【第39話】それでも、ありがとう
魔王の間に戻ったレイたちを、ユイとカイムが迎えた。
「あらあら」
「まあまあ」
「……なんだよ、どうしたんだ?」
二人は揃って微笑んでいた。
まるで、最初からすべて知っていたかのように。
穏やかに。
涼しげに。
「……理解が早いな」
レイがぼやく。
すると、カイムが静かに頷いた。
「いやー、見応えありましたねえ」
その目が細まる。
隣で、ユイの瞳がほのかに紅く光った。
ぞくりと、カイルの背に薄い寒気が走る。
「……もしかして、俺だけついていけてない?」
セレナにとって、すべては完璧なはずだった。
魔王に倒されれば、それでいい。
もし倒されなければ、絶頂の瞬間に自分の手で息の根を止める。
そう決めていた。
そうなるはずだった。
だが――予想外が起きた。
レイたちの足が、まっすぐ自分へ向かってくる。
反射的に身構える。
その瞬間。
乾いた音が響いた。
「お前は、殺す価値もない。……気が変わらないうちに、とっとと消えろ」
レイの拳が、セレナの頬を打ち抜いていた。
顔が跳ねる。
だが、セレナは何も言わない。
誰にも顔を見られないように背け、そのまま踵を返す。
無言のまま、走り去った。
誰も追わなかった。
その場に残されたのは、静寂だけだった。
そして、その静寂の中で。
かすかに目を開けたユウトの姿があった。
「あれ、リズ? また会ったね。……どうしたんだい、そんな泣きそうな顔して」
軽く笑う、その声。
リズは言葉にならなかった。
ただ、ユウトの胸へ飛び込む。
もう戻れない場所へ行ったはずの人が、目の前にいる。
奇跡なんかじゃない。選んだ結果として、ここにいる。
それだけでよかった。
それだけで、十分だった。
その頃。
魔王の玉座の間で、ユイとカイルは並んで腰を下ろしていた。
がらんとした広い部屋には、二人分の気配だけが残っている。
「俺さ、弱くなって、正直悔しいことも多かったけどさ」
カイルがぽつりと呟く。
「ごめんなさい……」
ユイはうつむいた。
その声は、いつもより少しだけ小さい。
「でもさ、よかったこともあるんだよ」
カイルは前を向いたまま言う。
「人の気持ちが、少しわかるようになって。仲間もできて。前の俺なら理解できなかったことも、今は少しわかる気がする」
静かな声だった。
強がりではない。言い聞かせでもない。
ちゃんと、自分の中で受け止めた声だった。
そして、カイルは笑う。
穏やかで、迷いのない顔で。
「だから、そのことについては――感謝してるよ」
失った強さは大きい。
悔しさが消えたわけでもない。
それでも今は、得たものの方が重かった。
ユイは目を見開く。
心の奥を、不意に揺らされたように。
やがて、ふっと力の抜けた笑みを浮かべた。
「それは……すごく、嬉しいです」
その笑顔はやわらかかった。




