【第04話】こんにちは、勇者様
「勇者? 俺が……?」
少年はぽかんとした顔で、白銀の髪の少女を見た。
「はい、勇者様です」
少女はにこやかに頷く。
「……まだそう呼ばれるのは早いな」
レイが静かに言った。すかさず、リズが語気を強める。
「何言ってるのよ! “勇者”ってのは人から呼ばれるもので、自称するもんじゃないわ!」
「自称はしてねえよ。このお嬢さんが言ってるんだよ」
レイが肩をすくめると、少年は小さくため息をついた。
「はぁ……」
その様子を見た少女が、心配そうに顔を覗き込む。
「どうかしましたか、勇者様?」
「え、俺?」
「はい。あなたもですよ」
「俺じゃなくて……こっちのことじゃないの?」
レイが眉をひそめて問い返す。
「俺が勇者だってのは、もう確定してるはずだろ?」
「あなたも、です。勇者様は二人います」
「はぁ!?」
リズが盛大に声を上げる。
「んなテキトーな……」
レイが呆れたように頭をかいた。
「占いで出ました。今日、運命の勇者様に出会うって!」
「占い師か……俺、ああいうの苦手なんだよな」
レイがぼそっとつぶやく。少女は構わず続けた。
「ここにいる四人が、勇者様ご一行の最初の仲間です」
「冗談じゃない。俺は失礼させてもらうぜ」
レイが踵を返し、足早にその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「どこでもいいだろ!」
リズの呼びかけを無視して、レイは外へ出ていった。
「……まったくもう」
リズが頭を抱える横で、ユイは軽く手を挙げて笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。行き先は占いで既に分かっています」
「随分と自信があるのね。……で、レイはこれからどこへ行くのかしら?」
「隣町に向かうと見せかけて、森を抜けてハイランド高原に向かいます。その後、別の大陸へ渡るつもりです」
「なるほどねぇ。名前も知らないお嬢ちゃんの占いを信じるほど、私はお人好しじゃないのよ?」
「ご挨拶が遅れました。私の名前はユイです。これからよろしくお願いします」
ユイはリズに向かって、深くお辞儀をした。
「……本気でレイについてくる気?」
「本気です。リズさんとレイさんの仲を邪魔するつもりはありません。むしろ、応援します!」
「は? 何か勘違いしてない?」
「この町で振られたら、諦めるつもりだったんですよね? 私に任せていただければ、諦める必要はありませんよ?」
「へぇ、生意気なこと言ってくれるじゃない。……もしレイがダメだったらどうするつもり?」
「煮るなり焼くなり、奴隷として売るなり、好きにしてください」
「いやそれはダメだよ!」
少年が焦って止めに入る。
「そこまではしないけど……あなた、結構かわいいし。実家の宿でも手伝ってもらおうかしら? 無給で十年」
「いいでしょう! 実家に戻る必要はないと思いますけどね。行きますよ、勇者様!」
そう言って、ユイは少年の手を引いて歩き出す。
「え、ちょっと……!」
「その子も連れてくの?」
「もちろんです!」
「そういえば、その子の名前も知らないわね」
「だからレイだって……」
「まだ言ってるし」
リズが呆れたようにため息をつく。
「勇者様の名前は……えっと、カイ……ルです!」
「えっと? 今、詰まったよね?」
「今、名前が降りてきました!」
「へぇ……」
納得したようで、見下したような顔でリズが見返す。
そのやり取りを背に、三人は町外れの小道へと歩き出した。
草原の風が頬を撫でる。
その先には、レイの背中が、遠く小さく見えている気がした──
カイルたちは、思わず足を速めた。