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第6話 予想もつかない味方

 午後の仕事は午前中と同じく電話対応のみだった。

 それ以外特にすることもなく、終えたのでなんだ援軍を要請しておいてこれだけなのか? と拍子抜けしてしまう。

 しかしながらよく考えてみれば、自社製品のサポートについては製品を知らなくては難しいだろう。

 マニュアルもあるが、マニュアルを検索をかけて調べながら動くのと、頭の中に入っているマニュアルを素早く引き出し、実際にパソコン画面を見ながら対応した方が早いだろう。

 それに新人を確保するよりどこかの支社から経験者を派遣するという形の方が会社としては一から教えなくて済むからいいんだろうな。




 こうして今日の仕事は終わった。

 現地へ派遣されるタイプのサポートではないため、定時退社が許されるのだ。

 営業や企画、開発の部署はこうはいかない。

 支社で働いていたころも定時退社は稀だった。



「だと言っても、直帰したくない……」



 帰れば人形達がいるのだ。

 恐怖の対象でしかない。

 だとしてもホテルに泊まり、ある日突然どちらかが「あいつを倒したから次はお前だ」と来られても心臓に悪い。

 事の成り行きを見守って覚悟を決めた方がいいのだろうか……。



「いやいや、何を弱気になってるんだ俺!」



 まだ死ぬことは確定していない。

 俺単体でも戦うことができるのではないか?


「だけどなぁ……」


 相手は神社仏閣が匙を投げる存在。

 俺を見ただけで帰ってくれと言ったのは、やはり俺の体に纏う奴らの気配を感じたからだろう。

 さすがそういった専門家。察しがいいと褒めるべきか、対応できない連中の無能さを怒ればいいのか……。


 いやいや、対応してくれないだけで無能だと罵るのはさすがに人としてどうだろうか。

 専門家でも手に負えないものだって存在する。

 サポート業の俺はよくそれを感じている。

 製品をありえない使い方をして苦情を言ってくる連中もいるのだ。

 よく説明書を読め! 説明書に書かれていないことでも、世間の常識と照らし合わせて使用しろ!

 と、文句を言ってくる客に言ってやりたい……。


「はぁ……。どうしようかなっと。ここは……?」


 気づくと寂れた商店街を歩いていた。

 シャッターで閉じられた店舗の方が多く、開いている店もなぜ開いているのか不思議なくらいだ。

 印鑑屋、時計屋、流行り物など無視した洋服屋、そして模型屋。


「模型か……」


 俺は一見の模型店を発見し、ショーウインドーに飾られているプラモデルを眺める。


「あぁ、これって発売していたんだ……」


 見るとそこには俺が好きだったリアルロボットもののアニメ。『戦機兵記ガゾギアLegend』のプラモデルを見つけた。


「1/144地球同盟軍量産機グイム湿地帯仕様か……。マニアックだなぁ。しかも新発売とはたまげたなぁ」


 10代の頃、集めていたことがあるシリーズがまだ続いていることに驚いた。

 きっと金型も流用しているのだろう。見覚えのある形だ。

 これが流行っていたころは、主役格の機体である総司令官仕様のグイムが品薄状態で買えなかった事を覚えている。

 売れることに気づいたメーカーは次々と続編や外伝のアニメを出し、その度に人型巨大兵器グイムのバリエーションが増えていったものだ。


「今も人気なのかなぁ」


 気の迷いで――――いや、懐かしさからか。俺は店の中についつい入ってしまう。

 そして、『戦機兵記ガゾギアLegend』のコーナーへと足を進める。



「うわぁ……すごい」



 棚には戦機兵記ガゾギアLegendのプラモデルがぎっしり詰まっていた。


「『火星連合』側のガゾギア<※このシリーズの巨大人型ロボットの総称>もラインナップが豊富だけど、地球同盟側もすごいな。

 おぉ、グイムスナイパーステルスカスタム、グイム改、グイムフルカスタム、グイムホバータンクもあるだと!?

 こっちには火星連合のゾームの長距離ミサイル仕様もある! バランス悪っ」


 とんでもないラインナップの数だ。

 俺がガゾプラ―ガゾギアのプラモデルの略―離れしている間に多くの種類のガゾプラが発売されていたんだな。

 商品番号のナンバーが200以上ある! メーカー頑張りすぎだろ!?



「あら? お客さん。ここは初めてかしら?」


 と、店の奥から俺と同じ年位の女性店員が出てきた。


「あっ、すみません。声大きかったですよね」


 お店にとって迷惑行為をしてしまったと自覚した俺は、恥ずかしさも相まって頭を下記ながら謝罪をする。


「いいのよそのくらい。それよりお客さん、……ふふっ。いい目をしているわねぇ」


「へ?」


 突然目を褒められた。何事だろうか。


「お客さんのその少年の心を忘れない純粋無垢な目。なかなかそういう目はできないものよ?」


 あぁ、商品を見て目を輝かせていたことに対して言ったのか。

 まぁ、そういう客は商品を買ってくれそうないい客っぽいからな。


「はは。お恥ずかしい。幼いころを思い出してしまっただけです。

 いい大人がプラモデルを見て喜んでいるなんて……」


 俺がそう言うと、店員の女性はふぅ、と呆れ顔になり、


「何を言っているの。いい年した大人が何かに真剣に集中する姿。かっこいいじゃない。

 私はそういう大人、嫌いじゃないわ」


「そ、そうですか?」


 なんだろう。変な店員に出会ってしまったのだろうか。


「いい年した大人がプラモデルを作る。

 それは確かにその趣味を持たない者にとってみれば理解されない趣味かもしれない。そして、趣味というのは同じ趣味を持たない者にはたいてい理解されないものじゃない?」


「まぁ、プラモデルだけじゃなくても車やバイク、登山に陶芸。興味ない人にとってはとことん目に入らないものですからね」


 それでも世の中にはプラモデルってだけで子供っぽいやら邪魔な存在だと邪険にされてしまうこともある。

 幸い俺はそういった事を言われた事がなかったが、家族に作ったプラモデルを捨てられてしまったという経験を涙ながらに騙っていた友人もいた。


「貴方のその抑制は自らのもの? それとも他者からの圧力?

 私からしたら他者から傲岸な態度でいくら抑制するご高説を述べられたところで、趣味の欲は抑えられない。むしろ違法な趣味を持つよりこんなのちっとも大した事じゃない。でしょ?」


「ま、まぁギャンブルにはまったり、おかしな薬を買うよりは問題ない趣味だと思いますが……」


「好きなものを好きと言えず、嫌いなものに流されながら生きていく。それって辛い事じゃない?

 もしかして、それがお客さんが望んだ結末?

 世間ではそれが普通だと諦めてこれから先長い人生、つまらない事に時間を費やして生きていくの?」


「……」


 なんて返せばいいかわからないことを聞かれた。

 嫌いなものに流されるか。

 俺は今、どんな風にこれからあの殺伐とした家の中で生きていけばいいのだろうとふと考えてしまうと、なんだか泣けてきてしまう。

 俺の人生……長いのかなぁ。



「大人だって少年時代憧れたものを手にとってもいいと思うの。夢を馳せたっていいでしょ。

 趣味の価値は自分で作っていくもの。決して他者がその価値を決めるものでは無いの。

 私はそう思うけどねぇ」


「だ、だけど世間は……」


 誰も助けてくれはしない。


「世間がどうだっていうんの? そりゃぁ、家族を蔑ろにして家計を破綻させるほどのめり込むならちょっとは自重は必要よ。

 だけど少しくらい。ほんの少しくらいなら? 文字通りここの店にある品々は子供のおもちゃほどの値段の物。

 息抜きに手に取って、昔を懐かしむくらい誰が咎めることができる?

 そんな権利。誰にもないわよ」


 きっと店員さんは世間に評価されないと俺が言おうとしていると勘違いしているのだろう。

 微妙にかみ合っていない内容だが、俺は店員さんが言う事に少しだけ理解ができた。


「好きなことを好きなだけ……は無理だけど、息抜きか……」


「そっ。息抜き。

 息を抜きっぱなしってのはよくないけど、適度に休憩は必要だと私は思うわねぇ」


 ススクスッ。と笑いながら店員さんは棚から箱を一つ取り出す。



「こ、これは!?」



 俺はその箱を見て驚愕した。

 それはまさに俺が昔求めて止まなかったプラモデルであったからだ。


「へぇ、その反応。お兄さん、やっぱり私と同じ世代なのね。同じ世界に夢と希望を抱いた世代。

 そして、"ガゾギアショック"の被害者」


 俺は店員の言葉に反応し、びくりと体を揺らした。


「ははっ、ガゾギアショックか……。こりゃまた懐かしい名前が出た」


 ガゾギアショック。これは戦機兵ガゾギアLegendが世の中で流行りだした頃、ガゾギアのプラモデルが人気のあまり多くの店舗で売り切れて消えてしまった現象を指す名称だ。

 近所の子供たちはギャン泣きし、大きなお友達は自分の無力さに両膝を大地へ着けた恐怖の現象である。

 とある学校では購入者は退学、もしくは停学となり各地で裁判が起こった事もある。


 俺は感動のあまり手をプルプルと震わせながら両手で長年探し求めた恋人を抱きしめるかのようにその箱を抱える。


「気に入ってもらって何より。買うかどうかは……聞くまでもないかしら?」


「あぁ、当然だ。買わせてもらうよ。こいつは今日から俺の相棒だ。この店で一番いいニッパーと一緒に買いたい」


「いいわねぇ、お客さん。客としてだけじゃない。その男気、とっても気に入ったわぁ」


 こうして俺は、過去に探し求めていたプラモデル1,250円と、ニッパー9,800円と共に帰宅することになる。










「あ、おかえりー」


「む。帰ったか」


 人形達は当然のように部屋の中でくつろいでいた。

 当然のように座布団に座り、当然のように部屋の明かりを点け、当然のようにテレビを見ていた。


「あぁ、ただいま」


 こいつらの存在にいちいち驚いたり怒ったりしている余裕は今は無かった。

 手を洗って着替えた後、夕食のおにぎりを片手に俺はプラモデルを袋から取り出す。


「ん? なぁにそれ」


「なんじゃなんじゃ。本当になんじゃこれ?」


「アニメ『戦機兵記ガゾギアLegend』の【アルティメットグイム総司令官仕様】のプラモデルだ。

 地球同盟軍側の量産型グイムの最高峰であるこの機体は敵側である火星連合との決戦である月軌道会戦にて自ら戦場に出た総司令官の専用機。その能力は専用のオプションパーツであるアルティメットパックと併用すれば通常のグイムを遥に凌ぐ性能であり、グイムの高級量産型であるグイムスーパーカスタムの2倍の性能を誇る。

 最終的には火星連合側の総統が乗る【ワイルドゾーム・デストロイ】と戦闘を――――」



「ちょ、ちょちょちょっと待って。なんの話をしているの!?」


「早口で何を言っているのか分からん! 落ち着いて話せ!」


 人形達は俺の説明をうまく聞き取れなかったらしい。

 まぁ、アニメを履修していなければ分からない単語があったのかもしれないな。

 ならば、もう少し丁寧に説明してやろう。


「アニメというのは分かるか?」


「む? アニメとな? なら、今日小娘と一緒に見ていた動く絵のやつだろう。小娘が教えてくれたから分かるぞ」


「え、えぇ。私は前の住人と一緒に見ていたから分かるわ」


 お前ら昼間は仲がいいんだな。

 ……ん? 前の住民とカリーヌは仲がよかったのか? というとこは、前の住民が失踪したのはカリーヌとは無関係?

 聞いてみたいが藪蛇になるかもしれないから今はプラモデルの話題に集中しよう。


「その動く絵で戦っている架空の戦争の話で出てくる兵器の模型だ」


「戦争……」


「つまり、ロボットってやつね? ロボットの人形ってわけね。

 あれ? ロボットって元々人形なのよね? 模型って人形の事よね? 人形の人形? どういう事??」


 戦争という言葉に何か思うところがあるのか、日本人形の方はポツリとつぶやいた後寂しそうな目をしている。

 フランス人形はロボットがどういうものなのか混乱しているようであった。頭を押さえて唸っている。


「模型は人形とは少し違うかな。確かに人型や動物型は存在するが、船やお城の模型もある」


「な、なるほどー」


 本当にわかっているのかどうか不明だが、そんな返事をするフランス人形。


「しかし、なぜいきなりそんなものを? 遺作のつもりか?」


 日本人形がそんな失礼なことを言ってくる。

 別に遺作のつもりで買ってきたわけではないのだが?


「確かにこれで最後になるかもしれないと思えば好きなことをしようとしても不思議じゃないよな。

 俺の命が残り短いかもしれないと思ってこんな行動に出たかと言われたら否定もしない」


 俺がそう言うと、日本人形が得意気に胸を反らせて、


「ふむ。いい心がけじゃ。せいぜい最期の娯楽を楽しむがよい! ぬはははは」


 と、笑いやがった。

 ここで俺はさすがに堪忍袋の緒が切れた。

 なんで人を殺そうとしているのに笑ってられるんだ?

 完全に異常者だ。

 呪いの人形としては合格点なんだろうがな。


「だけどなぁ、俺は諦めるつもりは無い」


 だから俺は言ってやった。

 俺は初めて衝動的な怒りからではなくそう言い返してやった。

 なぜ言われっぱなしにならなきゃいけないんだ? 勝てない相手かもしれない。だけどこのまま何もしないなんてありえないだろ。


「ふ、ふむ随分と強気じゃな?」


「ふん。自分の使命やら信条やらで快楽殺人をしようとしている人形には、ずいぶんともったいない言葉だったかな?」


「なっ!! ワシは快楽目的で人殺しなどせん!!!」


 俺の一言で怒りを露わにする日本人形。

 怒りたいのは俺の方だ。いや、怒りたいのではない。もう怒っている。


「ならなんなんだ? お前に人を殺すだけの理由があるのか!? 言ってみろよ。じゃなきゃ、そこのバカみたいな喋り方をするフランス被れにもならん人形と同等のよくある三流ホラー映画の悪霊と変わりないぞ?」


「なんだと!! ワシを愚弄するか! 三流ホラー映画とやらは知らんが、おぬしの言葉の感じから馬鹿にしているととれるぞ」


「ちょっと、私を今バカみたいって言った?!」


 日本人形の目が鋭くとがる。

 いや、実際にはあまり変わりがないが、明らかにそういった気配へと変わったのだ。


「なら言ってみろよ! その崇高な人殺しの理由とやらを!」


「き、貴様には関係なかろう!」


「言えないだけだろ! 大した理由も無く、笑いながら人殺しが出来るんだもんなぁ。とってつけた理由でもいいから話してみろよ。笑ってやるから」


「笑う!? わ、笑うだと! 言ったなぁ! そこまで言うのなら、今夜覚えておくがよい! 必ず、必ずお前を今夜殺して見せる!」


「ちょっと私との約束はどうなったのよ!?」


 そこまで言い争うと、日本人形はふすまを開け、部屋の奥へと入っていった。

 フランス人形はというと、日本人形の後を追っていく。


「ちっ……」


 言い争いはしたが、俺悪くないよね?

 やっぱりただ何となく命を狙われているような感じだったので、俺だって怒る権利はあるだろう。というか、怒る理由しかないと思う。



「くそっ。イライラする。こんな時は心を落ち着かせてプラモデルを作ろう」


 まだ俺が10代だった頃、プラモデルを作ることで学校であった嫌な事を忘れる事が出来た。

 作っている最中、手に取った兵器たちの力強さが俺を守ってくれるような気がして、気がまぎれて力を分けてくれた。


 どうやらそれは今も変わらないようだ。


 さぁ、作ろう。


 さっきあれだけあの人形を怒らせたんだ。

 今日で命運が尽きたかもしれない。


 完成まで集中するか。


 そして、人形共が襲い掛かってくるのなら。できる限り抵抗してやる。戦わずして倒れて堪るか。


 俺はランナーを包装していた袋を破り、一緒に買ってきたニッパーを手に取る。

 塗装はするつもりは無い。というか、そんな時間は無いだろう。

 素組となるが、一つ一つのパーツを丁寧に組み上げていくつもりだ。


 今まで何十体と作ってきたグイムの最高峰。

 その機体を今、俺の手で作り上げるのだ――――――――。






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―お菊視点―


―夜―



「ゆるさん。ゆるさんぞ。ワシの使命を……ワシの大切な人との願いを馬鹿にするなど!!」


 一体の日本人形のお菊は、包丁を両手で持ち、怒りの言葉を呟いていた。


「ちょ、ちょっと。あんまり大きな音立てないでよ? あいつに怒られちゃうじゃない!」


 一方フランス人形のカリーヌはというと、お菊が着ている着物の袖を引っ張りながら小声で注意をしていた。


「小娘。悪いが約束は破棄させてもらうぞ」


「はぁ!?」


 カリーヌは突然突き付けられた言葉に驚愕し、引っ張っていたお菊の袖を離してしまう。


「ちょ、ちょっと待ってよ。約束ってもしかしてあの人間をどちらが殺すかの約束の事?」


「そうじゃ。流石に今日のあの言葉は許せるものではないのじゃ。小娘、お前との勝負はその後じっくりとしてやる」


 お菊の言葉にポカンとなりながら聞いていたカリーヌであったが、我に返ると、


「そんな事許せるはずがないでしょ!」


 そうヒステリックに叫ぶ。

 そして、慌てて自分の武器である鋏を取りに行こうと走り出すが、


「昨日のように準備が整うのを待つことなどせん!」


 お菊はそのままふすまを念力でガッと開けた。

 開けた先には電気が付いたままの聖人の寝室がある。

 そして部屋の主である聖人は、笑いながらお菊を見ていた。



「よぉ。待ちくたびれたぜ」


 聖人の手には実家から持ってきた包丁が握られていた。

 彼も今夜の戦いに準備万端の状態で立ち向かうようだ。

 目はギラついており覚悟も決まっている。


「ふん、減らず口を……」


 好敵手を前にしたような高揚感の中、お菊も包丁を構える。


「「……っ!」」


 掛け声は互いに無かった。


カキュイイィィィィン!!


 互いの包丁が交わる音が部屋の中に響き渡る。

 お菊の方が重量は軽い。だが、念力で浮かび、念力で移動する分、押し負けて壁に叩き付けられる前に止まることができる。

 空中移動が自由自在にでき、体も小さく斬る事ができる面積は少ない。

 聖人も負けてはおらず、成人男性の平均的な筋力で対抗していた。



「ふん、おぬし程度ワシの念力で動きを止めることはできる。いや、そもそもその体の動きを乗っ取り自らの手で喉笛をおぬしの刃で切らせることだってできるのじゃぞ?」


 と、余裕を見せるお菊であったが、


「そうだろうなぁ。部屋の扉の動きとか操れるぐらいなんだ。その位予想はついている!」


「ほぅ? なら、どうする? 泣いて許しを請うか?」


「そんな事をして止めるような"たま"じゃないだろ?」


「分かっているではないか」


 お菊は笑い、聖人の動きを止めようとする。



「むっ!?」


 しかし、人間の動きが止まったという感触はない。


「ははは。一か八かだったが、効いたようだなぁ」


 聖人は動いている。ゆっくりとお菊との距離をとりながらも、部屋を移動していた。


「本当はお守りとかが欲しかったが、周辺の神社やお寺は売ってくれなくてなぁ。

 だから、自分で色々と試した。

 部屋の中にあるだろ? い・ろ・い・ろ・と」


「なに!?」


 お菊が部屋を見回すと、周囲には盛り塩や日本酒が入った器などが置かれていた。

 明らかに悪霊対策で行われた簡易的な結界や除霊方法だ。


「このまま決着をつける!!」


 そう言って聖人は包丁を振り上げお菊に向かってくる。



「くっ。なめるなぁあああああああああああああああああ!!!!!」



 お菊は自信の溜めていた力を解放させた。

 長年封印されていた間に溜めて自分の力だ。


「ぐっ!?」


 すると、聖人の体は固まったかのように動けなくなってしまう。

 部屋中の盛り塩は黒く変色し、日本酒は灰色に濁る。


「ワシを舐めた罰じゃ……。苦しませて、苦しませて、殺してやろう」


「う……ぐ」


 既に聖人は声も出せない。

 しかし、その表情は諦めてはおらず、ずっとお菊を睨みつけたままだ。


「む?」


 しかし、ここでカリーヌが姿を現した。

 ちょうど聖人とお菊の真ん中に立ったのだ。


「なんじゃ? ワシの獲物を横取りする気か?」


 お菊が睨むと、


「えぇ、そうよ。悪い?」

 

 すました感じで答えるカリーヌ。


「だけど、まずあんた。ババアを先に殺すわ」


「ほぅ?」


 今度は人形達がにらみ合い、互いに武器を構える。


「なら、望み通りバラバラにして殺してやろう」


「はっ。バラバラにされるのはあんたの方よ!」


「ははは。減らず口を!」


 そして、2体は不思議なパワーで空を飛び、衝突しようとした。

 その時、





バチュゥゥウウウン!!!




 赤い閃光がお菊をとらえる。



「ほげぇ!?」


 汚い叫び声を上げながらお菊は吹き飛ばされた。


「な、なにご――――」



バチュゥウウウウン!!!


 そしてもう一度同じ光が放たれ、


「ふにゃぁあああ!?」


 カリーヌも吹き飛ぶ。



「うげっ、ごほっ! なんだ!?」


 聖人の体は突然動けるようになったが、バランスを崩して床へと倒れる。



「何が起きた!?」


 聖人は素早く起き上がり、周囲を見渡す。

 最初は人形達の方を見たが、2体とも倒れて唸っているだけだ。

 次に見た場所は光が飛んできた方だ。



「は?」



 そしてそれを見た瞬間、聖人はあり得ないものを見ているという表情をした。


「な、なんでアレまで動いて……」


 と、呟きながら自分を助けてくれた存在に対し疑問を抱く。

 その助けてくれた存在は聖人の方へとまっすぐ飛んできた。

 すると、その存在は声を発し、




「議長閣下! 大丈夫でしたか!?」



 と、聖人に向け言ってくるのであった。



「アルティメットグイム総司令官仕様……」



 聖人はその存在の名前を口にし、気を失ったのであった。

 気を失った原因は念力によって押さえつけられていた体の血流が一気に流れたからか、それとも安心してからかは分からない。




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