プロローグ sideルカ
澄んだ水を湛えた湖のほとりに立つ白亜の城。
この城から物語の開幕を告げる鐘が鳴り響く。
「プロローグ 王政復古の大号令」
その城の中にある大広間には色とりどりのドレスを身に纏った女性たちがひしめいていた。
その数にして1000人以上、パーティを開くにしては人が多すぎ、まともに歩くのも困難なほどである。
そんな大広間の奥正面にある壇上から大音声が響く。
「さあさあ、宣告の鐘が五度鳴り響いた!女神の法に従い、【結婚の儀】に参加するものは選定の書に登録することだ!」
修道女の着るような服装に身をまとった、老婆ながら背筋のシャンとした女性が城中に響けといわんばかに告げる。
その声に対して広間のなかに居た女性たちは、
我先にと本へと駆け寄る者たち。
それを尻目に動かない者たち。
駆け寄る女性たちを見下したように笑う者たちと
大別して3つのグループに分かれた。
そんな中、動かない女性たちの中に一際目を引く背中まで真っ直ぐ伸びた銀色の髪に褐色の肌を持つ人がいた。彼女は騒ぎには興味がないといわんばかりに壁に寄りかかりながら目を閉じている。
服装も他の女性たちがドレスで着飾っているのに対し、彼女は男性のような服装であった。
そんな彼女に、駆け寄る女性たちを見下して笑っていたグループの女性たちを後ろに引き連れ、まるで中心人物でございといわんばかりの女性が近づいてくる。
「あら、貴女は選定の書に登録しませんの?王子様?」
銀髪の女性をからかうかのような声音で女性は話しかける。
足元まで延びる金の波打つ髪を持ち、白磁器のような白く透き通る肌の貴族のお姫様を体言したような女性であり、後ろに多くの女性を引き連れていることから、かなりの権力、影響力をもつであろうことが見て取れた。
そんな皮肉など一顧だにせずと言うように気にすることもなく銀髪の女性は応えた。
「ああ、貴族に生まれた女の義務として来ただけでね、私が選ばれるとは思わないが、一応登録だけはしておくつもりだよ。ただ、貴女の方が先にプロポーズをしてもらえるなら私の出番はないだろうから意味はないと思うけどね、フィリア=クランプ殿?」
返された言葉にこめられた軽い皮肉には気付かず当然のことを言われたと言わんばかりに、
「ええ、そうでしょうね。セシリア=ベルンガスト様、貴女のように傷だらけの手を持っていては、【結婚の儀】でなくとも婿が見つかるか不安ですものね。この国一番と言われる私が居る事を知っていて先の者相手にプロポーズを受ける男など居ないでしょうし、私の後では登録する意味もありませんものね。」
傲慢ともいえるセリフ、しかし取り巻きの女たちは当然だといわんばかりにフィリアに同意する声を上げる。
「お気遣いどうも、フィリア殿。私の一族は軍属だからな、私にとってはこの傷だらけの手など誇りとも言えるが男たちにとっては違うようだ。なに、貴族として血を繋ぐためにそこらの貴族の三男坊あたりを見繕って結婚するさ。さっさとこの馬鹿げた騒ぎを君が終わらせてくれることを祈るとするよ女王陛下。」
セシリアはそう言うと、もう付き合うのは疲れたというかのように広間から一旦外へと出て行った。そして、残されたフィリアを始め殆どの女性が選定の書に登録が済んだ後ほどにセシリアも戻り登録を済ませた。
全ての女性が登録を済ませたことを確認すると、始めに宣言を行った老婆が選定の書を取り上げ儀式の始まりを告げる。
「さあ、これで全ての資格を持つ女たちが登録を済ませた。今、この時を持って女王への立候補の登録を終わるものとする。」
その言葉が告げられると同時に広間の女たちは老婆に注目し、続く言葉を待つ。
「古より続く女神との契約に従い、【結婚の儀】を執り行う。ほとんどの者は何をすべきか理解しているだろうが、今一度告げる。これに反するもの、乱すものは女神への反乱者とみなし死罪となることをゆめ忘れるな。この儀式は以下のとおり行うものである。
1.結婚の儀は登録をおこなった本日より数え七日後に登録者順に始めるものとする。
2.プロポーズの際は現れた扉より素手を差し出し、ゲートに選ばれた次期王配にプロポーズするものである。
3.その際に名前を告げることは許されない。
4.相手に利益となることや脅迫の類を告げることは許されない。
5.相手が手を取った時、プロポーズ受諾とみなし王配は扉のこちらがわへとやってくる。
6.王配にプロポーズを成功させた者が女王となる。
7.女王の後継は血によって受け継がれず、その代限りである。
8.王配を傷つけること、侮辱することは女神の名において許されない。
以上である!それぞれ、最善を尽くせ。では、七日後を手を磨いて待つが良い。」
その宣言を以て結婚の儀は始まり、女性たちは思い思いに広間から出て行く。
七日後に始まるプロポーズに備え、それぞれの最善を尽くすために。
ここは女王が倒れ、女神の加護を失った国、ルカ王国。
再び女神の加護を得るため、女王を戴くための儀式が始まろうとしている。
ここはルカ王国。
男も女も全ての者が肘まで隠れる手袋をはめる国。




