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第1話

「第1話 タイトル詐欺(?)継続中」


――Side セシリア


私が軍に入ったとき、窓から見える大地は茶色く、空は雲で覆われていた。


生まれたときの美しい国は見る影もなく、民は笑顔を失っていた。


私が軍に入ることが決まったのは、まだ10歳にもならない頃だ。

父や祖父の背中を見て、それを支える母を見て育った。

私に兄や弟がいれば、他の貴族のお嬢様方のように私も淑女として育てられたかもしれない。


しかし、私の家には私以外には姉しかおらず、その姉も体が弱かったため軍には入れなかった。

軍属の男を姉が婿にとれば、軍の名門である一族の名と血は継承できる。

しかし、直系の血を引く者が誰も軍には居ないというのは許されるものではなかった。

だからこそ、私しかいなかったのだ。


最初は嫌でしょうがなかった。

年の近い他の子たちは綺麗なドレスに身を包み、お茶会で楽しく語り合う。

そんな中を私は一人、体を鍛え、軍人として心を叩き上げられていった。

本来なら傷一つつけてはいけない手も、激しい訓練で守りきれずボロボロになっていく。


最初は悲しみ、涙を流していたが、それが一年も続けば慣れてしまう。


その頃には年頃の女が夢見るような恋など自分には出来ないと諦めていた。


そして、訓練が終わり、軍に入る頃にはこの国を元の美しい国にしたいと思うようになっていた。

官僚たちが欲しいままに政治を行った結果、民が飢え、土地が枯れた国となってしまったが、それでも自分が守るべき、愛する祖国なのだ。


そんな中で、貴族派と呼ばれるものから集会に呼ばれた。


最初は胡散臭くも感じたが、父もそこには参加していると言われ、私も参加することになった。


喧々囂々と今の官僚たちが欲しい儘に行う政治の批判をするだけかとおもっていたが、

そんな段階はもはや過ぎてしまった集会であった。


曰く、いかにクーデターを行うか。


曰く、その後の政治はどうするのか。


曰く、周辺国家への弁明は。


と、クーデターを起こし、かつての祖国を取り戻さんとする者たちがそこには集まっていが、

そんな熱狂に私は狂いきれてはいなかった。


力で女王を排除した者たちから力で政権をまた奪う。

なるほど、確かに奴らの自業自得ともいうべき流れだが、それでは繰り返すだけではなかろうか。

そんな疑念は抱いていたものの、一族の当主である父が賛同し、軍人たちの中心となって動いている以上、自分はそこから抜けるわけにも行かなかった。


集会も繰り返し続き、クーデターも近づいてきたある日のこと、私は幼い日に私が夢見た貴族を体現した少女と出会った。


羽のように重さを感じさせないフワフワとした金毛。一度も日を浴びたことのない磁器のように透き通った肌。

その口から出てくる音色は、まるで鈴が鳴るかのようだった。

自分がなれなかった貴族に抱いた幻想がそこにはあった。


この少女に血生臭いクーデターに参加して欲しくない。

そんな身勝手な思いから私はこの少女をこの集会から追い出そうと決めた。


「――さて、そこのお嬢さん。」
















――Side フィリア



私は、生まれたときから貴族であることを義務付けられていましたわ。


貴族である一族に生まれ、守られ、育てられたのですから当然そうならなければいけないのはわかっています。


それでも、馬で遠乗りをしたり、狩りをしてその結果を誇らしげに語る兄たちには憧れを抱いていました。

自分も兄や父たちのように誇り高く、自信にあふれた貴族でありたいと。


自分は体は強くなく、少し運動をしようと思っただけで息が切れてしまいます。

そんなことから私は体を動かすことでは誇りを持てるような行いは出来ないことを悟りました。


ですからせめて、振る舞いで、知識で、政策で、貴族であることを――いいえ、私であることを誇れるようになりたい。

そう決めたのです。


そう決めた日から、父には様々な提案をしてまいりました。

苦しむ民を救うための政策を。

横暴を行う官僚から自領を守るための政策や配備を。

古から近代までのマナーや伝統、芸能を修め、また広めることを。


政治的な力を得るためには多くの味方を作る必要がありました。

そこで私の活動で結果の出たものを他の貴族に無償で広め、無形の信頼や絆といった財産を得ることにしたのです。

結果として、私は「淑女の中の淑女」と歌われるまでになり、自分を誇ることができるようになりました。


しかし、本当の意味で私が私を誇れるのは民に笑顔を戻ったときと決めておりました。

その笑顔を取り戻すため、クーデターを起こし、国を正しき形へと戻すことを父に提案し、様々な問題を煮詰めていきました。


裏方で動き続け、あとは顔合わせを行い、クーデターを実行するだけとなったとき、初めて私は集会を訪れました。


そこには幼い日に、まだ父や兄のようになりたいと憧れた頃に夢見た存在が形となった人がいました。

力強い大地のような褐色の肌、力強くも美しい、何を言われても納得させられてしまいそうな声。

そして何よりも、まるで星の川が地上へと降りてきたかのような美しい真っ直ぐに背へと流れる銀色の髪を持った女性。


この人が居てくれればクーデターは必ず成功する。いいえ、この方が女王陛下となっていただけるなら私は誠心誠意お仕え出来る。

そう思わせてくれるカリスマ性を持った方と出会いました。




ええ、そう思っていたのです。



だというのにあの女ときたら。




====Side Out======





「さて、そこのお嬢さん。ここは血生臭くなる場所だ。君のようなお姫様はお茶会でもしている方が似合いだよ。早く出て行ったほうがいい。」



その言葉はフィリアの肌を業火のごとく真紅に染め上げた。



「な、なんですって!?貴女、一体誰に言っているのかしら!?」



「君の国を想う気持ちは素晴らしい物だ。だが、君のようなお嬢さんが居て良い場所じゃあない。」


「貴女にいわれるような筋合いはございませんわ!私は自分の意思で、自分の願いを果たすためにここにいるんですの!貴女こそさっきからどうにもやる気のないご様子。お嫌なら後ろに下がっていた方が良いんじゃないかしら?」


最初は丁寧な言葉遣いで引き下がらせようとしたセシリアだが、フィリアの一を言えば十を返すような反発に、最初は何とか優しい言葉で帰そうとするものの段々と口調は荒く、胸ぐらを掴んでいないのが不思議なほどになっていた。


フィリアもセシリアも、お互いに譲れなかった。譲れるはずもなかった。

互いが互いを思っていっているはずの言葉なのに、決定的にすれ違う二人の思い。

互いが互いの憧れの体現者なのだ。

フィリアは相手に否定されれば自分の夢に否定されるも同然。

セシリアも相手が穢れることを良しとしては自分の夢が穢れるも同然と、お互いが引くことができなかったのだ。


軍部と貴族の若手の中心人物といえる二人が言い争い続ければ、軍部と貴族で溝が生まれてしまうと、お互いの父親が二人を離し折衷案を模索しなければならなくなった。

その結果、フィリアはクーデターに参加はするものの、実行の日には自分の家から出ることは出来ず完全に裏方に回り、セシリアは王城を制圧したあとはフィリアの部屋を護衛させる(ようはフィリアを外に出さないために監視する)というところで妥協させたのである。



しかし、そんなことがあったせいか

フィリアはセシリアに憧れながらも自分を否定したことでセシリアを心から認めることができず、セシリアはフィリアが穢れることをよしとしたことで、自分自身の夢が穢れることをおそれ遠ざけるようになっていった。

段々とその空気が他の貴族や軍部にも伝わっていき、クーデターが終わってから半年。

軍部と貴族の間の溝は争いにはならぬものの、先の国の運営には支障が出るといえるところにまで深くなっていってしまっていた。


だが、セシリアもフィリアも今の状況はまずいと認識しており、今回の結婚の儀で女王が決まれば、それが誰であろうと一致団結し、国を運営していかねばならないと覚悟を決めており。

今回の機会を仲違いを解消する機会であると捉えていた。





――結婚の儀から七日後



女王が決まった後のための根回しに七日間の全てを費やし、セシリアとフィリア、

そして約1000人の女王候補たちは結婚の儀へと挑む事になる。



フィリアとセシリアはツンデレではありません。

これだけはご承知ください。


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