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第50話 悪夢の末路


―聖人視点―


 繰り返すが、ここは元々閑静な住宅街であった。

 昼間は仕事や学校などで人がいないこともあるが、夜も物静かなものである。

 たまに夜中に酔っ払いが道を歩いても歌声なんかも響かせず、トボトボと歩いているだけだ。


 ここ一帯の土地がそういった雰囲気だったのだろう。


 全体的に暗い雰囲気なのは特殊な霊道とやらのせいなのかは俺にはわからないが、楽し気に外で楽し気に遊べるような空気になれない。しかし霊道とか関係なく元からそういった土地なのかもしれない。

 こういう雰囲気なのは誰が悪いと言うわけではないだろう。

 ここに住むと自然と自粛してしまうのである。




 それがどうだろうか? 今ではなぜここに住む人たちは暗いのだろうか? などと気にする必要が無いくらい辺りは破壊されていた。


 折れた電柱、消えた看板、穴が開いた壁、捲り上がったアスファルト、倒壊した住宅。


 戦場だ。

 まさに戦争がここであったのだ。


 悪夢に取りつかれた老人が主導し起こした戦争が、この結果である。



「本当に行くのですか? 亜矢子様……」


 亜矢子の部下の女性が確認するように尋ねる。


「当たり前でしょ? あの大佐武朗の死体を確認しない限り、私達はまだ安心できないんだから」


 今、俺達は可部和見家のワンボックスカーで、黒地子 大佐武朗が倒れ、大爆発した場所に向かっていた。

 亜矢子達の目的は大佐武朗の死体を確認。

 俺と萌恵さんはお菊やカリーヌといった人形達の確認。

 矢川も似たようなもので、共に戦っていた火星連合のゾーム達の生存確認。

 警官の関は警察官としての職務だと言って現場確認? の為に共に向かうらしい。

 黒地子の手駒であった警官の塚村は、『警官としての職務を最後に果たしたい』という気持ちからの同行とのこと。

 車で瓦礫を迂回しながら向かったが、前線に近づくにつれやがて車ではどうしても通れなくなってしまった。


「先輩。車の中に戻ってた方がいいですよ」


「いや、いい。大丈夫だ」


 まだ血を流し過ぎたことによって顔が青い塚村は関に支えられながら車を降りる。そう、今俺達は徒歩で大佐武朗の爆心地まで向かおうとしていたのである。


「議長閣下!?」


「まだ安全が確保されておりません!」


「総司令からの通信も途絶えたままで……」


 と、合流したグイム達が不安な様子で俺達に話しかけてくる。


「あぁ、救援が必要な者には手を貸してやってくれ。俺も助けながら敵の爆心地まで向かう」


 お菊達の事も心配だった。

 短い間だったが、祖母の事を大切に思い、今まで城野家を守って来てくれた人形達である。

 当然それはグイム達も同じだ。


「大丈夫か?」


「あぁぁ……、議長閣下。ありがとうございます」


「礼を言うのはこっちだよ」


 進めばブロック塀の一部に下敷きになって苦しむグイムを助け、礼を言い合う。


「ジェニファー! あぁぁ、どうして」


 また別の場所では、修復不可能なほどバラバラになって機能を停止させたグイムを見て、嘆き悲しむ別のグイムを見た。

 彼らは俺達の為に必死になって戦ってくれた仲間だ。

 無条件に俺達を慕い、命を懸けて守ってくれた恩人達なのだ。

 そんな彼らが今、俺が下した決断で苦しんでいる。俺が産み落とした結果、苦しむことになった。

 こうなることはわかっていたはずだ。

 だけど俺は、自分が助かりたいという気持ちから、彼らの命で己の身を守ったのだ。


「俺は黒地子と同じように自分勝手で最低なのかもしれない」


 そう思うと自然に涙が流れ始めた。



「どういう事ですか?」



 俺はつい今の気持ちを口に出してしまったようで、今の発言について萌恵さんから問われた。



「いや、俺の決断が……俺が作ったから、彼らが苦しんでいるんだと思ってね……」



 歩きながらもそう言った俺は、横を歩く萌恵さんの顔を見ることができない。

 泣いている顔を正面から見られたくなかったのかもしれない。


「本気で……そう思っているんですか?」


 萌恵さんから、少し怒ったようなトーンでそう言われた。


「……少なくとも、俺が作って彼らをここに送り込まなきゃ彼らは苦しまなかったと思う」


 俺がそう答えると、


「そうかもしれません。ですけど、援軍に駆け付けた聖人さんのガゾプラ達は? お菊ちゃんやカリーヌ達は?

 彼らは私達を本気で守ろうとしてくれたんです。議長とか持ち主とか関係なく私達を守ろうとしてくれたんです。

 聖人さんの決断は私や私の家族を守ってくれました。

 そして、これを酷い惨状だと嘆くのであれば、その原因は私にもあります」


「えっ、いや。それは……」


「ないわけないですよね? だって私もグイム達を作った一人です。

 もし聖人さんが彼らを生み出した自分を責めているのであれば、その咎は私にもあるという事です。

 今、悲しむ前にやることがあります。まずはみんなを助けながらお菊ちゃんたちの所へ向かいましょう」


 そう言って背中を押してくれた萌恵さんもグイム達を瓦礫から助けながら前へと進んでいく。



「議長閣下。後は我々が救援を引き継ぎます!」


「聖人君は向かいたいところがあるんじゃないの? なら、そっちに早く行ってあげて」


 そんなセリフをグイムと服を着た人のように二足歩行で歩く猫の人形から言われ、思わず二度見してしまった。


「久しぶりだね、聖人君。再会を喜びたいけど、まずはやらなきゃいけないことがあるんだよね?」


「あ、あぁ……」


 小学校低学年の時に買ってもらった猫の人形だ。

 遊ぶというほど遊んではいないが、大切にしていた記憶はある。

 だけど、中学、高校へと進学していくうちに俺の周りからこの猫の人形を含めた数々の人形は、俺の目の前から消えていった。

 ちなみに我が家では基本人形を捨てるという事は居ていないため、押し入れにしまっていたことを思い出す。



「こっちだ!」


「衛生兵! 衛生兵!」


 そして、爆心地に近づくにつれ被害の多さは嫌でも目に付く。


「なぁ、これって誰が弁償すんの?」


 と、矢川の何気ない一言が、俺を緊張させる。

 確かにこれだけの被害だ。数億どころか数十億円ぐらいの規模で損害を出しているのではないだろうか。


「カリーヌ! カリーヌ、どこー!」


 そんな焦りをよそに、萌恵さんがカリーヌを探し始めた。


「私はこっちを探すから、あなた達は向こうを」


 亜矢子達は大佐武朗の死体を探すべく散った。


「お菊ぅぅうう!! どこだー! 返事をしてくれぇ!」


 俺も地面をスマホのライトで照らしながら必死になって探す。

 瓦礫を掻き分け、探し続けた。


 だけど見当たらない。


「ここだー。助けてくれー」


「任せろ! 今行く」


 瓦礫に埋もれていたグイム達は見つかり、グイム達では支えきれないような大きな破片を取り除く。


「みんなー! どこだー」


 次第にお菊だけではなく他の仲間たちも探し、俺はさまよい続けた。




「ここじゃー。ここ、ここー」



「えっ!」



 すると、探していた声が上空から聞こえたではないか。



「お菊!? カリーヌ! それに総司令も!」



 なんと、上空にはゆっくりと空中戦仕様のグイム達に支えられながら降りてくるお菊達の姿があったのだ。



「お菊! 無事だったのか? てっきりあの爆発で吹き飛ばされたかと……」


 俺がそう言うと、


「む? 聖人の坊主か。安心しろ、我らが極大の盾を形成した。そのおかげで被害はある程度抑えられたのだ」


 と、ずいぶんと偉そうな態度の日本人形が前に出て押してくれた。


「お辰が言うと理解が難しくなりますわ。今風で言うとエネルギーシールドと言えばわかりやすいでしょうか?」


 と、今度は別の日本人形が語る。たしかお涼だったか?


「カリーヌ!」


「萌恵ぇ!」


 一方、萌恵さんとカリーヌは互いを見つけると抱き合って無事を喜びあっていた。



「お菊……ありがとう」


「ふん。まぁ、トメの一族を守ると誓ったのじゃ。この程度楽勝なものよ」


 礼を言うとお菊は気恥ずかしそうにそっぽを向きながら言っていた。


「みんなもありがとう」


 そして他の人形やプラモデル達にもお礼を言うと、


「議長閣下の為なら」


「昔はあんなに小さかったのに、今はもうこんなに立派になってー」


「やっほー。聖人ー」


 と、ワラワラと俺の周りに人形達が集まってきた。

 なんかもう。俺は良かったという気持ちでいっぱいになる。


「うわぁ……」


 矢川や関はそんな光景を見て微妙な顔をしていたのがなんとなく腹立たしいが、きっとあれはまだ人形が動いて話すことに慣れていないからああいう反応をしているのだと思う。


「それにしてもどうするんじゃこれ……」


「うぅん。どうするんだろうねぇ」


 お菊は周囲を見渡しながらそんな疑問をぽつりと呟く。

 周囲の民家の多くは戦闘の余波で破壊され、見るも無残な姿を晒していた。俺もこれでは隠し切れないだろうと思い、どうやって後始末をするのか気になってしまう。

 そもそもここに警察官が2人もいるのだ。それに死人もたくさん出ている。隠そうとしても隠し切れないだろう。


「弁償とかになるのかなぁ――――」


 などと口走っていると、



「うわぁああああ!!」



 悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ!?」


「動くなっ!」


「抵抗するな。もうお前達は終わりだ!」


 そんな声が次々と聞こえてくる。

 何があったかと思いそちらをスマホの明かりで照らすと、



「ぐぐぎぃぃ……。よくも……よくも人形共めぇぇぇ」



 ボロボロになり、左半身がドロドロに黒い泥の塊が塗りつけられたような黒地子 大佐武朗の姿がそこにあった。


「えっ!? あれだけ大爆発したのに、生きてたのかよ!?」


 俺はついそんな感想を大声で放ってしまうほど、大佐武朗が生きていたことは衝撃的であった。

 そして亜矢子の部下の男。ここに来るまでの車の運転手を務めていた退魔士が大佐武朗に巻き付かれ、右手に持った小刀を首に突きつけられている。


「あれはもう化け物だなぁ……」


 と矢川が驚き、彼の周囲には素早くゾーム達は彼を囲って守ろうとしていた。


「うわぁ、なんか人質としてパッとしないなぁ。萌恵なら悲劇のヒロインとしてピッタリなんだろうけど」


「こんな時に馬鹿言ってないで!」


 カリーヌは場違いな感想を抱き、萌恵さんに怒られていた。



「大佐武朗! 諦めなさいっ! もうアンタに勝ち目なんか無いんだから!」



 亜矢子はそう説得をしているようだが、大佐武朗は、


「ぐひひ、ぐひひひひ」


 と、不気味に笑うだけで何を考えているかわからなかった。


「くっ、議長閣下はこちらへ!」


「奴がどの程度の力を残しているのか不明です。お菊殿もこちらへ!」


 グイム達はそう俺達をこの場から引き離そうとしている。

 ヤバいどうすればいい? というか、俺にはどうしようもできないよな!?

 あんな化け物どうやって――――。




パシュゥゥン!!



 光りの線が飛んできた。ビーム? かと思った瞬間、大佐武朗の小刀を持った触手が吹き飛ばされた。これにより亜矢子の部下の男は解放され、「ひぃぃ」という声と共に前方へと逃げる。



「あ、あがぁぁ……」


 大佐武朗はよろけながら尻餅をつき、ある一点を見つめていた。


「え?」


 その方向を見ると、そこには見知らぬ男性が一人大佐武朗に向かって歩いていた。

 なんだ……あの人?


 謎の男は、ふと立ち止まり、俺の方へと顔を向けた。若干俺はビビッて体を硬直させる。

 俺を守っていたグイム達も動く気配を感じたので、グイム達も警戒をしていたと思う。

 そしてその男は俺へ、



「あぁ、あなたが城野 聖人さんでしたか……。すみません遅れてしまって。各地の黒地子の子分たちの後始末をしていたので遅れてしまいました」



 と、俺に向かって話しかけてきたではないか。


「えっ!? あっ! も、もしかしてあなたは……神澤さん?」


「はい、私が神澤です。ご連絡をいただきありがとうございますした。おかげで事態を把握することができました」


 そこまで言うと神澤は再び大佐武朗の所へと歩いていく。


「あ、あぁぁ。あぁああああ!?」


 大佐武朗は神澤の姿を確認すると、目を見開いて驚いているようだ。


「「馬鹿な馬鹿な。なぜだなぜだぁ。なぜお前は生きている!? なぜあの時の姿のままなのだ!?」」


 左側頭部の口と合わせて二十の声で神澤に流暢な言葉を話し質問をする大佐武朗。その質問で俺もハッと気づいた。



「そう言えば……あの神澤っていう人、お菊の話に出てきた神澤さんの息子さんかお孫さんなのか?」


 そうでなければつじつまが合わない。お菊の話では祖母ちゃんを助けた神澤という人は30代の男性だったはずだ。

 目の前の神澤の縁者っぽい人もその位の年齢……。

 そんな疑問をお菊に向かって問いかける。が、



「ば、馬鹿な……。あの神澤という男。あの時のままの姿じゃと? い、いや。孫か? それにしても似すぎている!」


 と、お菊も困惑しているようであった。

 残念ながらお菊からの答えは期待できそうにない。どういうことかわからず大佐武朗と神澤を見守っていると、



「「ば、化け物めぇ。化け物めぇ」」


 と、化け物のような見た目の大佐武朗が後退りしながら神澤から逃げようとしているようだ。


「化け物ですか。失礼ですねぇ……。少し老化が遅く、長寿なだけだと言うのに」


 そんな嘆きを呟いた後、神澤は宙を切るような動作をした。

 何かの術を行使したのだろうか。


「最後は……術者に敗れるか……」


 神澤さんの動作に何かを悟ったのか、大佐武朗はそう言い諦めた表情となるのだが、


「いいや、君は彼等に敗れたんですよ。私は彼らの代わりに後始末を請け負っただけ。

 今の君に状況を覆せる程力は残っていないでしょう?

 君はもう既に呪い一つもかけられない」


「……」


 神澤さんにそう言われ、諦めたような表情から一転し悔しそうに俺の方を見る。

 俺や萌恵さんの周りには集まって来たお菊、カリーヌ、そしてグイム達を含めた人形達が守りを固めてくれていた。



「化け物……共が。お前達さえ……お前達さえいなければ――――かっは!」



 化け物となったのはお前だろうが……。

 そして、大佐武朗はそのまま少量の血を吐き倒れ、そのまま息絶えたようであった。


 終わりは何ともあっけなかったのである。




 こうして黒地子との戦いは終わりを迎えたのであった。



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次話は明日の予定です。

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