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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第2部:シュバルツシルトの深淵編

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第46話:情報革命の狼煙

暗殺部隊の襲撃から、数日が経過した。


リックが裏ルートで売り払ったイフリート・コアの莫大な資金を元手に、ファイン商会の息がかかった商人たちが、王都中から大量の通信用魔石を買い集めて第4廃校舎の研究室へと運び込んでいた。


深夜の研究室は、さながら秘密の町工場と化している。私は重力魔法による精密な引張応力を使い、魔石の内部回路に量子もつれを利用した暗号化プロトコルを次々と刻み込んでいった。


「よし、最初のロットが完成した。ボブ、テスト通信だ」


「わかった。教団の検閲システムと同じ波長で傍受してみるよ」


ボブが自身の魔導書を開き、私がリックに持たせて隣の部屋へ行かせた魔石からの通信波を拾い上げる。


だが、ボブの耳に届いたのは、ザァーッという完全な意味不明のランダムノイズだけだった。


「どうなってるんだい?マナの波は確かに飛んでいるのに、ただのノイズにしか聞こえない」


「量子テレポーテーションには、もつれた量子チャネルと、普通のマナの波を使う古典通信路の両方が必要なんだ。教団が傍受できるのは古典通信路の波だけ。そこに乗っているのはただのランダムな測定結果だ。もう片方のもつれた魔石を持っていなければ、元の会話は絶対に復元できない」


教団の古典的な検閲網を完全に無効化する、この絶対暗号通信機を、私はマギフォンと名付けた。


隣の部屋から戻ってきたリックが、興奮した様子でマギフォンを掲げる。


「こいつはすげぇや!でも待てよレイ。これってペアの魔石同士でしか繋がらねぇんだろ?俺が貴族のオッサンと商会の仲間に別々に渡しても、そいつら同士で内緒の取引はできねぇってことか?」


「その通りだね。量子もつれは基本的に一対一のペアでしか成立しない。これじゃあ、レイ君と個別の通信はできても、ネットワークとしては機能しないんじゃないかな」


ボブが眼鏡を押し上げながら指摘する。


「ええと……つまり、糸電話みたいなものだから、三人でお話しするのは無理ってことですかぁ?」


アリスが小首を傾げて問いかけた。


「その通りだ。だからこそ、この第4廃校舎に巨大な自動交換局、量子ルーターを構築した」


私は研究室の奥に鎮座する、大量の受信魔石が組み込まれた巨大な通信盤を指差した。


「王都にばら撒くすべてのマギフォンは、このメインサーバーの魔石とペアになっている。貴族が商人に連絡を取りたい場合、音声データは一度ここへ量子テレポーテーションされ、魔力回路の物理的リレーを経由して、商人とペアになっている魔石へと瞬時に再転送される仕組みだ」


「……レイ君、それってつまり」


ボブが息を呑む。


「ああ。王都の裏の通信網は、すべて物理的に僕が掌握する。教団が気づいた時には、情報インフラの心臓部はこちらの手の中というわけだ」


「えげつねぇ……!でも最高だぜ!これなら教団にバレずに内緒話ができるってだけでも、奴らにとっちゃ喉から手が出るほど欲しい代物だ」


リックが不敵に笑い、ただちに配布戦略を立てる。

そこからの数日間で、リックのネットワークを通じてマギフォンが王都の権力者や商人たちの間へ爆発的に普及していった。


絶対安全な通信網を手に入れた彼らは、教団の目を盗んで動く私たちの強固な味方となった。凍結されていたはずの資金は裏の取引を通じて動き、聖騎士団の物理的な封鎖を掻い潜って、加速器の組み立てに必要な特殊部品や、リックやアリスが喜ぶ最高級の食料までもが次々と密輸されてきた。


その物資の到着を待つ間、私は中断されていた本来の作業を再開していた。

工作機械にダイスをセットし、重力魔法の引張応力を使って、奈落から持ち帰ったミスリル結晶を引き延ばしていく。常圧でガス化しようとする強烈な反発力を、局所的な超高圧フィールドで押さえ込みながらの、綱渡りのような常温加工だ。



数日間の不眠不休の作業の末、数キロメートルに及ぶ均一な太さの超伝導ワイヤーの線引き、つまりミスリルコイルの加工がついに完了した。


「やったな、レイ!これで部品もワイヤーも全部揃ったぜ!」


リックが山積みになった密輸品の木箱を叩いて笑う。


「ああ。教団の兵糧攻めは、情報流を支配したことによって完全に無力化された。さあ、いよいよ地下での組み立て作業へ移るぞ」


私がそう宣言した時だった。

王都の教団本部では、解読不能な謎の通信ノイズが突如として爆発的に増殖していることに気づき、自分たちの絶対的な情報統制が崩壊しつつある状況に激しい焦りを見せているはずだ。

その教団の異常な動きを察知したのか、ボブが作業の手を止め、どこか覚悟を決めたような沈痛な面持ちで私たちの前に進み出た。


「レイ君、リック君。アリスちゃん」


ボブのただならぬ雰囲気に、研究室の空気がピンと張り詰める。


「……君たちに、話さなければならないことがある」


教団の焦りと、ボブの重い告白の予感が、完成したばかりのミスリルコイルを鈍く照らしていた。




(続く)

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実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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