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その青い世界で第一歩  作者: nono
第二異世界―アスカラド― 白の迷宮
10/25

九話 休日の過ごし方


 オイゲン達との会話をした翌日。昨日話に出た休みの事だが、折角なので今日取る事にした。



 鍛練を終え、朝食までは本を読み時間を潰す。


 まだ文字の勉強をしてから3日だが、文字の形は覚えたし、文脈は何となく分かる。後は単語の暗記と読みを理解すれば良いだけだ。

 何10年と続けた、文字や言葉の勉強がここで活きてくる。字には必ず法則が存在するから、いかにそれを掴むかが重要になる。それが分かれば意外と習得は早い。


 そうして、今は簡単な読み物なら読めるので、書店で買った本の読破に(いそ)しむ。


 それは、朝食後も暫く続いた。




 同じ姿勢で本を読んで体がこった。

 それをほぐす為に散歩に出かける事にする。


 他にも色々な店にも寄って、道具や小物を作るのに参考になる物を探すつもりだ。



 正門のある南区画の雑貨屋で、顔料とニスに近い腐食防止剤、刷毛(はけ)などを買う。

 木の棒が幾つもあるので、木材を使った何かを作るつもりだ。小さすぎる事は無いのだが、大きくも無いので板として使う事になりそう。


 他にも何か無いか探していたら綿を見つけた。

 元の世界の綿花と同じ物のようだ。


「店主。これは?」


 綿を指差し店主に問いかける。


「あぁ、それは綿花から取れる綿ですね。

 布団の羽毛に代わり、これが使われるようになってきたんですよ。糸にも出来るので服を作る事も出来る素材ですよ。

 生産量も増えてきて、服屋では嬉しい悲鳴を上げていますよ」


 綿(めん)製の服を良く見かけるので、服屋に行っても古着じゃなくて新品が陳列されてそうだな。


「これもついでに貰おうかな。その樽分ほど頼む」


 一抱えはある樽を指す。


「ありがとうございます!

 他にもこの様な商品もありますが、いかがですか?」


 綿は買ったが他の商品も勧めてくるので、挨拶もそこそこに金を払い店主から逃げるように店を出た。



 先程、会話にも出た服屋に寄ってみる。


 店内には所狭しに畳んだ服が並べられ、ハンガーにも掛けられている。仕立ての良い新品から所々解れが見える古着まで、種類や色を問わず陳列されている。


 暫く色々手に取って見ていたら面白い物を見つけた。

 バラコウモリの皮膜を使ったマントとローブだ。皮膜を使ったマントは俺も考えていたが、皆思う事は一緒だということだな。


 皮膜はまだマントを作れるほど集まってないから、素材として売っておこう。出来たとしても店売りになっていたし、面白そうだから作ってみようと思っただけだしな。


 ここでは部屋着用の服と布を幾つか購入。

 布は少しやりたい事があるのでついでに買った。




 次に、木材や金属を使って、製品を加工したり製造したりして売買している西区画へ行く。

 ここでは職人や商人の喧騒があちこちで聞こえる。道周辺での騒々しさなら正門の所が一番だが、ここは職人の活気が凄くて、路地の奥の方からも活きの良い声が聞こえる。


 この区画にある武具店は多種に上り、武器店、防具店、装具店、魔具店、神の祝福品取り扱い店が並んでいる。鍛冶屋一体型の店もあって、そこで作った作品を並べている所もあれば、量産品を取り寄せて販売している店もある。


 それらの店に寄りはしたが、今の所欲しい物は無かったので冷やかしだけして移動する。



 その代わり、棚や道具箱を買う為に家具店を探す。

 預かり屋で預ける程では無いが、雑嚢に入れて置くのも邪魔に思える物を部屋に置く為だ。使えそうは素材を幾つか置く為にもこうした物は買っておいて損は無い。


 1軒目の店で良い物を見つけた。

 背が高くは無いが、落下防止と扉の付いた棚を1つと、重ねる事の出来る大き目の箱を2つだ。

 これを購入する。3つで2万2000ソルもしたが、中の物を長時間保存する効果を付与されていたので高くなったのだ。

 小金貨2枚と中銀貨で支払い、配達も頼んでおく。



 魔術用品取扱店では、魔術使用時に必要な触媒を探しに来た。


 触媒は扱った事のある物だったので、今までの経験が役に立つ。

 これは、以前に作った『幸運の指輪』作成時に使用した薬液や溶液の事だが、店内を見て回ると同じ物を使っていたのだ。

 これには大助かりだ。今持っている加工用溶液や材料が無くなったら、この世界用の素材を学び直さないといけなかったからだ。


 色々揃えたが、触媒は高くていけない。自分で取れる様になるまでは、失敗作を作らない様に気を付けないと。




 最後に北区画にある図書館へ向かう。


 図書館は、役場などがある北区画入り口付近に並んでいる。

 その奥は高級住宅街なので閑静(かんせい)としている。他の区画や中央区の雑多からは切り離されているよう静かだ。



 図書館に入ったが、中々壮観な光景だ。


 2階建てで入り口は吹き抜けになっている。その入り口は閲覧コーナーになっていて机と椅子が並んでいる。

 光を余り取り入れ無いようにしているのか、少々薄暗いが、閲覧コーナーと貸し出しカウンターには幾つかの明かりと、通路に明かりを一定間隔に配置している。本棚は数えるのが億劫(おっくう)になるほど整列していて、蔵書も10万冊はくだらないだろう。

 羊皮紙媒体の本や紙媒体の本、カビやホコリの臭いが混ざり渾沌となしている。


 本棚の圧迫感や薄暗さ、臭いなどで異様な威圧感を感じる。もしかしたら、この蔵書の中にまだ機能を有している魔道書が隠れているのかもしれない。


 司書に相談しながら30分程度探し、何とか俺でも読めそうで人気がある小説を1冊見つけた。

 内容は、とある敵対同士の国に住む王子様と姫様の恋物語といった、どこかで聞いた事のあるような……というか、どこでも聞くような話だ。やはり、この手の物は誰もが好む定番のシチュエーションがあるようだ。


 貸し出し登録はギルドカードで簡単に済んだが、本の取り扱いや注意事項の説明に少々時間が掛かった。


 だが、今日の外での用事はこれで済んだので、時間を気にせずゆったりと帰路につく。




 宿に配達された家具を部屋に配置し、荷物や素材をそれぞれ適当に配置していく。



 さて、最初に行うのは、木を使った物を作る事から始めようか。


 これから作る物は、いつも、そしてこれからも世話になっていくこの宿に住むローランさんやアンナさん、エレーヌちゃんにプレゼントする為の物だ。



 アンナさんには小物入れを作る予定だ。

 ゴブリン達の武器である木の棒を何本も割り、木の板を作る。板にはめ込み部分を作ったり穴を開けたりして、金属を使わない箱を作る。

 出来上がったのは、縦15センチ、横30センチ、幅20センチの長方形の小箱。その状態で上蓋にはバラの花の模様を彫り、横には蔦の模様を彫る。

 顔料で花を真紅の赤に、蔦を緑に、その他を白に塗る。後は一旦ばらしてニスを塗り、乾けば出来上がりだ。



 ローランさんには、アンナさんと一緒に使えるソロバンを作る。

 ローランさんに何を作ろうか迷っていたので、仕事に役立つ物をと思ってこれにしたのだ。これなら、使い方を憶えれば家族全員で使えるしな。


 外枠は簡単に出来たが、珠と珠をスライドさせる軸の加工に手間取った。

 珠をひし形にするのは早く出来たのだが、何分数が多いのだ。10桁まで計算出来るようにしたので、マイナス方向にも少し付け加えて70個近く作るのだ(現代で使われている物より小型にした)。しかも、珠の中心には穴を開けないといけないし、軸の方はとにかく真っ直ぐに、そして直径を均一にしないといけない。

 時間が掛かりはしたが、スムーズに動くソロバンが出来た。これも一旦ばらしてニスを塗る。



 最後にエレーヌちゃんの物だが、彼女にはぬいぐるみをあげるつもりだ。しかも、1メートルサイズの大きさだ。女の子なら喜ぶに違いない。


 布はゴブリンやコボルトから獲得した素材の物だが、現れる時に上質な布になったので十分使える。

 ぬいぐるみ作りは初めてなので、パーツごとに作って組み合わせる方式にした。耳、頭、胴体、腕、手、足といった物を作り、それぞれを縫い合わせるのだ。

 リアル熊を作って渡す訳にはいかないので、デフォルメしてモコモコ感を前面に際立てた作品になる。


 出来上がりが某クマのプ○さんに似ているのは偶然だ。著作権? そんな物この世界には在りません。(著作権らしき物は在るが、この世界に夢の国は無いから大丈夫)



 とりあえず全て出来上がったが、木の方がニスの乾き待ちなので、俺の方に移る。俺のは、鎧の下に着る服やズボンの裁縫だ。


 迷宮の事を色々聞いて、階層によって『寒波』エリアや『溶岩』エリアがある事が分かった。探索中に暑さや寒さで行動に制限が付けられるのを防ぐ為に、服やズボンに魔術処置を施して快適にする効果を付与するつもりだ。


 前に服などは何回も作っているので型紙無しでもいける。ポケットを付けるのが一番の面倒だが、それさえ抜かせば完璧なオーダーメイドの服とズボンが簡単に出来上がる。



 出来た物に今度は耐熱や耐冷の魔術処理を施す。

 やり方は前に作った魔石の粉末を魔力浸透・固定溶液に混ぜ、それに糸を浸けて糸自体を魔法使用媒体にする。服やズボンの裏地に糸で魔法陣などを縫い、指輪を作った時と同じ様な仕様で作りあげる。


 落ち着いた色合いで、デザインもシンプルに仕上げた物が出来た。普段は鎧の下に隠れるし、戦闘には派手な色は目立つので邪魔になるから、これで丁度良い。


 出来上がった代物は、熱気や冷気のある場所でもある程度快適に過ごせる物として完成した。



 ばらした小物入れとソロバンを組み直し、ぬいぐるみと一緒に3人に渡しに行く。




 もう遅い時間だったので、食堂に人はいなかった。


 エレーヌちゃんももう寝ているのかそこにはおらず、アンナさんとローランさんが食器などの片付けをしている。


 2人は俺の方を向き、目を見開いて驚いていた。そりゃ、客が大きなぬいぐるみと木の箱みたいなのを持っているのだ。しかも、相手は探索者なのだから尚更アンバランスなのだろう。


「おやまあ。どうしたんだい? そんな物持って」


 気になったアンナさんが直ぐに聞いてくる。ローランさんも声には出さないが、表情が俺に問いかけていた。


「今日、明日は、迷宮探索を休もうと思いまして、今日の所は物作りをやってみました。

 それで、出来た物をお世話になっている皆さんにプレゼントしようと思って。どうぞ、受け取って下さい」


 ぬいぐるみはイスに置いて、アンナさんとローランさんにそれぞれ渡す。


「あらあら。何か悪いわね」


「この様な事をされなくても宜しいのですが……これが私達の仕事ですので。ですが、ありがたく頂戴いたします。

 ところで、これはどの様な物で?」


 2人は顔をほころばせ受け取る。ソロバンの方はやはり知らないようで、首を傾げてはいるが。


「ローランさんの持っている物は、"ソロバン"と言って、計算を簡単に出来るようにする物です。

 例えばこうやって――」



 一旦ソロバンを受け取り、パチパチと珠を動かしながら使い方の説明をする。



「これは良い物ですね。

 今までは頭で計算をしていましたが、これなら帳簿を付ける時や会計の時でも使えますね。

 本当にこの様な物を頂いても宜しいのですか?」


「えぇ、俺の故郷では昔から使っていた物ですから。これも俺が1から作った物ですし、原価なんかはたがかしれてますしね」


 ソロバンを受け取り自分でも動作を確認しているローランさんは、思慮深い顔で何度も頷いている。



 続けてアンナさんの方へ顔を向ける。


「アンナさんの小物入れは分かりやすいですよね。

 上蓋を真上に上げれば開きます。鍵は付いていませんけど、シッカリと嵌っているので簡単には開きませんから」


 それを聞いて、ローランさんのソロバンに注目していた意識を、自分の手に持っている小物入れに向けなおす。

 そして、言われた通りに蓋を持ち上げていく。


「ほんとだ。良く出来てるよ。

 彫刻も凄く綺麗だし、これを部屋に置いておくだけで室内が冴えるよ」


「喜んで貰えて俺も嬉しいですよ。

 それと、これなんですけど――」


 そう言って、イスに座っていたぬいぐるみを二人の間に置く。


「エレーヌちゃんにもクマのぬいぐるみを作ったんです。

 どうやらもう寝ているようですから、渡しておいて下さい」


「直接渡さなくて良いのかい? きっと喜ぶよ?」


「私もそうされた方が宜しいと思いますが。折角のプレゼントですし、あの子も手渡しの方が嬉しがります」


 ふむ、確かに今直ぐに渡す必要も無いな。明日も休むしそれでも良いか。


「分かりました。それじゃ、明日にでも渡しますね」


「そうしな。

 これは大事に使わせてもらうよ。ありがとね」


「このソロバンもシッカリと使わせてもらいます。どうもありがとうございます」


 2人の満面の笑みと礼に会釈で返し、再度ぬいぐるみを持って部屋に帰る。




 さっさと部屋を出た所為で道具やゴミやらが散乱していたので、その片付けに入る。

 それでもその都度片付けながら作業をしていたので直ぐに終わったが。



 風呂に入ってから、毎夜恒例の文字の勉強を日付が変わっても続ける。


 書店で買った書籍の大半は読む事が出来た。文字の勉強になる本が多いし、文字数が少なかったり読みやすいように書かれていたりで意外にも早く終わった。


 まぁ、それを見越して図書館で本を借りたのだがな。丁度良かったよ。



 深夜1時頃に就寝に付く。


何時の間にかお気に入りの人数が140人にも上りました。

ちょっとビックリです。みなさんありがとうございます。

そして、これからもよろしくお願いします。

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