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068.成長の鍵を求めて

 プレイヤーは冒険者として活動する上で舞台設定上とある制約がある。


【冒険の書】


 ゲーム上のあらゆる個人データを管理するデータパッドの所持携帯強制だ。

 冒険の書はプレイヤーとノンプレイヤー(NPC)を区分する最大の要因である。

 各種パラメーターの管理やデータの閲覧に通信機能など、本来この世界観における通常のNPC冒険者には持ち得ない恩恵が多数ある。

 この冒険の書はプレイヤーと完全に紐づけられて不正な譲渡も破壊も改竄もできない。


 ゲーム舞台上では身分証明書も兼ねており、冒険者にあちこちを自由に活動する権限が与えられているのもこの冒険の書のおかげだとされている。

 ここでひとつ問題は、この冒険の書を身分証として掲示することが多いために、行動履歴がしっかりと世界観上でも記録・共有されてしまう、ということだ。


「なるほど。もしどこかに逃げても、カンタンに記録をたどって追跡できる……と」


 ザラメは観測者――小妖精のささやきに得心する。

 現在、ユキチ第二隊は五人で冒険者ギルド窓口に掛け合い、情報収集中だ。

 ザラメは六人目である。


 【五輪の過保護】


 このドラコマギアオンラインは上限5人のパーティ制なのでザラメは余剰人員になる。

 六人を越えると合同パーティになるが、ゲームの都合で様々な効率が鈍化する。

 その最たるものが冒険者ギルドの窓口一つの対応パーティは一つまで、というお役所仕事だ。これがとてもめんどくさい。


 例えば『依頼A』を受注するには『パーティA』がまず受注、そして『パーティB』に共有するという手順を踏み、『合同パーティA+B』として受注を受けることができない。

 それで空き時間、観測者とおしゃべりしているわけだ。


▽「あたまカチカチ受付嬢」


▽「ぼっち・ざ・らめ」


「むしろ安心するんですけどね、ゲームっぽい仕草は人間っぽさがなくて」


▽「わかるわー。わかるわー」


▽「軽いAI恐怖症?」


▽「シンギュラってない証拠だもんね」


「本物そっくりすぎる偽物の世界なんて、不気味もブキミですよ。それならいっそ本物っぽくない偽物の方がわかりやすくて良いっていうか……」


 偽物。

 盗賊人魚のシチのことをつい思い返してしまう。

 偽物なのに何も偽らないシチ。

 散々な目に合わされたがどこか忌み嫌う気になれないのはそういうところだろうか。


「んー……いや、今はそれより今後のことについてです!」


▽「コンゴトモヨロシク」


▽「一週間で2レベルアップかぁ、11段階中の2はきつそう」


▽「二階級特進すれば余裕」


「にかいきゅーとくしん……?」


 ザラメが疑問を抱くとすぐに知識の修正補助フィックスアシストがその意味を示す。


「わたし死んでるじゃないかーっ!?」


▽「レベルは階級ランクじゃないぞ」


▽「元気そうなツッコミ」


▽「レベル高くなるほど成長の鍵の要求ハードル上がるからなぁ」


「……ん? じゃあ"4から5”は"6から7”のレベルアップよりはカンタンなんですか?」


 ザラメ、こてんと小首をかしげる。


▽「毎年夏休みの宿題が増えるだろう? それと同じだよ」


▽「天然うなぎを捕まえる筒状の罠は入り口の広かった穴がだんだん狭くなって最後にトゲで出られなくなるんだよ……」


▽「オッス! 筋トレは軽い負荷からはじめて少しずつ負荷を重くするんだぞ!」


▽「ゲーム沼に沈める効率的設計」


 ザラメ、困惑する。

 なにか観測者たちの地雷を踏んでしまったのだろうか。

 ここは仕切り直して、と一呼吸置いて。


「その、どうすれば“成長の鍵”を手に入れられるか教えてもらえないでしょうか?」


 と質問してみた。

 すると一層活発に、ザラメを取り囲んでいる十数の小妖精らが瞬いた。


 本題の投入に、一気に観測者のコメントは勢いづく。

 そうして玉石混交の意見が飛び交うわけだが、とりとめがないので要点を抜粋すると。


▽「錬金術をいっぱい試してみるべき」


▽「基礎経験点を稼ぐにはいろんな雑魚敵をさがして初見ボーナス狙うといいよ」


▽「生産職の成長の鍵はアイテム作成ガンガンやらんと拾えんぞ」


▽「自分のレベルより高いBOSS撃破は鉄板だけど達成済みかも」


▽「レアアイテムを鑑賞したり秘境スポットめぐりも鍵になることあるよね」


 といった考察や情報がザラメは気になった。

 改めて成長の鍵を確認すると――『レベル5』解禁条件は『成長の鍵五つ』である。

 そのうち四つを入手済みだった。



【新天地へ】『はじまりの港を旅立ち新たな冒険の地へ到達した』


【強敵の撃破】『自分のレベルを大きく越えたエネミーと戦い、乗り越えた』


【アイテム百識】『多数のレアアイテムと巡り合うことで知識が深まった』


【家族との再会】『生き別れていた兄と再び出会うことができた』



 【新天地へ】と【強敵の撃破】はレベルアップ要件としてはとてもわかりやすい。

 しかし残る二つはいささかよくわからない。


「家族との再会って……なんでシロップ兄さんが成長の鍵なんぞに」


▽「ストーリー要素が進んだからじゃね?」


▽「普通のプレイヤーもNPCとの接触で成長の鍵を得ることはあるみたいだよ。例えば復讐シナリオなら仇の手がかりを見つけたとか、恋愛シナリオなら新しい恋人候補を見つけた、とかね」


「……新しい恋人候補? 前の恋人候補にフラレでもしたんです?」


▽「ハーレム展開だね、男女問わず人気ある」


▽「ドラマギはプレイヤーの願望を分析して個別のドラマ書き起こしてくるからイケメンNPC囲って姫プレイするのは実際よくある」


「……さもありなん」


 ザラメもひとつ想像してみる。

 行く先々で魅力的な異性のNPCが現れては物語を動かし、冒険の末に勝利してその心を掴む、というのは確かにポピュラーなシナリオだって気がする。


 現実とは違う自分を演じるごっこ遊びならば、別に恋人が五人いようと関係ない。

 それを言い出せば、ゲーム上で悪人をやっつけても殺人の罪に問われることもない。


「じゃあこの“アイテム百識”ですけど、一体いつ? なぜ?」


▽「え、なんで? わからん」


▽「帝都錬金術師協会の館内であれこれアイテム見てない? たぶんそれだよ」


「……あー。研究棟やら資料室やら展示室やら色々とまぁ」


▽「ほら、小学校の行事でも博物館とか行くでしょ? あれも教育の一環だから」


「なるほど」


 偽兄シロップの案内で建物を見て回っていた時、合間にパラメーターを確認してみたら少しずつ基礎経験点が増えているのはザラメも確認している。


 ドラコマギアオンラインは戦闘だけでなく食事や観光なども経験値リソースとして評価され、初見のアイテムを調べることでも経験値が入ることはザラメも把握している。


「午前中ずっと施設を連れ回されたんですけど、レベリング作業の一環だったんですね」


▽「別に特別待遇でもないらしいよ。重要施設を見学するのはポピュラーな定番の稼ぎ」


「そうなんですか?」


▽「外国旅行したら有名な美術館や博物館にみんな行きたがるじゃん? それで何も得るものなかったら悲しくね?」


「……納得です」


 しかし多数のレアアイテムという点については妙に引っかかる。

 そうして昨日一連の行動を思い出した時、一番にレアアイテムと接触した機会といえばシチの宝物庫に閉じ込められた時だとザラメは気づく。


(……あの時かぁ)


 試しに冒険の書をチェックしてみると、シチの宝物庫にあった希少品はすべてデータが記録されている。想定外に“知識”の経験点を一気に獲得しているのだ。


(災い転じて福となす、ですかね……)


 おそらく基礎経験点はすでにレベル5に到達するには十分すぎるほど確保できている。


「あとひとつ、なにか“成長の鍵”を得るには……うーん」


▽「なやめなやめ」


▽「ナヤメ・トリスマギストス」


▽「とにかくアイテム作ろうよ! レッツ錬成!」


「……ん、錬金術師、ですしね」


 ここは第二帝都錬金術師協会、知識も設備も素材もこれほど得やすい場所は滅多にない。

 ザラメは情報収集をユキチらにゆだねて、錬金工房へと向かった。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。

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