079.ブラック生徒会長ザラメは弓具で稼ぐ
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相談の末ザラメ達が行ったのはまず魔法糸の大量生産だ。
これまでも度々お世話になっているが、錬金術で生成する【錬金繊維】をはじめとした糸の調合素材がまさにどこでも役立つ部品というわけだ。
【学者】と【学識A】のあるユキチには主に倉庫からの素材選びを行ってもらい、ザラメが調合錬成、セフィーには雑事をやってもらう。
ここで光るのがなんといっても【物品作成:A】だ。アイテム作成に関わればなんでも成功しやすくなる、と生産職に限っては雑に強いSPである。
そして上級錬成室の設備があれば、より少ないEP消費で、より大量に、より確実に調合することができ、難易度の低いものであれば成功率は99%といってよかった。
「糸を作るのに錬金釜をかきまわすの、納豆まじぇまじぇっぽくないですか!?」
「え、いや、仮にそうだとしても納豆の糸といわれると匂いそうでイヤだな……」
「完成! 次もってきてください! あとセフィーさんPOP作成できます!?」
ドン。ドン。ドドン。
数種類の錬金繊維を箱で積み重ねていく。これにおよそ二時間かかった。
すべて【品質:★★★★☆】以上だ。市販品は★2以下が多く、★3でも良品扱い、★4以上は高級品といってよい。もっとも★2以下にも安価さゆえの需要もあるが。
「ふぁいとー! 一発!」
そう叫んで、ザラメはEP回復用のつぶつぶラムネクターを飲み干す。
【魔力回復】のおかげで同じアイテムでも回復量が大きく異なるのがでかい。
「……ザラメ、その掛け声は?」
「観測者さんに教わりました。回復量が増えるらしいって」
「ガセネタだね」
「え?! 意味ないんですか!?」
▽「ゴメンネゴメンネー」
▽「かわいいからつづけてどうぞ」
「かわいいならいっか……」
▽「チョロかわ」
▽「……あれ? まだ糸作りしてんの? 飽きないね」
「ふふふ、目標の約2000個ほどを生産できました。素材費用がひとつにつき150DM、ちょうど30万DM分の素材を消費できたので、あと5万DMで弦と矢弾をこれから作ります」
「弦――弓糸はもう作ったぞ」
「え!?」
糸作りに専念していたザラメは不意にそう言われて驚くが、セフィーは確かに予定していた一箱分の弦をもうすでに完成させていた。
「わたしまだ何もしてませんけど!?」
「【職工lv3】を取得した。ここには中級程度の職工用設備もある。これだけ高品質の糸素材があれば、【器用:S】の私なら弦くらい当然作れる」
「わざわざ職工を……」
「いずれ取得予定ではあった。器用が高いほど適性があるし、自前の道具を買うしかないのは先々を考えると不安だ」
「た、助かります!」
ザラメは完成した弦をつぶさに手にとって確認してみる。
【風鳴りのボウストリング[参考価格:3000DM]】【品質:★★★★☆】
【分類:消費/部品/装備アイテム。効果:弓の耐久力が回復する、作成素材にもなる】
【付与効果:使用した弓の攻撃力、命中力上昇[中]。風属性適性の付与】
【説明:複数の魔法糸を撚り合わせた弓糸。弓矢の作成、修繕に使用する。風属性の素材が用いられている。製法はエルフの伝統技法に基づく】
最上級とまでいかないが、かなり優秀な製品なのはザラメにも一目瞭然だ。
「立派な作りですね。作成コストは?」
「一つ作るのに魔法糸を四つ、つまり約600DMだな。原材料費の5倍で売れるなら作成と販売の手間を考慮しても作った甲斐がある」
「この風属性付与は一体どうやって?」
「エルフは【風の民】の種族特徴で風属性にまつわる物事が有利に働きやすい。だから魔法の糸の中でも風属性値の高いものを選んでみたら、勝手にボーナスがついた」
「種族特徴……ユキチくんも【雪の民】とか持ってましたっけ」
「それは矢弾作りに役立ててもらう」
素材選びは完了したので、残り二時間でユキチにも矢弾作りを手伝ってもらう。
セフィーは助言だけしてもらって弓糸作りに専念してもらうことにした。
「矢弾作りですけど、ユキチくんには矢じりの部品をいっしょに作ってほしいんです」
「矢じり……僕に鉄の加工はちょっと……溶けちゃうから」
「あー」
想像する。熱々に溶けた鉄をハンマーで叩きながら溶けるスノーマンのユキチくんを。
「勿論、鉄の矢じり作りなんて頼みませんよ。作ってほしいのは“氷”の魔法矢です」
「ああ、なるほど」
ユキチはすぐに理解して試作品を作ってくれた。
【凍結の石】という廉価な魔法石をちょうどいい形に整えて、【感応の刻印】と【冷気の授与】を施す。ユキチの得意とする付与魔法だ。
「こうだね?」
「全然ちがいます! こんな複雑な作り方で何百と作れません!」
「そ、それはそうかも……うーん、出来はいいんだけどなぁ」
「もったいないのでセフィーさんに試作品は預けるとして……」
ザラメは錬金釜の横にユキチを立てて、素材をぶちこみ、錬金釜をかきまわしはじめる。
「協力錬成のスタートです! レッツラまぜまぜ!!」
ザラメは夜9時をまわって周囲に疲労感が漂う中、異様にハイなテンションで調合する。
机の上に転がるEP回復ドリンクの数、じつに五本。
12件のクエスト達成後にこれなのでユキチは疲労感に襲われているが、ふんばってザラメの指示通りに、錬金釜に【氷の属性値】を直接注入する。
「セフィーさんが言ってた通り、【雪の民】のおかげでしょうか。精霊の力っぽいものをガンガン感じますよ、ユキチくん!」
「けっこう容赦なくEP消費するんだけどこれ……!」
「でしょうね。ユキチくんが空っぽになるまでやるから覚悟してください」
「ええ!? うう、が、がんばる……」
▽「おにちく」
▽「他人を利用することに抵抗がない女狐」
▽「ブラック生徒会長」
そうしてユキチくんの精気を吸い尽くして完成したのがこちら。
【吹雪の魔法矢[参考価格:5500DM]】【品質:★★★★★】
【分類:消費/矢弾/装備アイテム。効果:強力な水/風属性の魔法の矢。使い切り】
【付与効果:威力[大]。範囲攻撃化。状態異常[凍結]高確率付与】
【説明:氷属性の魔法石を矢じりに使用した矢弾。着弾すると魔法石が砕け、強力な氷属性の魔法ダメージが発生、敵に凍結の状態以上を与える。製法はスノーマンの秘伝】
ザラメは完成品を手にして、その悪魔的なまでの強さに震えた。
いや、強さそのものより参考価格に震えてしまった。
「は、ははは、あははははは……」
過去に作成したアイテム単品価格の最高値は[27万5000DM]だ。それに比べたら[5500DM]は大した額面ではない。
ただし、問題は数量だ。
「5500DMの弓矢がここに200本余り……! 試算額じつに110万DM……っ! 勝った、明日の朝市はもう完全に勝ちましたねこれは!! ねへ、ねへへへへへへ」
▽「悪の科学者かな」
▽「ザラメのわるだくみ」
▽「はい失敗フラグたちましたー」
「うるっさいですね!! ユキチくんの犠牲を無駄にはしませんからね絶対に!」
「すまない。流石に限界だ。ユキチといっしょに今日は協会に泊めてもらう。おやすみ」
「はい! セフィーさんありがとうございました!」
「おかげで【職人の修行】とかいう成長の鍵は想定通り手に入った。では、な……」
ユキチを丸太のように抱えて去っていくセフィー。
ザラメも明日に備えて、錬金工房に内鍵をかけてそのまま寝ることにした。
こうして被災生活四日目は無事に終わった――。
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