【第31話】勇者、共闘
「私はこの男に脅され、皆さんを洗脳する薬を作っていたのです!」
声が響いた瞬間、空気が震えた。場にいた者たちが一斉にクレインを見る。
「クレイン、貴様……!」
トラヴィスが怒鳴ると、ざわざわとした騒めきがその場を包む。
「よく言うよ、ホントにさ……」
ノーランが呆れたように呟くが、それ以上言葉にはしない。
「しかし、ご安心ください」
クレインは堂々と声を張る。
「私はこの《キケツバナ》が薬の効果を打ち消すことを発見しました。あそこの塔から発射される薬剤を、すべてこれにすり替えたのです。ですから皆さんは、もう操られることは――」
「それはどうかな?」
声の主はトラヴィスだった。
「……なに?」
「予備くらい、持っているさ」
トラヴィスが小さな瓶を空中に放り投げた。その中には、洗脳薬の濃縮液が入っている。
「さあ、俺の言うことを聞いてもらおうか……」
彼が言い放った瞬間、ユイの目が紅く光った。見えない魔力の波が空間に走る。
「……な、なぜだ!効かないだと!?」
「どうやら、年貢の納め時のようだな」
レイが肩をすくめ、薄く笑う。
「ちっ、出てこい!」
トラヴィスが手を叩くと、塔の扉が重々しく開いた。中から現れたのは、まるで巨岩のような大男だった。
「35号、殺して構わん!俺が逃げる時間を稼げ!」
民衆が悲鳴を上げ、逃げ惑いはじめる。
「こっちに来て!落ち着いて!」
カイルが率先して人々を誘導する。だが、大男はまるで壁のように立ちはだかっていた。
「足止めになるかどうか……」
ノーランがすかさずナイフを構える。振り抜かれた刃は、大男の足に突き刺さった。
「リズ、ユイ!防御結界を!俺が仕留める!」
レイが指示を飛ばすと、ユイとリズがそれぞれ杖を構え、空間に魔法陣を展開する。
「わしもおるぞい!」
ムン老師が飛び出す。
「忘れないでください」
ミユキが静かに言い、前へと踏み出す。
「よし――行くぞ!」
ミユキが鋭い蹴りを繰り出し、大男の動きを止める。
そのすぐ横から、ムン老師が静かに気を整えると、一瞬の隙を突いて掌底を――
大男の膝へ、正確に叩き込んだ。
「ぬうっ……!」
重い呻き声を上げ、大男の動きが鈍る。
その隙を逃さず、レイが跳び上がり、風の力をまとわせた拳を大男の腹に叩き込む。
鈍い音とともに、大男は地面に崩れ落ちた。
「……終わったか」
立ち尽くす仲間たちの間に、静寂が戻る。
「トラヴィスは逃げたか?」
「どうかのう。あやつも、もう動いとるかもしれん」
ムン老師が空を見上げ、ぽつりと呟いた。
今日の夜20時ごろに次話投稿予定です。よかったらぜひ!




