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第43話 火星魂


―アパート南側―


「ほらほらほらほらぁ、俺を削り殺すんじゃなかったのかぁあああ?」


 そう言いながら太刀から炎の球を飛ばしてくる宮里は、執拗に矢川を追いつめていた。


「ちっ、飛び道具があるなんて聞いてない!」


 矢川は電柱に身を隠し、炎の勢いが強くなれば隠れる場所を変えるという事を繰り返していた。


「今だ――ほらよっ!」


 そして、今度は隠れる面積が少ない道路標識の所まで行くと、一瞬で標識の柱を削り切り、宮里に向かって投げ飛ばす!


「ははははは、無駄だ無駄ぁ!」


 宮里は飛んできた道路標識を太刀で叩き落とした。切れなかったのは矢川によって刃が削られて潰されてしまったからである。

 その後、何度か削り切った標識や看板を宮里に投げつけたが一向に効果が無い。


「ははは。ここら辺一帯の看板を破壊する気か?」


 と、笑う宮里は、刀から出した炎の球を矢川が隠れる電柱へと放った。

 炎の球は電柱を可燃物でもないのにゴウゴウと燃やし、通常の炎とは別種であることをわからせる。


「諦めて火だるまになれ、小僧!」


 宮里がそう言った時、パリン! と、瓶が割れる音が聞こえる。

 その直後に、炎は瞬く間周辺へと広がる。



「何をした……?」



 宮里は矢川が何をしたのかと考える。

 灯油やガソリンでも撒いたのか? と、考えたが、なぜ一般人がそのようなものを持ち歩いているのかわからない。

 しかし、この時矢川が持ち歩いていたのはプラモデル制作の過程で塗装した際、その塗装を落とす為の"除光液"であった。プラモデルの塗料を溶かすための徐光液は高い可燃性を持っており、それを三本使って矢川は炎を道に広げたのだ。


「防壁のつもりか? 小賢しい真似を」


 と、今度は水の術の使用を考えた宮里の目の前に、突然迫ってきた看板の破片。


「ちっ、炎は壁だけじゃなく目隠しのつもりだったのか!」


 などと言いつつも太刀で弾き飛ばす。

 そして、太刀から水を噴出させ、消化をしていると、なんとなく上部から何かが迫ってくる気配を感じ、上を見上げると、


「な、なななぁああ?!」


 なんと、宮里に向けて電柱が倒れてくるではないか。


「うをぉぉおっ!?」


 それをギリギリで避ける宮里。

 しかし、今度は雄たけびを上げながら矢川が目の前に迫ってきたため、慌てて太刀を振るったが、


「なんだとぉ!?」


 矢川が両手に持った金属ヤスリのヤスリ捌きによって、太刀の攻撃が防がれた後、もう一方の手に持ったヤスリにて首の一部を僅かに削られた。


「言っただろう! 削り殺すとなぁ!」


 そう矢川が言ったが、使用方法を大きく逸脱したヤスリ行為により、すでに本来のヤスリとしての機能は働いてはおらず、首の皮に傷をつけただけである。

 それでも血は出たので、人を削ったことが無い矢川は仕留めたと勘違いしてしまった。


「ふん、わが血は攻撃の手段となる! 爆散っ!」


「ちっ」


 宮里のセリフから危険を感じた矢川は、血が付いた金属ヤスリを手放した。

 すると、大きな音を立てて爆発する矢川の金属ヤスリ。


「ダイヤモンドコーティングされた金属ヤスリをこうも簡単に……」


 と、呆気にとられる矢川であるが、すでに何度も金属を削った矢川の金属ヤスリのコーティングは機能していなかったのだ。


「わが血はまだまだあるぞ!」


 そう言いながら宮里は血を太刀に付着させ、遠心力を利用して飛ばし、爆破しまくる。

 家の壁は破壊され、電柱や看板、そしてアスファルトをも捲り上がらせる。



「ぐわぁあああ!!!」



 矢川は吹き飛び、地面に転がる。


「もう諦めろ、小僧」


 血は次第に塊、流血は抑えられてきている。

 しかし、残った血で矢川は確実に仕留められると宮里は狙いを定め、


「死ね、小僧!!」


 と、太刀を振るおうとした――――――その時、






「火星連合、万歳!!!!」






「何!?」


 ビームの熱線が太刀の刀身を撃ち抜き、宮里の太刀は半分に折れてしまった。


「なんだ!? なんなんだあれは!」


 そして、目撃する。

 宮里の周りに20機ものゾームが取り囲んでいたのだ。



「ワシは火星連合宇宙軍元帥、『アルドリッジ=フリースタ』であるっ!

 腐りきった魂を持つ地球人。このワシが指揮する特別編成部隊直々に貴様を処分してやろう!」



 中でも大柄で巨大なハルバートを持ったゾームが名乗りを上げる。



「んな!? は? え?」


 状況についていけない宮里は、慌てて残った血を振りまき、周囲に爆炎を発生させる。

 しかし、残った血は少なく、後は新たに傷を作らなくてはいけない。


「くそっ、こうなれば!」


 と、持っていた太刀の刃を自分の腕に当てたのだが、


「はっ!?」


 切れない。

 それもそのはず、既に刃は矢川の金属ヤスリで潰されていたからだ。



ビシューン、ビシューン



「ぐわぁああ!!」



 そして、ゾーム達による攻撃によって増える傷は、ビーム兵器によるものだったため、傷口は焼かれている為思ったほど血が出ない。

 それでも宮里は抵抗を諦めなかった。



「は、ははは! はははのはぁああ」



 宮里は気が触れて笑っているわけではない。懐から札を出し、周囲にばら撒いて爆発させたり、電撃を走らせたりして範囲攻撃を始めたことのより勝ちを確信したからだ。

 中には式神も少数展開させられていたが、ゾーム達によって瞬く間に消滅させられてしまう。

 やがて札が品切れとなり、手薄になった宮里の周囲を見逃すゾーム達ではなかった。



「これで終わりだぁあああ!! 火星魂注入!!」



 と、ゾームの元帥がハルバートを宮里の頭部へめがけて振り下ろす。



「んぴゃぁああああああああああああああああ!!!」



 脳天に深々と突き刺さったハルバートにより致命傷を負った宮里は、奇声を上げながら倒れ、激しくのたうち回る。


「あっ、あっ、あっ……」


 そして、奇声が止まったかと思えば、ビクンビクンと体を揺らしながら虚ろな目で宙を見上げて、やがて動きも止まる。


「おぉぉ、やりましたぞ! 矢川様、ご無事でしたか!」


 と、ホバー能力によって近づくゾームの元帥。


「うぇ!? あ、あぁ、うん……」


 状況が呑み込めない矢川であったが、徐々に自分をゾーム達が助けてくれたことに気付き始める。


「お怪我は? どこか痛いところはありますかな?」


「あぁ、えっと、いや。あんまり……」


 元帥が近寄ってきたことを皮切りに、次々と矢川の周囲にゾーム達が集まり出してきた。



「創造主!」


「主様!」


「矢川様ぁ!」



 ゾーム達はこれまでの寂しさから解放されたいかのように、矢川へと話しかけてきた。


「お、おおお落ち着けって、お前たち俺のプラモデルのゾーム達か?」


 落ち着けという言葉は自分自身にも当てはまるものであったが、矢川はゾーム達にそんな質問をした。


「はい、そうでございます。幾人かは矢川様が調達したもの以外の個体も含まれておりますが、皆忠誠は矢川様に捧げております」


「そ、そうか……」


 自分が調達した以外でどうやって増えたかはわからないが、とりあえず自分を慕ってくれているという事だけはわかる。


「そうかぁ……」


 しかし、自分のプラモデル達が動き出しているというこの現実にどう向き合えばいいのかわからない矢川は頭を抱えてしまった。

 わかってはいたが、いざ改めて動くプラモを前にすると今後どう暮らしていけばいいのかわからなくなったのだ。

 妙な連中に狙われているのは、今の宮里との戦闘で分かった。しかし、連中を倒した後、ゾーム達をどうすればいいのかという問題が残るのだ。


「というか、人殺したのか……」


 とどめは矢川ではなかったが、結果的に矢川が所有するゾーム達が宮里を殺したのだ。

 警察に報告するにしても、どう報告すればいいのかわからない。


「(そう言えば城野って奴の話では警官の中にもこいつの仲間がいるんだっけ?)」


 城野との話を思い出しつつ、散々倒しまくった道路標識や電柱を見てまたため息を吐いた。


「(俺、捕まるのかな)」


 などと、そんな絶望に打ちひしがれていた時、


「う……うぅ……」


 と、苦しそうな唸り声が聞こえてきた。


「生体反応! くそっ、見逃していた。早くとどめを!」


 そう慌てるゾーム元帥。

 どうやら声の発生源は死んだと思っていた宮里からのようであった。

 息も絶え絶えで今にも死にそうになっている宮里。


「く……くそ。これじゃぁ、もう……。ならば……」


 すると、宮里の体は強い光を放ち、


「最期は……悪霊どもを道連れに……」


 と、呟く。

 これにより彼が何をしようとしているかを察した元帥は、


「自爆する気か! 全機、ワシの後ろに立ち、矢川様を守れぇええ!!」


 そう言うと、ゾーム達は慌てて矢川の周りを囲み、手に持ったシールドを前方へと掲げる。

 そして、今度は元帥の機体が青白い光の板を広げた。

 大体2mほどの大きさとなったその光は、エネルギーシールドであり、彼の兵装の最大の特徴であった。


「ワシのシールドを甘く見るなよ!」


 と、元帥が言う通り、巨大なシールド展開機能を持つこの特殊ゾームは、前線で己の身をエネルギーシールドで守りつつ大暴れする元帥にとって相性がいい機体であった。

 そのシールド機能を人を守る為に使う。本来であれば自分の身の回りだけを守る機能であるが、回路が焼き切れるほどエネルギーシールドへ電力を回すこの機体は、高熱に熱しられ機体自身も輝いていた。



「爆散!!!!!」



 そして、宮里が自爆をした。

 宮里は己の全身の血肉を媒介とし、爆弾とさせたのだ。

 肉体は四散し、その威力は周囲の民家にも影響を及ぼす。



「うをぉおおおおおおおおおおおお」



 そして、その爆破エネルギーを少しでも和らげようとブースターを限界まで噴出させ、エネルギーシールドを張り続ける元帥機は、時間と共にボロボロと崩れていく。




「うわぁあ!」


「くぅぅっ」


 元帥の部隊のゾーム達も爆風に煽られながらも、元帥のシールドによって減衰した爆発によって生きながらえていた。

 それは矢川も同じであり、彼は目と耳を塞ぎ、とてもではないが立ってはいられない状態だった。


 永遠にも感じたその時間は、突如終わりを告げることになる。



「あ、あぁぁぁ……」





 煙が立ち込めている中、ゆっくりとその体の機能の役目を終えた元帥機は地面へと降り立ち、膝から崩れ落ちるように倒れた。



「元帥!」



 そう言って駆け寄ったのはゾーム達だけではない。


「お、おぉぉ。矢川様……」


 今にも生気を失いそうになっている元帥が見たのは、矢川の顔であった。

 矢川は周囲に散らばる焦げた宮里の血肉が衣服に付着することなど気にせず、地面に膝を付き元帥機に触れようとするが、


「あっつぅい!?」


 元帥の機体はエネルギーの熱によって熱しられ、とても人間が触ることができる温度ではなくなっていた。


「矢川様……ご無事でなによりでございます」


 元帥は表情があればきっと穏やかな笑顔であろう雰囲気で、矢川にそう言った。


「おい、大丈夫なのか!?」


 火傷をした右手を抑えながら、矢川は元帥ゾームに問う。

 声を掛けられた元帥は、


「ふふっ。気にしないでいただきたい。

 ワシはもう長くはないでしょう……。しかし、悔いはないのです」


 と言った。


「そんな! なんでだよ! なんでお前、俺を守ろうと!?」


 矢川は一度、彼らに恐怖を覚え家を飛び出した身だ。言うなれば捨てたも同然なのだ。

 なのにどうしてそこまで忠誠心を抱かれるのかわからなかった。


「矢川……様。ワシは矢川様の幼少期より、見守っておりました……」


 と、元帥は語り出す。

 確かに元帥は矢川が小学生の時に初めて買ってもらったガゾプラであった。

 長い時を共に過ごし、日焼けもしている。


「矢川様……。あなたは決して……一人ではない……。

 確かにあの事件で多くの仲間を失いました……。しかし、我々は創造主としてあなた様を敬っているだけではありません。

 この世界に生み出してくれたことには確かに感謝しておりますが、いつまでも大切にしていただき、同胞の為に涙を流してくれたあなた様だからこそ……。ワシ等は矢賀様にお仕えしようと思ったのです……」



「げ、元帥……」



 矢川は元帥が語った内容を聞き、涙を流した。

 一度は全て捨てようとしたが、彼の話を聞き今までの思い出がいろいろと呼び起こされた。


 喧嘩に明け暮れた日々。


 何も矢川はそれを楽しんでいたわけではない。

 きっかけは喧嘩を売られたこと。その売られた喧嘩を無視すれば、無言の暴力を振るわれたためやり返しただけであった。

 やり返し、勝ち、相手が別の仲間を呼んで喧嘩を売り、やり返し、勝ち――――。

 そんなことを繰り返している内に、矢川は不良のレッテルを張られ、いつの間にかいつも喧嘩をしている怖い奴で社会のゴミだと言われてしまう。

 両親は喧嘩に明け暮れる彼に愛想を尽かせ、なぜか「喧嘩ばかりする彼には私がいなくちゃ」と謎の使命感に駆られた彼女が出来、元から頭は悪くなかったため大学に進学すればそれに嫉妬した連中からまた喧嘩を売られ――――。

 思えば誰一人彼の本当の姿を知るものは居なかった。両親でさえも。



「貴方は……何度も他人に歩み寄ろうとした――――。それをいつも邪魔されていたのは……。あなたの努力不足ではありません。ワシは……矢川様が何をしてこられたのか。矢川様が絶望していたのをワシが今のように動けない時から何度も何度も見てきております。それを努力不足だというのは、矢川様を理解しようとしなかった者の戯言なのです」



 矢賀は思い出す。

 仲良くなろう。喧嘩をしない人生を歩もう。そう思っても必ず邪魔をされるのだ。

 時には決心を固め、何も抵抗をしない時もあった。しかし、そういう時は必ず人質を取られたり、家族が襲撃された。

 いくら見放されたとはいえ、家族の為だと、両親の盗まれた貴金属や財布などを取り返しに向かったこともあった。

 別の時には、やはり警察に任せた方がいいと思ったこともあったが、「お前のせいでこうなったんだ。お前が自分自身で取り返してこい」と、警察に頼ることも両親に拒否されたこともあった。


 暴力を振るわなければ地獄を見る。

 暴力を振るっても地獄を見る。


 人は努力が足りないからだと言った。

 人は我慢が足りないからだと言った。


 じゃぁどうしろと?


 自分で考えろと言った。

 考えても考えが足らないと言った。答えをすぐに聞くな。答えを他人に教えてもらおうとするな。



 矢川は思った。


 こいつら、答えを出す気も俺を見るつもりもないな。と。


 結局、何かいいこと言った感じを出しているだけで、そのアドバイスはなんの身にもならないという事を。


 だから矢川は暴力から身を守る為に暴力の道に走り、友人は作らずプラモデルを作り、そんな中、なぜか懐かれた彼女を大切にしつつ、それが幸せの道なのだと信じていた。



 だけど、ゾーム達は見ていたのだ。

 矢川の絶望を。矢川の悲しみを。矢川の心の痛みを全て見ており、共感してくれた。


 思えば「無事でよかった」などと、そんなことを言われたのは幼少期以来であった。



「さぁ、お行きなさい……。あのアパートには、貴方を理解してくれる"人間"が居ます。

 あなたを厄介者だと思っていても、矢川様を助けようとしてくれた人が居るのです」



 そう元帥に言われて思い出された顔は城野であった。


「あいつが……」


 確かに、何度も事情を話しに来てくれ、城野は矢川を心配する素振りを見せた。


「元帥……ありがとう。だから一緒に――――」


パキッ。


 次に矢川が元帥に声を掛けた時、元帥からは返事はなく、体中が崩れていた。


「あ、あぁぁ。あぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 ようやく見つけた理解者は、会話をして僅か数分で散ってしまった。


「主、行きましょう!」


「まだここは戦場です! 早くっ」


 そして、矢川は他のゾーム達に連れられ本来自分が住んでいたアパートへ、涙を流しながら走りだすのであった。



 彼、矢川への救いは彼の味方は元帥だけではなかったことだろう。周囲にはまだ矢川を慕うゾームが多く居るのだ。



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次話は3日後の予定です。

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