勇者、魔王になる
その日の夜……、私は小屋の周りに人の気配を感じ、目を覚ました。
(一体こんな夜更けに誰が……?)
こんな夜中にやって来る人は碌な相手ではない、私は剣を手に取り、赤ちゃんを抱くと何が起きても対応出来るように身構えた。
と、その時
『放てっ!!』
外から声が聞こえてきたと同時に小屋へと火が放たれた。
「く……っ!」
直ぐ様小屋の窓から外に出ると、そこには何人もの兵士の姿があった。
見た所、国王軍の兵士のようだ。
「国王軍の兵士が放火なんて……。一体どういうつもりっ!?」
私の問に一人の男が近くへとやって来た。
「私は国王軍の兵士長だ。国王の名により、勇者リーナ、お前を始末しに来た!」
「な……っ!?」
突然のことで頭が回らない。
私を始末……?
「一体どういうこと……っ!?なぜ私が殺されなければならないというのっ!?」
「それは国王が決めなこと。我らはそれに従うまでだ。
そうだ、お前にいいものを見せてやろう。」
兵士長はそう言うと、私の前に一つの革で包まれた何かを投げてきた。
それは私の前で広がると、見覚えのある人の頭が転がっていた。
「テ……ティアお姉ちゃん……?」
その頭は間違いなく、確かにティアお姉ちゃんの頭だった。
「そいつはお前を匿っていた罪で処刑した。そして、お前が今抱いている赤子も処刑する。」
「そんな……ティアお姉ちゃん……。
うぅ……!うあぁーーーっ!」
私はティアお姉ちゃんの頭をあかを抱いているのとは違うもう片方の手で抱きかかえると涙を流していた。
「皆のもの!勇者リーナとその赤子を始末しろっ!!」
そんな私のことなど無視するかのように兵士達は剣を抜き、私に襲いかかってくる。
「ティアお姉ちゃん……。ごめんなさい……。」
私はティアお姉ちゃんの頭をそっと置くと、剣を抜き、応戦を始めた。
しかし、相手の人数が多く、手練れの兵士達から編成されているのか、直ぐ様押され始め、しかも片手に赤ちゃんを抱いているため思うように動けないでいた。
「こいつは頂くっ!!」
「しまった……っ!!」
そんな私は隙を付かれ、兵士に赤ちゃんを奪われてしまったっ!
「自分のガキが死ぬところをよく見てるんだな!」
兵士はそう言うと、赤ちゃんの首をいとも容易はね飛ばし、その首を私の前へと転がしてきた。
「そんな……、私の赤ちゃんが……。
うぅ……、うあぁぁぁーーーーっ!!」
コイツラにティアお姉ちゃんを殺され、さらに赤ちゃんの命までもが奪われてしまった……。
ー……。ー
そんな私の心の奥底で何かが蠢き出し始める。
ー勇者よ、なぜ人間を救おうとする……?なぜ人間のために戦うのだ?ー
心のなかで何者かの声がする。
どこかで聞き覚えのある声……。
(この声は……、魔王……?)
確かにこの声は以前私が討ち倒した魔王の声だった。
ー勇者よ、我が闇の力を享受すればお前の望みは叶うだろう。ー
魔王が私の中で囁きかけてくる。
私の望み……?
ーそうだ、我が闇の力を使えば殺されたそこの女も、お前の赤子も生き返らせるなど造作もない事……。勿論目の前にいる人間共も簡単に一掃できる。ー
ティアお姉ちゃんを、私の赤ちゃんも生き返らせられる……。そして二人を殺した国王軍に……今まで私を虐げてきた人々に……いや、王国そのものに復讐が出来る……?
「……分かった。魔王よ、お前のその力を私に寄こしなさい!」
ーいいだろうっ!これで新たな魔王の誕生となるのだっ!!ー
「なんだ……っ!?勇者からなにか強大で邪悪な力が……っ!?
く……!皆のもの怯むなっ!勇者を始末しろっ!!」
魔王の力を得た私に国王軍は明らかに動揺をするも、直ぐ様私へと斬りかかろうとしていた。しかし……。
「消え去れっ!!」
魔王となった私はその僅かな力を行使するだけで国王軍全てを消し去っていた。
その後、私は赤ちゃんとティアお姉ちゃんの遺体を回収すると、魔王城があったところへと瞬間移動を行った。
それから数ヶ月後……。
「見て、母上っ!町が物凄く燃えてるよっ!すごいな〜。」
私が映像魔法を使い、故郷であったリーンの町が私が率いる魔王軍の侵攻により燃えている様を私の息子、「フォル」が大はしゃぎで見ている。
フォルは兵士に殺された私の赤ちゃんだった子で、魔王城に来たあと魔法で生き返らせ、闇の力で成長させた姿だ。
「フォル様はとてもご機嫌なようですね、魔王リーナ様。」
そんなフォルを同じく蘇らせたティアが目を細めて見つめている。
「そうね。
全軍に通達するっ!これより我が魔王軍は全世界の人類を抹殺するっ!手始めにエルドラ王国を攻め落せっ!!」
私は魔王の玉座から立ち上がるとエルドラ王国の殲滅を指示し、かつての魔王と同じく私もまた人類への宣戦を布告するのだった。
その頃当のエルドラ王国では国王であるエルドラ王が通信魔法で他国の王達と話をしていた……。
「予定通り我が国の勇者も魔王となった。
次はそちらの国が勇者を出す番だが……?」
「分かっておる。既に勇者の目星は付いておる。」
「ふふふ……。魔王を誕生させ、各国が魔王と戦うことで人間同士の戦争を防ごうとはなかなかなアイデアだな。」
「誠にその通りだな……。経済も周り、各国との連携も強化される。」
「民は減るが、増えすぎることも無くなる。間引きに丁度いいというものよ。」
その後も王達は話を交わすと通信を切るのであった……。
先代魔王のいった通り、魔王の誕生は人間が、しかも各国の王達が絡んでいたのであった……。