【第11話】出会いと占いと、もののふと
「明日が……意中の方の誕生日。明日その方に会った際、ガーベラをプレゼントすると、とても喜ばれますよ」
相談者に語りかけるユイ。
「ほんとかねえ……」
カイルが疑いの目を向けながら振り返る。
「しかし、たいしたもんだね。行列ができてるよ。この分だと、しばらくは心配ないんじゃないかな」
「よーし、稼げるうちに稼いどこう!」
カイルは周囲の通行人に声を張った。
「お兄さん、よく当たると評判の占い、どうですか? かわいい子いますよ? まけときますから!」
「……別の店の呼び込みみたいになってないかい?」
ノーランがぼそっと突っ込む。
◇ ◇ ◇
──話は朝にさかのぼる。
「とりあえず一泊する分はあったけど、今日から一文無しよ。お金持ってんの、あんたたち」
「持ってない。前は結構あったんだけどな」
「持ってませんねえ……」
「君らの宿代を出せるほどはないな。何かで稼ぐしかないよ」
「確かこの時期のキーリカは、武道大会があったはずだ。それに応募してみよう」
「私も行くわ」
「私は占いをします。自信ありますから」
「じゃあ俺は付き添いで呼び込みでもするか」
「ノーラン、あんたは?」
「労働は嫌いでね……」
「いいけど、もしお金が無くなっても宿代は出さないからね。外で寝なさい」
「さてと、待ってくれカイル。僕も手伝うよ。君らだけじゃ心配だ、護衛が必要だろう? 一応」
◇ ◇ ◇
──ギルドの総合受付にて。
「申し訳ありません。一昨日で申し込みは締め切らせていただきました」
受付が、深々と頭を下げる。
「何か臨時の依頼はないか?」
「はい、討伐依頼があります。オオカミとアンデッドが大量発生しておりまして……」
「受けさせてもらおう」
「私も行くわ」
「いや、カイルやリズの様子を見ておいてくれ。何か動きがあるかもしれん」
「逃げる気でしょ?」
「そこまで屑じゃない。怪我をしたり服を汚すのは嫌だろう? すぐに終わらせて、広場か宿に向かうよ」
◇ ◇ ◇
──町外れの森、討伐現場。
「この時期オオカミはよく出るんだが、アンデッドまで出やがるとは妙だな……」
顔に傷を持つ熟練の冒険者がぼやく。
その時、黒い影が木々の間から現れた。
薙刀を軽やかに構えた少女が、敵の群れの中へ踏み込む。瞬間、地面を滑るような軌道で、三匹のオオカミが吹き飛んだ。
「…………」
少女は声を上げることなく、静かに薙刀を振り回す。動きに無駄はなく、だがその力は明確だった。
一方、レイは無言のまま剣を抜き、手早く敵を斬り、火を纏わせてアンデッドを焼いていく。
たった数分で、森にいた敵の大半が片付いた。
「私は、サクラ・ミユキと申す」
黒髪の少女が静かに名乗る。
「レイだ」
「とてもお強いのだな。武芸が盛んな国から来たのだが、そなたほどの者はなかなか……」
「要件はなんだ?」
「武道大会にて試合するのを楽しみにしている」
「武道大会には出ない」
「なぜ? そなたほどのつわものが」
「手続きに間に合わなかった。それに、そんなに興味もないしな」
◇ ◇ ◇
──一方その頃、広場では。
「ほう、レイズ様と付き合えるか知りたい……? 問題ありません。その方はあなたに好意を持っています。えっ、マミ様? その方もあなたに好意を……どちらとも付き合いたいが問題ないか? ええと、それはやめた方が……いえ、占いとか関係なくて……!」
「……大盛況ね」
リズが呆れたように言う。
「やりすぎたかな」
ユイは少し気まずそうに笑う。
「今日中に終わるといいが……」
ノーランが腕を組んでため息をついた。
その時、レイとミユキが広場へ歩いてくる。
「いつまでついてくるつもりだ」
「そなたが手合わせしてくれるまで」
「しつこい」
「それは、もののふにとっては褒め言葉だ」
「やあ色男。モテる男はつらいねえ」
茶化すノーラン。
「うるさい。なら武道大会で優勝できれば、戦ってやろう」
「二言はないな?」
「ない」
「いいなー清楚系の黒髪の美人……」
「勇者様?」
「ちょ、ちょっとカイル?」
「ん? ユイ、占いはどうし――」
真顔のユイがぴたりと寄ってくる。
「そんなに“黒”がいいなら、黒髪にもできますよ?」
「ユ、ユイさんはそのままで、十分美しいです……!」