02霊能力転校生、望月 香織(もちづき かおり)
次の日になった。
太陽「おはよ」
7月半ばくらいからむっちゃ暑くなるんだよね。
ちょっと加減してください。
きーんこーんかーんこーん。
先生「転校生を紹介します。」
転校生「我はニンジンの化身。さあニンジンを食べよ。」
先生「間違えました。」
え?
先生「転校生を紹介します。」
香織「望月 香織と申します。」
望月さんは、ゆっくりと頭を下げた。
か、かわいい。
おかっぱの髪が日本人形を彷彿とさせる。着物が似合いそう!
香織「親の引っ越しで前の学校が遠くなりましたので、こちらに転校してきました。よろしくお願いします。」
先生「みんな仲良くしろよ。望月の席は後ろの空いてる席で・・おい望月?」
望月さんは、日向さんの隣で立ち止まった。
日向さんって言ったら、手帳に書かれたいた子のひとりだ。
【2-B 日向 美羽 攻略完了】
男のことを聞きたいけど・・・・日向さんって不良なんだよね。声かけるの怖い。
香織「あなた、悪いものが憑いていますわ。」
美羽「はぁ?」
望月さんは、なにか呪文のようなものを唱えた。
すると・・日向さんの体から大量の黒い粒子のようなものがぶわっと出て、空に舞って消えた。
みんなあっけにとられてふたりを見ていた。
日向さんも呆然としていた。ちなみに俺も。
・・
・・・・
衝撃的な転校デビューを飾った望月さんは、休み時間になると主に女の子が集まっていた。
女子生徒「ねぇねぇ、望月さんって霊能力者なの?」
香織「僧侶ですが、似たような認識で構いません。」
女子生徒「僧侶ってことは尼さん?」
香織「未成年だと沙弥尼になります。わかりにくくてすみません。」
女子生徒「いいよいいよ。すごいってことだよね♪」
女子生徒「ねぇねぇさっきのもう一度見せて♪」
香織「みなさん憑りつかれたりしておりませんので。」
女子生徒「憑りつかれたら除霊お願いね。」
香織「先ほどの方は軽かったので私でもなんとかなりましたが、もし本格的に憑りつかれたら専門家の方に相談した方がよろしいですよ。」
ザッ。
日向さんが、望月さんの前で仁王立ちになった。
美羽「さっき、あたしになにしたんだよ。」
香織「低級霊が憑りついていたから祓っただけです。」
美羽「霊・・」
香織「ここ数日おかしなことはありませんでしたか?例えば記憶が欠落していたり・・」
美羽「!?な、なんで・・」
聞き耳を立てていた俺は驚愕した。
日向さんの反応を見た感じ、あったんだろうな・・記憶の欠落が。
それはきっと、幼馴染の白河さんと同じ・・・・
望月さんの力は本物だ!
そうだ、望月さんに協力してもらえば、すごく頼りになるはずだ。
だって・・俺自身はなんの力もないから・・
・・
・・・・
休み時間になる度に望月さんのところには人が集まっていたので中々声をかける機会がなかった。
昼休みになって、ようやくチャンスが訪れた!
有馬「望月さん、ちょっといいかな?」
香織「はい、なにか?」
有馬「望月さんに見てもらいたい人がいるんだけど・・その、もしかしたら日向さんみたいな状況なのかもと思って。」
香織「ええ、構いませんわ。」
俺たちは1年の教室へ向かった。
うわぁ、こんなかわいい子と一緒に歩いてるとか超ドキドキだ!
なにか、なにか話した方がいいよね?
有馬「いきなり変な話でごめんね。どう説明していいかわからないってのもあるんだけど・・信じてもらえてよかった。」
香織「最初はこういうこともあると思っていましたわ。でも、御期待通りとは限りませんよ。」
期待通りじゃないって、俺の勘違いかもしれないってこと?
っと、1-Aの・・白河さんの教室に着いた。
俺は白河さんを呼んでもらった。
・・・・
真昼「緑川さん。」
有馬「ごめんね白河さん突然呼び出しちゃって。えっと望月さん、この人なんですが・・」
香織「・・なるほど、憑いておりますわ。」
望月さんは呪文のようなのを唱えた。
僧侶ってことは、念仏なのかな?
真昼「あ・・」
日向さんの時と同じように、白河さんの体から大量の黒い粒が出て空に消えた。
香織「これで大丈夫ですわ。しかし・・この学校はおかしなところですね。」
有馬「なにか変?」
香織「神聖なものと、不浄なものが同居している感じですわ。」
神聖なものと・・不浄なもの・・?
香織「なにか御存知なのですか?」
話した方がいいかな。でも・・とりあえず場所を変えよっか。
・・
・・・・
あまり人に聞かれていい話ってわけでもないので、中庭に移動した。
白川さんも気になるそうでついてきた。
有馬「ええと、どこから話せばいいか・・えーと、とりあえずこれを見てもらえるかな?」
真昼「・・手帳?」
香織「変わった力を感じます。こんなの初めて・・」
例のページを見せた。
真昼「なにこれ。なんで私の名前も書いてあるの?なんか気持ち悪い・・」
香織「変わった力の持ち主が書いたものです。それ以外のページは・・・・別の人です。」
そんなこともわかるのか。
俺も僧侶になればそういうことがわかるようになるのかな?
占い師のおねーさんが言うような、第六感みたいなやつ。
有馬「これを見て、なにか良くないものじゃないかと思ったんだ。」
有馬「それで占い師さんに相談したりして・・で、昨日白河さんの帰りが遅いって聞いて、捜しに行って。」
有馬「公園で男と一緒にいるのを見つけたけど、男は逃げて白河さんはなにも覚えていなくて。」
真昼「そうだったんだ・・」
有馬「日向さんになにか憑りついていたんでしょ?ほら、手帳にも日向さんの名前が書かれてあったから、もしかしたら白河さんも・・って思ったんだ。」
香織「そういうことでしたの。そしてその予想は当たっていた・・」
有馬「俺が知ってるのはここまで。というか手帳を拾ったのだって昨日の放課後だし、正直わかんないことだらけだよ。」
まだ昼だし丸一日経ってないことに驚きだよ!
香織「緑川さんってすごいですね。手帳を拾っただけで悪しき計画を見抜き人を助けられるなんて。」
有馬「え?いや・・」
なんか俺がすごいって実感ないや。
占い師のおねーさんや、望月さんのおかげって気がする。
でも望月さんみたいなかわいい子に言われると超嬉しい。
有馬「望月さんの方がすごいと思うけど・・憑いているのがわかったり祓えたり。」
有馬「そういえば、さっき神聖なものと不浄なものが同居しているって言ってたけど、あれどういうこと?」
香織「複数の異なる力が同じ場所に存在すると、普通なら争うんです。負けた側は消滅したり追い出されたりします。」
香織「ですが・・なぜか争っていません。ふたつの力が安定して存在しています。」
真昼「なら、争わせることってできますか?神聖な力が勝てば解決しない?」
香織「あ、いえ。今回の件と関係があるかはわかりませんので・・」
そっか、今回の犯人と関係あるかはわからないか・・まだわからないことが多いなぁ。
香織「それに、神聖なものが人間に都合がいいとも限りません。」
有馬「というと?」
香織「祟り神というのを御存知ですか?正しく祀れば災害を防いだり実りをもたらしてくれますが、祀るのをやめると疫病を流行らしたり事故を誘発させます。」
香織「神聖とは清らかであって、人にとって都合がいいという意味ではないのです。」
人に害をなすかもしれないってことか・・ということは、神聖な力の方が悪影響を及ぼしている可能性もある?
ちーんこーんかーんこーん。
・・
・・・・
チャイムがなったのと、特にこれ以上話すことがないのでそれぞれの教室に戻った。
しかしまぁ、望月さんが味方になってくれるならこれ以上頼もしいことはない。
これをきっかけに望月さんと仲良くなっちゃったら・・どうしようかなーわくわく。
一応連絡先も交換したし、うわぁ俺の人生変わっちゃう?ハッピー?
・・とはいえ特に進展はなく放課後になった。
望月さんは・・用があるみたいだった。
まだ転校の手続きとかあるのかな。クラスの子に部活とかも誘われていたし、見学とかもしたいだろうなぁ。
占い師のおねーさんのところへ行こっかな・・あ、窓の外・・
望月さんが、男子生徒と一緒にいる。
・・楽しそうだな・・望月さん、笑顔だ・・
まぁ所詮、俺とはあの事件があるから話をしてくれたってことか・・
・・
・・・・
男「そのまま動くな。」
有馬「え?」
占い師のおねーさんのところへ向かっている途中、信号待ちをしていたら真後ろから話しかけられた。
背中になにか当たっている・・・・刃物?
男「昨夜は余計なことをしてくれたな。」
野太い男の声。まさか・・犯人?
有馬「お、お前がみんなを・・?」
男「楽しいぞお。お前は考えたりしないか?女が自分のいいなりになったらいいのに・・とかな。」
有馬「お、俺は別に・・」
男「別に独り占めするつもりはないさ。お前にもやり方を教えてやろうか?」
有馬「やり方って、あの低級霊を女の子に憑かせる方法?」
男「ああ。だがただ憑かせりゃいいってわけじゃない。女をいいなりにするにはコツがいるんだ。」
有馬「コツ?」
男「それがわかれば好きな子でも彼氏持ちの女でもお前の自由だ。」
有馬「お、俺はそんなこと・・」
男「気になる子はいないか?お前だけのものにしたいと思わないか?」
有馬「・・」
男「好きな子が他の男と話していると辛いだろ?お前のものにしてしまえばいいんだ。」
有馬「・・」
男「オレならそのやり方を教えてやれる。実はな、オレはお前を買っているんだ。お前には才能がある。」
有馬「俺に・・才能が?」
男「強い力を操れる才能だ。誰でもできることじゃない。」
有馬「俺にそんな力が・・」
男「だがオレたちには邪魔がいる。お前のクラスに転校してきただろう?」
望月・・さん?
男「かわいい子だったな。まずあの女をモノにしようぜ。お前のいいなりにしてしまえ。」
有馬「望月さんが、俺のモノに・・?」
き、キスしたり、いちゃいちゃしたり・・できる?
男「あの女の力は邪魔だ。早目に堕とさないと・・明日、朝早く罠にかけちまおうぜ。」
有馬「罠?」
男「罠にかけ、お前のモノにすればいい。お前の協力が必要だ、もちろん協力してくれるよな?」
有馬「う・・うん。」
男「さすが。期待しているぞ相棒・・」
背中から刃物の感触がなくなった。
しばらく俺は青信号になってもボーっとしていた・・あ、そうだ、占い師のおねーさんのところへ行かないと・・
しかし・・・・望月さんが俺のモノに・・か・・なにしようかな・・
・・
・・・・
占い師のおねーさんのところへやって来た。
有馬「すみませーん。」
占い師「そんなの憑けたまま来ないで。」
え?
有馬「うわ、うわっ」
俺の体から大量の黒い粒が湧き出て、占い師のおねーさんのところへ集まっていった。
占い師「はい完了。」
占い師のおねーさんがプラスチックの筒みたいのを持っていて、その中に黒い粒が収まっていた。
これって・・
有馬「もしかして俺、憑かれていました?」
占い師「あなたには憑かれる才能があるわ。」
有馬「そんな才能いらない!」
もっと除霊とか瞬間移動とかの才能がいいです。
有馬「・・いやその、すみませんでした。ここに来る前に犯人が接触して来たんですが・・たぶんその時・・」
占い師「あなた、毒を飲んで平気?」
有馬「平気じゃないです!」
なにいきなり?
占い師「お酒を飲んで、意思の力で酔わないことってできると思う?」
有馬「え?ど、どうでしょうか・・でもそれができないからみんな酔っ払うんじゃないですか?」
飲んだことないからたぶんですけど。
占い師「そうね。憑かれるのも同じ、あなたの意志でどうこうできるものじゃないって知っておきなさい。」
有馬「は、はい!・・あれ?対策不可能?」
占い師「人間の意志で無理でも、薬で改善するものもあるわ。はいどうぞ、これで対策しなさい。」
有馬「・・お札?」
これがあれば憑かれず済むのかな?
占い師「それは身代わりの札よ。あなたの代わりに憑かれてくれるわ。」
占い師「だけど術者からはあなたが憑かれているように見えるわ。うまく使いなさい。」
有馬「俺が憑かれているように見えるの?普通に防ぐのとは違うんだ。」
占い師「対人間用の札よ。元人間の悪霊や霊を操る人間などを相手する時は奇道も用いるものなの。」
有馬「奇道?」
占い師「いわゆるフェイントね。自分より強い者を相手しなければならないこともある。そんな相手に勝つためには力で闘うのではなく、心で闘う。」
占い師「どんな闘いも、対人間用に発達したものがあるものよ。インチキじゃなければね。」
へー。
そう聞くと、この札もそういう歴史を感じさせるものなのかな。
有馬「そうだ、俺に憑いていたのを札に移すことってできますか?」
占い師「ええもちろん・・そう、相手を罠にかけるのね。」
有馬「あ、わかりますか?」
占い師「嬉しそうな顔をしているもの。見抜かれないようポーカーフェイスも練習しておきなさい。」
有馬「はい!」
うまくいけば、明日の朝犯人を捕まえられる!
占い師「占いはどうする?」
有馬「えーと、学生価格1000円でしたっけ。」
1回だけならまだしも、今後必要な時にお金がないと困るしなぁ・・でもここまでしてくれて断るのも・・
占い師「今はキャンペーン中だから500円でいいわ。」
有馬「そうなんですか?なら・・お願いしようかな。」
俺は500円を払った。
占い師「今日はどんな占いをする?」
有馬「えーと、お勧めは?」
占い師「なにを占いたいかで変わるわ。」
有馬「なら・・明日の運勢をお願いします。」
占い師「それならカードがいいわ。」
占い師のおねーさんはカードを取り出した。
カードにしては、少し大きいな。
占い師「カードには運命を読む力があるわ。だけどカードにないことは占えない。」
占い師「だから内容を曖昧にして広く対応させてるわ。」
占い師のおねーさんが、手慣れた感じでカードをシャッフルする。
有馬「水晶玉はなんでも映し出せますよね?カードは水晶占いより劣る?」
占い師「得意分野が違うってだけよ。あとカードの方が制御しやすく扱いやすいわ。わかりやすいし。」
有馬「はぁ。水晶の方が映像の分わかりやすそうな気がしますが。」
占い師「映像は情報量が多いから見逃すリスクがあるの。時間軸もズレちゃうし。」
占い師「カードは時間軸も表してくれるから、未来や過去を特定して占うのに適しているわ。」
へー。なるほど、得意分野か。
占い師のおねーさんがカードを並べていく。
占い師「時刻は明日の朝・・これはいまいちね。物事がうまくいかない暗示が出ているわ。」
有馬「え?」
幸先悪い!
占い師「凶悪なドラゴン、力の差、でも破滅ってほどじゃないわ。」
有馬「勝つ方法とかはありませんか?」
占い師「呪われた騎士、不死身の体、でも弱点がある。そこが急所。」
有馬「弱点?」
占い師「そこまではわからないわ。カードは曖昧度が高いのよ。」
占い師「明日は決着がつかないみたいね。」
有馬「じゃあ・・やっても意味ない?」
占い師「占いが示すのはひとつの可能性、答えじゃないわ。あなたの行いで変わることもある。」
有馬「じゃあ例えば戦いを避けたりとかも?」
占い師「ええ、もちろん。逃げる?」
有馬「あ、いえ逃げませんけど・・そっか、色んな道があるんだ・・」
占い師「心が追いつめられると思考は狭まるわ。いつも気持ちに余裕を持つようにね。」
有馬「は、はい。」
なんというか、占いよりカウンセリングメインな気がする。
でもまぁ、綺麗なおねーさんが相手だから問題なし!あ、占い師のおねーさんの経営が心配になるけど。
・・
・・・・