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第9話 日常生活との両立


―数日後―


 量産型グイム4体を作った日は、グイム総司令官仕様1体と合わせて5体による俺の護衛はうまくいった。

 カリーヌは早々に叩きのめされたようで、今朝は泣きながら卑怯者と訴えてきた。だけどそんな苦情は受け付ける気になんかならない。


 そして数日経った現在。

 グイム達の護衛が成功した事で希望を見出せた俺は、順調にグイムを増やしている。今日も模型店に行き確実に俺の命を守るために、もっと多くのグイムを作るつもりだ。


「グイム重装甲型。グイムキャノン。いやいや、ここは思い切ってグイム分離独立機動兵器搭載型を作ろうか。ぐふふ、今日は何を作ろうかなぁ」


 あまり時間がかかる機体は作るつもりは無い。今は数を揃えて死角を無くすことが優先される。グイム達も交代で休む必要もあるだろう。夜中にずっと寝ずの番をさせるわけにはいかない。

 そもそも彼等が寝る事があるのかは知らないが。


「おう、城野おはよう」


「おはようございます係長」


 就業時間前、会社のデスクでくつろいでいると背後から係長の仁井山さんが声を掛けてきた。

 俺も振り向いて挨拶をするが、仁井山係長は苦笑いをしていた。

 どうしたのだろうかと思っていると、


「城野。お前、今なんか妙な笑い声を出していたが……」


 と、言いにくそうに言ってきた。

 ヤベェ。今夜の製作計画声がに出ていたのか!


「あぁ、聞こえていましたか。すみません」


 俺は恥ずかしくなり、頭を掛けながら頭を下げる。


「いや、気にするな。なんかいい事でもあったのか?」


 仁井山係長は普通の笑顔になりそう聞いて来た。


「いえ、ちょっと日常生活の方で小さい事ですがいいことがあったので」


「お、なんだなんだ? 引っ越してきて早々、いい女でも見つけたのか?」


 そうワクワクとしたテンションで聞いてくる仁井山係長。

 いや、いい女なんて特に見つけてないよな。人形に性別があるかは分からんが、殺してきそうな女は居る。とはいえ、最近の生活を振り返ってみると、女と言えば模型店の店員の事を思い出す。

 だけど……あの人趣味が合いそうとかいう話でもないよな?

 愛想がいいのも、話を合わせてくれるのも、商売のためだろうし。


「お、その顔。やっぱり女か?」


「い、いえ。違いますよ。 ただ、最近命の危機を感じていたのが、心配が無くなりそうだから安心してしまったというか……」


 うわぁあああ。何言ってんだ俺ぇぇぇぇ。焦りすぎて本当の事をポロッと言ってしまった!

 なんだよ命の危機が無くなったって? 俺は暗殺者に狙われるターゲットか何かかよ!?


「はぁ!?」


 ほら。案の定仁井山係長が驚いているじゃないか。


「いえ! なんでもありません!! 事故に遭いそうになったんですが、何とか回避したんです! 笑っていたのは、転びそうになった恥ずかしい姿を多くの人に見られたから恥ずかしさを思い出しちゃっただけで……」


「うん? そ、そうなのか? 事故に遭いそうに……で、その時の恥ずかしい様子を思い出した。へ、へぇ……」


 不用意に俺の家の事情の事を話してしまい、仁井山係長は驚いた様子だったが何とか誤魔化した。

 誤魔化せた……よな?

 ヤバい奴だと思われて無いよな?


「そ、それじゃぁ、今日も一日よろしくな」


「はい……」


 これなら素直に「今プラモデルに嵌っていて、今度は何を作ろうか考えていたんです」とでも言えばよかった。

 誤魔化せたかは分からないが、仁井山係長からはそれ以上追及される事は無く、朝礼の時間となった。






「おはよう諸君! 今日も一日頑張って仕事をしてくれたまえ」


 北見課長はいつも通りそんな言葉を課内の社員達に言い仕事が始まるかと思った。

 だけど、今日はいつもとは違うことが起きた。


「あ~。で、今日はみんなに特別な知らせがある!」


 なんだろうか? と、社内全員がざわざわとし始める。


「今月から来てもらった城野君についてだ」


「えっ!?」


 いきなり俺の名前が呼ばれたので驚いて声を出してしまった。

 何事だろうか? もしかして何かまずいことでもしてしまったのだろうか。

 思ったよりも役に立たなかったとか? 即戦力の優秀な社員だとか言ってもてはやされていたが、勝手にそう言っていたのはアンタ等だからな?

 それともクレームか? お客様からのクレームか? ということは、今月いっぱいでクビを勧告されて退職? いやいや、全員の前でそんなこと伝えんよな……?


 などと、俺の心の中はパニックになりつつある。

 すると、北見課長は一枚の紙を取り出した。


「あ~。城野 聖人君。君はこの度実力と実績を評価され、昇進して主任となることが決定された!」


「えぇえ!?」


 二度目の驚きである。

 俺が出世!?

 俺、本社にきてまだ一か月も経っていないんだぞ。


「城野君。いきなりで悪いが、前に出てきてもらえるかな?」


「は、はい!」


 俺はぎこちない足取りでみんなの前に出た。


「これが辞令書だ」


 そう言って笑顔で一枚の紙を渡してくる北見課長。

 俺は恭しくそれを受け取り頭を下げる。


「君には慣れない土地に来てもらい苦労を掛けさせている。そんな中で、十二分に力を発揮していることが認められたのだ」


「そ、そうだったんですか……」


 俺はたかが紙切れ一枚ではあったが、とてつもなく重い紙であると感じ、ぷるぷると手が震えてしまう。


「では、城野君。一言みんなに」


「えっ、は、はい。こ、この度はこのような評価をしてもらい自分でも驚いております。

 これからもより一層仕事に打ち込んでいく所存ですので、どうか皆様もよろしくお願いします!」


 そう言うと、課内の社員達が一斉に俺に対し拍手をしてくれた。それがとてつもなくうれしく、今日まであったバカみたいな呪いの人形騒動がまるで嘘のように感じる。

 呪いの人形が家で暴れまわっているときは、なんだか不幸になって幸運を吸われてしまっていた気がするが、よくよく考えたら俺はついている方なのかもしれない。

 呪いの人形対策となるグイムの出現。そして今日の昇進。

 このまま、まだ家で起きている呪いの人形の件が片付いてくれたらいいのにな。なんてことを考えながらみんなに頭を下げた。



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―桃谷商事本社会議室―


 就業時間後の社内の会議室。

 聖人等の特定の業務を行っている社員以外はまだ残業で残ってはいるが、夜7時以降となると殆どの社員は帰っていた。

 人気がほぼ無くなった会社の中は静まり返っていたが、会議室に居る"彼ら"にとっては人が少なければ好都合である。




「北見くぅん、計画の方は順調かなぁ?」



 暗い会議室の窓のブラインドの隙間から外を眺め様子をうかがっていた社長の息子、桃谷 翼が背後に立つ商品電話サポート課の課長北見に問いかける。


「はっ。城野は無事に昇進を果たし、主任となりました。彼も快く受け入れたため、権限の拡大も問題なく行われております」


「ふむふむ。いいねぇ、北見君はやっぱり仕事ができる男だぁ」


「恐縮です」


 北見課長の報告に満足そうに笑う翼は、


「だけど彼の仕事ぶりの方はどうなのかなぁ? 役職だけ与えられても実力が伴わないのでは周囲から疑われてしまうよ?」


 と、今度は体を北見に向き再び問う。


「はっ、そこも問題ありません。

 元々支社で実績を磨いてきたことにより、現在の仕事も新人を雇うよりも格段に速く業務をこなしております」


「うんうん」


「それに、実力も問題なく……。こう言っては何ですが、支社でやっている仕事と今の仕事は殆ど変わりはないはずなので、ミスもないのは当たり前なのですがね」


 それを聞いた翼は愉快そうに手を叩きながら、


「はははっ、確かにそうだねぇ。だから君の課に配属させたんだ。成績がものをいう営業や基礎知識が必要な開発なんかじゃこうも早く出世なんてできなかっただろうからねぇ、彼は」


 そう笑って、北見の肩を叩いて会議室の一番役職が上の者が使う椅子へと座る。


「はぁ~……」


 笑う事を止めた翼は椅子に座ると深い溜息を吐く。

 目をしばらく瞑り、深呼吸をした。


「……」


 その様子を北見は黙ってみているが、その表情は硬い。


 ――恐怖からくる緊張。


 その恐怖対象は目の前の北見に対してだけではない。成功すれば共に高みに登れるが、失敗をすれば地獄へと落ちることを確信しているからだ。


 やがて、長い沈黙の後ようやく翼は語り始める。


「今の僕はここの椅子に座ることが限界だ。

 だけどね? 僕はいつかはもっと上の立場の椅子に座る人間なんだよぉ」


 愛おしそうに椅子の肘掛けを撫でる翼。

 しかし、だんだんとその整った顔は醜く歪んでいき、


「だけど、父は選択を間違えたっ!」


 と、激しい口調で言葉を放つ。

 北見はその声でビクッと体を反応させ、翼の出方を見守った。


「父は早々に後継者から僕を外した。ありえない! ありえないことだ!

 僕はまだ大学を出て数年だぞ!? なぜまだ実力を発揮できてもいないこの僕が後継者から外されなきゃならないんだ! 父は誰が見ても明らかな性急な判断によって、僕だけではなくこの会社の未来を潰そうとしている!」


 翼は悔しそうに拳に力を入れる。その際に革製の椅子の肘掛けは皴を作った。いつもの変に語尾が伸びた口調も荒々しいものへと変わる。

 だが、一通り怒りを口から発した翼は一度深呼吸をして元の端正な柔らかな顔立ちへと戻った。


「北見君。この会社の次期社長は僕がふさわしい。そう思うだろぉ?」


 そして翼は北見に問う。


「はい。まさしくその通り。社長の後任は翼様しかありえません」


 その当然そう返ってくるであろう答えに満足をした翼は、うんうんと頷き、


「そうだ。そうなんだよ。僕しかいない、本来ならば後継者で一番ふさわしいのは僕しかいないんだぁ。

 だけど、今は僕に父と同等以上の力を持っているかと言われてしまえば、そんな力はまだない。

 だから今父を追い出し、僕が社長の座に収まるチャンスがあったとしても、それを実行なんかできはしない」


 翼はそう言うと今度はクスクスと笑い、



「だからさぁ。僕は20年後……いや、10年後に社長になるためのプランを立てた。

 本当ならばこんなこと僕だってしたくはないよぉ? だけど父が僕にそうさせたんだ。みんなのより良い未来の為に、みんなが安心して暮らせる未来の為に、僕は悪役を演じなくてはいけなくなったのさ」


「心中お察しいたします。翼様」


「そう言ってくれるのは君ぐらいなもんさ」


「役員の中野なかの小倉おぐら常務も同じことを言うかと思います」


 そう謙遜し答える北見であったが、翼は「ふん」と鼻で笑い、


「連中は自分の利益だけで僕に従っているに過ぎない。真に使えてくれる忠臣は君ぐらいなものさ」


 と言った。そして、


「まぁいいさ。せいぜい城野君には頑張って働いてもらおう。何せ僕の父がわざわざ地方の小さな支社から呼び寄せた優秀な人材なのだからね」


 と、暗い笑みを浮かべて言ったのであった。



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次話は本日中に投稿します。

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