽巡洋艦名取・由良・川内が沈められました。それに比べて駆逐艦や工作艦・輸送船・油槽船・強襲揚陸艦は沈められず、石油保管庫や送油菅も全て無傷でした。航空機は完全に破壊されたのが194機、修理可能なのが241機です。総合的に判断しますと撃沈された艦艇は引き揚げ作業を開始しており、航空機も生産すれば元に戻ります。幸い操縦士は機体に駆け付ける前にその機体自体が破壊された為、操縦士も大多数が生き残りました。船渠も無事ですので引き揚げ次第艦艇の修理を開始致します。」
そう言うと軍令部次長大口摩季中将は席に着いた。御前会議の出席者は紗耶香女帝陛下を始め東久邇宮美由紀総理大臣・中澤麻美国防大臣・安藤佐江内務大臣・野中智美宮内大臣・新美多香子外務大臣・片山万里子元老院議長・仲谷敦子軍令部総長・大口摩季軍令部次長・金井由奈参謀総長・内田優子参謀次長・仁藤咲子幕僚部総長・米沢明美幕僚部次長・藤咲奈穂子騎兵隊総長・大井里麻騎兵隊次長である。
「何故アメリカ合衆国は台湾を奇襲した?妾はそれが分からぬ。」
「それは私が御説明致します。」
紗耶香女帝陛下の御言葉に中澤国防大臣は席を立って答えた。国防大臣は現役武官のみなる事が出来る。その為中澤国防大臣は現役の海軍大将であり、大日本帝國4軍の軍人がなれる最高位が国防大臣となる。
「まず最初に台湾を攻撃した刺客がアメリカ合衆国海軍亜細亜艦隊である事を御報告致します。さて本題に入りますと、アメリカが何故台湾を攻撃したのか?台湾よりもトラック鎮守府や硫黄島・茄無着加、更には戦略的に重要な沖縄や本土を狙う手もありました。しかしアメリカは台湾を攻撃して来ました。正直に申し上げますと国防総省としまして、台湾への攻撃の可能性は低いと考えていました。御手元の資料7枚目を御覧下さい。」
中澤国防大臣の言葉に全員が資料に目を落とした。
「先月3日に行われた『帝軍作戦行動計画会議』に於いても攻撃地点は第1がトラック鎮守府、第2が碓地茄無着区鎮守府、第3が硫黄島要塞、第4が琉球油田、第5が本土となります。しかも攻撃想定も戦艦による艦砲射撃でした。私達としては言い訳がましいですが、二重の意味で予想外でした。確かに台湾には対フィリピンを考慮し第6艦隊を編成し常駐させていましたがそこを突かれるとは思っていませんでした。今回の……」
「本当に予想外だったのか?」
「……と申しますと?」
紗耶香女帝陛下の御言葉に東久邇宮総理は尋ねた。
「本当にアメリカ軍の攻撃を防げず、国防総省はアメリカ軍の動向を判断出来なかったのだな?」
「……」
紗耶香女帝陛下の御言葉に閣僚達は何も言えなかった。
「我が臣民のみならず連合国諸国の臣民も二度の大戦により平和を強く望んでいる。1934年に帝國議会へ提出された第五次帝國発展・財政五ヶ年計画に最大野党革新倶楽部が反対したのも良く分かる。しかし臣民の方が現実的でウエレン襲撃事件によって軍拡は急がれた。国防高等技術研究本部と理化学研究所が協同で開発している[新型爆弾]が実用化されない限り、通常兵器の拮抗による[偽りの平和]がこの世界を覆っている。軍事力が相手を遥かに凌駕していれば平和は訪れよう。しかしそれも相手次第で敵が明確な意思を持って侵攻すれば戦争は始まる。平和と[念仏のように]唱えても平和にはならない、平和とは[願うもの]では無く[勝ち取るもの]である。時として[我が国から攻撃を行わなければ]いけない。現に枢軸国側は大規模な侵攻を開始した。この枢軸国侵攻の前にイガルカ事件やウエレン襲撃事件により、我が国や連合国側は攻撃を行う権利はあった。しかし我が国は攻撃を行わなかった。それは美由紀、貴女が戦争は行わないと宣言して臣民の信頼を貰い、それにより大日本帝國史上初めて貴族院からの総理大臣を妾は認めた。その為に我が帝國から攻撃を行う事が出来なかった。他の連合国諸国もヒトラーの演説や野党・臣民の反発により、連合国首脳会議で決めた通り静観するしかなかった。しかし帝國政府としてこれ以上枢軸国の暴挙を放置する気はなかった。『戦わざる海軍、存在する事に意味がある。』も理想に過ぎない事は気付いていた。けどこちらからは手を出せない。考えたわね。[暗号でも解読]して枢軸国が侵攻してくるのが分かったんでしょう。そこで知らなかった事にして相手から攻撃を行わせ、臣民や議会そして妾の承認をもらい正当に開戦する。妾の考えはあっているか?」
紗耶香女帝陛下の御言葉に何も反論出来なかった。全てが[間違っていなかった]からである。
「陛下、仰られた事は全て正しいです。国防総省と国防情報捜査庁は大英帝国の香港極東司令部と協同で枢軸国側の暗号解読に力を入れていました。クレタ島の地中海総司令部(クレタ島に配備される大日本帝國4軍全てを指揮下に置く総司令部)も第二神聖ローマ帝國と大英帝国と協同で欧州方面でも行っておりました。そこで2週間前に枢軸国側の一斉侵攻を知る事となりました。それを聞いた私は絶好の機会だと思い、その情報を台湾を含め他に知らせないように命令しました。これで漸く悪の枢軸に鉄槌を下す事が出来る。それしか頭にありませんでした。そして今日を迎える事となり、予定通り枢軸国側は侵攻を開始してくれました。漸く開戦出来たのです。陛下、私達はこの戦争に勝利し講和条約を調印する事が出来たその日に、[全てを公表し総辞職]致します。どうか御許し下さい。」
東久邇宮総理が頭を下げると閣僚達も立ち上がり頭を下げた。紗耶香女帝陛下はそれに笑みを浮かべると口を開いた。
「良く言ってくれた。それ程の覚悟を決めていたのなら総辞職する事は無い。戦後も帝國を任せる。」
その御言葉に東久邇宮総理達は笑みを浮かべた。
「しかしそのような覚悟を見せなければこの場で妾は全員罷免していたであろう。そして妾が総理を兼任して各省の事務次官を大臣として内閣を組織したであろう。そうさせないで良かった。」
「陛下に何も御話する事無く決めてしまい誠に申し訳ありませんでした。しかしこうするしか道は残されていませんでした。これからは正しく物事を決めていく所存であります。」
片山元老院議長はそう言うと頭を下げた。
「この計画は[帝國最高機密]とし、100年間は公表しない事とする。妾は大日本帝國軍大元帥として命ずる。必ずやこの大戦を勝利し、枢軸国を殲滅せよ。」
「御意に御座います。」
東久邇宮総理以下閣僚は再び頭を下げた。そこへ秘書官が飛び込んできた。紗耶香女帝陛下が直ぐに尋ねた。
「何を慌てている、敵が新たな行動を起こしたのか?」
「だ、大英帝国海軍東洋艦隊から緊急電です!!報告致します!!『我が艦隊は貴国艦隊を奇襲した朝敵を発見。全力をあげて攻撃する所存なり。』以上です!!」
「フェリペル提督に任せる。しかし朝敵とは。」
紗耶香女帝陛下は笑みを浮かべながら言った。




