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二話

「何の話をしていたの?」


 レイとディアロが教室に戻ってきてそれぞれ男子と女子でそれぞれ別れて囲まれる。


「レイさんと二人きりなんて羨ましいぞ!なんの話をしていたんだ?」


「質問されてた」


 簡潔に答えるディアロに全員がレイに視線を向ける。

 教室全体に響いたからよく聞こえる。

 二人きりになって質問をするとか何をしているんだと思い、手を繋いできたことを思い出す。


「告白じゃなくて?」


「はぁ!?」


 ニヤニヤとした問いにレイは声を上げる。

 ディアロは困った顔をしていた。


「いや、違うけど。本当にちょっとした質問だけ」


 レイはともかくディアロが平然と受け答えしているせいで、つまらないとクラスメイト達は飽きてしまう。

 告白も何も無いんだと理解して離れていく。


「男女二人きりでいることで色恋沙汰になるならボーナとメルとか、シャンとセン「「「「止めろ!!」」」」……違うのか?」


 ディアロの口にした名前に今度はクラスメイト達は標的を変える。

 まさか気付かなっただけでシャンとセンの二人がそうだとは思わなかった。


「違うからね!?ただ一緒にいる機会が多いだけだからね!」


「そうだよ!?そんな関係じゃないから!」


 二人は必死に否定している。

 レイは自分から興味が薄れたことにホッとしていた。


「おい。何で俺たちを一緒にした?」


「そうよ。こんな奴と付き合っているなんて勘違いしないで」


 そしてボーナとメルがディアロへと掴みかかっているのを目を逸らす。

 仲が悪いとわかっているのに付き合っていると、からかうディアロが悪いと思っていた。

 確かにいつも二人でいるが、喧嘩しているのは分かっているのだろうにと呆れている。


「お前らが男女二人でいるなら色恋沙汰にするからだろ?本当は好きな癖に素直になれないだけなんじゃないかと考えて何が悪いんだ?」


 たしかに、それは俺達も反省するが火にがぞ厘を注ぐような真似は止めてくれとクラスメイト達は思う。


「何だと!?」


「喧嘩売っているの!?」


「ぷっ」


 二人が掴みかかっているのに余裕で笑うディアロに心の中で悲鳴を上げるクラスメイト達。

 だがレイとダイキは全く心配していない。


「お互い同時に俺を掴みかかるなんて仲が良いんだな」


 楽しそうに笑うディアロに掴んでいる襟元を自分に近づかせようと引っ張る。


「「………なっ」」


 ディアロは楽しそうに二人を見て笑いながら全く動かない。

 二人がかりで力を込めても身じろぎさえしない。


「二人の共同作業か?その程度が全力なら投げるぞ」


 その言葉にクラスメイト達も思わず距離をとる。

 ボールとメルはこの状態でどうやって投げるんだと方法が想像できないで固まっていると突然、ディアロが背中を後ろに反る。

 ただその勢いが尋常ではない。

 あまりの速さに掴んでいた二人は手を放してしまい、ディアロの後ろへと投げ出される。


「すごっ!」


「うわぁ……」


 本当に投げ飛ばしたことに関心の声とひいた声が教室に響く。

 手も使わずに勢いだけで投げ飛ばせるなんて想像も出来ていなかった。


「あっ。………今度から男女二人が一緒にいたら恋人になるなら、こいつらも同じだから、止めといて」


 ディアロの言葉にそういえば、そういう話だと思い出すクラスメイト達。

 本当に投げ飛ばしたことに感心していて何の話をしていたか一瞬、忘れていた。


「…………が……った!?」


「お…がし…ぞ!」


 教師の声と走っている足音にディアロは冷や汗を流す。

 クラスメイト達もこれから何が起こるのか想像して顔を逸らす。


「ここからか!何があった!?」


「掴みかかってきたから挑発して投げ飛ばしました」


 平然と言うディアロにクラスメイト達はすげぇと心の中で一つにする。

 ディアロも最初は冷や汗を流していたが開き直ることにした結果だ。

 最初にからかってきたのも投げ飛ばした二人だし、手を出そうとしたのも二人だ。

 クラスメイト達もそれはそうだけどと冷や汗を流す。

 嘘は言っていないが全部を言っていない。


「………そうか。取り敢えず怪我をしてないか確認するぞ。怪我をしていたらお前も悪いからな。喧嘩を売られたからって暴力に走るな。取り敢えずは保健室に連れて行くぞ」


 教師の言葉に頷いてディアロは二人を肩に抱える。

 男も女も関係なく担ぐ姿に言いたいことはあるが運んでくれているから言いづらい。

 教師は片方の男子を預かる。


「いいか?担ぐような持ち方は止めろ。別の運びかたをしろ」


 女子はスカートだから何かの弾みで下着が見えたらまずいだろうと伝えるとディアロは納得する。

 そして、おんぶへと切り替えて運ぶ。


「あぁっ!」


 レイの悲鳴が聞こえるが教師とディアロは無視をする。

 ディアロからすればレイなら自力で何とか出来ると思っているし、本当に無理だったらすぐに誰かに助けを求めるだろうと思ったからだ。

 教師は、そういえばレイはディアロが好きという噂を思い出したが教師が意識が無い女子生徒を運んだと噂されたくないと無視をする。

 正直、生徒の色恋よりも自分の体裁の方が大事だ。

 レイには悪いがディアロに女の子を運ばせる。

 これだけで惚れるわけが無いのだから我慢してほしいと教師は思っていた。



「目が覚めた?」


 ディアロが運んでいる最中にメルの意識が目覚める。


「んん?………なっ!?」


 目が覚めると浮遊感があり出来る範囲で状況を調べると目の前の異性に抱っこをされていた。


「うわぁぁぁぁ!!?」


 あまりの恥ずかしさに顔を赤くして暴れようとするがガッシリと抑えられて何も出来ない。

 ただただ顔をディアロの身体を使って隠すことしかできない。


「体に違和感はないか?」


 ディアロはそんなメルに自分で投げて気絶させておきながら体の異変は無いか確認する。


「………ないけど?」


「先生。メルは身体に異変は感じないみたいです」


「――――!!?」


 そして隣にいる教師にそのことを伝える。

 教師に今の自分の姿を見られていることに気付いて声にならない悲鳴を上げた。


「安心しろ。俺はディアロの胸に顔を埋めていたなんて誰にも言わないから」


「―――!!?」


 教師の言葉に更に悲鳴を上げるメル。

 必死にディアロに抱き着いて何も聞こえないようにしていた。





「あれ?また事件ですか?」


 保健室に行くと養護教諭がいた。

 病院へと行って事件の内容や復讐の理由を聞いてきたせいで怪我をされたことに億劫になっている。


「すいません。軽く挑発したら掴みにきたので投げたら意識を失ってしまって」


「あまり喧嘩を売ったり買ったりしないように。たとえ本当は悪くなかったとしても、そのせいで恨みを買う時もあるんですよ」


「すいません」


 養護教諭の言葉に頭だけを下げて謝罪するディアロ。

 謝罪が軽いと少しだけ不快に感じたが、女子生徒を抱っこしていることを思い出して何も言わないことにする。

 頭だけでなく体も下げると横から見ても落としてしまいそうで不安だ。


「それとベッドを貸してもらって良いですか?いつまでも持っていると辛いですし」


「……」


「………それ女性に重いって言っているようなものだから気を付けなよ?」


「十キロでも重いのに、それ以上の重さがあるのが普通でも?」


「いや当然だろ」


 女の子に対して重いと言ってしまうディアロに教師たちはため息を吐く。

 抱っこをされているメルは思いきり身体をぐりぐりと抱きしめて痛みを与えようとしていた。

 ところどころに爪やひざを立ててさえいる。


「降ろすぞ」


 だがディアロは全く痛みを感じずにベッドへと丁寧に降ろす。

 そしてシーツを掛けて上げてその場から離れる。


「それじゃあ俺は先に教室へと戻るんで」


「あ……あぁ」


 ディアロは用は済んだと言わんばかりにさっさと保健室から出ていく。

 その姿に教師達は唖然としていた。




「良かったじゃない。何も問題は無かったみたいで」


 レイはディアロが投げた二人が直ぐに授業に戻ったことに安堵する。

 怪我をさせていたら親も出てくるかもしれなかった。


「そうだな。あの程度で怪我をしたと騒ぎ立てるような奴じゃなくて良かった」


 学校の授業が終わり二人は路地裏の近くを歩く。

 途中で出歩いている警察をよく見かける。


「ねぇ。これからも二人で一緒に行動することって結構ありそうじゃない?」


 ディアロはレイの言葉に頷く。

 何だかんだ言って二人で行動する機会は多そうだと。


「その度に付き合っているのかって聞かれるじゃない?」


 有り得そうだとディアロは深くうなずく。

 前もそれで囲まれて質問された。

 今日も二人きりになったからという理由で質問された。


「だから、もういっそのこと本当に付き合わないかしら?」


「本当にそれで良いのか?」


 流石にそれは良いのかとディアロは聞き返す。

 そんなことで付き合うことを決めるとか本気かと思っている。


「ディアロは嫌なの?」


「…………文句は無い?」


「何で疑問形よ」


「………自分の時間が減るから?」


 レイはディアロの答えを聞いてイラッとする。

 そんな理由で考え直すように言うのなら意地でも付き合おうすることにレイは決意する。


「少しでもダメかしら?たまに一緒に遊んで、それ以外の時は隣にいたいだけなんだけど?」


「よく色恋沙汰の復讐では女が金を搾り取るだけ絞って捨てたとか、男が自分以外の女に浮気したとかあったけど?」


「一緒にしないで」


 ディアロが恋愛に積極的でないのは最悪な関係に詳しくなってしまったせいじゃないかとレイは考える。


「ん?」


 そして今回の場合はディアロが被害者になった場合だ。

 先程の例に当てはまるとレイがディアロの金を搾り取ろうとしていることになる。

 ディアロからはそう見られていると理解して怒りが増す。


「私、あなたのお金を絞るだけ絞って捨てるつもりは無いんだけど?」


 ニッコリと笑ってディアロを見るレイ。

 それに対してディアロは本来、笑みとは威嚇の意味があったなと思い出す。


「あなたが私をどう思っているのか理解できたわ。実際に付き合ってみて、そうでなかったら土下座して謝罪ね」


 レイはディアロにそう思われていることに怒りが沸きあがるが、それでも離れるつもりはない。

 自業自得とはいえ色恋沙汰の悪い面を見てきたせいだと理解している。

 それでもムカつきはするし見返してやろうと思っているが。


「それで答えはどうする?」


 この賭けに付き合うのなら、どちらにしてもディアロとレイは付き合うことになる。

 レイはこの機会を逃すつもりはなかった。


「そうだな。それじゃあ俺と付き合って下さい」


「ええ。喜んで」


 ディアロからの言葉にレイは内心ガッツポーズをした。




「先輩。これから見回りですか?」


 後輩の警官、トーカは既に何人か街の中で見回りをしていることを思い出しながら確認する。

 たしかに人数が多ければ多いほど街の中は安全になるかもしれないが同時に署での仕事が回らなくなる。


「違う。探しものだ」


 探しものと教えられてトーカは首を傾げる。

 別の者に任せたら良いのに先輩が行かなきゃ行けない理由が分からない。


「………はぁ。もっと正確に言うなら復讐を相談、推奨している場所を探しにだ。路地裏でいつの間にか入っていたと言っていたしな」


「………そういえば」


 それを探し当てるのに先輩が割り当てられたのだとトーカは理解する。


「しかも全員が復讐相談事務所に入ったって言っているのに誰も場所を覚えていないんだ。その手の専門家に調べて貰っても嘘は無いみたいだし。地道に探すしか無くてな。しかも路地裏だから事件性も増える」


 先輩の言葉に厄介だなと思うトーカ。

 自分たちの居場所を漏らさないなんて徹底している。


「それは私も付いて行って良いですか?」


 トーカは自分もそんな奴らを探したいと立候補する。

 復讐を否定する権利は無いかもしれないが殺し合いを見たいからと手を回す外道は捕まえるべきだと思う。

 それを知っても感謝すらしている者もいたが、そんなものはごく少数だ。

 ほとんどが楽しみに利用されたと憤怒している。


「……まぁ、いっか。行くぞ」


 先輩の言葉にトーカは嬉しそうに頷いて付いて行った。



「まずはここですか?」


「あぁ。まずはここで探すぞ。結構、入り組んでいるし別れないで探し回ろう」


 トーカは先輩の言葉に頷く。

 路地裏では色々な者がおり、占いや怪しい薬を売っている者、様々いる。

 本当なら捕まえるべき者もいるのだろうが、優先すべきこととこの場では証拠が無いという理由で逃げられるとわかっているから何も言えない。

 たまに本当に合法的にやっている者もいるのも厄介だった。


「もう本当に!!」


「落ち着け。厄介だが本当に罪を一度も犯していない者もいるんだ。中にはワザとここにいて情報を無償で提供してくれる奴もいる」


 むしろ、その人は警察官なんじゃないかとトーカは想像する。

 そうでなくても元から協力者だろと考えていた。

 たまに捕まえる怪しい者たちの証拠は彼ら集めているのだと確信していた。


「あれ?あの子たち、何をしているの?」


 そんな中、ふとトーカは二人の男女を見つける。

 まさしく少年少女といった二人でここにいるのは似つかわしくなかった。


「お手柄だ」


 そして先輩警官は彼らを見つけたことを褒める。

 復讐相談所何てところに行けた全員が気付いたら辿り着いたと言っていたのだ。

 もしかしたら、あの二人をついて行ったらたどり着けるかもしれない。

 そして同時に止める必要があると考える。


「後をつけるぞ」


 先輩警官の言葉に頷いてトーカも後を尾いていく。


「うわっ!」


「あだっ!?」


「ごっ!」


 そうすると突然、男の子の方が転ぶ。

 あまりにも勢いよく転んだせいで男の子の後ろにあったゴミや石などが警官たちにぶつかった。


「えっ」


 一緒にいた少女は盛大に転んだ少年を心配して駆け寄り、心配を確かめたあとに声のした後ろの方向を向く。

 そこには頭と腹を抑えた警官がいて二度驚く。


「痛い……」


 少年ディアロは顔を抑えて立ち上がり後ろを向く。

 顔から転んだせいでところどころ赤くなっている。


「………警官のコスプレ?」


「いや違うでしょ。最近、警察が街の中を見回っているからそれの路地裏担当でしょ」


「まぁ路地裏の方が隠れて復讐なんてしやすいからね」


 理解があるようで何よりだと思うが、同時にわかっていて路地裏に来ている二人に怒りをわずかに抱く。

 それとも気付いていたらたどり着いたという証言から二人して意識なく来たのかと想像する。


「もしかして復讐したい者なんているのか?」


「いるけど?」


「ディアロ!?」


 レイはディアロの言葉に悲鳴を上げる。

 怪しまれるような行動をする理由が分からない。


「そうなの?」


 当然、二人の警官は目を細める。


「ただ男女で二人いるだけで付き合っているとか、いちいち聞かれるのも煩くて腹が立つ。今度は教師から頼まれた仕事で他の女の子と一緒にいるだけで浮気かと聞かれると考えるとイライラする」


「「…………そうか」」


 何かが違う答えに二人の警官は微妙な顔をする。

 でも復讐を本当にしたいのかと質問しなおす。


「何でですか?この程度で本気で復讐するとか阿保だと思うんですが?」


 当たり前のように返す少年に二人の警官はそれもそうだと頷く。

 そんなことで復讐するつもりなら、もっと多くの復讐の事件があるはずだからだ。


「それなら良いが、何で路地裏を歩いているんだ?」


「目当てのデパートに行くのに、ここが近道だからですけど」


 たしかに、ここを突き進んで出て行った先にデパートがあることは知っている。

 二人が歩いていた方向もデパートに真っすぐだったから信じられる。


「それでも路地裏を歩くのは今度から止めなさい。危険だから。チンピラとかにも襲われるんだよ?」


「?」


「ディアロ、貴方は何度も撃退しているけど頷きなさいよ。この人たちは心配してくれているんだから。今度からは路地裏を歩くのは止めるわよ。逆恨みで復讐されたら嫌だし」


 撃退しているのかと警官たちは呆れる。

 そして逆恨みでも確かに復讐をされるな、と呆れる。


「今度からは是非、路地裏を歩いていたら止めてください。それと、仕事の邪魔でなければ路地裏を出るまで一緒に来てもらえませんか?」


 少女の言葉に自己防衛がしっかりしているなと警官たちは好感を持つ。

 その頼みに快く引き受けて路地裏を出るまで一緒にいた。

 そしてディアロはそのことに誰にも気付かれず、うっすらと嗤っていた。



「「ありがとうございました」」


 ディアロとレイの二人は路地裏から出た後に警官たちへと頭を下げて礼を言う。

 警官たちも気にしなくて良いと手を振って答える。


「これからは路地裏に入らないように。自分に自信があってもだ」


 レイは当然だというように頷き、ディアロは少しだけ不満そうに頷く。


「守るためにはどんな些細な危険にも気を張らなくちゃいけないんだ。彼女を守るためだと理解しろ」


 そう言ってディアロの頭を撫でて警官は路地裏へと戻っていった。





「先輩。彼らは関係あると思いますか?」


「いや。無いだろうな」


 トーカは先輩への先程、路地裏から出した二人が復讐相談所に関係あるか確認する。

 結果は自分と同じだった。


「最近とはいえ前から警察が動いているのは相談所の者たちも知っているはずだ。それなのに平然と路地裏で堂々と歩くはずがない。あの二人は本人たちが言っていた通りデパートへの近道で通っただけだろうな」


 しかも同じ理由で関係ないと判断したことにガッツポーズをとる。

 自分の判断に間違っていないと自信が無かったせいだ。


「それにしても羨ましい。私なんて警察になるために、ほとんどの時間を勉強に費やしたのに……。後悔は無いけど、やっぱり私も青春をもっと味わえば良かった」


「………そうか」


 もう見えなくなった二人の方向を見るトーカに先輩警官はそれしか言えない。

 後悔も無いと言っていたから下手に慰めるのも違うのだと理解しているせいだ。


「取り敢えず路地裏を調べて行くぞ。まだまだ、この辺のは終わっていないからな」


 先輩の言葉に頷いてトーカは仕事を再開した。




「ねぇ、ディアロ。もしかして態と警察官たちに見つかるようにしたの?」


「そうだよ」


 レイはデパートの中にある飲食店でディアロに質問するが正解だと返される。

 自分の予想が当たっていたことにレイはため息を吐く。


「後ろから尾いてきたからな。転んだふりして思いきりぶつけてみた」


 そのために顔から転んだのかとレイは呆れる。

 顔から転ぶのも痛いだろうに、そこまで後をつけられるのが嫌なのかとため息を吐いた。


「本当に警官たちがいてよかった。これで俺たちが怪しまれることは無いだろうし」


「え?」


 レイはディアロに視線を向ける。


「俺たちが警察と出会う前から直行でデパートに向かったからな。これで別の道を歩いていたら怪しまれたかもしれないが」


「もしかして、そのために一緒に買い物に来たの?」


 レイはディアロが誘った理由を察する。

 最初から警察に自分達が容疑者から外すようにするためだったのだと。

 ディアロから誘ってきてくれたから期待していたのに。

 利用するためだったのかと少しだけため息を吐く。


「ねぇ。今日、警官と会えなかったら、また一緒に買い物に行っていたのかしら?」


「そうだけど。といっても直ぐに警官たちに出会うと思うけど」


 ディアロの言葉にレイは残念そうにため息を吐く。

 少なくとも今日、警官と会えなかったらまた一緒に買い物に行けたのだ。

 一日で会えたことが非常に残念だ。


「そういえばリィスって今度、来そうだけど。どうする?」


「………」


 レイは自分の友達が復讐するということにディアロを睨む。

 そして違和感を持つ。

 あのディアロが自分に質問していることに。

 もしかしたら復讐させたくないと言ったら協力しないのかと考える。


「………私も協力するわ」


 でもそれ以上にリィスの復讐が何なのかレイは気になっている。

 どうして復讐するのか、どうやって復讐するのか知りたい。

 そしてディアロと一緒にそれを見たい。

 最初から最後まで。


「最初から最後までちゃんと私も見たい。だから一人占めをしないで」


「わかった。でも来るかどうかは分からないよ。路地裏に警察も見回っているみたいだし」


 ディアロの言葉を聞いてレイは机の上に崩れ落ちる。

 たしかにそうだったと思い出した。

 何ならさっきも警察に会って注意を受けた。


「それと何度も言うけど絶対に姿を隠して来いよ。あれさえ着ておけばバレないだろうし」


 ディアロの言葉に頷くレイ。

 以前に一度だけ警察の前に出てしまったが全く気付かれなかった。

 それを思い出したせいで余計にワザと路地裏で警察に会ったのだと理解できてしまう。

 姿を消せる道具があるなら警察に注意を受けることも無かったのだから。


「ねぇ。リィスに預けて来てもらうってのはダメなのかしら?」


「ダメ」


 良い考えだと思ったがディアロに否定されてしまう。

 それじゃあ復讐なんて出来なくなるんじゃと思う。


「…………ディアロの愉しそうな貌をもっと観たいのに」


 ディアロの本当に愉しそうな貌を見るのは少ない。

 それを見るためだったら友人すら地獄に落とそうとするレイ。

 これからは他のバイトたちもいなくなったと考えると一人占めできると酷く嬉しそうな笑みを浮かべる。

 その顔を見てディアロも愉しそうに哂う。


「本当に良い笑みだなぁ」


 ディアロは作ってくれる弁当もあるが、レイを残して良かったと思う。

 悲惨な事件も起こすかもしれないのに愉しそうな笑みを浮かべる姿は、こちら側だ。

 酷く嬉しい笑顔を浮かべてしまう。


「………うぅ」


 レイはディアロが笑顔を浮かべて自分を見ていることに顔を赤くして、それから逃れるように頼んだパンケーキを食べていった。


「二人とも、もしかしてデートかい?」


 ディアロは話しかけてきた声の方を向くと、そこにはフィンとダイキたち生徒会のメンバーがいた。

 レイは生徒会長の疑問に少しだけ顔を赤くして頷く。

 ダイキ以外の三人は微笑ましそうにディアロたちを見て、ダイキは困惑する。


「たしか付き合っているのを否定していなかったか?」


 しかも否定したのは今日の朝だ。

 あれだけの騒ぎを起こして嘘だったのかと睨む。


「そうだけど……」


 恥ずかしそうに嬉しそうにもじもじさせるレイ。

 それで女性陣は察してニヤニヤと笑みを浮かべ、男性陣はどういうことだとディアロを睨む。


「さっき付き合うことになったんだよ」


「あっさりと付き合うことになるなら、あそこまで否定することないだろ……」


 ディアロはため息を吐いて文句を言う。

 喧嘩を売ってきた相手とはいえ怪我をさせてまで否定した癖に直ぐに付き合ったことに。

 おかげであの後ディアロを色恋沙汰でからかうのは止めようと頷き合った。


「喧嘩を売ってきた相手が悪い。それに二人でいる機会が多いからって付き合っていると、からかうとか中学生か?」


 それを言われると何も言い返せなくなってダイキは黙ってしまう。

 隣にいたフレアもたしかにと頷いてしまっていた。


「それで、どちらから告白したのかしら?」


「彼のどこが好きになったの?」


 女子たちは女子たちで楽しそうに根掘り葉掘り聞こうとしている。

 レイは顔を真っ赤にしてディアロへと助けを求めている。


「それで生徒会のメンバーは何をしているんだ?何かの買い出しか?」


「あぁ。そうなんだが助けなくて良いのか?」


 ディアロはそれを無視してダイキへと話しかける。

 助ける気は皆無だ。


「俺もどこが好きになって告白してくれたのか知らないしな」


 ディアロの言葉に目を輝かせる女性陣。

 告白したのは、どちらからか知ったから今度は好きになったところを聞こうとしている。


「………すごいな」


「あぁ、全くだ」


「俺だったら暴力に走りそうなのに耐えているな」


 ダイキとフレアはディアロの物騒な発言に勢いよく顔を向ける。

 本気で言っているのだとしたら以前、一緒に仕事をしたのにディアロのことを全くわかっていなかった。

 どうやら自分のことを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌いらしい。


「え……えっと、それは……!!ディアロにも聞いたらどうですか!?」


 レイは怒涛の質問攻めから逃げるようにディアロへと矛先を逸らす。

 女性陣は面白そうだと頷いてディアロへと振り向き、男性陣は先程の言葉もあって背筋を凍らせる。

 女性相手でも暴力に走るのか不安だ。

 もし暴力を振るいそうになったら止めなきゃいけないと身構える。


「何で告白をOKしたの!?」


「やっぱり綺麗だからかい?」


 男性陣はいつでも動けるように気を引き締め、レイは顔を逸らす。

 付き合ったといっても相手は自分のことを好きは無いのは知っている。

 ただ自分が好きにさせてみると言ったから付き合っているだけなのだから。


「料理が上手いから」


「え………?」


 だからディアロの答えにレイは酷く驚く。

 そんなことを言われるとは予想もしていなかったのだ。

 ただ好きにさせて見せるから付き合ってと言われたからと話すと想像していた。


「あと今は好きじゃなくても、好きにさせてみるから付き合ってと言われたし」


 そう思っていたら、告白する際に言った言葉もディアロは教える。

 レイは自分が告白した言葉を言われて顔を腕で隠す。

 改めて聞くと恥ずかしいからだ。


「ふぅん。それじゃあ、今はそんなにレイちゃんのこと好きじゃないんだ?」


「それが?」


 フィンはディアロへと質問するが平然と答えを返されたことに嘘ではないと納得する。

 こんな男に惚れたのかとレイへと呆れ、そして好きにさせてみせると言ったことに年下ながら尊敬してしまう。


「はぁ。レイちゃん頑張りなよ。彼は強敵みたいだ」


「分かっています。私が今までの人生で会った中でも一番、歪んでいるし感情も希薄だったりしますし」


 フィンからの応援にレイは頷くが、生徒会のメンバーは全員が背筋を凍らせる。

 頷いたときレイの顔はディアロのことを言えないくらいに歪んでいて昂揚とした笑みを浮かべている。

 ディアロのことを歪んでいると言ったが生徒会のメンバーからはレイも歪んでいると察してしまう。

 むしろレイの方がディアロよりも危険なんじゃないかと警戒をしていた。

 そもそもディアロの有能なところは見ていたが歪んでいるところは見たことがないから当然だ。

 当然、ダイキも同じクラスで仲が良いが歪んでいるところなんて見たことがない。


「ダイキ………」


「わかっています」


 流石にフレアはダイキへと声を掛け、何を言いたいのかダイキも察して頷く。

 アクアはレイを睨む。


「そろそろ食べ終わったし帰るか」


 自分の周囲で起きている空気をぶった切ってディアロは立ち上がりレイも立ち上がらせる。


「ディアロ?」


「悪いけど俺たちはそろそろ帰る。別に俺たちが付き合っていることを言いふらしても良いよ」


 ディアロはそう言ってレイの手を引いてレジへと向かい店から出ていく。

 生徒会はそれを見送るだけ。


「ダイキ。悪いけど、あの二人を気にかけてくれないかい?同じ学年で同じクラスなんだ。ディアロは一緒に仕事をしたから信頼は出来るけどレイって娘のことは知らないからね」


 あの笑みを見なければダイキは心配し過ぎだと言えた。

 だけど今は自分のほかに生徒会のメンバーが警戒する気持ちも分かるし、なんならダイキ自身がレイへと警戒している。

 わかりました、とフィンへと返事をしレイとディアロに関して普通より気を付けることに決めた。

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