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070.ユキチくんの防具を作ってあげよう

「レッツら錬成!」

 ザラメは上等な錬金釜を使い、まずは【中和剤】を作りまくることにした。

 錬金術で目標アイテムを作成するにあたって、いきなり完成品に到達することは稀だ。


 例えば【防具】を作るには【糸】【布】【金属】などを先んじて生成する必要がある。最終的な完成品を作るには、それに適切な素材アイテムから作らねばならないわけだ。

 正直、完成品を金で買ってしまった方が早い、といわれたら否定はできない。


 しかし生産職であるザラメの場合、自作することがレベリングに直結するので金を払ってまで強くなるチャンスを逃す手はなかったりする。


「まずは地道に、ひとつずつ……」


▽「錬金釜が毒々しく光ってる……」


▽「水、布切れ、骨……? なに作ってんの?」


 小妖精の問いかけにザラメは「紫の中和剤ですけど」と答える。


「このゲーム、錬金術の基本は五属性の属性エッセンスを抽出することにあるらしくて。わかりやすいですよ。【火】【水】【風】【土】の四元素ごとに【赤】【青】【緑】【黄】の中和剤を作っておけばどの工程でも属性値を補強できるんです」


▽「ん、紫つってなかった?」


▽「赤と青あわせると紫になるのけ?」


 ザラメは観測者の疑問に、手元の資料本をぺらぺらめくりながら回答する。


「ああ、【紫】の中和剤はですねー……。【闇】とか【死】とか【毒】とか【月】ですかね。五属性分類上は【神秘/エーテル】という、なにか“その他”的なものがあって。逆に【光】とか【回復】とか【薬】とか【太陽】もひっくるめて【神秘/エーテル】に属したり。とにかく光と闇どっちもエーテル扱いで【紫】は闇、【白】は光に分類するそうです」


 ザラメも自分で言っていて今ひとつピンとこない。

 フルーツを食べていたら種にひっかかったような感触だ。


「四属性+一属性で、その一属性が二つにわかれてる……?」


▽「平日と土日の違いだと考えたら? 月火水木金は学校に行く、土日はおやすみだけど、土曜と日曜は別でしょ?」


▽「土曜日の夜は楽しみだけど日曜日の夜は憂鬱だよね、うん全然ちがうわ」


▽「なんなら今仕事中で憂鬱だわ」


「観測者の憂鬱ですか……」


 ザラメは学校に行くのが楽しい小学生なので平日の仕事がつらい大人の闇には触れないでおくことにした。下手に触れると土日出勤の話まで出てきそうだ。

 しかしまぁ「月火水木金土日」の七曜はなじみがあるのでザラメにも理解はしやすい。

 ちなみに【雷】は基本的に【火】の属性分類として扱われるようだ。


▽「そいえば“斬撃耐性”とかみるけど物理攻撃にも属性あんの?」


「え、えーと……」


 錬金術の資料本にはなさそうなので冒険の書の基本マニュアルを確認し。


「物理攻撃は【斬】【打】【突】に分かれます。切断、打撃、刺突にそれぞれ対応する……。刀狩りのウォーターローブにはそういえば打撃耐性がないんでした……」


▽「黒騎士様の重装防具は【斬】【打】【突】全耐性つきですのよ」


▽「そりゃ物理攻撃には滅法つよいわけだ」


▽「じゃあ打撃耐性防具は作っておきたいところだね」


▽「次にあったら焼き魚にしてやろうぜ!」


▽「盗人死すべし慈悲はない」


(嫌われてるなぁシチくん……)


 観測者目線だと当然の評価なのでザラメも無闇にシチをかばったりはしないし、このドラマギは武器と防具にも耐久値があるので複数の装備を備えるのは望むところではある。


「さて、と。ここで亡霊素材をどばどばーっと」


▽「おわ、えらい量を投入したな!」


▽「雑」


▽「なんか怨念がうめいてない?」


「上質な錬金釜があれば中和剤みたいな低難易度調合なら一度に多数ぶっこんでも成功率が下がらないんですよ。錬成陣だけでやるより素早く大量に調合できて助かります」


 ザラメはミニゲームのように成分が沈殿しないよう魔法の杖で錬金釜を掻き混ぜる。

 リズムに合わせてタイミングよくボタンを押そう、的なノリだ。

 八割方は素材投入段階で調合結果は決まるが、最後に手作業を欠かすことはできない。


「ふんふふんふふーん♪ よし、調合完了です!」


▽「カップ麺くらいの調合時間」


▽「三分でも大鍋をまわしつづけるのけっこうしんどいぞ?」


▽「えっへんどやの助」


 完成したのは【紫の中和剤】×25個だ。

 個別に性能は異なるが、おおよそ品質はまぁまぁ良くて付与効果などがバラけている。

 投入した素材の品質とザラメのレベルを鑑みれば、設備の分だけ良好な結果といえる。


「この調子で【赤】【青】【緑】【黄】【白】も作って、と」


 ザラメは下級素材倉庫からそれっぽい安価な素材を見繕って、手持ちの雑な素材アイテムの在庫処分も兼ねて一気に各種中和剤を大量生産する。

 合計100個を越える中和剤の作成に、なんと15分で事足りてしまった。

 これだけで創出錬成を繰り返しても、設備のおかげでEP消費は余裕綽々だったりする。


「ユキチくん達と合流するまでまだ時間があるはず……それまでになにを作るべきか」


▽「ひとまず打撃耐性防具じゃね?」


▽「ザラメちゃーん! ゆきっちの武器と防具つくってあげよーよ!」


「ゆ、ゆきっち……それはアリなんですけど、優先する理由がなにかあるんですか?」


▽「ゆきっちの武器と防具耐久値けっこうギリギリっぽいんだよねー」


「……あ」


 甲板の上、銀剣の殺人鬼との対決時、その致命的一撃を回避させるためにザラメはユキチに【小火の術式】をぶちあて、ノックバック効果を発生させた。


 それは見事な機転だったつもりだけれど、我ながら魔法火力はレベル不相応にずばぬけて高いのでその他諸々の消耗も相まって、確かに耐久値が大きく減っていそうだ。


「そう……、ですね。中衛のユキチくんを後衛のわたしより優先しましょうか」


▽「ユキチの防具か、魔法剣士タイプだよね」


▽「サポート型の操霊術師と軽戦士を兼ねてて【軽装防具A】と【回避術A】持ちだね」


▽「Aランク防具なら作成難易度が上がるけどいけるかな」


▽「ザラメちゃんのステとこの設備ならいけるんじゃないかな」


▽「スノーマンは火属性弱点だから火耐性を意識してつけてあげたいね」


「……はっ」


 火属性弱点。あの時、それはすっかり忘れていた。

 ノックバック効果を与えるだけなら他の小威力射撃でもよかったのに、つい普段遣いで使用頻度が高い小火の術式をとっさにぶっぱなしていたのだ。


(あれ、効果はばつぐんだったんだ……! ああぁぁ……!)


 今更ながらに青ざめる。

 ユキチくん、なにも文句を言わないものだから気づかなかった。


「全力で作ります! はい!」


 ザラメは観測者らに助言をもらい、資料本や素材倉庫を活用して【糸】や【布】をテキパキと作って効率よく、そして丁寧に一着の防具を錬成する。

 悪戦苦闘した昨日とは違い、一段階強くなった分だけ手際もよく、上等な設備と資料のおかげで作業は大いに捗った。


「錬金繊維もクロースも一度にいっぱい安定して生成できる! すごい! 楽しい!」


▽「燃えておる」


▽「将来はファッションデザイナーさんかな?」


▽「何度みても魔法釜ぐるぐるで織布でてくるの機織り機の立場ねぇな」


▽「そこは3Dプリンター的な解釈で」


 最終工程。

 錬成陣に指示語となる魔法言語を書き足して唱える。


「我が希望を紡績せよ! 縦糸、横糸、交えて紡げ! 練りて金糸の螺旋を紡げ!」


 天に杖をかざして、ザラメは叫ぶ。


「調合錬金! 【創出錬成】!!」


 錬金釜が激しく明滅する。

 水属性と神秘属性のエッセンスが解放され、水飛沫を渦巻かせてうねりをあげた。


 轟音をあげる大渦。

 その荒々しさの中、ローブや魔法針、クロースなど素材が霧散して解けてゆく。

 それは次第に静かに浮遊する水の大玉にまとまって、パシャンと弾けた。

 シャボン玉の泡が幻想的に舞う中、ついにソレは完成する。


【黒き水鏡のウォータークロース[275,000DM]】


【分類:軽装非金属 装備ランク:A 防御力:高 斬撃耐性:中 打撃耐性:中 水氷耐性:中 火耐性:中 神秘耐性:中 物理耐性:小 呪力強化:中 水中適性:中】

【特殊効果『昏き怨念』:装備者へ攻撃した敵に呪いの状態異常を中確率で付与】


【品質:★★★★★】


 ザラメは最高品質に仕上がった闇と水の力を宿した防具を観測者へ見せびらかす。

 さらに完成の瞬間、成長の鍵を獲得したことを知らせる通知も届いた。


「パーフェクトに完成! そしてレベルアップ! やった! やってやりましたよ!!」


▽「レベル5到達おめっとー!」


▽「完成おめでとー」


▽「刀狩りから評価額+20万くらい稼いどる」


 大喜びするザラメと観測者らのコメントをよそに、不吉な黒い防具は妖しく輝く。

 【紫の中和剤】や船幽霊素材をたっぷりと使ったせいだろう。


▽「……いやこれ怖くね?」


▽「呪いパッシブでばらまく防具って……」


▽「一度着けたらはずせないやーつ」


「ユキチくん喜んでくれるかなー♪ えっへへへー」


 ザラメは達成感に狂喜乱舞して不都合なコメントを聞き流すのだった。

毎度お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
すごいのができましたね! 私ゲームほとんどしないので、錬金術師が今のゲームにいるのかわからないのですけど、ドラマギを堪能したかったザラメちゃんの気持ち、分かりました! 錬成、カッコイイ! ユキチくん、…
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