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万能勇者、敗北。そして二度目の人生は最弱から  作者: 虚無しお
第2部3章 魔王教、ふたたび
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【第29話】魔王様、万歳!


「俺を敵に回したらどうなるか、見せてやる」


 トラヴィスが低く笑った。


「悪い顔してるわね」


「相手は女神ですよ」


「知るか」


「こうなったらパパは止まらないわ」


 ケイトが期待を込めた目でつぶやいた。


「でしょうね」




 ニュクス山のふもと。


 巨大な白い柱が、滑車付きの台車に載せられてゆっくりと運ばれていた。

 太いロープを何人もの兵士が引き、土煙を上げながら進んでくる。

 重い。遅い。だが確実に、前へ進んでいた。


「なんで僕まで手伝わされるかなあ」


 ロープを握ったまま、ノーランがぼやいた。


「お前の住んでる町、近いだろ? イシュタリアが狙うとすればまずあそこだぜ」


「まあそうなんだけどさ。なんかていよく手伝わされてる気がするんだよね」


「まあまあ、俺は久しぶりに会えてうれしいよノーラン」


 カイルが笑いながら言った。


「誰だっけ?」


 柱がようやく所定の位置に据え付けられた。


「設置完了!」




 山の麓から、一団が姿を現した。


 整然と並ぶ白い鎧。イシュタリアの旗が風に揺れる。


「おいでなすったな」


「頼んだぞ」


「よし来た」


 白い柱が光を放った。

 次の瞬間、一団の動きが鈍くなる。

 狼狽える者。逃げ出す者。それでもこちらへ向かってくる者。


 そして――


 巨大なロボット兵の姿。


「あのでけえのには効かないわな」


「とにかく倒すのみ」


 ミユキが薙刀を構え、真っ直ぐ突っ込んでいく。

 エミルが巨体に斬りかかる。

 リリィの魔法が横合いから援護し、巨神兵の体勢が崩れた。


 そこへカイルが腕を掲げた。

 虚無神の腕輪が光る。

 巨体の半分が、まるで最初から存在しなかったかのように消え去った。


「……もうその腕輪だけでいいんじゃないの?」


「結構疲れるんだよな、これ」


 周囲では、人々がうろたえていた。正気を取り戻した者たちだ。


「ここは……?」


「俺たち、何を……」


 混乱する群衆の前へ、二人の人影が進み出た。


 トラヴィスと、カイムだった。


「ひざまずけ人間ども!」


 トラヴィスが、カイムの頭をはたいた。


「台本通りにやれ」


「……」


 カイムは咳払いをひとつ。

 それから、ゆっくりと口を開いた。


「……皆さんに、謝らなければなりません」


 群衆がざわめく。


「イシュタルを作ったのは――」


 カイムは、涙ぐんだ目で言った。


「実は、私なのです」


 騒然とする人々。


「嘘だろ……」


「どういうことだ」


 もちろん嘘である。


 カイムは続ける。


「彼女は私の分身でした。しかし、彼女は私を裏切り……自分の理想郷を作るために、皆さんを利用しているのです」


 人々の表情が、困惑から怒りへと変わっていく。


「そんな……」


「俺たちは騙されてたのか」


 カイムは拳を握りしめた。


「今まで見過ごしてきました。ですが……もう我慢できません!」


 声を張り上げる。


「イシュタリアの皆さんを助けるために! 私は――魔王になります!」


 トラヴィスが黒い旗を高々と掲げた。


「打倒イシュタル! 我らの名は――魔王教!」


「ここにおわす魔王カイム様を元首とする!イシュタルへの反逆の証だ!」


「魔王教万歳!」


「万歳!」


「打倒イシュタル!」


 熱狂が波のように広がっていく。

 さっきまで呆然としていた人々が、今は拳を突き上げている。

 人間というのは、旗さえ与えれば動くものらしかった。


 カイルがぼそりと言った。


「これ、やってること向こうと変わらなくないか」


「さあ? まあ、目には目をといいますし」


 ユイが肩をすくめる。


「エミル様……」


 リリィが不安そうに袖を引いた。


「私たち、とんでもないことに加担してるんじゃ」


「毒を喰らわば皿まで、というしなあ」


「大丈夫よ」


 ケイトが胸を張った。迷いのない顔だった。


「パパが本気で考えたことだもん」


「大丈夫かなあ……」


 カイルが呟いた。


 その中心で。


 カイムは、まんざらでもない顔をしていた。

 群衆の熱狂を見渡し、黒い旗の下に立ち、その瞳が青く輝いている。


 悪くない、と思っていた。たぶん。

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