【第02話】最初の敗北
テトの村。
冒険を始めた頃に一度立ち寄った、穏やかな農村だ。懐かしいはずの景色なのに、今のレイには違和感の方が先に来る。空気の重ささえ、どこか自分を拒んでいるように感じた。
村の武器屋に入り、鉄剣を手に取った瞬間、顔が引きつった。
片手で軽く振り回せたはずの剣が、持ち上げるのもやっとだ。腕が震えている。体が、記憶を裏切っている。
「……なんだ、これ」
「買わねぇなら出てってくれ」
店主の不機嫌な声に、レイはそっと剣を棚へ戻した。
武器も持たず、村外れの草原へ向かう。鉄剣が持てなくても、素手なら動ける。近くの魔物くらいなら何とかなるはず。そう自分に言い聞かせながら、草を踏んだ。
足を踏み入れた瞬間、鋭い鳴き声が上がった。
子猪ほどの魔物が、牙を剥いて一直線に突進してくる。
「猪一匹……余裕だろ」
拳を繰り出した。
手応えがなかった。
次の瞬間、強烈な衝撃が胸を打ち抜き、視界が反転する。
「ぐっ……はぁ……!」
地面に叩きつけられ、息が詰まった。骨が軋み、全身が悲鳴を上げる。起き上がろうとしたその瞬間、草陰から二匹、三匹と魔物が現れ、牙を向けてくる。
こんなはずじゃなかった。
勇者だったはずの自分が、ただの少年に成り下がっている。足が動かない。体が言うことを聞かない。迫る影に、思わず目を閉じかけたその瞬間──
風を裂く音と共に、猪たちが一瞬で吹き飛んだ。
「……弱いくせに、武器も持たず魔物に挑むとは。自殺行為だな」
低く、芯の通った声だった。
顔を上げたレイは、息を呑む。黒髪を無造作に束ね、鋭い目をした青年が立っていた。その立ち姿に、どこか既視感があった。かつての自分を、遠くから眺めているような感覚。
だが違う。その目の奥には、今のレイには到底持てない"自信"があった。根拠じゃなく、実績から滲み出る種類の。
「は……?」
混乱するレイをよそに、青年は淡々と剣を納めた。それから一歩近づいて、手を差し伸べる。
「……立てるか?」
その手を、レイはただ見つめるしかなかった。




