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第5話

結婚の儀の開始から17日目のこと。

この日、ルカ王国にとって、後の未来において一つの分岐点となる出来事が起こる。


未知に挑むか。

既知に縋るか。



未来を決める最初の選択肢が、その手に委ねられる事になる。





「第5話  王配は平民?」





この日の儀式は始まる前から緊張、期待、不安。

様々な感情が入り混じる空気を孕んでいた。


ついに、女王候補の筆頭、フィリア=クランプが儀式に臨む日がやってきたのだ。

ルールを無視してでも結婚したいと望む男性国民も多いといわれるほどの人気を持つ彼女。

常の儀式であれば女王が生まれるかもしれないと、女王が決まるときをその目に焼き付けようとする者たちであふれていただろう。

しかし、今なお王配の拒絶は続いている。

ここ数日は少し拒絶までの時間が空くようになったとはいえ、断り方は愛も変わらずマナーを無視し一言で拒絶するだけ。

殆どの候補者たちもどうせ断れるのだからと、ここ数日は結婚の申し込みもかなりおざなりになってしまっていた。

フィリアであればもしかしたらという期待、フィリアであっても断られるのかという不安、女王候補の筆頭といわれるフィリアが振られるところを見たいという下世話な感情。

その日の大広間は様々な感情がうずまいていた。


フィリアの挑戦順は今日の34人目。

そこまでの挑戦者はもはや早くフィリアに回そうとする者たちばかりになっており、通常の半分程度の時間でフィリアまで順番が回ってくることになった。



選定の書の前に立つフィリア。

その顔には恐れも不安もなく、決意だけがあった。




――告げる


「私の名はフィリア=クランプ。」


――高らかに、誇りとともに、歌うように


「クランプ家三女、フィリア=クランプ。」


――祈るように、願うように、想いよ届けと


フィリアの前にゲートが開く。

彼女の覚悟を試すように。

彼女の挑戦を受け入れるために。


肘までを覆うレースと金糸で飾り立てられた手袋を外し、フィリアはゲートへと踏み出す。


――王国一美しいと謳われるその繊手を捧げ


「私と結ばれる栄誉を授けますわ。」


――あくまでもフィリアらしく儀式に挑む




が、数秒としないうちに弾かれるようにその手はゲートから吐き出されてしまう。

広間の空気は静寂に包まれている。

その空気は緊張感を孕んだまま、いやむしろ緊張一色に染まっていた。

その場にいる誰も彼もがフィリアの一挙一動に注目していた。


それまでの数日、本日の33人は数十秒〜2分の差はあれど、少しの空白を置いてから断られていた。

それがフィリアに限って、息つくまもなく拒絶されたのだ。

いっそ、この時のためにここ数日大人しくしていたといわれても納得してしまうだろう。

フィリアを最も効果的に、かつわかりやすい形で侮辱するために最高のやり方だったといえる。


そんなフィリアに皆が注目していた。

憤るだろうか。涙を流すのだろうか。

次のフィリアの言葉を、行動を、皆が待っていた。





果たしてフィリアは、平静であるように見えた。

弾かれた繊手に再び手袋をはめ、壇上より静かに下りていく。


そのフィリアに取り巻きが近づいていく。

心配そうに、内心に僅かな喜びを秘めながら。


「――あの、フィリア様。」


取り巻きの中でも、真っ先にフィリアに心配そうに近づき声をかけるのは取り纏め役とも見て取れる女性。


「あら、こんなに壇上の近くに集まっては次の者の妨げになってしまいますわ。あちらの方へ参りましょう。」


常と変わらぬ声でフィリアは応えると、取り巻きたちと共に広間の隅へと移動していく。

その途中でセシリアとすれ違うも、立ち止まることなく過ぎ去っていく。


「セシリア様、その…よろしいのですか?」


セシリアの取り巻きの一人が気遣うように言うも


「何がだ?同情の声でもかけろと言うのか?哀れみ、慰めてやれと?ただこれまでと変わらず断られたというだけだろう。重く考えることもない。」


セシリアは取り合うこともなく、気にすることなど何もないだろうと取り巻きへと言葉を返す。


「ですが、これは流石に……いえ、差し出がましいことを申しました。」


取り巻きは口を噤むと、周囲の者へこの件については触れるなと視線を送る。

セシリアは何でもないかのように言ってはいるが、その手は手袋が破れんばかりに強く握り締められていた。


「気にはせん。だが、貴様が何をしたのかは覚えておこう――」


セシリアがゲートを見つめながら溢した言葉は誰の耳にも届くことなく、広間の空気の中に解けていった。





=====





フィリアの挑戦が終わると、見るものは見たと言わんばかりに本日の儀式に関係のある者以外は殆どが広間から出て行く。

ある何人かは連れ合って、周囲に聞かれぬ程度の小声で失敗したフィリアを笑い。

何人かは声を大に、憤りながら王配を責めるように。

そんな彼女達をマリーは独り、広間の扉の横で見送っていた。


何をするでもなく、その顔にも何も浮かべず。

ただ、扉の横ですれ違うように出て行く候補者を見送っていた。




=====



候補者たちの殆どが広間去った後、儀式は再び始まろうとしていた。

それを見つめるのはフィリア、セシリアとその取り巻きの中心人物たち。

それ以外の者たちは今頃フィリアの結果についてあれこれとお茶を片手に話に花を咲かせているのだろう。

始まる前の1/4程度の者達が残るばかりであった。


また一人、また一人と、ゲートを開き、儀式に挑み、失敗していく。

拒絶されるまでの時間は数十秒〜1分とフィリアを侮辱したことが際立つような形で。


そして、49人目の挑戦。


「ノルザ町のフラ。前へ。」


書の後ろに立ち並ぶ年を重ねた女性達、仲人と呼ばれる彼女ら立会人に呼ばれ、また一人、儀式へ挑戦するために書の前へと歩みを進める。


「ノルザのフラです。」


諦めすら込めて淡々と名前を書へと告げる。

それまでと何も変わらず、ゲートは彼女の前へと姿を現す。


手袋を外し、その手をゲートへと捧げ、彼女は挑む。


「結婚してください。」


数秒、数十秒と時間が過ぎ、周囲もフラ自身もそろそろ断られるかと思ったその時。


「うそ――。」


フラは自身の身に起きていることが信じられないように頭を振るう。


「うそ、ウソ、嘘!!」


何が起きているのか、興奮するかのような声、その叫びは広間へと響く。


「うそよ!?私が?本当に?」


自身に起きていることが信じられないと呟き、叫ぶ。

されどその声には堪えきれない喜びがこもっていた。


そんなフラの声に、周囲で見ていた者たちは驚きをもって視線を送る。

まさかという疑念。馬鹿なという驚愕。

フィリアもセシリアも含め、余りに急なことに、フィリアを侮辱したその日に見せ付けるかのような余りに非道なその選択に、喜びを表す者は無く、誰もが信じられないものを見る目でゲートとフラを見つめていた。


そんな周囲をよそにゲートは光り輝き、その色を変えていく。

黒一色、光一筋も見えなかったゲートは淡く緑色に輝き始め、ゲートの向こう側からこちらへと先にいるものを運ぼうとしてた。


「私が、私が女王になるのね!ああ、ありがとう王配様!いいえ旦那様!必ず、必ずいい女王になります!必ず良い妻になります!」


フラは喜び、その手を輝くゲートの向こうにいるものをこちらへ招くために引いていく。


「皆、見逃すこと無かれ。皆、祝福せよ。王配は女王を選び、ここに新しい女王が生まれる。」


仲人は城中に響けと、国中に届けと宣告する。

何人もの仲人たちが現れる王配を歓迎するために動き出す。

しかし、周囲の候補者達は動かない。

女王が決まることを告げられても、王配が現れることを告げられても。

それが信じられないと誰も動くことができていなかった。



ちょっと特殊な形で話を進めます。


この話は一旦ここまで。

幕間が入り、その後この話の続きを追記します。

簡単に話の展開が予想できるありきたりな王道ストーリーですが、どうぞお見捨てなきようお付き合いください。

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