第44話 空想が現実に
―城野視点―
「第17特務強襲部隊通信途絶!」
「第3中隊援軍を求めています」
「アゼルバイジャン軍部隊、支援攻撃開始!」
「地上第二防衛ライン突破されました!」
「残存部隊は後退しつつ、第三防衛ラインに合流。そのまま戦線を維持せよ」
中央指令室と化した我が家の居間にてグイム達が報告し、そして指示を飛ばしている。
地上では次々と家を破壊しつつ俺達が居るアパートへ迫り来る黒地子の連中がテレビモニターやノートパソコン、空中に投影されたホログラムに中継されていた。
あいつら秘匿性とかそういったものを全く無視ししてこちらの攻略に集中している。普通ああいう連中って陰に隠れてこっそりとしているもんじゃないのだろうか。
もし、アイツ等がこの土地を手に入れた時、後始末の対応とかどうするつもりなのだろう。
「空はどうなっている」
「はっ、現在『重武装浮遊艦』にてなんとか戦線を維持できています」
「そうか……危険な場合はすぐに知らせろ。空を取られたら終わりだ」
映像が空へと切り替わると、そこにはグイムを輸送する目的で作られた『地球同盟軍ガゾギア輸送機』3機の姿が映し出されていた。
これは以前萌恵さんの実家にグイム達を送り続けてきた輸送機5機の内3機を急遽最終決戦のこの日の為に改造したものである。
本来、一応ながら武装が付けることができるアタッチメントが機体全体にあるのだが、アニメ本編にはまったくこのような運用はされなかった形態である。
機体全体にミサイルやらビーム砲、ガトリング砲を装備して機動力が低下した機体は、空中に浮かぶ砲台と化していた。
機体の左右は無理やり穴があけられ、それぞれグイムが近づく黒地子の式神達を実弾やビームで撃ち落としていた。
そしてグイム達が必死に指揮している中、俺や萌恵さん、お菊やカリーヌは必死にガゾプラを作り続けている。
「くそっ。まさか矢川が今日来るなんて!」
最初矢川がこのアパートに向かってきているという報告を聞いたとき卒倒しそうになった。
そして、更にその前に黒地子家の子分が侵入してきているという事も聞き自分達の見込みの甘さに嘆いてしまう。
敵が北に集中している為、南の部隊の多くを北に送ってしまったため矢川を助ける部隊の到着が遅れてしまったのだ。
幸い、情報を共有していた隣の火星連合達にそのことを伝えたら、「自分達が行く」と言ってくれたため、なんとか矢川を救出できた。
「それにしても、まさかあの警官が萌恵さんを誘拐した連中の仲間だったとは……」
映像で警官同士の銃撃戦見ていたが、まさかあの不良警官の先輩の方が仲間だったとは意外だった。
てっきりあの不良警官……名前は関だったか? 彼の方があまりにも露骨にこのアパートを嫌っていたので演技をしていると思っていた。だからあれが演技ではないと知って逆に驚いたくらいだ。
偶々萌恵さんがモニターに映し出された警官の姿を見て、
「あの人です! あの人が私が誘拐された時に見逃した警察官です!」
と言わなければ今もあの警官の制圧に手間取っていただろう。
だが、関という警官については別だ。無関係の関に見られてしまうと言う失点はあったが黒地子の連中は倒すことができた。
ズガァアアアアン!!
空気が揺れる。
映像があるのでわかるのだが、また黒地子の奴に民家が吹き飛ばされた。
あと2件ほどでこのアパートに到達するだろう。
それを必死にグイム達が止めている状況だ。
「24番機、補給完了!」
「ビームガンを失った! 予備をくれ」
「うぐあぁぁああ、あああああああ」
開けられた窓から補給に戻る者、負傷し治療を受ける者。様々なグイムが指令室の一角に設けられた整備工場にて補給、治療を受けていた。
本来であれば痛覚などないはずのガゾギアがまるで人間のように痛がり悔しがっている。これだけ見ればアニメの設定を再現しているだけではないことが嫌でも理解できる。やはり彼らは一つの生命体として動いているようだ。
「報告! アパート入口付近にて警官塚村と関両名が到着!」
「報告! 火星連合部隊、並びに202号室住人矢川氏を確認。現在警察官関氏と矢川氏が協力をして塚村をこの部屋まで運んでいます!」
と、報告が入った。
俺はすぐに彼らを迎え入れるため玄関の扉を開る。
「「あっ!」」
と、ちょうど2階の廊下を進んでいた矢川と関と目が合う。
「ちょっと! これはどういう事なんですか? なんで街中で戦争が起きているんですか! なんなんですかこの小型ロボットたちは! 自衛隊はどこなんですか!」
まず先に俺を質問攻めにしたのは警官の関であった。
「落ち着いて! 今はアンタの同僚の治療が先だろう」
俺がそう言った後、
「早くこっちに運んで」
と、亜矢子が出てきて俺達を睨む。
「私が治療するから」
「え? あ、はい……」
関は亜矢子の登場に呆気にとられ、素直に塚村を引き渡す。
そして、隣の部屋に寝かし術のようなものを使って治療している最中、
「説明してもらいますよ!」
そう目を血走らせながら俺に詰め寄ったのだった。
「……という事は、なんですか?
今あなた達が戦っているのは、悪い霊能力者で、隣の部屋で先輩を治療している人たちは良い霊能力者。
悪い霊能力者はこの土地を狙っていて、この土地を手に入れるためならば人殺しも厭わない連中で既に多くの人達が殺されていると。
で、この土地を狙う理由はこの土地に連中の能力を増加させるだけのエネルギーが眠っているからであり、人形達が動いている理由は、その莫大なエネルギーが自然に漏れ出していることが原因だということですね?
納得できるかぁあああああああああ!!!」
関は俺から説明を受けた後、被っている帽子を畳の上に投げつけた。
「理解できるかそんな話!
能力者ごっこをしている頭がおかしい連中がテロを起こしていて、ロボットたちは最新AIを搭載した超小型機っていう話ならまだ分かる! だけど、霊能力者? 動く人形? 式神? そんなの知るかぁああああ!」
と、怒り狂っていた。
しかし、俺にはなぜ関がここまで怒っているのかわからない。
「すぐに信じられることじゃないかもしれない。だけどアンタもこのアパートに住んでいて心霊現象を体験したんだろ?」
こいつはこいつで恐ろしい体験をこのアパートに住んでいた頃に体験したと語っていた。
その結果、このアパートに近づくだけでも恐怖を感じていたようだし、お菊達を見て逃げ出した記憶も新しい。
「限度があるんですよ。限度がぁぁ。こんな愉快な心霊現象があってたまるかっ!
こんな……こんなのどうやって報告すればいいんだ……。もう街はめちゃくちゃだから知らぬ存ぜぬじゃ通せないんですよぉぉ」
座りながらもヘナヘナと力が抜けたようになり、ガックシと頭が項垂れる関であった。
まぁ、関がこうなるのも無理もないだろうな。
もはやここ一帯の惨状は隠しきれないものとなってしまっている。隠そうとしても破壊された家や道路が目に付くし、人間の死体だってある。
俺だって直接人を殺したわけではないが、グイム達を作ったことによる武力を保有したりそれを使用したりする罪に問われるかもしれない。
今、俺がその罪悪感に押しつぶされないのはきっと戦場の真っ只中にいるという緊張感があるからだろう。この緊張感の糸が切れたらきっと俺は……。
「S-7エリア。第三防衛ラインにて敵の動きが活発化! あの攻撃が来ます!!」
そうオペレーター役のグイムが叫ぶ。この声で俺は悲壮感から脱却し、慌ててテレビモニターを見た。
「なんだ! 何事?」
関もテレビモニターを見てグイム達が慌てている理由を知ろうとする。
「こちら第三防衛ライン! 敵は何かしらのエネルギーシールドを展開中! 攻撃が通りません!」
現場のグイム達がそう悲痛な声を出す。
「耐えろ! 耐えてくれ。このまま第三防衛ラインが突破されたら後は中央指令室前の防衛ラインしか残っていない!」
最終防衛ラインはこのアパートの前である。
グイム総司令は、なんとかこの状況を打開しようとしていた。
だからこその武器使用制限解除なのだ。
「緊急事態発生! W-1エリアにSUV車両3台が侵入! 搭乗者は黒地子の連中と同じ服装をした者の他に、防弾チョッキやアサルトライフルなどの重装備をした者もいます!」
「はぁ!?」
突然西側から新たな敵を感知したと報告が上がる。
その報告に一番最初に反応したのはやはり関であった。
「アサルトライフル!? 防弾チョッキ!? そんな……オカルトな話かと思えば全く違うじゃないか。世界観どうなってる!」
関はもう自棄になっているのか大声で愚痴を吐くだけである。
「落ち着いてください! 目の前の状況が信じられなくても、私達は命を狙われている事には変わりないんですから!」
見ていられなくなったのか、はたまた耳障りだったのか。萌恵さんがそう怒ると、
「うぐっ……」
と、それ以上は何も言わず口を閉じた関。
そんなやり取りの中、
「特殊対消滅弾のコード解除!」
「1番から8番まで対象をよく狙え!」
「第三防衛ライン、被害想定エリアの部隊は直ちに退避せよ」
と、声がグイム総司令から発せられる。
「攻撃用意完了!」
「目標、ロックオン!」
次々にテレビモニターからそんな声が聞こえてくる。
「なんだ……。何が始まるんだ?」
萌恵さんに怒られた影響からだろうか、小さい声で関は疑問を口に出した。
「特殊対消滅弾……? まさか!」
ガゾギアの作品に詳しい矢川は気付いたようだ。
だが、止めるにしてももう遅い。
許可は先ほど出した。その結果が今始まる。
「特殊対消滅弾発射ぁあああ!!」
グイム総司令が叫ぶ。
第三防衛ラインで戦っている黒地子の家を破壊しているイカレ野郎である呪陽は、
「ヒャーーーーッハッハッハァーーーー。もう一丁――――――――」
5発のミサイルから出る光に包まれ言葉を無くした。
西側からやってくる重武装の黒地子の連中が乗る車も、3発のグイムが放ったミサイルにそれぞれの車が当たると、強い光を発した後、大きな爆発を発生させた。
その直後、アパート全体は爆音と爆風でガタガタと揺れる。
「うわぁあああ。な、なんだぁ!?」
と、関は驚き、
「うわぁ!?」
「あぁぁ、クリアパーツが!」
ガゾプラ制作中のお菊とカリーヌは転がり、
「ひゃぁああ」
萌恵さんも頭を抱えて悲鳴を上げた。
そして、徐々に光が消え、土埃の中から対消滅弾が当たった個所の映像がテレビモニターに出された。
西側の車3台が縦に並んで走行していた場所は3つの穴が開いており、第三防衛ラインの前にも大きな穴が開いているとんでもない光景が目に入った。当然両方とも爆心地には人が生きている形跡すらなく、そもそも車両に至っては車自体タイヤなどの一部パーツが残っているものはあったが綺麗に消えて無くなっているのだ。
「うわぁ……」
俺は俺が作ったグイムの攻撃の威力にドン引きし、
「お、おい! 城野さん!」
と、矢川が俺に声を掛けてきた。
そして、俺の両肩をガッと掴んでガクガク揺さぶり、
「ちょっとおい! 今のなんだよ。アンタは自重てものを知らないのかよ!」
と、言ってきた。
自重? それは俺が社会経験で学んだ重要なスキルですがなにか?
「なんなんだあれは。なんなんだぁぁぁ」
関は顔を青くし、再び発狂しながらテレビモニターに釘付けとなる。
その声に一瞬だけ気を取られた矢川であったが、再び俺の方を向いて、
「アンタ、【対艦用反物質ミサイル】なんてもの街中で使うんじゃねぇよ!」
と、怒ったのであった。
作中でも屈指の威力を誇った反物質系の兵器は、戦場であればほぼ宇宙を限定として使われていたものである。
人が生活するような場所で使用された場面は俺が知る限りアニメや漫画では存在しない。
「あ、はい……。いやぁまさかこれほどとは……」
アニメでよく見た最強兵器の一つを実際に目の当たりにして俺もどう答えていいのかわからず、自身も困惑しながらもそう答えたのであった。
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次話は2日後の予定です。