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076.信じる理由といわれても

 第二帝都錬金術協会の依頼窓口にて、合計12件のクエスト達成報告を完了する。

 時刻は夜七時過ぎ、ザラメはへとへとでおなかもすいて疲れ切っていた。

 早く夕食と休息にありつきたいが、しかし達成報告をせねば金も経験点も入らない。


「はい、確かにクエスト十二件の達成を確認いたしました。おめでとうございます。こちらは約束の報酬と、早期解決の追加報酬です。どうぞお受け取りください」


「……た、大金です」


「報酬総合を人数割だけどね……どうぞ、ザラメの番だよ」


 パーティリーダーのユキチにうながされて、ザラメは窓口で報酬を受け取った。

 銀貨袋では足りず、小さな金貨袋も手渡されてその輝きに目も眩む。


「うわぁ……! キンキラキン!」


 さらに功績をまとめた羊皮紙の書類も受け取った。十二件だから数枚綴りだ。


 【報酬 12万5212DM をを獲得しました】

 【冒険者レベル5の“成長の鍵”×3を獲得しました】


 昨日時点での所持金がおおよそ1万3000DM、ざっくり10倍だ。異変初日から比べると100倍の所持金になってしまっている。

 これでも換金レート【1000DM=100円】だと現実のお金で1万2500円になると考えた場合、中級水準の報酬はやろうと思えば現実のお金を投じるよりゲーム内の方が稼げる、ということがわかる。


(……でもわたしの身代金、ちょうど12億5000万DMでしたっけ……)


 千日間この時短クエストを休まず繰り返してようやく同額になる、といわれると途方もない金額だ。ツチノコを新発見……いやカッパやネッシーも見つける必要がありそうだ。


(そして成長の鍵が三つ……)


【強敵の撃破】『自分のレベルを大きく越えたエネミーと戦い、乗り越えた』


【感謝の手紙】『NPCから受け取った感謝の手紙やあかしがたくさん集まった』


【百戦錬磨】 『累計戦闘勝利回数が100回を越え、戦いに慣れてきた』

 

 少々こずるい気もするが、ユキチ隊のおかげでザラメは楽々成長できている。

 ほんのり後ろめたいが、そこを気にするなと言ってくれたセフィーのおかげで素直に効率的レベリングをザラメは喜ぶことができ、小さく「よし」と拳を握った。


「ダメね、あたしは成長の鍵はひとつ止まりだわ」


「ぼくはどうにか二つ、なんですけどレベル7にはあと二つ足りないかなぁ……」


 一方、ネモフィラやユキチの感触はいささかよろしくない。

 ユキチ隊の大半がリザルトデータを悩ましげに眺め、うーんとうなっている。


「もしかして"成長の壁”……ですか?」


「正解よ。適正レベル範囲内のボスやクエストを同じようにこなしつづけても、もう成長の鍵を得るのは絶望的だわ。でもレベリング初日でぶちあたったのは幸運かもね」


 ネモフィラは気だるげに答えてあくびを噛む。


「にゃむにゃむ。立ち話はなんだから夕食にしましょ。もう疲れちゃってェ……」


「早朝からガルグイユと道場に出稽古しにいっていたせいか……」


 セフィーの言葉に、ネモフィラはふにゃふにゃと返事する。


「武闘家だもん、流派スキルほしいし修行しないともらえない鍵がどうしてもさぁ」


「わかった。もう食べて寝てなさい」


「ふぁーい、じゃあ一旦解散でー。宿屋でよろー」


 ネモフィラ、ガルグイユ、ドットの三名は待合所を後にする。


「あ、ドットさんもついていくんですね」


「Xシフター対策。もしものことを考えると三名以上での行動が望ましい」


「……ん? 二名ではダメなんですか?」


 小首を傾げるザラメにセフィーは冷淡に言葉する。


「……Xシフターとふたりきりになる可能性を考慮すれば、それは危険だ」


「……え? え?」


 困惑するザラメに、うつむきながらユキチも発言する。


「残念だけど……あらゆる冒険者はXシフターである可能性を否定できないんだ。ぼくも、セフィーさんも、だれも無実を証明する手段がないんだよ。イヤな考え方だけど……さ」


「そんな! だってあの時Xシフターはわたしが見つけ出したはずじゃ……!」


 甲板上の悪夢が蘇る。

 霧の中、レイドボスとの戦闘の最中に裏切り、仲間の後背を襲って殺害したXシフター。

 銀剣の殺人鬼はもういないはずだ。

 てっきり、もう安心なんだと信じていたザラメには強すぎる衝撃だった。


 セフィーは目を細め、深呼吸をする。


「Xシフターのししゃもを仕留めた結果、甲板上の十人の冒険者は四人が犠牲になり、我々五人が生き残った。その四人全てをししゃもが殺害したという確証がない。ドラマギは“死体が損傷しない”から“死因がわからない”の。全てししゃもの仕業でも、その凶行を手伝わない選択肢がある。

 ――というより、もしわたしがXシフターだとしたらそうする。レイドボスは見境なくXシフターも襲う。船も沈める気だった。冒険者を全滅させたらXシフターは共倒れになる。ししゃもは脱出手段を確保済みだったか、気が狂ってたか、殺してもいい限界ギリギリまで殺して潜伏する気だったのか。……とにかく、Xシフターじゃないと確信がもてるのはクラン内では四人だけ」


「四人……ひとりは黒騎士さん、ですよね?」


「うん。彼は例外。理由、わかる?」


 ザラメは直感で答えていた。客観的な判断材料なんてない。そう信じている。

 しかし論理的に考えるべきだと思い、自分の頭で考えて、ひとつ理由を思いつく。


「“いつでも皆殺しにできるから”ですか」


「ひえ……!」


 ユキチはひきつり声をあげ、恐怖した。

 あの漆黒の重騎士がもし殺意を以て襲いかかってきたらと想像してしまったのだろう。

 一方、セフィーはザラメの返答に静かにうなずく。


「漆黒の重騎士は桁違いに強い。もし彼がXシフターならレイドボスも含めて皆殺しにできる。それにXシフターを直接殺害した。絶対にありえないとは言えない。でもXシフターでないと確信できる判断材料は一番多い、はずだ」


「ほっ……」


 ユキチが胸を撫で下ろす。怖がりだから仕方ない。だって見かけは怖いし。


「ザラメはもちろん例外その2でいいんだよね?」


「理由はなんだ?」


「……理由なんていらないよ。ザラメはちがう、僕はそう確信できるよ」


 ユキチの凛々しい、ちょっと格好つけな答え。

 ザラメは素直にうれしくて、白狐のしっぽをわかりやすくぱたぱたさせる。


「ありがとうございます、ユキチくん」


「でも不正解だ。他人にもそう説明するのか、リーダー?」


「うぐっ」


 ユキチはしょぼくれて床に「の」の字を描き、隊長失格だなんだと小声でなげく。

 セフィーは苦笑して。


「ザラメは“弱すぎる”。そして“死にかけた”。過去の行動を観測者伝に確認させてもらった。ザラメはもしXシフターなら回避できるピンチを何度も直撃して死にかけている。Xシフターの異能力を使わないと詰む場面で使わない、いや使えない。もしXシフターだとしても脅威度が低すぎる。よって例外としていいだろう」


「あ、ありがとうございます」


▽「ダイレクトにクソ雑魚すぎて論外って言われてね?」


▽「事実陳列罪」


▽「ユキっち納得しちゃってるの顔でてるよ」


「うるっさいです!! かよわい乙女なんですわたしは!」


 ぷんすこ怒って小妖精と口論するザラメ。


「はぁはぁ……えと、最後のふたりはドンカッツさんとエビテンさん? 話の流れ的に」


「ああ、まぁ、うん……ないだろ」


「なさそうですよね……」


 夫婦水入らずの観光旅行中に事件に巻き込まれたご夫婦にXシフターは無理がある。

 “運営”だって人選を考慮はしているはずだ。

 他のプレイヤーを蹴落として生き残ろうという殺人鬼の役割をこなすには、それなりの適性がなければ話にならないというのはザラメでも想像がつく。


「ザラメ。警戒心を忘れるな。私も、ユキチも、絶対に安全な仲間だとは言い切れない。しかし疑心暗鬼になってはいけない。なにを信じるべきか、自分で考えてほしい」


 セフィーは神妙な面持ちでザラメにそう告げる。

 ……が、正直、よくわからない。頭上に「?」が浮かんで消えない。

 ザラメは考える人のポーズをして、五秒間だけじっくり悩んで。


「じゃあユキチくんは信じます!」


 と宣言して、ぴたっと抱きついた。

 ユキチ当人は「ふわっ!?」と情けない声をあげ、セフィーは呆気にとられた後、ふふっと苦笑した。ひんやりボディーがちょっとつべたい。


「理由はなんだ?」


「だってかわいいじゃないですか、ほら」


「はわわっ! ざ、ザラメってばなに言ってんの!? ボク男の子だよこれでも!」


「……なるほど」


「納得なさる!?」


「直感ってことだろう。論理的に説明できなくても、それが当たることはよくある」


 セフィーは自分について信じるといわれていないのに、なぜか満足げにする。

 どうも“味方づくり”をしたかった訳ではないらしい。

 単なる親切心か、否か。


 何にせよ、そういうことなら今はユキチのそばを離れないでおきたい。

 ――心細くてさびしい夜を二度も三度も味わうなんて、まっぴらごめんだ。


「でしたらふたりとも夕食に付き合ってくれませんか? わたしもはらぺこなので」


「夕食……うん、もちろんいいけど、どこにする?」


「軍資金はある。レベリングにつながる食事を検討したいが……」


「では、お店探しはおまかせしますね」


 とてとてと窓口に赴いて、ザラメは一言二言受付嬢におねがいする。

 セフィーとユキチが不思議がる中、ザラメはデンワンコを呼び出した。


 ――デンワンコ。

 大昔のレトロな電話機を背負った、あるいは融合した“合成獣キマイラ”がとてとてとかわいい足取りでやってくる。ザラメはもふっと背中に肘をつき、通話する。


「……おい、なんだあの謎のモフモフ」


「デンワンコですよ? 古代の魔法使い達が遺した遺物のひとつで魔法道具と生物を合成した魔法生物“合成獣キマイラ”の一種だそうで。人間に聴こえない超音波域の遠吠えでやりとりして無線通信みたいに情報のやりとりができる、ですって」


 通話中のザラメに代わって、ユキチが回答する。同じ【学識A】のSP持ちだからこれくらいは“知っていて当然”とゲーム側が教えてくれたのだろう。

 ザラメもはじめは「白い犬に固定電話がくっついてる」という謎キマイラに困惑したが、不思議なもので既知の知識として修正補助フィックスアシストが働くおかげかそこまで抵抗感なくそーゆーものだと受け入れてしまっている。


 あえて言えば、今どきのスマートデバイスに比べると極端に不便で使いづらい。

 自動車や自転車の代わりに動物の馬や牛を乗り物にしてた昔の人みたいな気分になる。


「正面玄関に馬車を手配してくれるそうです。さぁ行きましょう」


 ザラメはデンワンコのあたまをなで、ごほうびのジャーキーを与えると通話を終えた。

 一体だれと通話していたかは馬車に乗ればわかることだ。

毎度お読みいただきありがとうございます。

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