【第01話】万能勇者、散る
──勇者レイは限界だった。
剣が弾かれた衝撃で腕が痺れる。
放った魔法は、漆黒の鎧を纏う異形に指先ひとつで霧散させられた。
刃も魔力も、まるで子供の遊びのように退けられる。
「人間ニシテハ、ヨクヤッタ。ダガ……我ガ強スギルノダ」
玉座の間に低い声が響く。
魔王──その圧は、ここまでに倒してきたどんな魔物とも別格だった。
レイは歯を食いしばる。これまで、一撃で倒せぬ敵などいなかった。
誰よりも強いと信じて疑わなかった。それが今、音を立てて崩れていく。
「モシ仲間ガイレバ、我ヲ倒セタカモシレンノニノウ」
魔王の隣に、黒衣を纏い仮面で顔を覆った人物が立っていた。
男か女かもわからない、不気味な存在。
「人間など、何匹集まろうが無駄なこと」
嘲る声と共に、仮面の人物が指を鳴らす。
全身に凍えるような感覚が走り、力が抜け落ちた。
筋肉が崩れ、骨がきしむ。──奪われていく。
「殺サズニ、帰シテヤロウ。少シダケ生キラレル程度ニ、力ヲ削ゲ」
光が弾け、視界が真白に染まった。
声も、剣も、魔力も、何もかもが遠ざかっていく。
◇ ◇ ◇
目を開けた瞬間、強烈な眩しさが突き刺さった。
昼過ぎの太陽。息が苦しい。体が……重い。
(なんだ……これ……?)
起き上がろうとして、足がもつれた。
腕は細く、筋肉がない。──これは、自分の体じゃない。
「おい坊主、大丈夫か?」
声に顔を上げると、薪を抱えた大柄な中年男が立っていた。
ごつごつした顔に、あごひげ。
「こんな所で寝てると、身ぐるみ剥がされるぞ。どこから来た?」
答えられなかった。頭が真っ白で、言葉が出てこない。
さっきまで魔王の間にいたはずだ。
最強だったはずだ。
なのに──今の自分は、立ち上がることすらできない。
無敵の勇者レイの人生は、この瞬間、完全に終わった。
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