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万能勇者、敗北。そして二度目の人生は最弱から  作者: 虚無しお
第2部4章 それぞれの選択
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【第38話】すべては順調に


 ベイクの屋敷の一つ。

 そこに、セントヴェナの官僚たちが集められていた。


「急な招集とはいえ……妙ですな」


「トラヴィス様の命令だ。従うしかあるまい」


 ざわめきが広がる。


 その扉の前に、一人の男が立っていた。


 レイ。


「噂の万能勇者様まで……」


「これで安心だな」


 誰かが小さく笑う。


 もはや、イシュタリアに逆らう者はいない。

 それが、この場の空気だった。


 だが。


 次の瞬間。


 扉が、爆ぜた。


 反イシュタリアの一団が、一気になだれ込む。


「愚かな……」


 官僚の一人が吐き捨てる。


「時流の読めぬ者共が」


 レイが前に出る。


 刃が閃いた。


 一瞬で三人が崩れ落ちる。


「レイ様がいれば問題ない」


 誰もがそう思った。


 だが。


 ──おかしい。


 攻撃は当たっている。

 敵は倒れている。


 それなのに。


 じりじりと、押されている。


「何故だ……?」


 気づけば、退路は塞がれていた。


 包囲されている。


「ば、馬鹿な……!」


 その瞬間。


 視界が暗転した。


 目を覚ましたとき。


 冷たい石の床の感触が背中に伝わってきた。


 鉄格子。


 牢の中だった。


「レイ様……何故だ……」


 官僚の一人が呟く。


 その前に立つレイは、淡々と答えた。


「悪いな。トラヴィスの命令なんだ」


 感情のない声。


「しばらく、大人しくしていてくれ」


「はあ……?」


 理解が追いつかない。





 ベイクの広場。


 人々が集まっていた。


 最初はざわめきだったものが、次第に一つの熱へと変わっていく。


「聞きなさい!」


 カイムの声が響く。


 その瞳が青く光る。


「打倒イシュタルのため──私は魔王にもなります!」


 一瞬の静寂。


 そして。


 歓声が上がる。


「おお……!」


「これなら……勝てる!」


 空気が一気に変わる。


 ベイクは、反イシュタリアの拠点へと姿を変えていた。


 作戦は順調だった。


 あまりにも、順調すぎるほどに。


「何か……うまくいきすぎているような」


 ユイがぽつりと呟く。


 その横を、レイが通り過ぎる。


「とにかく、行けるところまで行くしかないさ」


 振り返らずに言った。





 牢の前に、足音が響く。


 現れたのは、赤い服の男。


 トラヴィス。


「トラヴィス様!」


 官僚たちが一斉に声を上げる。


「これは一体……!」


「すまない」


 トラヴィスは穏やかに言った。


「敵を油断させるための策なんだ」


 にこやかな笑み。


「後で埋め合わせはする。しばらく我慢してくれ」


 安堵が広がる。


 縋るような目が、トラヴィスへ向けられる。


「イシュタル様にも、よく伝えておくよ」


「ありがたき幸せ……!」


 誰も疑わなかった。


 扉が閉まる。


 静寂。


 トラヴィスは、ふっと笑った。


「──まあ」


 軽く肩をすくめる。


「イシュタルは、君らには興味がないだろうがな」

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