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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第1部:王立学院編

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第28話 真の目的

監査官ジオットが去り、夕闇が廃校舎を完全に包み込んだ頃。

私は研究室の机に、カンテラを置いた。

揺れる炎が、三人の仲間たちの顔を照らし出す。


「……さて。どこから話そうか」


私は白衣のポケットから、一枚のコインを取り出し、指先で弾いた。

コインは回転し、表とも裏ともつかない状態で空中に静止する。


「単刀直入に言おう。僕は、この世界の人間じゃない」


「……は?」


リックが間の抜けた声を上げる。


「何言ってんだ?お前は辺境伯カルツァ家の三男坊だろ?」


「それは『この体』の経歴だ。中身は違う」


私は自分の胸をトン、と叩いた。


「僕の魂……いや、意識データは、遥か彼方の別の宇宙から転送されてきた。『地球アース』……それが僕の故郷の名前だ」


沈黙が落ちる。

頭のおかしい妄想だと笑い飛ばされるかと思ったが、誰も笑わなかった。

私の瞳が、冗談を言っていないことを雄弁に語っていたからだろう。


「……やっぱり」


ボブが、静かに口を開いた。


「君の知識は異常だった。魔法体系が全く違うし、何より、君はこの世界の常識をどこか『外側』から俯瞰しているような節があった。……異界からの来訪者。それが君の正体かい?」


「正確には、ブラックホールに吸い込まれて、情報だけが漏れ出した漂流者さ」


私は黒板に向かい、二つの円を描いた。

そして、その二つを一本の線で繋ぐ。


「いいか。僕の仮説では、この世界と地球は『量子もつれ』で繋がった双子の宇宙だ。重力という見えない糸で引き合い、影響し合っている。先駆者アイザワも、僕も、その糸を伝ってここへ落ちてきた」


「えっと……つまり、レイ様は……星の王子様、ということですか?」


アリスがおずおずと尋ねる。


「まあ、そんなロマンチックなものじゃないが、当たらずとも遠からずだ」


私は苦笑し、本題に入った。


「僕の目的は、この世界で王になることでも、大金持ちになることでもない。『証明』することだ」


私は黒板の「双子の宇宙」の図を強く叩いた。


「地下にあった加速器。あれを完成させ、起動させる。そして、事象の地平線を貫くほどの巨大なエネルギー『重力波』を生成し、故郷である地球に向けて信号を送る」


「信号……?」


「ああ。『僕はここにいる(I AM HERE)』とな。それが届けば、僕の理論は証明される。魔法と科学が統一され、二つの世界は概念的に繋がるんだ」


それは、物理学者としてのエゴだ。

誰のためでもない。ただ、自分が正しいことを宇宙に叫びたいだけの、子供じみた夢。


「……それが、僕の真の目的だ。教団が目の敵にするのも無理はない。僕は彼らの神を、物理法則で上書きしようとしているんだからな」


話し終え、私は息を吐いた。

仲間を巻き込んだ罪悪感が、胸を刺す。


「これ以上は危険だ。教団は本気で僕を消しに来る。君たちはここで降りていい。リックには特許権を譲渡するし、ボブには……」


「待ってください!」


遮ったのは、アリスだった。

彼女は不安げに、けれど真っ直ぐに私を見つめていた。


「その……信号を送ったら、レイ様は……帰っちゃうんですか?」


その問いに、私は目を丸くした。

そして、優しく首を横に振った。


「帰れないよ。僕の体はもう燃え尽きている。ここにあるのはデータだけだ。それに……観測者は、最後まで現象を見届けなきゃいけない」


私はアリスの頭に手を置いた。


「僕はここに残る。君たちがいる、この世界に」


「……よかった」


アリスが、花が咲くように破顔した。


「なら、私はどこまでもお供します!レイ様が宇宙人と交信したいなら、私がアンテナになります!」


「いや、交信する相手は地球人なんだが……まあいいか」


「僕も乗るよ」


ボブが眼鏡を押し上げた。


「『多世界解釈』の実証実験なんて、またとないチャンスだ。君がいなくなったら、僕の退屈な人生は元の計算式に戻ってしまう」


「お、おいおい!俺を忘れるなよ!」


リックが慌てて手を挙げた。

彼はニヤリと笑い、商人の顔になった。


「異世界と繋がるってことは、だ。将来的に『あっちの世界』の商品とか技術を輸入できる可能性もあるってことだよな?」


「理論上はな。情報は等価交換だ」


「だったら降りるわけにはいかねぇ!異世界貿易の独占権、俺がもらった!それに、ここまで投資して回収なしじゃ、ファイン商会の名折れだ」


……呆れた連中だ。

教団を敵に回し、世界の理に喧嘩を売ろうというのに。

恐怖よりも、好奇心と欲が勝っている。


「……ふっ、あはははは!」


私は笑った。

腹の底から笑った。

孤独な先駆者アイザワとは違う。ここには、最高にクレイジーな変数が揃っている。


「いいだろう!契約成立だ!チーム・カルツァはこれより、世界最大の物理実験を開始する!」


私は窓を開け放ち、北の空を指差した。


「目指すは『奈落・ダンジョン』の最深部!加速器のパーツを探し出し、地球に特大のラブレターを送りつけるぞ!」


「「「おーっ!!」」」


星空の下、物理学者と仲間たちの鬨の声が上がった。




(続く)

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実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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