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三話

 夜、リィスは誰にも告げるに孤児院を出る。

 その足取りはどこかふらついていて、まるで夢遊病者のように思える。

 街の中は既に暗く明かりもいたるところで光っている。

 だから暗い夜の中でも誰か歩いていることぐらいは判断できるし、警察も見回りとして歩いている。


「流石にこの時間は学生たちもいないですね」


「たしかにそうだが、油断はするなよ。こんな暗いからこそバレにくいんだ。もしいたら声を掛けて帰らせなきゃいけないんだ」


「分かっていますって」


 警察官たちがリィスの前を通りすれ違いながら会話をしている。

 リィスは学生なのに止めようともしていない。

 まるで気付いていないみたいだ。


「…………」


 二人の警察官がディアロたちと会った路地裏へとリィスは立ち止まる。

 そして中に入っていった。




「いらっしゃいませ」


 その声が響いた途端、リィスは意識を取り戻す。

 先程まで自分が何をしていたのかもハッキリと覚えている。

 ここまで来るまでの道のりも過程も覚えているからこそ恐怖で体が震えてしまう。

 何せ途中で警察に会ったのだ。

 今の世情では学生の自分は捕まえられて説教をされて送り届けられてもおかしくないのに、警察官たちは気付かなかった。


「本当に来たのね………」


 呆れた声が聞こえてくる。

 最初の声もそうだが男性かも女性かもわからない。

 ただ話し方で性別を予想するしかない。


「貴方たちは何……?」


「復讐相談事務所の事務員とバイトです。復讐をしたいなら協力しますよ?」


 事務員の言葉に本当かと警戒するリィス。

 何度か噂で聞いたことはあるが実物は見たことが無いから当然だ。

 それに女性である自分を操って連れてきたことで無自覚に身体を抱えてしまう。


「悪いけど信用できない。私を操って、ここに連れてくるなんて。何をされるか分かったものじゃない」


 復讐の代価に抱かれるのなら、まだ良い。

 成した後なら、よろこんで抱かれてやる。

 だけど知らぬ間に身体を操られるなら、どうなるか分かったものじゃない。


「抱くなら既にしていますよ。私は復讐を見たいだけなので。といって道具をお求めなら無料というわけではありませんし、終わったら返してもらいますけどね」


「…………貴方って無理矢理、身体を操って連れてこれるの?」


「無理だけど?」


 事務員の説明に横入りがあるが、それを否定している。

 その姿に、それじゃあ何でリィスが自分の意思ではないのに、ここに来れたのかと二人から視線を向けられる。


「単純にここに来るように誘導しただけですよ。復讐心があるなら、ここにたどり着けるように。それだけ復讐心が強かったという証拠でしょう?」


 復讐心が強いから、ここにたどり着いたという事務員にリィスは鋭い視線を向ける。

 目の前の事務員が本当か嘘かもわからない。

 だけど噂の一つには気づいたら辿り着いていたというのもあった。

 それを考えると本物の復讐相談事務所の可能性もある。


「別に金は後払いや分割でも良いですよ。絶対に返してもらいますし」


 事務員の言葉にリィスは心を動かされる。

 孤児院で済んでいるから手持ちの金も少ないが、それならバイトをしながら返せる。

 それに絶対に返してもらうと言うのなら返すまでは、他の復讐者と同じような目に合う可能性は無いはずだと想像できる。


「わかったわ。それなら貴方自身に協力してもらっても良いわよね?」


 事務員を指差して言うリィス。

 おそらくは最も何でもできるはずだと考えて事務員を選ぶ。

 その分、金額も高くなるかもしれないが後悔はない。


「………初めてだ。俺自身の力を借りようなんて。いつもは有用な道具を借りて自分の力で復讐するのがほとんどなのに」


「復讐をするのは私よ。貴方の力を借りて攫ってもらうかもしれないけど、手を出さないで」


 リィスの言葉に事務員は楽し気に笑う。

 まさか、そんな風に力を借りてくるとは思わなかった。

 通常より安くするべきか高くするべきか迷ってしまう。


「それで、そのくらいならどれくらいの費用かしら?」


「…………今回は俺を始めて使おうとしたから五十万で良いぞ」


「分かったわ。分割で少しづつ返して見せるわ」


「うわぁ……」


 リィスは即答し、レイは圧倒的な安さに引く。

 事務員の能力を考えると、かなり安いぐらいだ。

 本当に初めてのことだから特別に安くしたんだなと想像できる。


「…………それじゃあ、はい」


「これは?」


 事務員から渡された紙には連絡先が書かれてある。

 もしかしなくても事務員のだろう。


「それに連絡してくれれば手を貸してあげる。いつでも来れるわけでは無いけどな」


「………わかったわ」


 そしてレイもマントで姿を隠しながら自分と同じマントをリィスへと渡す。

 リィスへは友達でも自分だと教える気は無いらしい。

 その様子に事務員は満足げに頷いている。


「これは?」


「それは姿を隠すマント。それを着けていれば誰にも気付かれずに、ここに来れる。警察が目の前にいても気づかないだろうね」


 何でそんなものがあるんだと顔を事務員に向けるリィス。

 これさえあれば、どんな悪い事でもやりたい放題じゃないかと考える。


「いくらでも作れるとはいえ盗んだら殺すよ」


 いつの間にか目の前に事務員はリィスの後ろに回り込み右手を首に左手を抱きしめるように回して逃げられないようにする。

 そして耳元でささやかれた言葉にリィスは顔を赤くし、レイはそれを間近で光の消えた瞳で見ていた。



 リィスは事務所から出た後、マントを被って街中を歩く。

 途中、警察官を見つけたが声を掛けられないし、ふざけて前に出ても気づいたそぶりも無い。

 本当に姿を隠していて知らずのうちにテンションが上がる。

 これだけでも充分、復讐することができる。


 そして孤児院にある自分の部屋に戻り、明かりをつけてリィスはベッドに倒れた。

 マントも学生鞄の中に入れる。

 そうするとドタバタとした足音が響いてくる。


 何があったのか気になるがリィスは疲れていて動く気も無い。

 ただ自分の部屋に音が近づいてくることだけは認識していた。


「年頃の娘の部屋に侵入するなんて、どんな変態よ!?」


 孤児院全体に響くような声で入ってきたのは孤児院のスタッフ。

 何人か残っていた全員がそれぞれ武装してリィスの部屋に入ってくる。

 そして部屋にいるのか誰かを確認して空気が固まった。


「帰っていたの……?」


「そうだけど?急にどうしたのよ?」


「いや、だって。いつ帰ってきたのか知らないわよ!?帰ってきてたなら報告位はしなさい!いつの間にか出かけていたのかも気付かなかったし!」


 出かけるのはともかく帰ってきたことを伝えなかったのは確かに悪いとリィスも反省する。

 そのせいでスタッフ達も慌てて部屋の中に入ってきた。


「ごめんなさい」


「はぁ……。次からは気を付けない」


 素直に謝罪するとスタッフも気を緩めて許してくれる。

 どうやらリィスがいつの間にか孤児院から外に出ていた分も気を張っていたようだ。

 安心したように息を吐いて部屋から出て行った。


「…………失敗した」


 スタッフたちが部屋から出て行ったあとリィスは崩れ落ちる。

 そして学生鞄の中に入れたマントを見る。


「扱いには気を付けないといけないわね。気軽に着脱できるから忘れていたわ」


 呆れるほどの性能の高さにため息を吐く。

 事務所では急な展開が続けて起きたせいで気にしなかったが、どこで手に入れたのか疑問だ。

 そして、気軽に渡してきたことにも戦慄する。

 もしかしたら、これ以上に危険な道具があるのかもしれないと考えさせられる。


「………今は、そんなことを考えても仕方ないわよね。取り敢えずはあの男の情報を集めるべきね」


 今後の行動をリィスは決める。

 それは自分の父母を殺した一人である男の情報だ。

 当然、学校もサボるつもりだし事務員の男の手を借りようとも思っている。


「………やっぱ、あの人って男よね」


 そこまで考えてリィスは顔を赤くして抱きしめられたことを思い出す。

 絞めるように触れられた首と抱きしめるように触れられた箇所を自分の手でも触る。

 そして自分とは違ってがっしりしていた事務員の身体をハッキリと覚えていた。


「~~~~!!」


 男性に抱きしめられたことをハッキリと自覚してリィスはベッドの上でじたばたと暴れていた。






「本当に来たのね」


 レイは事務員へと白い眼を向ける。

 本人が自分の意思とは関係なくに来たと言ったせいだ。

 もしかしたら、ここに来たのは事務員が操ったからだと考えてしまう。

 事務員本人は操ることは出来ないと言ったがレイからすれば、それこそ信じられないことだ。


「操ることは出来ないよ。誘導はするけど」


 それは結局、事務員の掌の上じゃないかとため息を吐く。


「別に良いだろう?結局、復讐するかしないかは相手に任せているんだ。復讐をしないと言うなら、それを尊重する」


「いや貴方、復讐したくてたまらない相手ばかり、この事務所に来るじゃない」


「そういうふうな奴ばかり来るようにしているからな」


 レイは詳しく聞いても理屈は分からないだろうから聞こうとしない。

 聞いても頭がおかしくなるだけだ。


「………それで何でリィスを抱きしめたのかしら?」


「………?」


 事務員はレイの言葉に首を傾げる。

 事務員としてはリィスを抱きしめているつもりは一切なかった。

 単純に、お前には察知できない速度で動けて何時でも殺せると脅している気分だった。

 なぜレイが睨んでいるのか理解できなかった。


「どうせ女の子のにおいを嗅いでいたんでしょ?」


「たしかに匂いを嗅いだが、あんなに接近して嗅ぐなという方が無理だと思うけど?」


「喧嘩、売ってんのか」


 自分から言ったが肯定してきたことにレイは静かにキレる。

 告白してOKをしたくせに他の女の子を抱きしめるなんてブチ切れ案件だ。

 しかも匂いまで嗅いでいる。


「ハッキリ言って第三者から見れば抱きしめているようにしか見えなかったんだけど?」


「首を絞めるように触ったのに?」


「だからよ。それに首を絞められた際に命を握られた感覚もあるだろうし……!」


 レイはリィスが首を絞められていたときの表情を思い出す。

 あれは確実に事務員へと意識をしていた。


「…………???」


 事務員は更に困惑する。

 普通、首を絞める動作をすれば怯えるはずだと考えていたからだ。

 何でレイが警戒をし嫉妬しているのか分からない。


「………」


「ちょっ………あ」


 だから何となくレイにもリィスにやったように逃がさないように腕を回して首を絞める。

 そうして聞こえてきた声に事務員はマゾなのかな?と意識を宇宙に飛ばしてしまった。




「リィスはいないのか?誰か聞いていないか?」


 次の日、リィスは学校を休んだ。

 学校にも連絡をしていないし、孤児院にも休むことを伝えていない。

 完全なサボりだ。

 クラスの中には心配してざわついている者もいる。


「「…………」」


 その中でディアロとレイは静かにリィスの席を見つめている。

 今頃、何をしているのか想像をして内心、楽しそうに笑っていた。





「………ここね」


 そしてリィスは以前に見つけた男の家の中に入る。

 当然だが事務員たちに貰ったマントを着けており、そのお陰で家の中に入っても気付かれない。


「お父さん、お母さん。おはよう!」


「おはよう」


「おはよう。髪が跳ねているわよ。こちらに来なさい」


「えっ、うそ!?」


 可愛らしい女の子と仲の良い両親。

 他人を殺してお金まで奪った奴らだと思うと反吐が出そうになる。

 女の人も両親を殺した一人だったことに絶好の機会だと思う。

 きっと、この可愛らしい女の子もいずれ人を殺してお金を奪うのだろうと考えると殺し方が世のためかもしれない。


「大きくなりたいんなら、いっぱい食べろよ?」


「うん!」


 仲の良い家族にリィスは自分の過去を思い出す。

 この二人に殺されるまでは幸せだった。


「リィスちゃん!学校いこー!!」


 自分の名前を呼ばれたと思いリィスは反応してしまう。

 物音を立てなかったのは偶然だ。


「わかったー!それじゃあ行ってきます!」


「気を付けるんだぞ」


「えぇ、行ってらっしゃい」


 リィスと呼ばれて返事をしたのは二人の娘だった。

 そのことにリィスは目を見開く。

 なぜ自分と同じ名前なのか偶然だとしても、そんなことがあるのかと考えてしまう。


「本当に良い子に育っているな」


「えぇ。私たちが殺してしまった二人の子と同じ名前を使ったけど代わりに長生きしてほしいわ」




 ………は?

 この二人が何を言っているのか意味が分からなかった。

 まるで私が既に死んでいるかのようなことを言っている。

 私は生きているのに。


「まさか死んでしまっているなんて。せめて謝罪をしたかった」


「そうね。私たちは墓の位置さえ教えてもらえなかったわね」


 もしかしたら死んだと誤情報を与えられたのかもしれない。

 だけど、それ以上に私の両親を殺しておいて今更後悔するなんてふざけている。

 もうお父さんもお母さんも帰ってこないのに!


「また警察に行こう。今度こそ墓の場所を教えてもらって花だけでも添えたい」


「そうね」


 本当にふざけている。

 まずは最初にこの二人を地獄に墜とす。

 手始めに私と同じ名前を持っているあの子を殺そう。

 この二人の子供でありながら私と同じ名前を持ち、この二人だからこそ将来私にされたことをすると考えると忌々しい。

 実力者だとわからせられた事務員もいる。

 彼と協力して、私と同じ名前を持ったあの子を早速、誘拐しましょう。




「…………出ないわね」


 リィスは男の家から出て事務員に連絡する。

 だが全く電話に出ない。

 たしかに何時でも出れるわけでは無いと言ったが、せっかくのチャンスなのに残念だ。

 マントを被っているから透明だが音まで隠せるわけじゃない。

 それに忌々しいことに人目の多い道を歩いている。

 きっと、あの事務員ならそれでも誘拐できていたと思うと憂鬱だ。


「今回は無理ね。はぁ、今度直接事務所に行って大丈夫な日を確認しないと」


 深くため息を吐く。

 折角、行動しようと思ったのに無理なのは気持ちが萎えてしまう。

 学校もサボってしまったし、どうするかと考える。


「はぁ。たしか図書館にパソコンがあったよね?」


 調べものをするのに使えないかとリィスは考える。

 取り敢えず使えるかどうか確認しようと決めリィスは図書館に行くことを決めた。

 調べるのは当然、自分の身に起きた事件のことだ。


「すいません。ここってパソコンで調べものって出来ますか?」


 マントを脱いで訪ねる少女に図書館の受付は目を見開く。

 明らかに学生だとわかる年齢の少女が平日の今日にこんな時間からいるのだから驚くのは当然だ。


「学生よね?学校は?」


「すいませんけど、そんなことより調べたいものがあるんです。出来るかどうか教えてください」


 そんなことと言われて不満を抱くが目の前の少女は真剣に頼み込んでいる。

 勉強は大事だと言いたいが、その真剣な表情に何を調べたいのか聞いてから決断しようと受けつけは決めた。


「何に対して調べるつもりですか?」


「昔、私と両親に対して危害を与えた者について」


 そう言ったリィスの瞳には憎しみが溢れている。

 それを察知して受付も嘘は言っていないと理解できてしまう。

 だが、このままだと犯罪者相手に汚す必要のない手を汚すかもしれないと心配してしまう。


「私はどうして両親を殺したのか知りたい。警察に捕まったらしいし、殺した相手の娘なら面会も出来ると思ったのよ」


 続けられた言葉に、そういうことかと安心する。

 警察に捕まっていて面会をするなら復讐として殺すことも出来ない。

 それなら構わないと案内をする。


「そういえば彼女、どこかで見たような……?」


 リィスを案内したあと、どこか見たかと受け付けは考え込む。

 思い出したのは、調べ終わったとしてリィスが帰った後。

 陸上で有望な選手だと思い出して迷惑を考えずに声を上げてしまっていた。



「………ふぅん」


 満足げに、そして不満げにリィスは図書館で調べた情報を見る。

 それは主犯の一人は死刑になり、他の三人は主犯に殺されたと書いてあった。

 死因は金欲しさに分配に文句のあった三人を殺したらしい。

 それが死刑となった理由のようだ。

 残った二人は殺した姿を見て全面的に従うことで生き残れたらしい。


「残ったのは二人だけか」


 全員に復讐したかったのに生きているのは二人だけという現実にリィスは残念に思っていた。

 復讐できない四人の分も含めて復讐しようと考える。


「………それにしても、名前と写真も載っているのね」


 これは好都合だとリィスは笑う。

 上手くいけば孤立させることも出来る。


「…………クライとライムね」


 残った二人の名前を口にだして覚える。

 当然ながら、怨嗟が溢れている。

 今すぐに殺してやりたいという気持ちとじっくりゆっくりと苦しめてやりたいという気持ちがぶつかり合っていた。


「どうせなら子供も苦しめましょう。それを見させて上げるのも良いわね。やっぱり子供が一番苦しむのは苛めよね。どうやって苛めの被害に合わせようかしら?」


 リィスはどうやって苦しめれば良いか悩む。

 だが直ぐに事務員のことを思い出す。

 彼に相談すれば良い考えが浮かぶはずだと考え着いた。





「…………そういえば俺は昨日からレイと付き合うことになったから」


 ディアロは学校で休み時間にレイと付き合うことになったことを報告する。


「ちょっ……!」


「「「「「「「は?」」」」」」」


 ディアロの突然の行動にレイは顔を赤くし、クラスメイト達は何を言われたのか最初は理解しなかった。

 そしてレイへと視線を向け、頷いたのを把握して絶叫の声を上げる。


「はぁぁぁあぁ!!?」


 二人が付き合うことになったということに喜びの歓声と急なことに頭が追い付けずにいたせいだ。

 レイは顔を赤くして顔をうつ伏せにして隠し、ディアロは平然と次の授業の準備をしている。


「「「もうちょっと嬉しそうにしたら!?」」」


 あくまでもいつも通りなディアロにツッコミが響く。

 付き合ったことを報告するぐらいだから嬉しいんじゃないのかと思ったのに、どこまで普段どおりなディアロ。

 レイは顔を赤くしながらも、どこか嬉しそうなのに全く違う。

 これでレイが違う反応をしていたら全く信じられなった。


「貴方は知らないと思うけどレイはずっとディアロのことが好きだったのよ!」


「ちょっ……!」


「そうよ!本人は隠していたつもりだったみたいだけど見てて分かりやすいぐらいに貴方にアプローチしてたじゃない!」


「まっ……!」


「それなのに平然とスルーしたりして!何で今も平然としているのよ!少しは喜んだら!?」


「めっちゃ嬉しいけど」


「あぅ」


「「「「「もっと顔に出せ!」」」」」


 最初は女子たちが文句を言っていたが最後には男子も揃って文句を言う。

 恋人が出来たくせに全く浮かれる姿の無いディアロは本当に喜んでいるのか疑問だ。


「そう言われても。ぶっちゃけ今はそれよりも面白そうな事があるし」


「「「「「「は?」」」」」


 恋人作っておきながら、それよりもというディアロに睨みつけるクラスメイト達。

 レイも文句を言えと見るが、そこには深く頷いている姿があった。


「レイさん?」


「何?」


「あのさっき、恋人になって喜ぶよりも愉しそうなことがあるって言っていたけど……」


「それは事実よ。私も楽しみだし」


 楽しそうに笑っているレイに文句は無さそうだと理解する。

 そして恋人二人が同じことで楽しそうにしていることに外野が文句を言うのはお門違いだと二人は考え直した。


「なぁ、二人が楽しみにしていることって何なんだ?」


 そんな中、一人のクラスメイトが質問してくる。

 二人が同じことに対して楽しそうにしているのは理解できるが内容は何一つ語っていない。

 この二人が楽しみにしているなら自分達も興味があると教えてもらおうとする。


「悪いわね。私としては個人としても楽しみだし、その時に見せるディアロの顔も独占したいのよ」


 そんなに楽しみなのかと興味が更にわいてしまう。


「邪魔しないから教えてくれ!」


「嫌よ」


「ディアロは?」


「女子は男子が玩具で遊んでいたら子供っぽいと呆れるし、男子は女子が好きなタルトとケーキの違いが分からないやつもいるだろ。俺とレイは偶々同じ感性を持っているけど、他人には引かれるから教えない」


 ディアロの言葉に納得する者もいるし、いない者もいる。

 それでも教えて欲しいと頼む者もいる。


「いやだ」


「頼む!」


「それよりも、さっさと次の授業の準備をしたら?」


「話を逸らすな!そんなことよりも教えてくれ!」


 その言葉にディアロはため息を吐く。


「おい!ため息を………「何がそんなことなんだ?」え?」


 聞きなれた教師の声が聞こえてくる。

 声のした方向を見ると教師が教室の中に入ってきている。


「準備をしているのはディアロ君とレイさんだけか……」


 その言葉に二人を見ると確かに準備をしていた。

 しかもディアロは分かるがレイはいつの間に準備をしていたのか理解できない。

 先程まで顔を赤くしたり、否定したりと忙しなかったはずなのに。


「取り合えず、そこの二人以外はさっさと授業の準備をしな」


「「「「「ハイ!!」」」」」


 表情は笑っているが目が全く笑っていない教師の言葉に全員が急いで授業の準備を始めた。



「ねぇ。告白はどっちからしたの?」


 クラスメイトの女子の言葉にレイは顔を赤くする。

 授業が終わったら、レイのいる席へと女子のほとんどが集まっている。


「ズルいぞ、ディアロ。レイさんと付き合えるなんて」


 そして男子たちのほとんどはディアロの席へと集まって背中を叩いたりした。


「別に良いだろ?お前らがまくしたてるから付き合うことに決めたんだ。文句を言うなら、まくしたてなければ良かったんだ」


 マジでという視線を二人に向けるクラスメイト達。

 レイはそれに頷く。


「そうなんだ。最初に口にしたのはどっち?」


 だからと言って最初に付き合うと口にしたのはどちらかと気になる者もいる。

 それに対してディアロは当たり前のようにレイだと口にして教え、レイは逃げようと立ち上がる。

 だが、もともと囲まれていたために直ぐに女子のクラスメイト達に捕まる。


「そうなんだ~。それで、どんな告白を受けたの?」


 更に詳しく聞こうとするクラスメイト達。

 レイは顔を真っ赤にして逃げようとしているがクラスメイトたちに抑えられて逃げられない。


「なんかレイ、いじめられているみたいだな」


 突然、変なことを言い出したディアロに空気が困惑する。

 何でそう思ったのか分からないと本気でクラスメイトたちは本気で思っている。


「一人の女子を数人で抑え込んで逃げられないようにするって、何も知らない者から見ればそう思われてもおかしくないだろ」


 ディアロの言葉に女子たちは自分の現在の状況を客観的に見る。

 そして確かにとディアロの言葉に納得してレイを離した。


「何で教えるのよ!?」


「どうせ何度も聞いてくるなら教えた方が良いじゃん。俺たちが付き合ったのも何度もからかわれるから、いっそ付き合うことにしようってなったんだし」


「そうだけど、そうなんだけど……!」


 たしかにしつこいのは分かるが、それでも黙っていてほしかったとレイは頭を抱える。

 かなり恥ずかしい。


 クラスメイト達はそんなレイたちにマジかよと視線を向けていた。

 そんな理由と告白で受け入れたのかと。

 レイもレイで付き合うのに手段を選んでいない。


「そんなにディアロ君のことが好きだったのね……」


「付き合うために絶好の機会を見逃さないなんて流石ね……」


 女子のクラスメイトたちの言葉に顔を赤くして誰にも見えないように必死に隠す。

 その姿に更にニヤニヤとした笑みを浮かべるだけだ。


「ねぇ。ディアロ君、すっごくディアロ君のことレイさんは好きみたいだけど、どう思う?」


「普通に嬉しいけど……」


 ディアロの言葉に今度はディアロに対してニヤニヤとする笑みを浮かべる。

 レイは耳まで顔が真っ赤だ。


「ねぇ、ディアロ君ってレイの一番何が好き?」


 ディアロならこれまでの会話から簡単に教えてくれそうだと思ったのもある。

 クラスメイト達の数人はレイの方を見て少しだけ反応したのを確認している。


「料理だな。前から作って渡してくれたけど、これがかなり美味い」


 思い出しているのか本当に美味しそうに告げるディアロに羨ましいと気持ちと微笑ましい気持ち、そして呆れの視線を向けてしまう。

 綺麗な女子の手料理を食べれて羨ましいと思うし、健気に作っているレイが微笑ましいと思う。

 呆れるのは、それだけのことをされていて告白されるまで付き合わなかったということ。

 そこまでされているならディアロから告白しろよとクラスメイト達のほとんどが考えていた。


「今日はリィスがいないけど、いたら説教されていたんじゃない?」


「そうだよね。リィスとレイさんって仲が良いし。今日はいなくて良かったね」


「お前ら今日はいなくても来たら教えるつもりだっただろ」


 ディアロをからかおうとするが反論されて目を逸らしてしまう。

 それでもとディアロに対して教えられたくなければ何か奢れと脅そうとする。


「好きにすれば良いだろ?最終的にお前らだけだとズルいと言われて全員に奢ることになるよりはマシだし」


 ディアロの言葉に思わず奢らせようとした者も納得してしまう。

 確かに数人だけ黙ってもらうために奢ることになると、他の奢ってもらえなかった者達から不満が出る。

 そして結局は奢らなきゃバラすと全員から言われることも想像できる。

 全員に奢るかリィスに怒るかの二択でディアロは怒られることを選んだ。


「それにしてもリィスはどうしたんだろうな?」


「そうよね。いつも元気で病気とかする様子もないのに」


「しかも先生たちにも連絡はまだ来てないんだろう?」


 リィスの名前が出てきてクラスメイト達はそちらのことについて話し合う。

 突然の休みで、どうしても心配の様だ。

 ディアロやレイを必要以上にからかおうとしているのも、あまり考えすぎないようにしているせいかもしれない。


「ねぇ、どう思う?」


 心配そうにレイに質問する。


「多分、まだ大丈夫だと思うわよ?」


 そして顔をまだ隠しながらもレイは大丈夫だと答える。

 その様子に何かを知っているのではないかと思うが、多分とついていたし勘だろうとクラスメイト達は考える。

 ただ分かるのはレイがリィスを心配していないことだけ。

 それは信頼しているから心配していないのだとクラスメイト達は想像していた。

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