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宝の地図  作者: xxx
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12/12

亥 百年前のメッセージ

 蔵の金庫から出てきた一枚の紙切れは、宝の地図ではなかった。だけど、その謎が解けたことは、ゲームのシナリオを終えたよりも充実したものがあって、ふと気が付くとつい先日の事を振り返っている自分がいることがしばしばあった。

 「でこぼこ調査隊」は解散し、私はやりかけのゲームをするのも忘れ、机に座ってこれまでの調査をレポートにまとめていた。百年前から現在までの町の移り変わりやそれに至る歴史。かつてあった徴兵という制度や当時の恋愛事情まで……。

 あれから先生は乙浜の実家に残り、家庭教師も夏休みになった。明日に電車で甲山に戻ってくるそうだ。先生がいてくれたお陰で色々と勉強になった。普段教えてくれるのは英語と数学だけど、それ以上の事をいっぱい教えてくれた。試験に出る出ないは関係なく、それらは学校や塾では教えてくれない事だ。先生自身の一面も見ることができて、個人的には充実していた。私のワガママに文句一つ言わず協力してくれた二人には本当に感謝している。

 そんな訳で先生とは二週間ほど会っていないけど、メールをしたら他愛のないことでもちゃんと返事をくれる。


「先生なら『遅れて来た便り』のモデルがキノヱ婆さんだと気付くと思ったんだけどな」

「小説でイメージが出来てしまったんだね。あれがすべて本当の話と思い込んだみたい。それで原作の小説は読んだ?」

「読んだよ。ビデオも見てダーダー泣いた。読書感想文の宿題も出来そう」

「でも何で地図とあの喫茶店が繋がったの?」

「ローマ字のAとキノヱ婆さんの遺影かな?昔の写真にローマ字が書いてあったのはあの建物だけだったし、昔から洋服が好きだったっていうから」

「凄いな、麻衣子探偵。女子らしい観点だね。今回の調査は得たものは大きかったようだ、金銀財宝はなかったけど(ちょっと残念)」

「確かに(ちょっと残念)。宝見つかったらクーラー買ってあげようと思ってたけど、無理っぽいね。ごめんね、先生」

「でも地図の正体が解って良かったじゃん。期待してるよ、夏休みの宿題」

添付の写真を見たら先生と弟の駿太さんが、爪楊枝を刺したキュウリとナスを仲良く持って「お土産アリガトウ」と書いている写真が付いていたので、部屋で一人笑った。駿太さんは昨日甲子園から帰ってきたみたいだ。おじいちゃんと一緒にテレビで乙浜高校の試合を見たよ、結果は残念だったけどね。明日は木曜だからちゃんと家に来てよ、ちゃんと宿題は済ませたから。

 ついこないだまで夜の外はカエルの大合唱だったのが、早くも虫の声が聞こえ始めている。その声を聞いて外を見ると、視界にはあの蔵が目に入った。今まで深く考えもしなかった大きな建物――、私はこの蔵があったことで自分自身のルーツについて色々と勉強になったと思うと、その存在に愛着のようなものが湧いてきた。壁に付いたバレーボールの跡を掃除しようかなと思うようになったけど、まだ出来ていない。


***


 甲山の町はお盆一色になり、私の通う中学校の校庭には盆踊りの櫓が建てられ、大汗をかきながら町を往来する袈裟の姿をよく目にする。稲垣家でも普段使われていない仏間の仏壇はきれいに飾られて、今にでも食べたくなるような供え物が並んでいる。叔父さんや叔母さん、いとこたちも訪れ、町の大学に通う兄ちゃんもウチに帰ってきて久々に家が賑やかになった。兄ちゃんは髪の毛を金色に染めて、私が見てもひどい姿で帰ってきた。私がダメ出しする前に家族全員から集中砲火を浴びて、ツンツンの髪が萎れる程にへこんでいたので、私は笑いをこらえて何も言わなかった。 

 帰ってきたのは兄ちゃんだけじゃない。仏壇には私たちのご先祖様も帰ってきているのだ。今まではおじいちゃんに説明されてもピンと来なかったけど、今回の出来事を通じておじいちゃんの言う事がわかったような気がする。


 仏間の横には縁側があって、夜は窓を開ければ涼しい風が入ってくる。私は浴衣に着替え、庭で小さないとこたちが花火遊びをしているのをそこでお守りしているおじいちゃんのところまで、お供えの西瓜を持っていった。

「ほう、なかなか似合っとるのう」

「今度部活のみんなで盆踊りに行くんだ」

「そうかそうか……」

 おじいちゃんはニコニコしながら西瓜に手を伸ばした。今日は孫に囲まれて嬉しそうだ。いとこたちも手を止めて西瓜に集まってきた。私も縁側に腰をかけると、金髪の兄ちゃんもやって来た。モテるために染めたらしいけど、やっぱり似合っていないよ、それ。

「麻衣子、蔵の中から見つかった宝の地図はどうなったんだい?」

 兄ちゃんは目の前にある蔵を指差した。

「あったよ、宝物」

「ホントに?何、何、宝って」

私は仏壇の横に置いた『宝の地図』を取ってきて兄ちゃんに見せてやった。

「これが宝物だったの」

「このメモ書きみたいのが?」

「そうよ」

 私はここにいる親戚全員に、すべてを話した。足らない部分は横からおじいちゃんが補足してくれた。


   百年の時を越えて私の手元に来たラブレター


 私の思っているような宝は見つからなかったけど、確かに宝は見つかった。麻二郎爺さんがキノヱ婆さんに贈った最初で最後のラブレター。そう、私が今手にしているこの手紙そのものがキノヱ婆さんにとっての宝物だったのだ。これがあるから今ここに私たちがいるのだ。


 そして、その一枚には「時代」が詰まっていた。メールで送られてくるものとは比べられないくらい重く、そして誠実な。


「ははーん、ナルホドね。宝といえば宝だ」

「でしょ?」

 私はそれを元の位置に戻し、仏壇に手を合わせた。声は出さずにご先祖様に御礼を言ったあと、私も縁側に置いてある西瓜を手にした。 


 蔵の向こうで花火が上がった。甲山では今日と明日花火が上がる。一つ、また一つ、大きな打ち上げ花火は七色の光を瞬かせ、夜空の闇に溶けていった。明日は河原まで見に行きたかったけど、あいにく松下先生が来る日だ。花火は部屋の窓からも見える、だから私は別にいいかなと思った――。


宝の地図 おわり

最後まで読んでいただいてありがとうございます。


いかがでしたか?よろしかったらご意見ご感想などいただけたら幸いです。ありがとうございました。


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