【第14話】ぼんずのバカ殿
ぼんず──それは、この大陸でも珍しい、王政を敷く国家である。
すべては武の力によって決まり、強いか否かだけが価値の基準。
その頂点に立つのが、タケル王である。
王の武力は圧倒的であり、老いた今もその力は衰えを見せない。
だが、王の座は常に羨望の的であった。
ヒイラギやライゾウらの一派も、王の座を虎視眈々と狙っていた。
トトラド草を使った一連の動きは、ヒイラギの独断によるもの。
その存在がタケル王の耳に入らぬよう、細心の注意を払っていたはずだった。
だが──。
「首だな、打首!」
ライゾウは王城に呼び出され、報告を受けたタケル王から、思いがけない言葉を浴びせられる。
「殿、しかし……!」
「わざわざキーリカくんだりまで行って、大勢で囲んでやられただあ? しかも二人に? 武士の風上にも置けねえなあ……。介錯してやっから潔く腹を切れ。ほれ」
小刀が、ライゾウの足元へと投げられた。
その場にいたヒイラギは、トトラド村の件には言及がなかったことに、ほっと胸をなで下ろす。
だが、一方でライゾウの表情は、どこか常軌を逸していた。
「仕方アルマイ……ココデヒイテハ武士ノ恥――」
片膝をつき、ライゾウは腰の刀に手をかけた。
自ら腹を斬ろうとするその姿に、周囲の空気が凍りつく。
「待て、ライゾウ!」
ヒイラギが叫ぶ。
「殿! ライゾウはぼんずのために尽くしてきた男です。どうかご再考を……!」
「うるせえなあ! 命令したのはてめえだろ? いっそてめえも腹切るか? おん?」
「お待ちください、タケル王。ライゾウ様も、ヒイラギ様も、この国にはなくてはならないお方です。どうか、お考えを改められては……」
場にそぐわぬ、気品ある洋装の少女が口を挟んだ。
「いくらセレーナちゃんの頼みでも、それは聞けねえなあ! もう決めちったもんね。
あ〜、顔見てるとムラムラしてきたなあ……。しずくちゃんかカエデちゃんにでも相手してもらうか……。
じゃ、そゆことで。あとは任せた、よきにはからえ〜」
そう言い放ち、ひらひらと手を振って、タケル王は退出していく。
残されたヒイラギが、セレーナを鋭く睨みつける。
「あの馬鹿殿が……。始末はいつできるのだ、セレーナ!」
「何度も試しているのですが……痺れ薬も毒薬もほとんど効かず。
殺そうとしても、手玉に取られるばかりでして……」
「馬鹿者! いくら払ったと思っておる!」
「面目ありません……。次こそは」
「……ヒイラギ様、私は──」
「馬鹿殿の言うことなど気にせんでいい! あんな輩、どうせ長くはないのじゃ……!」
──そしてその夜。
なぜ自分が、あの場で腹を斬ろうとしたのか。
ライゾウには、最後までわからなかった。