【第38話】興醒めです
焦げ付いた匂いが立ち込める中、倒れている影がもうひとつ。
黒く焼け焦げ、誰のものか判別できない──が、
それがユウトであることを、セレーナだけは知っていた。
(……どうして、こうなるのよ……)
彼女は心の中でつぶやく。
魔術の代償として完全に焼き尽くされたその身体に、
もう命の灯火は、残っていなかった。
「ちょっと……なんで、そっちに行くのよ……ふざけんな……!」
セレーナは肩を震わせ、唇を噛みしめながら後ずさる。
その目に涙はなかった。ただ、怒りとも戸惑いともつかない感情を吐き捨てるように、背を向けて走り去った。
誰も追わなかった。
「興ざめです……」
ユイは静かに、カイムの胸へ手を添える。
次の瞬間、彼女の身体は、光の粒となって霧散した。
「ちょっと……何がどうなってんのよ……」
リズの声が震える。
「私は、この迷宮の管理者──カイム」
黒髪の少女が一歩前へ出る。
「何はともあれ、魔王を倒した者には、願いをひとつだけ叶える権利があります」
「ユイとカイルを──生き返らせてくれ」
レイが即答する。
「……それは不可能です」
「なぜだ!?」
「この者は“この世界の者”ではなく、特殊な呪いにより完全に消滅しました」
「魂だけなら……ぼんずの“口寄せ”で呼び戻せるのではないかの?」ムン老師が口を開く。
「仮に呼べたとしても──戻す“体”が存在しません」
「魂を呼んでも、戻る“器”がない……か」
ノーランが、静かに呟いた。
「ユイちゃんの方は?」
「もとは私の一部。しかし自我も記憶も深く溶け、回収はほぼ不可能です」
「……それでも、なんとか──」ミユキが食い下がる。
「仮に試すとしても、こちらの時間で五億年ほどかかりますが?」
「時、か……そうだ!」
レイが、不敵に笑う。
「願いは決まったようですね」
カイムが目を細める。
「──俺たちの精神を、“魔王を倒す前”に戻せ」
夜20時ごろにももう一話投稿予定です。
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