【第48話】ただいま
ぼんずの地下牢。
「何も起きねえじゃねえか馬鹿野郎。期待させやがって!」
タケル王が壁を蹴る。
「人騒がせじゃのう」
ムンが呆れたように言った。
「そ、そんな……トラヴィス様、私はどうすれば……」
怯えた声が、奥の暗がりから漏れる。
──だが。
もう、何も起きない。
トラヴィスは焦っていた。
すべてを捨てて呼び出したはずの“それ”は、どこか見覚えのある姿をしている。
「よう」
少年が言う。カイルだった。
「また会ったな」
「な、なぜお前が――」
「じゃあな」
腕輪が光る。
次の瞬間。
トラヴィスの姿は、音もなく虚無へと沈んだ。
何も残らない。
跡形もなく。
「……これでいいのか?」
カイルが呟く。
「たぶん」
ユイが短く答えた。
どこかの丘。
あの戦いのあと、レイたちは元の世界へと戻っていた。
火が、静かに揺れている。
夜風が吹くたび、炎がかすかに歪んだ。
レイは無言で、死体を焼いていた。
リズが隣に立つ。
「これがセレナの頼み?」
「ああ」
レイは火から目を離さない。
「顔は見ないようにってな。これで化けて出てくることもないだろう」
「他にもたくさんあるけど」
「アンデッドになられると厄介だな」
「全部焼いちゃう?」
「そうしよう」
火が強くなる。
その中に、見覚えのある白衣が一瞬だけ揺らめいた気がした。
──気のせいだ。
そう思うことにした。
後日。エルレン。
リズの宿屋──スターチルドレン。
久しぶりに、仲間たちが顔を揃えていた。
どこか懐かしい空気が、部屋に満ちている。
「若いな」
レイが言う。
「そうかな?」
ノーランが笑った。
「あまり言われることないけど」
「それよりお前、奥さんいたのか」
「いると思うかい?」
「そうか……」
「なんなのその目は」
軽い笑いが広がる。
「やっぱりミユキは変わらないわねー。羨ましいわ」
「? ありがとう」
ミユキが首をかしげる。
「そういえばカイルとユイちゃんは?」
ノーランが言った、その時。
扉が開く。
「ただいま」
「遅くなりました」
カイルとユイだった。
レイが振り返る。
ほんの少しだけ、口元が緩む。
「……おかえり」
迷宮の奥。
静まり返った空間に、声が響く。
「こっちは暇ですね」
カイムが退屈そうに言う。
「結局、私の全勝でしたね」
くすくすと笑う。
「神キャラ使って負けるとかありえない」
「バグを使うのはズルい? 私もあんなの知らなかったし」
誰かに話しかけている。
そこには、誰もいない。
「さて」
カイムが立ち上がる。
「誰かさんのせいで壊された人形でも、また作るとしますか」
「……あのオプション、高かったのに」
少しだけ不満げに呟く。
「リベンジ?」
くすりと笑う。
「何万年、いや何億年後になるのやら」
振り返る。
どこか遠くを見ているようだった。
「カイルは渡しませんよ」
「あなたにはレイで十分」
「同じだろうって?」
肩をすくめる。
「わかってないなあ」
楽しそうに笑う。
「また暇つぶしに付き合ってくださいね、イシュタル」
間。
「あなたは負けたんですから」
そして。
「そんな顔しないでくださいよ」
少しだけ間を置いて。
「今度、何かおごりますから」
軽い調子のまま。
その声だけが、静かに残った。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語を最後まで書き切ることができたのは、読んでくださった皆さんのおかげです。
少しでも、皆さんの暇つぶしの楽しいひとときになっていれば嬉しいです。
またどこかでお会いできたら、その時はよろしくお願いします。




