【第18話】穴蔵へ
「いやー見苦しいところを見せたな、すまねえすまねえ。で、何の用だったかな?」
王の間に通されたカイルたちを前に、タケル王は頭をかきながら笑っていた。
「殿が呼んだのでは……」
「……あ、そうだっけ? そうそう、ライゾウのことだったな!」
「あいつには襲われたな。トトラド草と魔王教にも関係してたと聞いている」
レンが真顔で切り出す。
「いきなり過ぎよ……」
リズが小声で呟いた。
「魔王教ってのは知らねぇが、草な……ああ、ヒイラギのやつが変な薬草を持ってきて育ててたっけな」
「それは確かに薬草の一種です。しかし、殿……こたびのライゾウ様の死に、この者たちが関与しているのでは?」
町奉行が横から口を挟んできた。
「襲いかかったのはライゾウの方だって聞いてるぞ。近くの村でも不穏な動きがあったらしいしな。だいたい武だ覇だってやるのはぼんずの中だけ。よそで暴れるのはルール違反だ」
「ですが……」
「まあまあ、もういいだろ。話は終わりだ。今日も相手頼むわ!」
タケル王はそう言って、セレーナと共に部屋を出ていった。
「……嵐のような人でしたね」
ユイがぽつりと漏らす。
「ほんとよ。結局、なんで呼ばれたのかしら」
リズが肩をすくめる。
「そういや――忘れてた」
バン、と扉が開く音とともに、タケル王が戻ってきた。
あまりにも自然な登場に、一同は思わず目を見開く。
「えっ……?」
リズが戸惑い気味に声を上げた。
「お前たちに頼みたいことがあったんだった。穴蔵の様子を見てきてくれねえか」
タケル王はいつもの調子で言い放つ。
「なっ、殿!? そこは客人を連れて行くような場所では……」
ミユキが焦りながら口を挟む。
「いやならお前も俺の相手するか? それでもいいぞ? ん?」
タケル王がにやりと笑って手招きする。
「……ご案内いたします!」
ミユキはぴしっと背筋を伸ばし、即座に頭を下げた。
* * *
ぼんずの町から南の山際にある洞窟へと、一行は案内されていた。
「穴蔵ってなんだ?」
カイルが問いかける。
「戦えない者たちを保護している場所です。年老いた者や、目や足が悪い者などが住んでいます。保護とは名ばかりで、実際は隔離に近い扱いですが……」
「保護してるだけマシさ。どこの街にもそういう人はいるけど、大体見て見ぬふりだからね」
ノーランが口を挟む。
「しかし、なぜ殿はあえて彼らに関心を……」
ミユキがわずかに首をかしげながらも、先導する。
やがて一行は、洞窟の前にたどり着く。
入り口は小さく、蔦と岩で覆われており、一見するとただの物置のようだった。
中に入ると、そこには広がる空間があった。岩壁には小さな灯火が灯され、奥には手作りの寝床と食事場、そして簡素な医療用の棚などが見える。
「やあやあ、よくお越しくださいました」
柔和な笑顔をたたえた老人が、杖をついてゆっくりと現れた。
「殿から話は伺っています。どうぞ、お入りください」
「師匠……!」
ミユキが驚きの声を漏らす。その目には、ほんの少しだけ懐かしさと敬意が宿っていた。