【第23話】迫る戦争、二つの道
ロマーレの市街にあるトラヴィスの屋敷。
広間の長机を囲み、全員が顔をそろえていた。
地下室には、気絶した白翼の青年が拘束されている。
目はまだ覚めていない。
タケル王が椅子にどっかり腰を下ろす。背もたれが軋んだ。
「宣戦布告だあ?」
トラヴィスは重い顔でうなずいた。
「イシュタリアから突き付けられたんだ」
机の上に広げた地図を指で叩く。
「すぐにでもニュクス山から軍勢がおりてくるだろう」
タケル王は鼻で笑った。
「どーせ漁夫の利狙って失敗したんだろ」
「私もはめられたんだ」
トラヴィスはため息をつく。言い訳がましくなく、ただ事実として言った。
そこでエミルが口を開いた。
「セントヴェナからは?」
「だんまりだ」
トラヴィスは肩をすくめる。
「イシュタリアに洗脳されているという噂もある」
重たい沈黙が広間に落ちた。地図の上の国境線が、妙に生々しく見えた。
そしてトラヴィスは言った。
「というわけで、力を貸してもらいたい」
タケル王が即座に突っ込む。
「何がというわけでだ」
「エミル君をセントヴェナの代理として、連合軍を組もう」
その言葉が終わる前に、リリィが机を叩いた。
「何言ってるんですか! エミル様はまだ幼いんですよ!」
トラヴィスは眉ひとつ動かさない。
「こんな有事に洗脳されて寝ぼけているような王どもなんぞいらん」
そしてエミルを見た。
「君は才能もありそうだしな」
エミルは苦笑した。
「いきなり言われてもな……」
そこにレンが口を挟む。
「俺たちはレイを助けに行きたいんだが」
「レイ?」
トラヴィスが首をかしげる。
「美人か?」
「男だ」
レンは淡々と言った。
「俺と似てる」
タケル王がすっと立ち上がった。
「もういいよ、帰ろうミユキ」
「どこにですか?」
ミユキが返す。行く場所はないだろうという顔だった。
「だが俺と同じくらい強いぞ」
レンが続けた。一拍置いて、付け加える。
「それ以上に強い女の子が釣れるかもしれないし」
タケル王の目が光った。
「ほう」
にやりと笑う。
「乗った」
ユイが眉をひそめた。
「なんで協力することになってるんです?」
リズが肩をすくめる。
「さあ?」
いつの間にか話が進んでいた。トラヴィスが手を叩く。
「部隊を二つに分けよう」
その時、カイルが口を開いた。
「防衛線は俺がやろうかな」
全員の視線が向く。カイルは机の上に置かれた薬草を指した。
「ぼんず王があの天使野郎に投げたの、キケツバナだった」
トラヴィスが目を細める。
「……あの黄色い花のことか」
「イシュタリアの連中がもし洗脳されているとしたら」
カイルは言う。
「使えるぞ、これは」
クレインの目が光った。
「面白い。洗脳を逆に利用できる可能性がある」
あっという間だった。
誰が仕切っているのかよく分からないまま、作戦が形になっていく。
レン、イユ、タケル王、リズ、ミユキはイシュタリアへ。
カイル、エミル、ユイ、リリィ、セレナ、クレインはロマール防衛へ。
大筋が決まり、広間に少しだけ息が戻った。
扇で口元を隠した女性が、セレナをしげしげと見つめている。
「それにしてもママの若いころにそっくりね」
「ママは今も若いわよ、ケイト」
女性が苦笑する。隣でケイトと呼ばれた少女が笑った。
「アハハ……」
セレナは曖昧に笑い返した。
「今まで苦労したのよね。もう大丈夫よ」
女性が言う。優しい声だった。
善意から出た言葉だと分かる。分かるのだけれど。
「善意からだと分かっているんですが」
セレナは目をそらした。
「自分に同情されるのはちょっと……」
ケイトが急に言った。
「それにしてもあのエミルって子、結構かっこいいわね」
「いつもあなたは唐突ね」
女性が扇を閉じる。
そこにトラヴィスが顔を出した。
「ちょうどいい。ケイトを嫁にやろう。いろいろとやりやすくなる」
セレナが目を丸くする。
「やったー! 約束よ!」
ケイトが笑った。本気の顔だった。
「何を勝手に決めてるんですか! 許しませんよ私は!」
リリィだった。顔が真っ赤だ。
広間が一気ににぎやかになる。その空気を切るように。
「あの……」
部屋の隅で、小さく手が上がった。
カイムだった。全員の視線が集まる中、おずおずと口を開く。
「レイの反応が……」
静かになった。
カイムはゆっくりと、確かめるように言った。
「イシュタリアにあります」
レンの目が細くなった。
※やっぱりタイトル元に戻しました。ややこしいことしてすいません。




