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ドラコマギア・オンライン -死者蘇生の秘法《エリクサー》をさがして-  作者: シロクマ
第二章 第二帝都パインフラッド

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069.錬金工房を借りるには

 第二帝都錬金術協会には外部向けに一般利用ができる錬金工房がある。

 利用料の支払いこそ求められるが、プレイヤーが独自に錬金工房を構えて設備を整えるよりは遥かに効率がよく、各地を転々とする冒険者の錬金術師には重宝する。


 錬金工房は十三の個室と四つの倉庫、∪字型の通路から構成されている。U字の二股に別れた最奥に倉庫があり、左右と中央に個室、下端に出入り口や受付が配置されている。


「あの、錬金工房のレンタルをおねがいしたいのですが」


「ザラメ・トリスマギストス様ですね。協会長よりお話は伺っております。お好きな空室をお選びください。工房のランクは初級、中級、上級からお選びいただけます」


「うっ……」


 料金表はわかりやすく、初級がもっとも安く、上級がもっとも高い。法外な値段でもないが、初級と上級で50倍近いの利用料の差があるのは気後れするものがある。


▽「なにこれ高くない? おこづかい足りるのザラメちゃん」


▽「このカラオケ屋ぼったくりじゃん」


「歌いませんが!? 上級工房はレベル9~11くらいの、黒騎士さんみたいな上位勢向けでしょうから普通に払える額面なんですよ、きっと。初級工房はレベル4以下向けですし、ここは……」


▽「これお兄様のコネで無料で借りれるのでは?」


▽「協会長の妹だもんね」


「えぇ……」


 気まずい。気後れする。

 値切り交渉のような、相手に損を求める提案を自らするのはザラメにはハードルが高い。

 というより非接触電子決済社会を生きる小学生にとって、もはや物理貨幣で支払うことさえやや古めかしくて物珍しいのに、そこを大人はわかっていない。


(相手はNPC、機械といっしょ……なにも恥ずかしくないない……)


▽「無料にすんじゃなくて保護者に請求すればよくね?」


▽「お兄様ゴチです」


「はぁ!? ……えと、あの、もしかして利用料金ってシロップ・トリスマギストスに請求できたりしちゃったりしませんでしょうか? わたしの保護者、なんですけど……」


「協会長のシロップ様へ、ですか」


 例外的処理。

 NPCの受付嬢はしばし黙考する素振りを見せる。シロップもだが、通常のプレイングで想定外の出来事に対してNPCはしばしば硬直を示す。


 NPCは個々に独自のAIで判断するが、それだけでは無秩序になる。個別のAIを管理するより上位の全体のAIがあり、迷ったらその判断を仰ぐのだろう。


「わかりました。協会長シロップ・トリスマギストスに利用料を請求いたします」


「……あ、いいんだ。では、この上級工房三号室を丸一日……」


「かしこまりました」


 ザラメは金色の上級鍵を受け取って、なんとも複雑な心境になる。

 四の五の言ってられない状況下なので所持金はなるべく減らしたくないわけだが、ただでさえ12億5000万DMの身代金を支払ったシロップにさらにツケ払いさせるとは。

 協会長権限やNPCやら考えると無害にも思えるが、これがもし人間相手なら……。


▽「よしザラメちゃん、倉庫の素材もツケで使用可能か聞いてみるんだ」


▽「レア素材いっちゃえ!」


「えぇ……」


 ずうずうしいにもほどがある。

 ザラメは優等生気質で親へのおねだりも顔色を伺うタイプだ。とても叶えられそうにない無理なおねだりなんて物心ついてからしたおぼえはない。

 そもそも他のプレイヤーにとっては不公平ともいえる特別待遇に思えて、気が引ける。

 しかし並大抵の、普通のプレイングで進行してあと十日間たらずで死者蘇生の秘法を手にすることなんて――きっとできない。


「倉庫の素材の使用料も……、! シロップ・トリスマギストスに請求できますか!」


「そうですね……」


 受付嬢は先程より長く黙考をはじめ、ザラメはドキドキと胸高鳴らせて返答を待つ。


「わかりました。協会長シロップ・トリスマギストスに使用料を請求いたします」


「……あ、いいんだ」


「ただし、一日の使用総額は50万DMまで。最上級素材は特別なチケットが必要という通常規定に基づきます。その範囲内でしたら、下級、中級、上級倉庫それぞれからお好きな素材をご使用いただけます」


「あ、ありがとうございます!」


 ザラメは思わずNPCの受付嬢相手に感謝して頭を下げてしまった。

 そんなことする意味ないのだが、もう反射的なものだった。

 頭を上げた時、受付嬢のNPCは朗らかに、微笑ましそうにザラメを見守ってくれていた。


 ふと名札には『レイチェル』と記されていることに気づく。

 NPCの名前なんてすべてをおぼえている必要はきっとない。でも。

 たとえ機械仕掛けの人形だとしても、親切な相手の名前くらいおぼえておきたかった。


「レイチェル……さん、本当に、ありがとうございます」


「どうぞお気になさらず。その代わり――」


「その代わり?」


「協会長に私のことを、それとなく、よろしく伝えてくれるとうれしいです、はい」


 錬金工房の受付嬢……レイチェルは少々恥じらうような仕草でそう言った。

 ザラメはなんのこっちゃと不思議がるが、すぐさま観測者が「昇進狙いかな」「いや惚れてんじゃね?」と憶測を述べはじめた。


(……あ、そっか。NPC同士にも人間関係とかあるんだった)


 受付嬢のレイチェルは協会長シロップに良い印象を与えてアピールがしたい。

 そう考えた時、業務上特別待遇してしまうことにやや問題があっても、協会長の妹ザラメに良くしておいた方が都合がいいという話になる。


 清楚で品行方正そうな受付嬢だったからつい人型自動販売機のようなものと考えてしまったが、NPCにも思惑や感情があるのだった。


 そして不思議と、兄シロップのそれと違い、レイチェルの小市民的なありふれた自分本位な損得勘定は、ザラメにも受け入れやすいものだった。


「はい! 兄にはよく言い聞かせておきます!」


 そうザラメは快活に答えた。

 何より、魂胆のわかる相手と交換条件つきで取引するのはわかりやすくていい。

 一方的に損をさせる交渉は気が引けるけれど、両者両得win-winなら気兼ねない。


「では、お借りします!」


「はい、楽しんで。どうか錬金術に金色の栄えあれ」


 受付嬢のレイチェルに見送られて上級個室へ。

 錬金工房の上級個室はこれでもかと設備が整い、しかも綺麗に整理整頓されている。資料本も書架に備えつけてあり、錬金術を補佐するうさんくさい道具がいっぱいだ。


 フラスコ、ビーカー、魔法陣、骨格標本、謎の機械……。

 黒魔術と理科の実験室を混ぜ合わせたような室内はなんとも妖しく楽しげだ。

 とりわけ注目すべきは上等な錬金釜だ。

 そもそも錬金術には大きく分けて二種類、やり方がある。


【アイテムカード】

【錬成陣】


 【アイテムカード】はアイテム側に簡易錬成陣を施すことで携帯性や即応性を高めて錬成が迅速で手軽になる分、消費するEPが大きくなる。

 【錬成陣】はアイテムをそのまま使用できる分、消費するEPが小さくて済む。

 乱雑に言い換えれば、前者はおにぎり、後者は茶碗のごはんのような差異といえる。

 そして錬金釜の有無は、飯盒炊飯と電子炊飯器くらい効率が違ってくる。


「さあて、なーにを作りますやら」


 50万DMの選べる素材アイテム、豊富な資料書、上等な設備――。

 昨日、刀狩りのウォーターローブを劣悪な環境下で悪戦苦闘して作った時とは大違いだ。


「ふひ、ふひひひひ……っ!」


 ザラメはぺろっと舌なめずりをした。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。

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