【第13話】誘いの刃
「タダシが失敗した」
その報せを受けたとき、ライゾウの口元には自然と笑みが浮かんでいた。
怒りはない。むしろ──好機だ。
ここで結果を出せばいい。自分の力を示し、あの男を引きずり下ろす。
そのための舞台は、すでに整っている。
ターゲットは二人。
トトラド草の操作実験と実戦投入を兼ねる。
殺せればなお良し。死体は記録になる。
殺さずとも、ぼんずへ誘導できればそれでいい。
ヒイラギ・シュゼンの命は、そういう内容だった。
「簡単な仕事だ……」
ライゾウは、トトラド草で操った村民と数名の部下を従え、裏道を進む。
視線の先。
まるで誘っているかのように、レイとノーランが歩いていた。
「さっきからつけてきているのは、貴様の知り合いか?」
レイが問う。
「知らないねえ……」
ノーランは肩をすくめる。
「ねえ君たち、僕、司祭なんだけど?」
「問答無用!」
襲撃。
「多少は目くらましになるんじゃなかったのか」
「おっかしいなあ」
ノーランは軽くぼやくが、その目は冷えている。
レイはすでに剣を抜いていた。
踏み込み。
一閃。
迷いも感情もない。
ただ“処理する”ように、敵を斬り伏せていく。
刃が空気を裂く音だけが、乾いた裏路地に響いた。
「こいつら……妙な服だが、中身は村人か」
「なら──」
ノーランの鞭が走る。
鋭い音とともに、武器だけを正確にはたき落とす。
膝をついた村人が、喉を鳴らした。
「グ……ギ……ッ」
口元から黒い液体が泡立つ。
そのまま、崩れ落ちた。
「……毒か」
ノーランが眉をひそめる。
「無力化されたら始末。随分と徹底してるじゃないか……」
その声は低く、珍しく感情がにじんでいた。
その瞬間。
横から苦無が走る。
ノーランはわずかに体をずらし、懐から投げナイフを抜いた。
「僕も似たようなの、使えるよ」
軽く投げる。
刃が手首をかすめ、武器が落ちる。
「……何故今まで使わなかった?」
「使い捨てでね。お金の問題がちょっと」
変わらぬ軽口。
だが、隙はない。
「貴様、この前のやつとは別か?」
レイの問いを無視し、ライゾウが突進する。
速い。
だが──単調だ。
レイが迎え撃つ。
斬る。
止まらない。
「……こいつ、おかしいな」
力任せの連撃。
理性の気配がない。
焦点の合わない瞳。
何も見ていない。
「トトラド草を何とかしたければ、我が国へ来るがいい!」
叫ぶ。
「魔王教は、貴様らを狙い続ける!」
どこか誇らしげですらあった。
そのまま、煙のように姿を消す。
静寂が戻る。
「国……か」
「この大陸なら、“ぼんず”だろうね」
ノーランが言う。
「あの格好、見覚えがある」
「罠だな」
レイは即断する。
「だが、逃げ場もない」
「……分かっていても、行くしかないかもね」
沈黙。
夕暮れの冷たい風が、二人の間をすり抜けた。
誘われている。
それでも──行くしかない。




